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9.禁忌の影を追って③

 扉の奥にボスは居た。


【堕ちた神官アルファルド(リッチLv15)】


 リッチは赤い目をギラリとこちらへ向けた。

 所々が破れ、朽ち果てた神官服に身を包み、グールのように腐敗した顔は骸骨のように痩せこけ、瞳には赤い光が宿っている。手には古びた杖を握り、杖の先端には暗黒の宝石が輝いていた。そして彼の周囲には常に禍々しい瘴気が蛇のようにうねうねと漂っている。


 「ヒヒ、良くきたなァ……」


 リッチが喋った。これはリッチだから?それともクエストボスのリッチだから特別なのかな?どっちにせよ、会話が成立するほど知能が高い敵との勝負は初めてだな。

 レベルは15、私とそう差はないけど敵はボス。忘れていたけどステータスは通常のそれとは別物なんだよね。


 「愚かな二人、何をしにきたァ……?」

 「あなたの元同僚―――――オーウェンさんって人に頼まれたの。馬鹿の始末をつけてくれってね」

 「オーウェン………誰だそれは……?まァいい……」


 なんにせよ贄になって貰う、とリッチは宣告した。

 ぶわりと瘴気がとぐろを巻くように蠢いた。

 リッチがぶつぶつと呟く。すると、彼の周囲を漂っていた瘴気が次第に私達を囲んでいく。絡みつくような黒い霧に覆われる。


【“弱化の呪い”を受けました。ステータスが一時的にダウンします】

【“拘束の呪い”を受けました。一分毎に一定確率で拘束されます】

【“死の呪い”を受けました。一定時間の経過で死亡します】


 これがボス戦のギミックの一つのようだけど、ユキは当然のようにその対策もしていた。


 「任せて<浄化>(プリフィケーション)

 「おぉ……さすが」


 清浄な光が私達を包み込んで瘴気を浄化していった。よし、呪いが解呪された。

 ここにくるまでユキに聞いた話によるとボスの使う技は、呪い、死霊術(ネクロマンシー)、闇魔法の三つらしい。恐ろしいことに、彼女はボスの行動パターンの事前情報を十分に集めていたそうだ。ボスは基本的に一度きりのユニークな存在なため、それらには「推測だけど」という枕詞がつくけど。でもまぁ、この様子ならそこまで外れていないっぽいね。

 リッチが杖を地面に突くと、地響きを上げた地面から瘴気を纏ったスケルトンやグールが出現した。多分だけど、呪い属性持ちかぁ。浄化(プリフィケーション)があるとはいえ、攻撃はなるべく連続で喰らわない方が良さそう。一応クールタイムがあるからね。


 「構えて、くるよ<剛力>」

 「わかっている、援護は任せて<障壁(プロテクション)>」


 障壁(プロテクション)は一定ダメージまで肩代わりしてくれるバリアを全身に纏わせる魔法。これである程度は余裕が出来る。ここからは私の仕事である。

 そして私は両手槌をしっかりと握りしめ、最初のスケルトンに向かって突進した。

 スケルトンの振るう錆びた剣をかわし、私は槌を振り下ろした。いち、に……っと!スケルトンが粉々に砕け散る。次の瞬間、グールが背後から襲いかかってきた。素早く身を翻しグールの攻撃を避ける。


 「<転装(クイックチェンジ) / 鋭利な太刀 / No.12>」


 手には刀が握られ、続けざまにグールを袈裟斬りにする。次!私はそのまま側にいたグールへと接近して突き刺し切り裂いた。

 そして、アンデッドたちの後ろに控えるリッチが杖の黒い宝石を妖しく光らせた。


 「くらえ」


 やば、魔法がくる……!?


 「<闇弾(ダークショック)>」

 「<聖弾(ホーリーショック)>」


 だがリッチの放った魔法をユキの魔法が打ち落とす。相手は元神官のリッチ、事前の話し合いでそう攻撃魔法は多くないとユキは推測していた。あって、あと一つか二つ。さっきの魔法をユキが対処できた以上、それらが来ない限り互いに魔法は相殺される。つまり、この勝負の行方は前衛の仕事ぶりにかかっている、ってことだね。

 

 「せーりゃ!!」


 スケルトンやグールの動きは単調だ。連携がまるでなってない。司令塔であるはずのリッチがユキへ意識を向けているためだろう。彼の背景情報……そこから思うに神官に対して並々ならぬ敵対心を持っていてもおかしくない。有り体に言えば、魔法の打ち合いに負けたくないと思っている。

 だからこそ一体一体を倒すのは簡単だった。だけど次々と溢れるアンデッドたちは一向に止まない、処理は間に合っているけど肝心のリッチへは攻撃が届かない。私も既に何度も攻撃を受けてしまっている。今はまだ治癒(ヒール)浄化(プリフィケーション)障壁(プロテクション)の援護で何とかなってはいる。ユキの作戦は(ことごと)く嵌っているのに、あと一手足りない拮抗した戦況。偏に私の実力不足のせいだけど、このままだとユキのマナポーションも無くなってMP切れでいずれ負ける。


 「じゃ、まっ!」


 これで何体目?一か八か、アンデッドたちを突っ切るべきかな?

