シャルル
「ねぇ なんで… どうして
僕なんかを。」
「…。 世界 色 1番」
たった今 盲目となった 彼。
目から光が消えて
持っていた 筆を 木製の床へ落とした
身長は 少し低めで、まぁそれでも
僕よりは 高いけど
可愛い顔立ちの
典型的なマッシュの男の子。
彼には 不思議な力があった。
「これ 君が書いたの?」
「まぁ うん」
彼の絵を初めて見た時は驚いた。
繊細な線の一つ一つ
全体的に 白っぽく グラデーションされた コントラスト
そこに表現されていた 猫 の目は
まるで 本物であるかのように
なにかを語りかけてくる。
ビルとビルの隙間にいて
猫独特の 体の柔らかさで
振り向きざまに 目が合った。
そんな ワンシーンに 白色の魔法を掛けて 切り出したような
そんな絵だった。
「昨日 その子にあったんだ」
かがみくんは 猫に対して
こんにちは と 語りかけるように
そっと 指で 猫の 頭を なでる。
フワッ と 微笑む彼
日差しが刺して、カーテンが揺れ
猫と 話す
あぁ これが芸術だと おもった
「あっ、あ 君…
あぁ 僕は 言葉 えーと
ごめん 凄すぎて 言葉がでてこないや」
「褒めようとしてくれてる?」
「当然だよ」
「ありがとう
褒めるなら この子も。」
絵の前へ どうぞと仕草で導かれた
彼の案内で
まるで そのビルの間の路地にはいっていくかのような
その先にいる
ずっと 目があっている 猫に近づく
「こんにちわ。 あなたとても綺麗だわ。」
当然 返事はないけど
言葉はないけど
なにか メッセージが 帰ってきたような そんな感覚になった。
不思議な体験だった。
それまで 芸術にはなんの 興味も無かった僕だけど
それでも こんなにも 感銘を受けたんだ
アートが好きな人達からすれば
まるで 宝の ような 絵なんだろう。
学校の美術室の 片隅に 置いておくのはもったいない
「ねぇ かがみくん
この絵 僕がもってかえってもいい?」
彼は 驚いた表情をみせた。
「どうして?」
純粋な 質問だった。
僕はこの アートの塊のような人に
せめて
少しでも 小粋な解答をしたい と思い
言葉の引き出しを 探した。
「その猫の 飼い主に なりたくて。」
……。 40点
言ったあと すごく 恥ずかしくなってしまった。
「それは…きっと この子も喜ぶと思う。
どうぞ 連れて帰ってあげて」
僕の言葉を笑うでもなく
純粋に真っ直ぐ受け止めてくれる
彼。
これが 他の友人なら こうはいかなかった
きっと 良い笑いものになる所だ。
そんな所も 彼とは 住む世界が 違うんだって 感じる。
それは 憧れや 皮肉めいた感情ではなくて
ただ 見ている 感じている世界が違うんだな と 思う。
「シャルル 元気に 愛でてもらうんだよ。」
彼は 最後に 猫の
輪郭を 指で撫でた。
最後に最大の愛情表現を するかのように。
「大切に するね
これから 宜しくお願いします。
シャルル」
シャルルの 表情は 変わらない。
それは 当たり前だ 油絵なのだから
だけど それすらも
その 愛想のなさすらも まさに 猫らしい。
「じゃあ 僕は 帰るよ さよなら」
スクールバッグ を 右肩に掛けて
彼は 美術室を 出た。
なぜか 気まずくなって
その 理由に気がついた時 つい出た一言。
「…これから よろしくね」
彼が 消えて
ビルの間に 逃げていきそうな シャルルに 一言かけた。
鳴くも うなずくも ない 絵 だが
ほんの少しの きまずさと
この絵を持って帰ることができる
満足感 。
複雑な 心情で いっぱいであったが
美術室から 1歩 出ようという時には
それは 疲労感 と 持って帰ることができるのかという 不安感 で 上塗りされた。
コンコンッ
僕はまた 美術室に おもむいていた。
「きっと 来てくれると 思っていたんだ。」
今日は 彼の方から 話しかけてくれた。
「この前は ごめんなさい。
僕が急にわがままを 言って」
「いや いいんだ。
むしろ 謝らないといけないのは
僕だから。」
え? なにか されたかな?
