第六話 荒れ果てた町
「こりゃあ一体全体どういうことだろう」
「どういうこと……なの?」
僕とリビアはお互いに顔を見合わせて話す。
目の前に見える町は荒廃もいいとこだ。
フリューリンクとゾンマーのちょうど間の町。少し蒸し暑くなっているこの土地は町というよりは廃墟が立ち並ぶ土地としかいえなかった。
「おお、勇者様」
廃墟の影から、白髪の老婆が姿を現す。
見るからに痩せかけていて、その様相は骸骨に近かった。
「あの……これは一体?」
僕は慎重に声をかける。
声をかけられるだけで倒れそうだ。
「いやはや、これはお恥ずかしいところをお見せしてしまいましたな。私は町長のソーンと申します。大したおもてなしもできませんが、是非私の家まで来てください」
そう言ってソーン町長は踵を返して、ついてきなさいという背で歩いていく。
「ロッカク……大丈夫かな?」
「分からないけど、騙してる雰囲気もしないし、行くだけ行ってみよう」
リビアと共にソーン町長についていく。
「リビアは多分この辺の土地の出だと思うけど、この町がこんな荒れ果ててるって知らなかったの?」
「むぅ……あんまり覚えてない」
「自分の家も分からないところから、記憶喪失なのかな?」
「そんなことないもん! だってスキルはちゃんと覚えてるし!」
飛び跳ねながら抗議するリビア。白いワンピースがフワフワ動く。
そういえば一応変なステッキでスキルを発動してたな。弱っちいけど。
「それよりもロッカクはもう怒ってない?」
「え? 僕?」
「さっき凄い怒ってたから」
拳を見る。
ラーヴァの乾いた血がこべりついている。
「もう平気だよ」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
誰かを助けられないとき、僕は1番辛い。
いつかのように、ただ見ているなんてことは許されない。
助ける。それが僕の誓いだから。
「ここが私の家です」
ソーン町長に示された場所は、やはり廃墟のようなオンボロ一軒家であった。
「お、お邪魔します」
僕たちは挨拶をして家に入る。
「すみませんねぇ。今はこんなものしかなくて」
テーブルの上に、ご飯と焼いた豚肉、サラダが置かれていた。
「どうぞ、食べていってください」
怪しい雰囲気はない。
むしろ――。
「ソーン町長は何をいつも食べているんですか?」
「え……どういう……」
「なんだか無理してご馳走を用意してもらっちゃってるみたいで」
「…………」
ソーン町長は押し黙ってしまった。
部屋も雨風を凌ぐのもやっとの木造建築で、ここに至る道中の人たちも皆ボロ雑巾のような服を着ていた。
城下町や、初めて行った村とは全然違う。
どういうことなんだ?
「カイザニス王国からの支援はないんですか? 見たところ、オートマティックスキルマシンからの供給も途絶えているようですけど」
「……実は、ほとんどないのです。いやはや、なんともお見苦しい姿を勇者様に見せてしまいました」
ソーン町長は、朗らかな笑みを見せる。
なんという格差。
地球でもこういうことはきっと起きているはずだが、目の当たりにするとこうも嗚咽が漏れそうになる程悲しいものなのか。
「リビア」
「もちろん、ロッカクが何しようとするか分かるよ。だってお人好しだもん」
「ありがとう」
僕はリビアの頭に手を置く。
「ちょっと! 子供扱いしないでよ!」
キーキー吠えるリビアを他所にソーン町長に話しかける。
「僕がなんとかしますよ!」
ビシッとサムズアップを決めて、行動を開始した。
◇
「とは言ったものの、何からすればいいか……」
荒れ果てた土地を見渡しながら、顎に手を当てて思案する。
「ライフラインの確立と、食料の調達、あとは建物もできればなんとかしてあげたいけど……すぐには無理ね」
ちっこい体で頭を捻るリビア。ちゃんと考えられるなんて偉いぞ。
「ロッカク、今ものすごい失礼なこと考えてなかった?」
「いやいや、別に」
目線でバレてしまった。
僕は一人っ子だけど、妹がいたらこんな感じなんだろうな。
「なにはともあれ、やっぱり火かな。皆が自由に使える火があれば、スキル保有者に頼る必要もないし、夜も明るい。それに野獣からの自衛手段にもなる」
そう考えてみたものの、今の僕はスキルを1つたりとも使えない。
かといってリビアが半永久的に使えるような火のスキルを持ち合わせていない。
「ゴーズ国王に打診するのが1番早いか……」
しかし、通信する手段がない。
一旦戻るにしては時間がかかりすぎる。
「ロッカク」
「どうしたリビア」
「多分今のこの状況だと、ずーっと使える資源の提供は難しいと思う。ロッカクが王様とお話しできる手段があるなら、今は現状を乗り切れるようなことをするしかないと思うよ」
「あんまり取りたくない手段だけど、そうするしかないか……」
何分今の僕たちにできることが少なすぎる。
悲しいくらいに。
それに不可解な点がある。
カイザニス王国から少し外れただけでこんなにも暮らしが不自由になるなんておかしい。
いつかはゴーズ国王にコンタクトを取らなければならないだろう。
「ならイノシシ狩りだな」
「任せて任せて! いきなり来ない限りは私のスキルでイチコロなんだから!」
戦闘はリビアに任せるしかない。
「僕はその近場で川とかないか探してみるよ。水も汲めるだけ汲んでしばらくは汲みに行かなくてもいいようにしたいし」
ソーン町長に水汲み場を聞いて、僕たちは食料と水を確保した。
◇
「これは……」
目の前に広げられたイノシシやバケツ一杯の水を見て、ソーン町長に目の輝きが戻りつつある。
「すみません、本当はずっと困らないようにしたかったんですけど、今はこの一時凌ぎで勘弁してください……」
「けどけど、イノシシは山ほど倒したし、干物にすれば結構日持ちもすると思うから、街の人たちもしばらくは大丈夫だと思うよ!」
リビアにも本当に頑張ってもらった。
戦闘は苦手だろうに、スキルを駆使して何匹もイノシシを狩った。
ソーン町長の頬に涙が伝う。
「本当に、本当にありがとうございます。もうなんとお礼を申し上げればいいのか分かりません」
「お、大袈裟ですよ!」
「あなたたちなら、本当に世界を救ってくれるかもしれません」
「それはもちろん、魔神を倒すために来ましたから……」
「そうではありません、真の意味で……です」
「真の意味……?」
「私からあまり大っぴらには言えませぬゆえ、ご容赦ください。ゾンマーにはまた結界師が幅を利かせております。とても暑い地域ですので、お気をつけてください」
「は、はあ」
真の意味……?
魔神を倒す以外に世界を救う……?
それはまるで、もとから世界が壊れていたような言い草だ。
「それじゃあ行ってきます、ソーン町長。どうかご無理なさらず」
「行ってくるよー!」
僕とリビアはソーン町長に挨拶をして、ゾンマー地方に足を踏み入れた。




