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最悪な協力者 1

僕は自分の部屋にいた。ベッドに寝転び、天井を見上げる。

昨日の事、プールの時のこと、花蓮は何故あんなことをしたのだろう?

二人きりになれなかった・・・。もしかして嫉妬とか?いやいやまさか!

・・・本当にそうなのかな?だとしたら全く気がつかなかった。スマホで確認してみようかな・・・。よし!思い立ったらすぐ行動!!僕は起き上がり、スマホを手にとる。


プルルルル


僕は花蓮に電話をかけた。


「もしもし?」

「あ、花蓮?」

「うん?どうしたの?」

「あ、えっと」


電話をすると突然緊張がくる。言葉が詰まる僕を不思議に思ったのか、大丈夫?と心配してくれる。ああ、また心配をかけてしまった・・。僕は覚悟を決めた。


「さっきの事なんだけど・・。もしかして、嫉妬してくれてる?」

「・・・そうだよ」


否定してくると思っていた僕は、素直な答えにまた戸惑う。そんな僕をよそに、花蓮は話を続ける。


「だってプールにいるとき、体育祭の時、ずっと美優ちゃんか他の人の事考えてたでしょ?」


そんな事無い!と否定したかったが本当の事なので否定はできなかった。でも花蓮の事も考えてたのも事実。どう伝えるべきか・・・。僕は考えた。


「美優の事も考えてたけど、花蓮の事も考えてたよ!だって、前にあんな事があったから・・心配にもなるよ」


僕は誤魔化すことが苦手なので、思った事をそのまま伝えた。すると突然鼻をすする音が聞こえた。え?どうしたの?!


「ぐす、そっか、そっかぁ」

「だ、大丈夫?」

「うん。大丈夫だよ」


大丈夫とは言っているが、心配になる。電話では相手の表情が分からないので厄介だ。

僕はこれから会えないかな?と訪ねた。すると、うん、いいよと答えた。


「じゃあ駅前の公園でいい?」

「うん、分かった」


僕はすぐに準備した。下に降りるとお母さんはまだ起きていた。お母さんに何処に行くの?と聞かれたので、ちょっと買い物と答えた。すると何かを悟ったようにお母さんは


「女の子を夜遅くまで出歩かせたら駄目よ」


と言った。あれ?いつもなら誰?とかどんなきっかけで?とか、色々聞いてくるのに・・。

何でだ?僕は不思議に思ったがお母さんが穏やかな声で


「早く行きなさい」


僕は急いで公園に向かった。


        

拓也が出て行った家で拓也の母は、静かに、それでいて気持ちのこもった涙を流していた。それが何を意味するのか、誰も分からない。そして静かに”頑張れ”と呟いたのだった。

自分のようにならないように・・。



    * * * * * * * * * * * * *

僕は歩道を全力で走っている。汗を流しながら。お母さんは前みたいに問い詰めてこなかった。

何か知っているのかな?と考える。知った時といえば、前の事件だ。あれから僕らの生活は百八十度変わった。いつも通りの日常・・ではなかった。花蓮のそばには誰かが必ず付いている。

そんな日常。

花蓮が甘えてきたのもあの事件から。さみしい。そんな気持ちが花蓮の中で芽生えたのだろう。

あれから変わったが、それが必ずしも良い方へと変わる訳では無い。

花蓮のお母さんとお父さんも僕のお母さんも薬を飲まされてから一週間は歩けなかった。

僕は駅前の公園に着いた。そこには花蓮がいた。ブランコをさみしそうにこいでいる。


「お待たせ!!」

「!!全然待ってないよ!」


花蓮はブランコから勢いよく飛び降り、僕の方へ走ってきた。駅の灯りで花蓮の目が赤くなっているのが見えた。


「花蓮、誰か一緒じゃないの?」

「うん!内緒で飛び出して来ちゃった!」


危ないな。僕は花蓮を抱きしめる。花蓮は戸惑ったが、僕はそんなのは気にせず抱きしめた。



「呼び出したのは僕だけど危ないから誰かと一緒に来てね」

「う、うん」


花蓮を離し、また公園のベンチに座った。


「僕らが付き合ってる事皆にばらしても良いんじゃ無いかな?」

「え?どうして?」

「僕が少しでも守ってあげられるから」


そう、僕らが付き合ってないという事にしていると、僕が花蓮の側にいられない。

それじゃあ、あの時の二の前になってしまう。僕は真剣な顔で言った。


「別に良いよ」

「ありがとう。それじゃあ帰ろうか」


僕はお母さんの助言の通りにすぐに花蓮を家まで送った。

僕は帰り道、考える。あの事件はまだ終わっていない。だって、田中千裕があんな事を考えられるとは思わない。それに旧桜木高等学校の取り壊しなんて千裕は知らない。だって、転校してきたのは今の新校舎だから。

誰かが助けたのか?それだとすれば・・・。僕は頭を横に振る。一番最悪な人が協力していたら?僕にとって一番最悪な協力者は・・・お父さんだ。


お父さんは昔から僕を試すような事をしてくる。それは僕がまだ二歳の時の頃。

歩けるようになった僕をお父さんは山に置いていった。

僕は無事に山は降りれたが、山の麓にははお父さんは何処にもいなかった。

ここが何処なのか、僕には分からない。結局お母さんが迎えに来てくれたので、家に帰ることができた。僕が家に帰ると、お父さんの姿は何処にもなかった。

お母さんは捜索願いを警察に出したが、無理だと言われた。

お父さんは世界的に有名な会社の社長だ。そこらの警察になんかすぐに操れる。

結局お父さんは戻る事無く、離婚も出来ないまま時が流れた。


それで今!お父さんが僕と花蓮の関係を知っていたらまた僕を試すだろう。

それに利用出来たのが田中千裕だ。

何処で知り合った?すぐにお父さんのいる場所を絞らないと、また花蓮が危険な目にあってしまう!

僕は急いで家に帰り、地図を広げた。この地図は昔お父さんと政略ごっこをしたときの地図。

色々な場所に色々な事が書かれている。お父さんがいなくなったあの時、僕とお父さんが遊んだものは全てなくなったがこの地図だけ残っていた。

もしかしてあの時既にこの状況を想定していた?取りあえず手がかりはこれしか無いんだ!

僕は地図を隅から見始めた。


     * * * * * * * * * * * * *

薄暗い部屋。何処かの立派な会社のようなその場所は不気味さがある。そこに人影が現われる。


「助けてくださりありがとうございます。”佐々木竜之介様”」

「今頃息子は私の存在に気づいているだろう。今回も頼むよ。”田中千裕くん”」


ニコッと笑うその姿には不気味さが加わる。竜之介は千裕の肩に手を置く。そして耳元で、低い声で


「私の息子は殺すなと言ったはずだが?次勝手な真似をして見ろ、君の存在がこの世から消えるよ」

「申し訳ありません。どうしてそこまで大切にしているのに試すのですか?」

「大切?あの子は私にとって利用価値があるのだ。それを引き出して欲しいのだよ。引き出すのには絶望がいる。それを君に任せたのだ」


田中千裕は震える。こんな父親を持ちながらあんなに正義に溢れている子に育つなんて。

そして深々と田中千裕は、頭を下げた。


「場所はここでよろしいでしょうか」

「ああ、頑張ってくれよ」

「御意」


田中千裕はその部屋から出る。途端に足の力が抜けて立てなくなった。はあ、はあ。千裕は深呼吸をする。あそこは息をするだけで殺されそうな雰囲気が漂っていると怖くなった。

建物から出るとそこには大きな銭湯の円筒がある。千裕はそれを見上げ、次の準備に向かった。



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