第七話 2人目の異世界転生者
「あっ……ちぃ……」
ジリジリと太陽が身を焦がす。
辺り一面砂漠で、ここ数日ちゃんと前に進めているのか、不安になる。
ゾンマー地方がこんなにも暑いとは。油断していた。
「くそ、あっっっついわー!」
「もー、ロッカクうるさい! 余計に暑くなる!」
リビアに脇腹をパンチされる。
しかしパンチした箇所が熱吸収された学ランのため、燃えるように熱い。
「はぎゃー!」
「リビアも大概うるさいじゃないか」
歩けど歩けど景色が変わらない。時折り気休め程度に岩が点々としてあるが、逆に言うとそれ以外に前に進んでいるという保証がない。
あの岩も実は幻覚だったりするんじゃ……。
脳みそまで蕩けそうな暑さだ。そうであってもおかしくない。
ふとリビアを見ると、スキル《アイス》を首筋に当てていた。
「あ! リビアずるいぞ!」
「へへーんだ! じゃあロッカクもすればいいじゃん!」
「ぐぬぬ」
したくてもできないんだよなあ。
どうやら、僕のスキル《勇者物語》は魔神軍との戦いでしか効果がないようだ。
しかも使えるのはほぼ戦闘スキルだけ。それに、自身が魔神軍ではないため自己回復や自己強化も行えない。
悲しい。
意外に使い勝手悪いじゃないか。
「あ! 見えてきたよ!」
リビアが指を差す先には、街の風景らしき輪郭が見えてきた。
「とりあえずあそこで休憩しよう。どのみち結界師の居場所も分からないし、情報収集しなきゃ」
僕の体力の限界が近い。
まずは休まなければ。
「とーちゃく!」
リビアは両脚でジャンプして町へと入る。
スキルのおかげで僕よりも断然元気だ。
見渡すと、行き交う人たちは白いゆったりとしたローブを身に纏い、暑さ対策をしている。
土やレンガで建てられた建物が立ち並んでおり、生活レベルはそこまで低くは無さそうだ。
宿屋を目指して歩いていると、町の中央部の開けた場所に出た。
「あれあれ、ロッカク! なんだか人だかりができてるよ」
体力に余裕のあるリビアが先行して人だかりを発見する。
その中央にいる人物は――。
「黒髪の……男の人?」
ゴーズ国王は言っていた。黒髪はこの世界にはいないと。つまりあの黒髪の男の人は、転生者……!?
「ちょ、ちょっとすみません!」
人だかりを割って入っていき、その人物を目の当たりにする。
「なんだ? いきなり」
黒髪短髪で、深緑のツナギを着ていた男の人は、タバコをふかしながら僕をジロリと見る。
僕より少し歳上……20歳程だろうか。
「……!」
僕の姿を確認した男の人は、誰が見ても分かるほどの怒気を露わに僕を睨めつける。
「ちょっとお兄ちゃん、割り込まないでよ! 今度は僕が遊んでもらうんだから!」
後ろにいた少年に怒鳴られる。よく見たら人だかりは子供だらけだ。この男の人は町の子供たちと遊んでいたみたいだ。
「……ってあれ? まっくろい服……。もしかして勇者様?」
こくり、と頷く。
「わー! 勇者様だー!」
今度は僕の周りに子供たちが集まる。
「ちょっと! あたしが潰されちゃうでしょ!」
大して身長に差がないリビアは子供たちの波に押し潰されていた。
揉みくちゃにされている間に、黒髪の男の人が背を向ける。
「ヤマト兄ちゃん! せっかく勇者様が来たのに帰るの?」
少年たちは頭上にはてなマークを出しながらヤマトと呼ばれる男の人に声をかける。
僕も聞きたいことがあるから、できれば留まっていて欲しいのだが……。
「今日は終いだ。後はそこの勇者様に遊んでもらいな」
不機嫌な様子を隠すことなくタバコをポイ捨てして去っていった。
「なーんだか感じ悪い人だね」
「うん……」
恐らく同じ転生者。
なぜだか、嫌われているようだ。
「彼も勇者様だったからですよ」
子供の父親だろうか。
無精髭の生えた男が近づいてきた。少年からパパと呼ばれていた。
「えっと……どういうことですか?」
「あの人は大和大和さんといって、勇者様が転生される前の転生者……今回の魔神軍復活の際、初めて転生された人なんです」
そういえば、1つ気掛かりなことがあった。
クラリス姫の発言だ。
―― まったく……今回はちゃんとした人なのでしょうね
今回は?
そういうことだったのか。
「けど、それならなんで僕も転生しているのでしょう……」
「彼から聞いた話ですけど、なんでも勇者として必要なスキルではなかったから王国から叩き出された、と言っていました。だからこそ勇者のスキルを持つあなたのことをよく思わないかもしれません。私としては町をよくしてくれる大和さんも、世界を救ってくれる勇者様もどちらも大事ですよ。何より大和さんは、この町をここまで発展してくれましたし」
叩き出すって……。
それじゃあ捻くれてしまうのも無理はない。
それでここまで流れ着いたのか。
「ロッカク、助けようとしてるでしょ」
僕の袖を引っ張って抗議の目を向けるリビア。
「なんで分かったの」
「そういう顔してたから。けど今回ばかりは何にもしないことが正解だよ。ロッカクが行ったら嫌味にしかならないよ」
まあ確かに。
いい仲間に巡り会えたと思ったけど、彼に対して僕ができることはない。
結界師を倒すことが彼のためにもなるだろう。
「そう……だね。うん。結界師を倒そう……」
「そうそう! 気張っていこー!」
何か腑に落ちないけど、切り替えていこう。
「1つ質問なのですが、最近この辺で塔ができたりとか、暗雲が立ち込める場所ができたりとか、そういったことはないですか?」
少年の父親に問いかける。
「塔……ですか。うーん、特に思い当たるものはないですね……」
父親は首を捻り回答を絞り出してはいるが、思いつかないようだ。
それなら町中で聞き込みをしていくしかないか。
「町で1番の情報を知ってる人ってなると、やはり大和さんになってしまうんですよね……」
神妙な面持ちで語る父親。
そこには、なるべく勇者を近づけたくないという意思を感じる。
「分かりました、ありがとうございます」
大和さんは僕に会いたくないと思うけど、魔神を倒すためにほんの少しだけ助力願おう。
僕は大和さんがいるという宿屋を目指して広場から去ることにした。




