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17.変異種の討伐

 「さて、魔法剣士、戦士、侍というバランスがクソ悪いパーティでレベル20の変異種に勝つ方法はなんだと思う」

 「レベルを上げるかな」

 「装備を強くするでしょ」

 「ダメだこいつら………いいか脳筋二人、俺達に必要なものは作戦だ」

 「妥当だね、具体的にはどうしよ?」

 「それを考えるために目的の魔物についての情報を共有しよう」

 「オッケ~それは私の役目ね。目標はシャドウスパイダーの変異種でレベルは20。見つけ方は意外と簡単、木々に巨大な巣を張ってるからそれが目印ね。ちなみに小さいのは普通のシャドウスパイダーの巣だから間違えないでね~」

 「見た目とか弱点は?」

 「見た目は巨大な蜘蛛で鎌みたいな前脚が特に危険。狩りに利用されている弱点は主に二つかな」

 「ほう、聞かせてくれ」

 「一つ、これは蜘蛛全般の弱点で持久力がないこと。序盤は素早く動き回るけど長く戦ってたら動きが鈍くなってくるわ」

 「でも、私たちのパーティも持久戦には向いてないから、そこを突くのは難しいんじゃないかな?」

 「そう、それには私も同意ね。だから二つ目、こっちは弱点と言うより習性だけど」

 「あれか?変異種特有の独自の行動アルゴリズム」

 「正解!標的は一度狙いを定めた相手をどこまでも追うっていう厄介な習性をもってるの」

 「なるほどな」

 「つまり、その習性を利用することが弱点に繋がるってことなんだ」

 「exactly!その通り!」

 「なんで二回いったのかはともかく――――その弱点って?」

 「毒薬変じて薬となる。ずばり!待ち伏せよ!」



******


 作戦はこうだ。

 目標の巣を見つけ次第私達は二手に分かれる。二人は近くの開けた場所で敵を待ち伏せる。あと一人は囮として敵を二人のいる場所まで引き付ける役だ。この作戦の利点として、先ず立体的な動きが可能な相手に対して木々の密集した場所ではなく疎らな場所で戦えること、そして不意打ちで初手を制することができることが挙げられる。

 特殊なエリアに移動するボス戦とは異なって、オープンワールドを自由に活用できるのも変異種との戦いの特徴だろう。

 そして名誉ある囮に選ばれたのは、攻守、敏捷において最もバランスの良いヒスイさんだった。


 「もうそろそろか、準備しとけよ」

 「わかってるよ」


 木の上で待ち伏せしているベルグさんから、下にいる私へ声が届く。

 森に入って探し始めて30程で私達は目標の巣を見つけた。そこから二手に分かれて5分と少し――――――地響きが聞こえた。そして緑の木々が乱立する正面奥からヒスイさんが駆け出してきた。

 そしてその後ろから黒い影が姿を現す。長い前脚は鎌のように鋭く、八つの赤い目と黒色の体。大型乗用車に脚が生えたような巨体をものともせず、素早く細やかな動きで森の中を縦横無尽に進んでいる。

 ヒスイさんとの距離はそう大きくない、追いつくまであと僅か、あんな怪物に背を向けて走ることになった本人の心境は如何に。


 「むり!死ぬーー!あっははは!」

 「笑ってる」

 「イカれてるぜ、流石に……」


 苦笑が漏れる。

 さすがにビックリ、私としてはあまり関わりたくないレベルで見た目がグロいから。あ、近づいてきたおかげでHPと名前、レベルが見れる。


【影の狩猟者(シャドウスパイダー変異種)Lv20】


 うわ、ひっさしぶりにテキストで見た変異種って単語!

 

 「イチカくるぞ!」

 「りょーかい!」


 握るのは“巨人の長槍”。サイクロプスの素材を以て鍛え、私が売却せず残した筋力48を超える良品である。巨人シリーズは特殊な効果がない代わりに、高い筋力値を保有しやすい。おかげで私の筋力値77の内約6割を武器が占めている。

 余談だけど、この変異種討伐の筋力値の基準は70前後らしい。


 「<剛力><火床(ほど)の焔>」


 既知のスキル<剛力>で筋力を上げ、新スキル<火床(ほど)の焔>で一定時間自作武器でのダメージを上げる。

 そして――――!


