表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/3

「どうおいしい。私の新作料理は? 君の誕生日だから、気合い入れて作ったんだよ」

「うん、すごくおいしいよ。毎日だって食べたくなる。」

「そっか、それはよかった」


 夕飯の食事時。食べてる僕の姿に、向かいの食卓に座る彼女は幸せそうだ。  

 相変わらず嬉しそうに、食べるのを見てるなリディア。

 彼女はきれいな長い赤髪の超がつくほどの美人だ。

 そんな人に見つめられると、思春期であるこちらとしては、変に意識してしまう。

 かといって、見つめるのを止めて欲しいと言ったら、彼女の毎日の楽しみを奪うことになるので、言い出せないのが悩みどころだ。

 彼女は10才から26才の今日にいたるまで、毎日、この行為を続けている。

 よく飽きないなと、正直感心してしまう。


「しかし、今日で君はもう15才か、早いもんだね。この前まで赤ん坊だと思ったのに、あっという間に成長してさ……」


 言ってる途中で、感じ入ったのか、リディアがしみじみと表情になる。

 僕は少し照れくさいながらも、ちゃんと相手の目を見て、こう言った。


「リディアが捨てられた赤ん坊の僕を、拾って育ててくれたおかげだよ。リディアがいなかったら、生きる喜びを何も知らないまま、死んでだと思う。だからリディアには、すごく感謝してる」

「もう何回もいってるけどさ、善意でしたことじゃないし、感謝なんかしなくていいよ」


 リディアは自嘲げに笑うと、こう続けた。

 

「当時の私は天涯孤独で、他人が怖くて、今住んでる森の小屋で誰とも関わらず、生きてきた。一人が寂しくて、自分を傷つけず必要としてくれる相手を求めてた。だから、自分のためなんだ。赤ん坊のカインを拾ったのは」

「それでも、どんな理由でしたことでも、俺はリディアに救われたと、思ってるから」

「あはは、君は本当にいい子だね」

 

 リディアは少し困ったように笑うと、真剣な声色でいった。


「ねぇカイン私はもう大丈夫だよ。一人でももう寂しくなんてないよ。だって、君と過ごした15年分の思い出があるから」

「なんだい急に、寂しいこと言うなよ」

「まぁ、聞いてよ。私達は基本、森の中で生活をしているよね。畑仕事をしたり、川で魚を釣ったり。それでたまに君が森の外に出て、手に入れた食料を街の市場で、日用品と交換したりする。でも私は人と関わるのがいやで、森の外に一歩も出ようとしない」

「つまり、何が言いたいんだ?」

「森の中で閉じこもっている私に生活をあわせなくてもいいんだよ。君には確か、森の外にたくさん友達がいるんだろ? なら、私の元を離れて、森の外で、自立すれば、今より充実した生活を過ごせるはずだ。今より、多くの人と楽しい時間を過ごせるはずだ」

「……」


 今とは違った生活か。そんなの考えたこともなかったな。

 リディアは固い表情で、僕の答えを待ってるけど、机の上に置いた手は小刻みに震えていた。

 きっと僕が出ていって一人になるのが怖いのだ。

 なのに僕のために、あえて、この提案をしてくれた。

 安心してリディア、僕は君から離れたりなんかしないよ。


「そんな生活しようとは思わないな」

「どうして?」

「僕にとって、一番の幸せは君と一緒にいることだ。僕を育てくれて、たくさん愛情をそそいでくれた君と一緒にいることだ」


きっぱりと答えると、リディアが固い表情を崩し、口元をわずかにほころばせる。


「嬉しいこと言ってくれるね、でも本当に、それで後悔はしないの? 」

「僕にとっての後悔は君と離ればなれになることだよ」

「そう。気持ちはよくわかったよ。じゃあそれなら、残り少ない時間を一緒に過ごそうか」

「うん喜んで。なるべく、終わりがくるのがお互い最後の順番だといいね」

「本当、そうだね……」


 終わりの話に触れたためか、しんみりとした空気になる。

 僕たちは、明日か、または二年先に、死んでしまう運命にある。病気や、災害でそうなるわけじゃない。

 やってくるのだ。やつが。魔女の使い魔が命を刈り取りに。

 それは亡き魔女がこの世に残した呪いであった。 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