 だけどそれを行動に移すより早く、リッチが自身の魔法を何度も防がれ、更に中々倒れない私たちに明らかな苛立ちをみせた。


 「ナぜ……ナぜ……ナぜ……!何故動きが読まれるゥ……⁉」

 「あぁ……ごめんね、私って天才なの。あなたと違って」


 そこをユキが煽る。実際は攻撃パターンを事前に調べていただけだろうけど、ハッタリが彼の天才への劣等感に油を注いだ。


 「あ…あ…ああッ……妬ましい…妬ましい……!妬ましいィ……ッ!!」


 一瞬で燃え上がる憤怒の炎、その一瞬の隙を見逃さない。


 「<転装(クイックチェンジ)/ 鋭利な長槍 / No.20>」


 槍を逆手に握り、記憶を辿る。たしか……軽い助走と共に、全身を鞭のようにしならせ、ばねのごとき伸縮で………ってこんな感じかな?

 見よう見まねで、軽く助走をつけ狙いを定め、リッチの胸元を目指して一気に槍を投げた。


 「えいっ!」


 槍は空を切り裂き、まっすぐにリッチへと向かって飛んでいく。リッチは驚いたように目を見開き、避けようとしたが間に合わない。投擲した槍はリッチの胸に突き刺さり彼の体を貫いた。

 アンデッドたちの出現が止まった。

 すかさず私は大地を蹴る。


 「ガア……ア…アァ………アアアッ!!!!」


 しかし、相手はまだ怒りに身を震わせる。杖をさっきよりも禍々しく光らせる。長い溜め、疾走してくる私へ最後の奥の手を放つつもりだと感じた。リッチが痩せこけた掌をこちらへ向けた。同時に背後からユキの声が届く。


 「<障壁(プロテクション)>」

 「<暗黒物質(ダークマター)>」


 押し返すような闇の奔流が私を襲う。しばらく耐えた障壁が壊され、少しずつHPが削れていく。だけど、削り切るよりも私がリッチの下へ辿り着く方が早い!

 闇を抜けようやくリッチまで辿り着く。


 「<剛力><転装(クイックチェンジ)/ 鋭利な太刀/ No.12>」


 刀を抜き連続で相手に休む間も与えず攻め立てる。

 

 「ガア、ア、アッッッ!!!<闇弾(ダークショック)>」

 「<聖弾(ホーリーショック)>」


 せめてもの抵抗もユキによって対処される。

 

 これで………とどめだね。リッチの胸を刃が貫き、リッチに残った僅かなHPを削り切った。倒れたリッチは他の魔物と同じようにポリゴンとなって消えていった。ボス討伐アナウンスと、大量のドロップ、経験値を手に入れる。そして最後に【救済を与えし者】という称号を手に入れた。


 「これで彼は救われたのかな」


 ユキが静かに言った。

 一からクエストをやってきたユキと違って、私は彼にそこまで感情移入はできてないし、事情も大体しか知らない。だから返答も自然と曖昧なものになる。


 「さぁどうだろうね」


 強いて思うことがあるとしたら、この世界のNPCは本当に人間みたいだということかな。彼らを紹介するテキスト文は形だけのものじゃなくて、彼らを形作っている重要な要素であり過去そのもの。だからユキが嫉妬を煽ったような感じで攻略に利用できる。機会があれば今後のプレイにも上手く活かしていきたいな。


 「――――さて!戻ったら手に入った素材で新しい武器を作ろ!」


 アンデッドの素材かぁ、それにクエスト報酬のゴールドも。一体どんな武器が作れるのか今から楽しみだね!



******

【救済を与えし者】

かつて高潔な信念を持ちながらも、禁忌の力に手を染めリッチへと堕ちた元神官を討ち倒した者に与えられる称号。彼の歪んだ救済の願いを終わらせ、暗く冷たい洞窟に彷徨う魂たちを解放した証。あなたの勇気と力は、多くの命を救う新たな救済者として称えられる。

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