 「せいっ、りゃっ!」


 文字通りの一番槍。

 レベルアップによる筋力値の向上と<筋力強化Lv6><投擲Lv3>スキルによって、リッチの時よりも高速で飛翔した槍が蜘蛛を正面から貫いた。


 「キィィィィィィッ!」


 変異種が甲高い金切り声を上げて動きを止める。

 迫力ある叫び、なんだか元気一杯な蝉の断末魔みたいだ……………………元気一杯な断末魔ってなんだろうね。さて、

 

 「ベルグさん!」

 「おう、任せろ!<剛力><気合><眩暈衝撃(スタンショック)>!」


 木上から変異種へ、ベルグさんは飛び降りざまにその頭部に向かって両手剣の側面を振り下ろした。金属を叩きつける低い音が響いて変異種が一時的に混乱状態に陥った。

 お膳立ては充分あとは、


 「スタン決まった!一気に削り取るぞ!<挑発>」

 「まっかせなさい!」


 これまで逃げていたヒスイさんも、方向転換して一足飛びで攻勢にでる。

 

 「<魔力付与(マナエンチャント)>」

 「<斬鉄剣>」

 「<転装(クイックチェンジ)/ 巨人の斧槍 / No.128>」

 

 動きを止めた変異種へ、最も高い威力を誇る武器で攻撃する。近くで見ると分かる、黒鉄のような外骨格へ勢い良く両手斧を振り下ろす。自作武器を装備時、武器のステータスを上昇するパッシブスキル<鍛造主Lv3>がDPSを更に高める。

 そして敵が正常に戻れば、その素早い動きに対して武器を“巨人の短剣”へと変更して対応する。両手斧のように派手ではないけど、的確に外骨格の繋ぎ目を狙っていく。

 ちなみに武器や防具に付属する“重量”は可視化された数値ではないけど、プレイ上では大きな意味持っている。プレイヤーの速さは敏捷値から筋力値と装備総重量を参照して求めた値を差し引いた値で決まる。そのため、軽装であるほど敏捷値の不利を補える。反対に、高重量なら物理法則的な補正が入ったダメージの上昇、またフルプレートの装備ならノックバック等を防ぎタンクとして敵を押さえやすくなる。

 よって、ベルグさんが<挑発>でヘイトを稼いで戦士としてのタンク力を活かしながら盾役に徹する。そして私とヒスイさんがその隙を突いてく。

 

 「って、あっぶない!死ぬかと思った!」 

 「うきゃぁ!急に暴れるな!ベルグちゃんと抑えてよ!」

 「無茶言うな!こっちもギリギリだっつんだよ!」


 前脚の鎌が一番恐ろしいのは勿論、他の脚の爪も鋭くて油断ならない。だから、この巨体が無軌道に動き回るだけで脅威になる。

 そしてダメージを与えるほどその抵抗の激しさが増し、次の瞬間――――敵が木へと脚をかけた。このままじゃ、今の平面的な動きに立体的が加わる……控えめに言っても、まずい………!


 「上に逃げられる!打ち落とせ!」

 「わかってる、わよ!<魔力斬撃(マナブレード)>」


 おぉ落とした!っていうか斬撃が飛んだんだけど!?何あれ、格好いい!

 攻撃スキル使いたいけど、色んな武器を使ってるせいで各武器とか職業専用スキルを持ってないから獲得出来ないんだよね……。

 

 「キシシャァァァァァァァッ!!!!!」

 「ふふ~ん!どーよ!」

 「よし!あともうひと踏ん張り!」

 「おう!」

 

 変異種の動きが鈍くなってきたのを見逃さず、全力で攻め立てる。当然こちらも無傷とはいかないため、隙を突いた小まめなポーション補給でHPを回復させる。


 「<剛力><火床(ほど)の焔>、もう一度!」  

 「<斬鉄剣>、行くぞ!」


 私たちの連携攻撃が次々と決まり、変異種のHPがみるみる減っていく。最後の一撃を決めるため、私は再び“巨人の長槍”を手に取った。


 「これで終わり!」


 全力で槍を投げると、変異種の心臓部に見事に命中。変異種は大きな悲鳴を上げ、ついに動きを止めた。

 ―――――はぁ~…………やっと倒せた………今までで一番苦労したかも。

 そして投げた槍は回収。一定距離が空いた装備を解除すると、ポーチに入らずアイテムとしてその場に残っていずれ消滅するので回収は必須なのだ。


 「なんとか勝てたね」

 「俺達も危なかったがな」


 ドロップしたのは“狩猟者の鋭い鎌脚”と“狩猟者の紅眼”と“狩猟者の甲殻”と“狩猟者の爪”………そして“狩猟者の銀糸”……よっし!これなら………、

 

 「あと二体ぐらい倒せば素材は集まるかな?」

 「だな。巣を探すのを含めて一体当たり一時間かからないくらいか……結構かかるな」

 「一応変異種はレアな魔物の扱いだからね~。でも倒すの自体はどうにかなった!流石私!グッドオペレーション!」

 「確かにな」

 「うんうん!じゃあ次の巣を探そう!」


 そうして私たちは次のシャドウスパイダーの巣を探し始めた。森の中を慎重に進みながら、目を凝らして巨大な巣を探す。

 ちなみに、あとで確認したら【影を狩りし者】っていう称号を獲得していた。変異種を倒したらもれなく付いてくるのかな?


