表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/102

祭りの朝

 それから一週間ほど経ち、ついに学祭&ライブの日がやってきた。ひよりんも真冬ちゃんも一緒に朝ご飯を食べたいと言うので、今日は朝から二人ともうちに集合している。一応静も誘ったんだが、寝ているのか既読すら付かなかった。あいつに七時は早すぎたか。


「いいなあ、私も真冬ちゃんのメイド服姿見たかったなあ」

「それなら今度写真を見せますね。どうせ沢山撮られると思いますから」

「やった。楽しみにしておくわね」

「多分、そんなに上等な物でもないと思いますが……それより、ひよりさんのライブの写真も見せて下さいね」

「了解よ。沢山撮ってくるわね」


 リビングでは真冬ちゃんとひよりんが楽しそうに話している。一緒にジョギングをするようになってから二人の仲は縮まったらしく、最近は蒼馬会でも話している所をよく見かける組み合わせだ。以前は俺と話すか静と喧嘩するかしかなかった真冬ちゃんも、もう完全に馴染んだと言っていいだろう。最早俺の方がひよりん相手に上手く話せないんじゃないだろうか。


「お待たせー。ベーコンエッグと味噌汁が来たぞー」

「わあ、相変わらず美味しそう!」

「いい匂い……」


 出来上がった料理をテーブルに運ぶと、二人とも嬉しい反応を返してくれる。

こういう小さな反応だけでも嬉しいんだよな。美味しいの一言だけで料理の疲れなんて吹き飛んでしまうんだ。


「いえいえ。それじゃ、ぱぱっと食べちゃいましょうか」


 各々白米をよそい、揃ったのを確認して俺たちは小さく手を合わせた。


「いただきます」


 目玉焼きに箸を差し入れると、中から濃厚なオレンジ色の黄身がじんわりと溢れてくる。黄身が垂れないように素早く白米の上に乗せ……一緒に口の中にかきこむ!


 ……うん、美味い。我ながら完璧な半熟具合だ。


 数か月も一緒にご飯を食べていると、各々の好き嫌いからちょっとしたこだわりまで分かるようになるもので、幸いにも蒼馬会には目玉焼き半熟派しかいなかった。

 正確にはひよりんはこだわりがない派で、真冬ちゃんはどちらかといえば半熟派、静はゴリゴリの半熟派だった。個別で作る手間がないので助かっている。


 自分の半熟スキルに感動していると、テーブルの上に置いてあったひよりんのスマホがメッセージを受信して明るくなった。画面の内容が目に入ってしまう。


『起きてるー? そろそろ起きないとヤバいよー』

「んもー、玲奈ちったら心配性なんだから」


 ひよりんは口の端を緩めながら、メッセージを返していく。


「玲奈ち……?」


 もしかして……ザニマスで同じユニットを組んでいる、声優の遠藤玲奈さんのことか……?


「ひよりさん、今のって……」


 声優のプライベートに首を突っ込むのは良くないと分かっていても、目の前で好きな声優の名前を出されては我慢できるはずもなかった。俺はひよりん推しだが、そのベースにあるのはザニマス愛。ザニマス声優は皆応援しているんだ。


「あ、うん。遠藤玲奈ちゃん。……あの子、私がお酒飲んで寝坊してるんじゃないかーって、イベントの時毎回ルイン送ってくるのよ? 全く、私は寝坊したことありませんよーだ」


 膨れながらも、ひよりんは嬉しそうにしていた。


 本当に仲がいいんだなあ…………あまりの尊さにキュン死するところだった。好きな声優たちがツブヤッキーで絡んでいるだけで尊いのに、それを目の前で繰り広げられては命がいくつあっても足りる気がしないぜ。


「……それにしても、ライブの日って朝早いんですね。開演って確か四時ですよね」


 さっきのメッセージには『そろそろ起きないとヤバい』と書いているように見えた。まだ七時だが、そんなに早く集合するんだろうか。


 俺の言葉に、ひよりんは自嘲するように小さく笑った。


「あはは、早いわよねえ……実はライブの日って朝からリハーサルがあるの。今日は九時には会場入りしないと怒られちゃうわ」

「そうだったんですね。めちゃくちゃ大変じゃないですか」


 そんなハードスケジュールだとは知らなかった。今回は一日開催だが、二日開催の二日目なんてめちゃくちゃ大変なんだろうな。前日思いっきり歌って踊って、夜遅くに帰ってきて、また次の日早起きしてあのパフォーマンス。声優は肉体労働だというのはあながち間違ってないのかもしれない。


「でも、やっぱりライブって最高に楽しいの。裏方さんなんて私達より早くから頑張ってくれているし、沢山のファンが私達に会いに来てくれる。それを想ったら、どんな疲れも吹き飛んじゃうんだ」


 黄金のような言葉に、俺は思わずひよりんの方へ視線を向けた。ひよりんはお茶碗を片手に持ちながらも、その表情はいつの間にかいつもの『お酒大好き 支倉ひより』ではなく『声優 八住ひより』に切り替わっていた。表情が少し変わっただけなのに、俺の心臓はドクンと大きく跳ねる。

いつもは手の届かない場所にいる『推し』が、目の前にいた。


「……なーんて、ちょっと語っちゃったかな?」

「い、いえ! 最高にかっこよかったです……!」


 胸がいっぱいになって、俺はそんなことしか言えなかった。

 やっぱり俺の方がひよりんと上手く話せない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作連載開始しました!

↓こちらをクリックすると新作に飛ぶことができます↓

絶滅したはずの希少種エルフが奴隷として売られていたので、娘にすることにした。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