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エッセイ

源氏物語で語ってみる〜柏木・女三宮編〜

作者: 入江 涼子

 この回は源氏物語の柏木・女三宮達の事を中心に語りたいと思います。


 まず、柏木は主人公の光源氏の義理の甥ではとこくらいに当たる青年です。ちなみに最初の正妻であった葵の上の兄である頭中将の息子でもありました。

 女三宮は光源氏の異母兄の朱雀院の娘です。柏木からいうと母方のいとこが朱雀院になるので彼女とはとこくらいの関係とも言えますね。

 さて。そんな二人でしたが。柏木は父が宮腹――皇族の女性が実母である事を言う――である事からとてもプライドが高く結婚する相手にもそれ相応の身分や品格を求める青年でした。柏木は血筋や身分で最高級の女性――皇女を妻にと望むようになります。


 柏木のお眼鏡に適う女性として選ばれたのが女三宮でした。彼女は皇女であるし母親も同等の身分、血筋でありました。先帝の皇女で臣籍降下をして源氏の姓を賜ったという女性が朱雀院に入内して生まれたのが三宮です。宮の幼少時から柏木は近しく接する内に彼女を恋い慕うようになりました。


 そうして三宮が成人の儀式である裳着の式を間近に控えた年でした。宮の母である藤壺女御が不意の病で亡くなります。父の朱雀院は娘の宮が心配でなりません。柏木もこの機会を逃すまいと朱雀院に熱心にアピールします。叔母にも当たり朱雀院の寵姫である朧月夜に是非ともと頼み込む程でした。けれど朱雀院は悩みに悩んだ末に宮の叔父にも当たり自身の異母弟でもある光源氏に結局は彼女を託します。大いに柏木は落胆しました。


 数年後、光源氏の邸宅である六条院にて盛大に蹴鞠の宴が行われます。ちょうど春真っ盛りで桜が満開に咲く季節でした。柏木もいとこで親友である夕霧と共に参加しています。柏木は蹴鞠にしばらく興じていましたが。疲れたので休憩するために夕霧と二人でとある邸の一角に座ります。いわゆる(きざはし)という階段のような場所でしばらくは歓談していました。けれど不意に柏木はここが寝殿――つまりは三宮の住まいである事に気づきます。せめて三宮の気配なりと感じられないかと目を凝らしました。


 夕霧も三宮の住まいであるのには気づいていましたが。若い女房達が多く嗜みがないなと彼は内心で思います。ところが二人の目前でそれは起こりました。

 三宮は飼っている猫を自ら抱えて端近を歩いていましたが。いきなり猫が暴れ出したのです。猫は床に降り立つと柱に繋がれていた仔猫を追いかけ始めました。仔猫は怖がってしまい、慌てて柱に登って逃げようとします。けれどここで困った事態になりました。

 仔猫は首に紐を括りつけられた上で柱に繋がれていたのですが。その紐が御簾に引っかかってまくれ上がってしまいました。おかげで室内は丸見えです。夕霧はある一人の女性の姿を見つけました。周りの女房達とは違い、その女性は正装である唐衣や裳を着ていません。細長という若い女性のお出かけ用の着物姿ですぐにこの寝殿の主――女三宮本人だと気づきます。柏木もその光景をばっちり目撃していました。夕霧はさすがに「まずい」と思い、それとなく咳払いをします。すぐに気づいた宮はそっとその場を離れて奥に入っていきました。


 その後、仔猫の紐が解かれて御簾が再び直されます。騒ぎも収まりましたが。夕霧はほっとひとまずは安堵します。けれど親友の柏木の様子が変なのです。柏木はあれ程に恋い慕っていた女性の姿を見る事ができたのは神の思し召しだと浮かれていました。それに一抹の不安を覚えた夕霧でしたが。


