最終話 人々が守りし世界
「えー、それではこれより、戴冠式を行います」
待て待て待て待て待て!
一体全体どうしてこうなった!
僕の隣には王女として翠さんが大胆不敵に立っている。
思い返そう。
確か一年前――カオスを倒し、見えざる神話が解体した後、ゴーズ王とイッキーは行方をくらまし、僕は仲間の救助にあたった。
幸いにも大和さんが目を覚ましたお陰で、全員無事生きて帰ることができた。
「何もかもが、終わったんだな」
大和さんはボソリと呟いた。
「終わりました。そしてこれからが、この世界の始まりです」
「以前の勇者よりも格段に強くて助かったぞ。まさか完全生命体まで出てくるとは誤算だったな」
リビアも憑き物がとれたかのように笑顔だ。
そうだよな、リビアからすれば500年前にも同じ体験をしているんだ。
あれ、ていうことは実はリビアは500歳以上ってことか?
今更ながら驚きを禁じ得ない。
彩葉さんとレイザーさんは大地に寝そべって空を見上げていた。
見えざる神話がいなくなった空は暗雲が消え去り澄んだ青い空がどこまでも続いていた。
一旦は5人で王国へと帰り、クラリス姫に状況を説明した。
「そう……ですか……お父様は行方不明に」
「けど、いつかはきっと戻られると思いますよ」
曲がりなりにも姫として生きてきたクラリス姫は不安を押し殺して僕の説明を聞いていた。
「勇者様御一行には大変感謝しています。今は王国がボロボロの状態で復興活動しかできませんが、必ずお礼いたします」
「呼ばれた使命を果たしただけですよ。それに、僕はこういうことをするために生まれてきたといっても過言じゃないですから」
「初めて見たときから思ってましたけど、随分と変わった方なのですね」
僕の返しが面白かったのか、クスリとクラリス姫は笑った。
やっぱり笑顔が1番だなあ。
「それと……お父様を殺さないでくれて、ありがとうございます」
深々とお辞儀をするクラリス姫。
確かに約束は守った。けれど――
「今、ゴーズ王は死ぬよりも厳しい状況に立たされていると思いますよ。これまでの生き方を丸々全部変えて、考えていかなければならないんですから。きっと殺されたほうがマシだと、思っているかもしれません」
「それでもです。お父様が、よりよいお父様になってくれるキッカケを与えてくれたのですから……。それにそれだけのことをしでかしたのです。誰であれ贖罪はしなければなりません」
カイザニス王国の姫として、キッチリと線引きをしていくみたいだ。
――そう、こうして僕は王国の復興を手伝っていた。落ち着いたところで他の仲間たちはそれぞれ地元へと帰って行った。
それから月日が経ち今日で丁度1年。
そういえば、クラリス姫がお礼をすると言って僕を玉座に座らせたんだ。
「僕が国王!?」
「なにを驚いているんだロッカ君……いや、六角王」
「なんでノリノリなんですか翠さん」
「適材適所だろう。翠にはこの国の王女が合っていて、ロッカ君には王様がお似合いだ」
「クラリス姫がいるのに!?」
姫さま差し置いて上に立つなんて……。
「私からお願いしました。これからは私たちの一族ではなく、転生した方にお願いしようと。王国内満場一致ですよ」
「そんなバカな……」
血の気が引いていく。
僕にお似合いって……そんな話があるのか?
「君の野望のためには大事なことだと思うぞ」
「翠さん……」
みんなを笑顔に、幸せにする。
確かに、僕の想いは国のトップに立つことで成り立つ。
「じゃあ……お受けします」
「それでこそロッカ君だ!」
なし崩し的に式が進められて、僕はカイザニス王国の国王となった。
隣に翠さんがいてくれる事はとても心強いけど。
「まずは……挨拶回りに行きたいな」
散り散りになっていった僕の仲間たちや、各村や町の様子を再度見ていきたい。
問題は山積みだから。
翠さんと共にパラストブルク行脚に赴くことにした。
◇
まずはフリューリンクの村。
村長さんたちが出迎えてくれた。
そういえばこの村で見えざる神話に襲われたっけな。
大して強くなかったけど。
僕の戴冠を喜んで泣く村長さん。
感慨深いものがあるなあ。
◇
次はソーン町長さんがいた町に行った。
ライフラインについての見直しがこの1年間でされており、水や電気、食料が潤沢になっていた。
痩せ細っていたソーン町長も、今ではすっかり元気だ。
初めて行ったときになにもあげられなかったということで、ご馳走をいただいてしまった。
◇
ゾンマーの街。
相変わらず暑い。
街の広場に行くと、人だかりができていた。
「デジャヴかな?」
「ふーん、ロッカ君はここで彼と出会ったんだね」
人混みをかき分けて中央まで行くと、男女2人で子供と遊んでいた。
「よぉ、王様。久々だな。奥さんと一緒に来たのか」
大和さん。
全然変わってない。
初めて会ったときと同じ、子供たちに慕われていた。
「お久しぶりです……ってリビア!?」
金髪ロングで白いワンピースを着たリビアは、大和さんと同じく子供たちに囲まれて遊んでいる。
「おお! 勇者じゃないか。久しぶりだな」
「大和さんと一緒にいたんですね」
「そりゃあそうだろう。私たち近々結婚するからな」
な、なんだとぉ!?
