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真冬の気持ち

 …………最近、大学を歩いていると妙に視線を感じる時がある。肌を焼くような、じっとりとした視線だ。


「蒼馬くん、どうしたの?」


 テーブルの向かいに座る真冬ちゃんが、B定食に箸を伸ばしながら不思議そうに俺を見つめてくる。


「…………いや、何でもないよ。ところでミスコンの準備はどう?」


 ラーメンを啜りながら聞いてみる。

 学祭はもう一週間後にまで迫っていた。ミスコンというと、ただ壇上に立って決めポーズの一つでもするだけだと思っていたんだが、どうやらそういうものでもないらしく色々とやらされるらしい。聞いたところによると、去年は特技の発表コーナーがあったとか。


 ミスコン参加者には既に今年何をやるかは通達されているものの、トップシークレットとのことで、真冬ちゃんが何をするのかは俺も知らなかった。


「いい感じだよ。ねえ蒼馬くん…………ミスコン、絶対観に来てね。壇上から見つけられるところにいて欲しいの」


 真冬ちゃんは不安そうに瞳を揺らし、俺に視線を合わせる。俺はその視線を受け止め、真っすぐ見つめ返した。


「約束するよ。絶対観に行くから。真冬ちゃんが出てきたら思いっきり手を振るよ」

「うん…………お願いね」


 真冬ちゃんは俺の言葉に安心したのか、小さく微笑んでB定に視線を戻した。俺もラーメンを啜る作業に戻る。


 ────その間もずっと、じっとりとした視線が俺に張り付いている。

 それも、あらゆる方向から。


「…………」


 ここ最近、俺が不特定多数の男たちから厳しい視線を向けられている理由は……間違いなく真冬ちゃんがミスコンに出る事と無関係ではないだろう。


 ミスコン参加をきっかけに、只でさえ高かった真冬ちゃんの知名度は一気に上昇した。構内の至る所にミスコン参加者の顔写真付きポスターが貼られているし、それがミスコンのサイトにも載っているせいで他の大学でもちょっとした噂になっているらしい。ミスコンのサイト巡りは男子大学生には当然のムーブだからな……とはケイスケ談。


 そんな訳で、今や真冬ちゃんは名実ともに大学のマドンナだった。。

 そしてそうなれば当然、真冬ちゃんの彼氏だと噂されている俺も、嫌でも知名度が上がっていく訳で。


「…………真冬ちゃんは凄いなあ」


 思わず、そんな呟きが口から出てしまう。


「いきなりどうしたの?」

「いやいや、真冬ちゃんは頑張ってるなあと思ってさ」

「…………? よく分からないけれど、結婚してくれるってこと?」

「どうしてそうなるのさ。外で変なこと言わないの」


 真冬ちゃんは、入学してからずっとこんな状態だったんだ。どこにいっても心が休まる場所なんてない。知らない奴に指を差され、噂されて。


「ふふ、冗談。ドキッとするかなと思って」


 それなのにこうして、平気な顔をしている。勿論、それは見かけだけなのかもしれないけど。

 思い出したようにラーメンを啜る。勿論、味なんて全然分からない。見られているというプレッシャーは、俺が思っていたよりずっと強かった。


「分かるよ。蒼馬くんが何を考えているのか」

「え?」


 丼から顔を上げると、真冬ちゃんが目尻を僅かに下げた柔和な表情で俺を見ていた。珍しい表情だ。


「別に……私だって平気な訳じゃないよ? 正直、大学に行くのが嫌だった時期もあった」

「…………そっか。そりゃそうだよね……こんなんじゃさ」


 ノイローゼになっても全くおかしくない。俺たちは別に芸能人でも何でもないんだ。見られることに全く慣れていない。


「でもね、ある日から全然気にならなくなったの。いつだか分かる?」


 俺は首を振った。見当がつかなかった。


「それはね────蒼馬くんと再会出来た日。蒼馬くんが一緒にいてくれるから、私は平気なんだ」


 そう言って、真冬ちゃんははっきりと笑った。真冬ちゃんには珍しい向日葵のような眩しい笑顔。


「ありがとう、私と一緒にいてくれて。蒼馬くんが思っているよりずっと、私は助かってるよ」


 真冬ちゃんは席を立つ。B定食は既に空になっていた。


「ミスコン、絶対観に来てね」


 そう言い残し、真冬ちゃんは去っていった。

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絶滅したはずの希少種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。

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