【影を狩りし者】

シャドウスパイダー変異種を討伐した者に与えられる称号。影の狩猟者は、生来の捕食者である。しかし、貴殿は狩猟者に狩られる恐怖を呼び起こさせ、弱肉強食の自然法則を体現した。だが、貴殿もまた狩られる側に回るかもしれないことを忘れることなかれ。









 「うーんと……ベルグさんとヒスイさんのを足したら私は足りそう」

 「俺も問題ない」

 「私も~」


 それから三体目のシャドウスパイダーの変異種を倒し、私たちはついに必要な素材を全て手に入れた。達成感に浸りながら私たちは戦利品を確認し合った。


 「じゃあ後で商人を介して素材は交換するとして、誰か商人に当てはある?」


 無ければ後日ユキに頼むことになりそうだけど。


 「ラピスの方に当てがあるだろうから多分大丈夫よ」

 「おっけー良かった」

 「それならもう戻るか?」

 「そうし―――――ん………?」


 私たちが帰路に着こうとしたその時、外套に身を包んだ男が風のように素早く森の中から現れた。軽く息を乱している。走っていたのかな?


 「誰だ?」


 ベルグさんが問いかけると、その人物は軽く手を挙げて答えた。


 「安心して欲しい、敵じゃない。只の通りすがりだよ。それじゃあな」


 言うなり、男は急ぐように軽い身のこなしで去って行った。装備や速度から見て敏捷に特化した盗賊か暗殺者だと思う。ああいうプレイヤーを初めて近くで見たけど羨ましい速さだった。


 「色々と速かったね~」

 「だね」


 ―――――にしても、男の行動に何か引っかかるんだよね………走っているところに偶々エンカウントしたにしては、こちらに驚く様子が見えなかったし、何か目的があって近づいたにしては何もせずに去って行った……………んーやっぱり偶然なのかな……?……………いや……違った!

 我ながら、今回だけは奇跡的な勘の良さだと思う。どっちにせよ遅すぎたけど!


 「あーやられた!」

 「どうしちゃったのイチカ、急に発狂して」

 「!!さっきのか!」

 「そう!多分スケープゴートにされた……」

 「はぁぁ!?嘘でしょ」


 スケープゴート――――敗走した、又は勝つことが困難な敵に出くわしたプレイヤーが、他のプレイヤーに興奮状態敵を押し付け自分自身の危険を回避する戦術。時に、他のプレイヤーを混乱させたりするためや、基本的にPKが不可となっているこのゲームでの唯一のPK手段としても用いられることがある。

 彼がどういう意図で行ったのかは分からないし、既に問題ではない。今、問題にするべきは何を押し付けられたか、だから。

 間もなく、森の奥から現れたのは巨大な白い蛇。


【徘徊する腐蝕(フォレストサーペント変異種)Lv25】


 もう最悪である。

 

 「おいおい、これは骨が折れるぞ……」

 「誰か、この魔物の特徴を知ってない?」

 「名前しか知らねぇ」

 「残念ながらね」


 どうやら誰も具体的な攻略方法は思い浮かばないらしい。離脱は……期待できないよね。誰か一人が囮になればいけるけど、それはごめんである。

 死に戻りはデスペナルティで所持金が減る。この25万の半分………あぁもう!預けるの忘れてたー!だったらもう、腹を決めるしかないというものだよね。

作中で使われたスキルの簡単説明

<気合>・・・一定時間全ステータスを上昇させる。その後、一定時間全ステータスが減少する。

眩暈衝撃(スタンショック)>・・・頭部への打撃攻撃で高確率で相手を<眩暈>状態にする。

<斬鉄剣>・・・敵防御力の25%を無視したダメージを与える

魔力付与(マナエンチャント)>・・・一定時間魔力値に依存してダメージが上昇する。

魔力斬撃(マナブレード)>・・・筋力値と魔力値に依存した遠距離斬撃を放つ。




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