「シャルルは 少しだけ 重たい子だったから 大変だったろうなって
うちに帰ってから気づいたんだ。
ごめんなさい。」
深深と 腰をおって謝ってくる 彼。
僕は 自分の勝手で あの子を持ち帰ったわけで。
それはもう 大変ではあったけども
結局 早々に諦めて
お兄ちゃんに 車で迎えに来てもらったわけで。
僕がした 苦労と言えば
2階の 1番奥にある
この 美術室から
渡り廊下を渡って、
自分と 同じか あるいは 少し大きいぐらいの シャルルを 担いで
なんとか 階段をおりて
校門まで 汗を流しなた だけで
そこからは 車に乗せて
お兄ちゃんに この絵の 自慢話を
しながら 帰ったんだ。
結論 としては 部屋に 良い絵と
可愛い猫 が 1匹 やってきた。
その労力を 考えれば
全然やすいと 感じてしまう。
「全然 大丈夫
シャルルも 今頃は
僕の 部屋の壁 で 大人しくしてくれてると思うし」
彼は 僕の言葉に
少しだけ 反応してくれた。
それから 定期ぐらいの 小さなキャンバスに
絵を描き始めた。
そして 絵を描きながら
ポツリ ポツリと
彼が 抱える 魔法の設定について
語り始めた。
詳しくは 国が指定する 難病。
成長と 共に 視力が 著しく
低下し
18歳を すぎる事には ほぼ 盲目となってしまうんだとか。
つまり 彼の 視界は今 ほぼ
なにも 見えてはいないらしい
眼鏡をかけても
コンタクトをしたとしても
意味が無い 代物らしく
彼は 今 真っ白な世界に
物の輪郭が見えているだけらしい。
そして 今 書いてる作品が
彼の最後の作品。
こんな 天才の最後を 見ることができるんだ と
不謹慎ながら 心の底で感じた。
本来は 心配すべき 事だと言うのに
彼自身 既に 運命を受け入れてる感じがして
わざわざ 意味の無い言葉を
彼に 伝える事こそ やってはいけないと思った。
「今 どんな絵を 書いてるの?」
素直な疑問
彼の 最後の作品 は 一体何を書くのか
それは きっと 誰でも気になるはずだ
「…。 君だ」
えっ!? 驚いた
こんな 関係の浅い 僕を
書いているの?
小さな 小さなキャパスに
幻想的な 青色を 落としていく彼
できた…。 と 一言つぶやくと
カバンから 同じサイズの キャンパスを 5枚 取り出した。
この 6枚を 繋げると
後ろ姿の 僕。
セミロングで うなじが 見えていて
制服。 僕って 彼から見ると
こんな風にみえているんだ。
…いや それより どうして
僕なんかを。
「ねぇ…なんで どうして
僕なんかを?」
「世界 色 1色。」
持っていた 筆を 木製の床に落とし
彼は虚空を見上げている。
本当に 今 盲目になったんだ。
なら どうして どうして 僕なんかを、。
「ねぇ? どうして?」
彼は ニコッと 初めて見せる
笑顔。
あぁ 本当に 後悔なんて してないんだ
そう思わせる 顔を 僕に向けて
一言。
「僕に 気づいてくれたのは
君だけだったから。」
フッ と 彼の存在が 消えた。
夕日に染まる 美術室
世界は 1面 赤色だ。
6枚の小さなキャンバスは
真っ白。
さっきまで 僕の後ろ姿が
幻想的に 描かれていた
それらは ただ 真っ白の 小さな板に変わっていた。
衝撃が 大きすぎて
心の整理が つかないまま
帰宅した。
何も分からない。
彼は一体… 。
部屋に入って気づいた。
「…シャルル」
シャルルも また どこかへ
おでかけをしたみたい。
さよなら。 ここで呟いた。
大きな真っ白のキャンパス
これはきっと 今も 彼が見ている
世界なんだ。
そう納得して 僕はキャンパスを
眺める。
にゃ〜お。
どこかで ねこがないた。
きっと…今のは。
〜〜〜〜〜fin