最悪な協力者 2
僕はあれから地図を隅から見始めた。時刻は午前三時になった。
何とか目星い所は見つけたけど・・決定的な証拠が無い。
「はあ、今日はもう寝よう。三っつには絞れたし・・」
僕は地図を広げたまま寝台に向かう。う~ん、何か手がかりを探さないと・・。僕はスマホでニュースを見る。するとそこには衝撃的な事が書かれている。
『現在田中千裕容疑者が行方不明。誰かが共犯の可能性が出現。』
は?僕はスマホを握り絞めた。いくら何でも早過ぎる。共犯?こんなに早く動けるなんて・・。
それこそ上の位の人位じゃ・・。
僕は顔を上げた。今の僕は誰よりも怖いだろう。そして地図を見る。こんなことしている場合じゃ無い!早く・・早く絞らないと!!
僕は昔の記憶を辿る。お父さんと一緒に行ったことのある場所。会社。言動。全てを思い出すんだ!!
・・・ん?あれ?そういえばあの時は一緒に行ったのに、どうして一緒に入らなかったんだ?
それは昔、僕とお父さん二人で銭湯に行った時。入り口で話した会話。
『じゃあ先に入っててくれ』
『・・・うん。分かった』
あの時はお父さんに疑問を抱いてもどうにもならない事が分かっていたから聞かなかったが、どうしてお父さんは・・。
僕は思い出す。でもそれ以上思い出せなかった。
今は三時三十分。僕はお母さんにばれないようにそっと家を出た。
ここは僕とお父さんがよく行っていた銭湯。煙突は短く、可愛い感じの銭湯だった。
あたを見わたす。でもそれらしい建物はなかった。
ここ・・じゃ・無い?僕はまた振り出しに戻った。
* * * * * * * * * * * * *
「おはよ~」
「おは、ふぁ~」
「何だ?寝不足か?」
「ん、そんなとこかな」
僕は教室に来た啓二に挨拶されたので、返そうとすると欠伸がでた。
結局昨日は全然寝られなかった。朝、花蓮に会った時すぐに『疲れてない?』と聞かれた。
そんなに僕って顔に出るかな・・?
あの後もう一個の候補の所に行って探したが何も見つからなかった。
結局手がかりは何も掴めなかっただけ・・。僕は大きくため息をついた。
それに気づいたのか、啓二は、あのことだろ?と耳元で囁いた。僕は首を縦に振った。
「厄介だよな。しかも協力者の可能性だろ?」
「うん・・。そうだね」
僕は小さく、下を向いたまま返事をした。協力者の確信は無いが、きっとお父さんだろう。
それを啓二に話すことはできなかった。
僕はテンションが低いまま下校していた。今は花蓮、啓二、浩太と一緒に帰っている。
啓二は自転車なのに、わざわざこちらに来てくれている。
今日は皆部活が休みなのだ。
「しっかし、怖いな~」
「大丈夫よ!あれから私も鍛えたから~」
「それでも女性なんだから。男性にはかなわない」
花蓮はう・・そうだけどと、言葉が詰まった。こういう時の浩太の言葉には説得力がある。
「そんな時は拓也が守ってくれるでしょ!」
「うん!任せて!」
体力には自信は無いけど・・・。僕はぼそっと呟いた。それが聞こえたのか、皆が背中を叩いてくれる。知ってるみたいな顔をして。・・・分かってるけど何かむかつく・・。
そんな時だった。横にバイクがとても速い速度で通った。土が無いところなのに、砂埃が酷かった。
「がはっ、ごほっ」
「くっせ~」
「だ、大丈夫?」
「目に砂が!!」
そこは悲惨だった。僕は疑問に思う。花蓮の声が聞こえない!!僕が必死に目を開けると花蓮はいなかった。え?
そんな事を思っていると、僕は誰かに引っ張られた。
「え?」
突然引っ張られたと思えば、ふかふか椅子?。目に砂が入り、僕は目を開けられない代わりに手を広げた。するとパシッと勢いよく捕まえられた。え!誰かいる?!
「あの!ここ何処ですか!!」
返事は返ってこなかった。目が開けられるようになると、僕は辺りを見渡す。
車。僕は車に乗っていた。え?真っ黒な車。横にはスーツを着た男の人が座っていた。
え!逃げないと!!僕の本能がそう囁いた。僕が勢いよく扉を開けると横に座っていた人が
「君がいなくなると彼女が傷つく」
「え?」
僕は目を見開いて振り向く。今なんと言ったか・・。花蓮が?僕の手が止まったと同時に、後部座背に座っていた人に首を思いっきり叩かれる。
「がぁっ」
激痛が脳に走り、僕は動けなくなった。
扉は閉まり、また動きだした車はスピードを上げた。その間に僕は一切動く事ができなかった。
* * * * * * * * * * * * *
え、何々!!ここ何処!!私はいまバイクに座っている。周りは知らない景色。
あの砂埃と同時に私はバイクに乗せられた。最初に乗せようとしてきた人は、最近習い始めた柔道で落とした・・はずなのに、今!違う人に捕まっている。
なんか最近修羅場多くない~~!!私は心の中で叫ぶ。
そりゃ私だってやられてばかりじゃない。最初こそ降りようとしたが、
「君がいないと彼氏に傷がつくよ」
そんなことを言われたら降りられない。そもそもこれは嘘では?拓也は捕まって無くて、私を降ろさない為の嘘。そんな事も考えたが、もし本当ならあの時の二の前になってしまう。
私は大人しくしていた。
急に止まったと思うと、サービスエリアにいた。え?もしかして行き場所ってここ?
「何してるの?行くよ?」
「!!!」
ヘルメットを外したその顔には見覚えがある。田中千裕!!私は後ずさりをする。
「ああ!大丈夫。何もしないよ!」
「信用出来るわけ無いでしょ!!」
「う~ん、それもそうか。警戒しててもいいから取りあえず何か食べよう」
ぐう~。私のお腹は反応した。何で今!!う~ん。私は拓也から貰った催涙スプレーを握り締めて付いていった。
普通に話していると、普通の人。前みたいな人ではなかった。私はアイスを食べながら見つめる。
「どうしたの?」
私の目線に気づいたのか、うどんを食べる手を止める。
「前と違うな~と思って」
「ああ!あの時はごめんね。全てこのときの為だから!演じてたの」
この時の為?私はいい加減教えて!と、問い詰めた。すると、千裕は手を前に出し、
「君は気にしないでいいよ。好きな所に連れて行ってあげるからさ」
拓也の事を気にしないで楽しめる訳ない。そして私は千裕の胸ぐらを掴んだ。
女性らしくないけどこれが私。もう猫をかぶるのはやめだ!!
「じゃあ、拓也の所につれて行って!!」
千裕はため息をつくと、分かったから手を放してと答えた。やけにあっさりしている。
「連れて行ってあげる」
会えないけど・・。私はその言葉を聞き逃さなかった。