用済み
んん・・。僕は気絶していたのだろうか・・。首を叩かれた後から記憶が無い。
僕はゆっくりと起き上がる。 ズキッ。
うっ。まだ頭が痛い。僕は頭をさする。ここは何処だと窓を覗けば、全く知らない景色。
あれから外を見ていないので、大体の場所が分からなかった。
「ここ何処だろ・・」
僕がぽつりと呟くと隣の黒いスーツの人がもうすぐつきますと答えた。そして後ろの人は
「あの時はすいませんでした。何故急ぎでしたので」
と謝ってくる。急に口調が変わった事に僕は驚きを隠せない。
キキィー
目的地に着いたのか、車が急に止まった。すると扉が開き、降りるようにと言われたので、大人しくそれに従う。そこは大きなビルがある。前には銭湯。横は八百屋。ここにはなじまないようなデザインの大きなビルがそこにはあった。
「失礼します」
「え?」
急に視界が暗くなる。僕が慌てていると、ただの目隠しですと説明されたので納得する。
どうして目隠し?僕が歩きながら質問をするが、返答は返ってこない。またか・・。
「どうぞ」
重い扉が開く音がする。何処だここ。階段からして、地下にいることは分かる。
「久しぶりだな。拓也」
僕の知っている声。僕を見捨てた声。僕の・・!!!
目隠しを取られた僕が目にしたのは、真っ黒いカッチリとしたスーツを着ている僕のお父さん。
「はぁ、はぁ、はぁ」
僕の呼吸が乱れる。正常な呼吸が出来ない。早く、早くここから出ないと!!
僕は足を動かそうとするが全く動かない。何で!!動いて!!
僕は膝をつき、胸を掴む。はぁ、はぁ。皆の視線が僕に刺さる。誰も僕に近づいてこない。
まあ、そっちの方が有り難いけど。
僕の呼吸が整ってくると、僕は立ち上がりお父さんを見る。光の反射で顔は見えないが、声、雰囲気が全くおんなじで、僕は間違えない。間違えるはずがない。
あれ?ここは地下のはず・・。どうして光が?
「ああ、いい顔になったなぁ」
お父さんは僕の方に段々と近づいてくる。そして僕の顔を思いっきり掴んだ。痛い!!
僕はお父さんの手をなぎ払い、走って扉に向かう。扉を出たあと、何処に行けば分からない僕は取りあえず階段を見つけるために、走る。走る。
!!!!
そこには花蓮がいる。ああ、無事だっ・・・ドシュッ
「え?」
花蓮が血を出して倒れる。あ・・れ?か・れ・・ん?僕はその場に崩れる。
「どうしたの?花蓮?」
かれ・・。僕の手に花蓮の血がつく。僕はそれを見る。ああ、ああああ!!!
僕の記憶はそこまでだった。
* * * * * * * * * * * * *
私は佐々木竜之介様のSP。常に竜之介様の側にいる。今目の前にいる男の子は竜之介様の息子の拓也様。竜之介様との対面したときに過呼吸になった。竜之介様には何もするなとの命令なので何も出来なかった。
その後に拓也様が出て行った。それも計算通りなのか、顔色一つ変わらなかった。
「付いていけ。きっと何処かで倒れている。捕まえたら・・私の人形の出来上がりだ」
不気味な笑いをする竜之介様。我々は命令に従うまで。
「「御意」」
我々が色々な所を探していると、拓也様が倒れている。何があったのかは聞かされていない。
唯一分かっているのは、田中千裕だけ。このビルの罠は全て田中千裕が仕掛けているらしい。
拓也様を竜之介様の部屋に戻すと、
「ご苦労。帰って良いぞ」
「ですが・・」
「帰って良いぞ」
「・・・仰せのままに」
あまりの威圧に我々は大人しく帰宅した。
これから何が起こるのかは知らない。でも、何か大きな事が起きそうだ。
* * * * * * * * * * * * *
「ねえ!まだなの?」
「まだだよ」
私は今、バイクで走っている。風の音で声が聞こえにくいので、大きな声で話をする。
あれから拓也の所に連れて行ってくれるとは言ったもののなかなか目的地に着かない。本当に向かっているのかな・・?
