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「どうおいしい。私の新作料理は? 君の誕生日だから、気合い入れて作ったんだよ」
「うん、すごくおいしいよ。毎日だって食べたくなる。」
「そっか、それはよかった」
夕飯の食事時。食べてる僕の姿に、向かいの食卓に座る彼女は幸せそうだ。
相変わらず嬉しそうに、食べるのを見てるなリディア。
彼女はきれいな長い赤髪の超がつくほどの美人だ。
そんな人に見つめられると、思春期であるこちらとしては、変に意識してしまう。
かといって、見つめるのを止めて欲しいと言ったら、彼女の毎日の楽しみを奪うことになるので、言い出せないのが悩みどころだ。
彼女は10才から26才の今日にいたるまで、毎日、この行為を続けている。
よく飽きないなと、正直感心してしまう。
「しかし、今日で君はもう15才か、早いもんだね。この前まで赤ん坊だと思ったのに、あっという間に成長してさ……」
言ってる途中で、感じ入ったのか、リディアがしみじみと表情になる。
僕は少し照れくさいながらも、ちゃんと相手の目を見て、こう言った。
「リディアが捨てられた赤ん坊の僕を、拾って育ててくれたおかげだよ。リディアがいなかったら、生きる喜びを何も知らないまま、死んでだと思う。だからリディアには、すごく感謝してる」
「もう何回もいってるけどさ、善意でしたことじゃないし、感謝なんかしなくていいよ」
リディアは自嘲げに笑うと、こう続けた。
「当時の私は天涯孤独で、他人が怖くて、今住んでる森の小屋で誰とも関わらず、生きてきた。一人が寂しくて、自分を傷つけず必要としてくれる相手を求めてた。だから、自分のためなんだ。赤ん坊のカインを拾ったのは」
「それでも、どんな理由でしたことでも、俺はリディアに救われたと、思ってるから」
「あはは、君は本当にいい子だね」
リディアは少し困ったように笑うと、真剣な声色でいった。
「ねぇカイン私はもう大丈夫だよ。一人でももう寂しくなんてないよ。だって、君と過ごした15年分の思い出があるから」
「なんだい急に、寂しいこと言うなよ」
「まぁ、聞いてよ。私達は基本、森の中で生活をしているよね。畑仕事をしたり、川で魚を釣ったり。それでたまに君が森の外に出て、手に入れた食料を街の市場で、日用品と交換したりする。でも私は人と関わるのがいやで、森の外に一歩も出ようとしない」
「つまり、何が言いたいんだ?」
「森の中で閉じこもっている私に生活をあわせなくてもいいんだよ。君には確か、森の外にたくさん友達がいるんだろ? なら、私の元を離れて、森の外で、自立すれば、今より充実した生活を過ごせるはずだ。今より、多くの人と楽しい時間を過ごせるはずだ」
「……」
今とは違った生活か。そんなの考えたこともなかったな。
リディアは固い表情で、僕の答えを待ってるけど、机の上に置いた手は小刻みに震えていた。
きっと僕が出ていって一人になるのが怖いのだ。
なのに僕のために、あえて、この提案をしてくれた。
安心してリディア、僕は君から離れたりなんかしないよ。
「そんな生活しようとは思わないな」
「どうして?」
「僕にとって、一番の幸せは君と一緒にいることだ。僕を育てくれて、たくさん愛情をそそいでくれた君と一緒にいることだ」
きっぱりと答えると、リディアが固い表情を崩し、口元をわずかにほころばせる。
「嬉しいこと言ってくれるね、でも本当に、それで後悔はしないの? 」
「僕にとっての後悔は君と離ればなれになることだよ」
「そう。気持ちはよくわかったよ。じゃあそれなら、残り少ない時間を一緒に過ごそうか」
「うん喜んで。なるべく、終わりがくるのがお互い最後の順番だといいね」
「本当、そうだね……」
終わりの話に触れたためか、しんみりとした空気になる。
僕たちは、明日か、または二年先に、死んでしまう運命にある。病気や、災害でそうなるわけじゃない。
やってくるのだ。やつが。魔女の使い魔が命を刈り取りに。
それは亡き魔女がこの世に残した呪いであった。