 これから後に柏木は宮の乳姉妹に当たる小侍従の手引きにより三宮の寝所に忍び込みます。しばらくは薄氷を踏むような逢瀬が続きました。宮はその内、懐妊します。それを光源氏はある時に聞いて驚きましたが。とりあえずはと三宮の元を訪れます。一晩、宮に頼まれて泊まりました。もちろん、柏木は気が気ではありません。ところが宮はあるミスをおかしてしまっていました。


 何と、柏木から送られた文を扱いかねて御座(おまし)(現代でいう座る時に使った敷物。座布団に近い)の下にとっさに隠していたのです。翌朝、小侍従が大慌てで宮を起こしに来ました。実は光源氏が扇子が無い事に気がついて辺りを探し回っていたのですが。偶然にも御座の下の膨らみに気がつきます。めくり上げて手に取ってみるとそれは文でした。内容を確認したらどうやら男性からの文だと光源氏はわかってしまいます。仕方ないと文を懐に入れて光源氏は寝殿を出ました。


 宮は小侍従に文がない事を知らされて茫然自失になります。

 光源氏は自室に戻ると何度も男性からの文を読み返していました。何度も読んであの柏木からのものだとわかると怒りが沸き上がります。よくもまあ、真面目で通っていた青年に騙されていたものよと光源氏は思いました。そして正妻として大事に扱っていた三宮にも裏切られた事に煮え湯を飲まされた心地です。

 どうしてくれたものかと彼は一人で考え込むのでした。


 柏木は小侍従からの文で自分が三宮と不義密通を犯した事が光源氏に知られてしまった事に慄きます。六条院での一件もありこれによって彼は不意の病で寝込んでしまいました。両親や周囲は大慌てで祈祷僧や陰陽師などを呼び、柏木の病気平癒に奔走します。けれど彼の病状は一進一退で気を緩められない日々が続きました。


 新年が明け、しばらくして懐妊していた三宮は産気づきます。あまりの苦しみに宮は「どうして自分ばかりこんな目に」と思いました。けれど彼女もこの時にはわかっていたのです。光源氏が本当は誰を愛しているのかを。自身は何もわかっていなかった。柏木が現れるまでは。

 彼が愛し愛されるとはどういう事かを彼女に教えてくれたのでした。


 陣痛に一晩中、宮は耐えます。そうしてやっと明け方になって御子が誕生しました。生まれたのは男の子です。彼こそが後の宇治十帖の主人公になる薫でした。

 周囲は難産の末に生まれた若君に喜びもひとしおです。けれど真相を知る光源氏は複雑な気持ちでした。彼は薫を腕に抱きますが。それでも苦悩は尽きません。早々と薫を乳母に返すと光源氏は去ってしまいました。


 薫が生まれてからしばらくして朱雀院が山を降りて六条院を訪問します。娘の三宮が体調が優れないと聞いてお見舞いに駆けつけたのでした。朱雀院は宮に優しく話しかけます。そしたらいきなり宮は「お父様の手で私の髪を切ってください」と告げました。朱雀院は最初はためらいましたが。娘の涙ながらの懇願により承諾します。こうして三宮は落飾して出家したのでした。


 柏木は三宮が出家した事を伝え聞きます。あまりのショックに彼は瀕死の状態になってしまいました。虫の息の中、夕霧が見舞いに来ます。柏木はこの時に妻になっていた三宮の異母姉のニ宮の事を夕霧に託しましたが。最期に三宮の事を仄めかして亡くなります。不審に思った夕霧でしたが。葬儀の中で柏木が宮と不義を犯した事に気づくと嘆き悲しむのでした。


 薫が柏木の息子だと夕霧は後に知ります。二宮経由でもらった横笛は夕霧から光源氏に渡り、薫に手渡されました。ちなみに柏木の形見でもあったのですが。

 薫は成人してから柏木の事を知ります。大いに衝撃を受けた彼も悲恋を味わう事になりました。


 いかがだったでしょうか。語ると言っても不備な点も多くあったかもしれません。それでも源氏物語の魅力の一端をお伝えできていたら良いのですが。ではご静聴ありがとうございました。

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