ブーブー
田中千裕のスマホが鳴る。するとバイクは止まり、確認をしている。早く行きたいのに!!
すると千裕は額に手をつけ
「はぁ。そっか!」
「どうしたの」
「僕は用済みになったみたい!」
千裕は一通のメールを私に見せる。私は内容には目が行かなかった。送り主・・佐々木竜之介?
どうして拓也のお父さんがこんなメールを?
メールの内容は、『拓也が人形になったから千裕は用済み』みたいな内容。簡潔すぎて逆に怖い。
「どうする?一緒に乗り込む?僕はもう犯罪者だしね、何しても大丈夫だし」
「行くに決まってる!」
私と千裕は笑い合う。ああ、千裕は人間だ。私たちはまたバイクに乗って拓也の場所へ向かった。
「おっき~い」
見上げるだけで精一杯な大きなビル。本当にここに拓也がいるのかな?
「こっちだよ。早くして」
「ご、ごめん」
ビルの隅。そこには小さなくぼみがある。そこに千裕のカードキーを差し込むと、私がいた地面がいきなり抜ける。え?えええええええええええ?!
ドンッ!!
「痛った~」
私は底まで落ちたのか、地面がある。千裕は余裕そうに早く行くよと急かす。ちょっとは待ってよ。
長い長い階段を降りていくと、一つのフロアについた。ここ、拓也のお父さんの会社にそっくり。
「ここからは僕に任せて。行くよ!!」
えっちょ!急に走り出した千裕に私は付いていく。そして一番奥にある、とっっっても大きい扉の前に立つ。でっか!!
ギィィィィィィィ
重そうな音。その音が廊下に響く。扉を開けるとそこには二人の人影が見えた。
「やはりり来たか」
「ええ!ムカつくのでね!!」
こんなに苛立っている千裕は初めて見る。そして大きい人が、佐々木竜之介。拓也のお父さん。
横にいるのが・・
「拓也!!]
私は走って拓也に向かう。拓也の反応がないので、私は拓也の顔を見た。すると目に光がなかった。
「拓也?どうしたの?」
「君は・・誰?」
「え?花蓮だよ?秋山花蓮!!」
「花蓮?いいや、違う。だって・・花蓮は・・あの時」
何の話をしているか分からない私は千裕の方を見る。すると、急いでやって来た。
「チッ、あのトラップに引っかかったのか!!」
「ああ、拓也に絶望を見せた。そこの彼女の死が拓也の絶望だったんだな」
私の死?でも私は生きてるし・・。私が拓也のお父さんに聞こうとすると先に千裕が説明をしてくれた。
「僕の作った罠だ。リアルな人物が出てきて、かかった生物の一番の絶望を見せる」
「それが拓也にとって私の死だった・・?」
「そうだ。だから今の拓也には花蓮はこの世にいない事になっている」
そんなの、そんなの!!私が拓也に抱きつこうとすると、拓也のお父さんに捕まる。両腕を縛られ私は動けなかった。千裕も同じだった。
「今はやめて欲しいな。これからこの世界は劇的に変わる。私の息子によって」
拓也の頭を撫でながら、不気味な笑いをしている。世界?拓也が・・・あ!!まさか!
私は必死に縄を解く。拓也の本当の頭脳は世界で一番だ。それを今まで発揮しなかったのは絶望していなかったから!!
「拓也!!」
「それじゃあ、また後で。さようなら、秋山花蓮さん」
拓也が出て行く。私は何も出来なかった。ああ、まずい。非常にまずい。
「このままじゃ、拓也が世界の理を変えてしまう!」
「は?・・・行くぞ!!」
千裕は持っていたナイフで縄を切っていた。縄がはらりとほどけた後、私たちは拓也を探す。
待ってて!拓也!!
外では私たちがいなくなったことで、騒ぎになっていたのを知るのはまだ後だった。