あの大和さんと、あのリビアが?
考えてみればいつも2人セットだったような気がするけど、あまりの進展具合に脳が追いつかない。
「なんでそんなに驚く。大和のタバコをやめさせたんだから、拍手喝采して欲しいものだ」
「生前から持ってきたタバコが尽きたからやめざる負えないだけだバカタレ」
激しい火花が大和さんとリビアの間で散っている。
仲良きことはいいことかな。
◇
武の街シュラハト。
変わらずこの街は会う人会う人武人だらけだ。
シュラハトガーディアンの道場の入り口まで近づくと、上から気配を感じた。
――殺気、とは違うが、明らかな攻撃の意思。
眼前に刀が迫る。
人差し指と中指で挟んで受け止める。
「不意打ちも効果が無いなんて、やっぱり王様はちげぇや」
彩葉さんは刀を納めて話した。
「不意打ちする意味が分からないんですけど……」
「体がなまってないか確かめたんだよ。その調子なら大丈夫そうだな」
「そりゃどうも……ッ!」
僕の隣で怒りの炎を感じる――!
「彩葉。翠の夫に手を出すとは何事だ?」
「わ、わりぃって」
翠さんの怒りは頂点に達しているようだ。
どうなだめようかと考えていたが、心配はいらなかった。
「あれ? シヴァイザ?」
道場の扉が開かれて、レイザーさんとシヴァイザが姿を現した。
「久しぶりだな! 蔵王! えーと、翠……だったかな?」
「そうか……今はもうヴィーシュじゃないんだね」
シヴァイザはレイザーさんと共にまたシュラハトを盛り上げているみたいだ。
もう殺生はしないと誓っているらしい。
「ここはいつみても盛り上がってますね」
「おうよ! また武闘会に参加するか?」
「レイザーとやら、言葉が過ぎるぞ……!」
翠さん。まともに会話させてくれ。
◇
一月かけてパラストブルク全土を周り王国へ帰還した。
唯一の心残りはイッキーとゴーズ王に会えなかったことだけど……きっとどこかで人を知るために歩いているんだろうな。
「ロッカ君」
夜の噴水の縁で空を見ていた僕に、翠さんが話しかけてきた。
最初の立ち合いを行った場所。
感慨深い所だ。
「どうした? 悩み事か? みんな元気に過ごしてたじゃないか」
「そういうわけじゃないですけど……」
ちょこんと僕の隣に腰を下ろす翠さん。
夜風にポニーテールが揺れる。
「これからのことが不安かい?」
流石翠さん。
僕の気持ちを的確に抜き取っていく。
「確かにみんな笑顔でした。けどそれを維持できるかは、僕の手腕にかかっているんです。それが怖くて……」
翠さんはそっと僕の手に手を重ね合わせた。
「ロッカ君がロッカ君のままであれば、なんの問題もないよ」
「そうかなあ」
翠さんの励ましは素直にありがたいけど、統治していく技術なんて持ち合わせていないし、不平不満が出てくるかもしれない。
「まったく……。ロッカ君、おまじないをかけてあげよう」
なんですか? と口にするより早く、僕の唇が翠さんの唇によって塞がれた。
とろけるように甘く、柔らかい感触。
上唇を翠さんの唇で挟まれる。
どれほど時間が経っただろうか。
顔が離れて、見つめ合う。
「翠が側にいるんだから、1人で悩まないで、2人で考えていこうよ」
君は、世界を救ったんだから。
そう付け足した翠さんは顔を赤くして立ち上がった。
「ありがとう、翠さん。僕……頑張るよ」
「翠のファーストキスを奪ったんだ。ちゃんと頑張ってよ」
これからの世界がどうなっていくかは僕次第だけど、僕が、僕の仲間が、人々が守ってきた世界を、僕はよりよくしていこうと、心の中で誓った。
いつか僕の称号、2代目守護人がなくなる日がくるように――
〜Fin〜
道化王NOZAだぁ。
ついに完結まで辿り着きました!
苦楽あり、悩みに悩んでここに行きつけたことを読者の方々に感謝しています。
描いた仲間たちにも、色々な思いはあれど、楽しかったです。(こうしたかった、ああしたかったということはいくつもありましたけど、最善の選択肢をとっていきました)
これからもWeb小説や公募に力を入れていこうと思います。
最後に、読んでいただいた皆様に圧倒的感謝しています。
ありがとうございました!
またよろしくお願いします!




