寒気の原因 1
最近、僕の背筋が寒くなる。誰かに見られているような・・そんなことを思って後ろを振り向いても誰も居ない、という不思議な事が起きている。
「どうかした?」
今は学校の帰り道で、花蓮と一緒に帰っていた。僕が黙り込んでしまったのが不思議に思ったのか、花蓮が心配そうに見つめている。心配かけちゃ駄目だ!
「何でも無いよ!ただ、もうすぐ期末テストだからさ。赤点を取らないか心配で・・」
「大丈夫だよ!拓也なら出来る!!」
花蓮は凄く真剣に答えてくれた。う~ん。まあ、期末テストが心配なのは嘘じゃないから大丈夫。
僕は花蓮に”ありがとう”と答えた。その時またあの時の寒気が背筋にかかる。僕は勢いよく後ろを振り向いた。でも、そこには誰も居なかった。まただ・・僕の手には汗が滲んだ。
「誰か居たの?」
「えっと・・」
この事を言ってしまうと、また花蓮に頼ってしまう事になってしまう。せっかく彼氏になれたのに迷惑をかけてしまったら・・僕は息を吞んだ。
「何でも無い!少し音がしただけだよ」
僕は嘘をつくことにした。すると、僕の顔には花蓮の両手に挟まれた。花蓮の手は温かく、お日様の匂いがした。
「嘘つかないで!!」
「え?」
「嘘ついてるって分かるんだからね!!小さい頃からずっと見てきてるんだから!!」
ばれてた・・。ばれていた。こんな時の花蓮の勘は、鋭かった。僕が言葉に詰まっていると、花蓮が口を開いた。
「言いたくない事があるのは分かるけど、もっと頼って良いんだよ?」
「だって、頼ったら彼氏として釣り合わないよ・・・」
僕は花蓮の手から離されると、下を向いてしまった。今は、目を合わすのがつらかったからだった。すると、しばらく沈黙が続いた。僕はその沈黙に耐えられずに”ごめん”と呟いた。
花蓮は「ごめん」と言われるのが嫌いだった。そんなことは十も承知していたが、頑張って絞り出した言葉がそれだったのだ。
「ずっとそんなことを考えていたの?」
「え?」
僕は予想外の言葉に顔を上げると、ほっぺたを膨らませた花蓮の顔があった。頬は少し赤くなっていた。
「私が!好きになったのは!今の拓也!!変わらなくても今の拓也が好きなの。小さい頃からずっと・・ずっと・・・」
その言葉を言っているうちに、二人の顔はどんどん赤くなっていった。花蓮はすっきりしたのか、本当に私が助けなくていいの?と聞いてきたが”これは僕のけじめなので助けなくて大丈夫”と答えた。花蓮は今のままの僕で良いって言ってくれたがやっぱり、男として格好はつけたいのだ。すると花蓮の顔はいつも通りの表情に戻った。
「帰ろっか!」
「うん。」
僕は花蓮の手に引かれ、共に家まで帰った。僕は家に帰ると、どう対処するかを一生懸命考えた。ベッドの上で僕は少ない知恵を絞り出した。気のせいなんかじゃない。あの寒気は誰かが見ていたはずだ。今のところは被害は無いが、いつどんな事が起きるのか分からない。花蓮に被害がいかないうちに対処しないと・・。いや、あれは僕に向けた悪意ではないかと考えた。その時にふと思い出した。啓二と浩太。三人で話していた時の事を。
「特にあいつには気をつけろよ」
「ああ、田中千裕ね」
「お前に言ってねえよ~」
「答えただけだけれど?」
その時は笑い事で済ませたけどもし、本当に、あの視線が田中千裕の視線なら?僕は考えただけでゾッとした。凄い強い悪意が僕に向けられているということ・・。僕はそれ以上考えるのはやめて、ベッドに潜り込んだ。その時の僕の体は震えていた。
* * * * * * * * * * * * *
次の日の昼休みに僕は二人に相談した。
最近寒気がすること、誰かに見られている気がすること、そのどっちもが花蓮と一緒に居るときにしか感じないこと。すると二人は真剣に考えてくれた。
「そこまでいくともう、やばいな」
「そうだね。被害が出ていない方が不思議に思うと同時に不気味だね」
「どうしたらいいと思う?」
僕は二人に質問をした。すると、難しそうな顔で、
「何かされるまで待つしか無いね。何もされてないんじゃ気のせいで終わってしまう」
「そっか~」
僕は空を見上げた。空は青空だった。雲一つ無い、快晴だった。
事件が起きるのは、僕らの予想と裏腹に案外早かった。
事件が起きたのは花蓮と一緒に帰っているときだった。僕に向けてトラックが突っ込んできた。
「うわぁ!!」
僕は花蓮を守ろうとして、足を折ってしまった。ドクドクと出血する音がした。すると電柱の影に人影が見えた。
「あ!!見つけた!」
僕は追いかけようとしたが、足が動かなかった。それでも無理矢理動かそうとしたことにより、傷が広がってしまった。そこにいるのに!!でも、次の瞬間
ダッ
花蓮がもの凄い早さでその人影を捕まえた。花蓮が片手で捕まえているその人影の正体は予想通り”田中千裕”だった。
眼鏡をかけていた。田中千裕は、花蓮に捕まえられたのが嬉しいのか満面の笑みだった。
トラックは電柱にぶつかり、事故になっていたので警察がきていた。
「君!大丈夫か?!」
「あ・・は・・い」
警察が来て僕に話しかけてきたことにより、安心してしまったのか、僕の意識はそこで途切れた。




