第五十一話 全ての意思を1つに
「懸隔!!!」
指先から放っていた前までとは違い、全身から魔力を放出している。
魔力は巨大な球体へと姿を変えていく。
想像を現実に変える力。
世界の破滅を願うカオスにとってこれ以上ないスキル。
まともに喰らってしまえば、その対象はカオスの意のままだ。
「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
球体の魔力は僕の目の前全てを覆い尽くすように飛来する。
横からは僕の隙を突くようにイッキーが脚に力を込めて飛び込む体勢をとっている。
僕史上最大の膂力。
とはいえ、恐らくイッキーは完全生命体になりきれていない。
姿形や思考能力が不完全過ぎる。
もし完璧に創られていたら、苦戦を強いられていたかもしれない。
「バッ………………ビューーーーーン!!!」
大地を陥没させて体ごと僕に突進してくる。
左にイッキー、正面には魔力の球体。
どちらも僕の障害にはなり得ない。
「真・絶観忘守!」
掌で球体に触れる。
僕の支配下では、どんなモノでも僕に逆らうことはできない。
カオスが放った渾身の一撃は、一瞬にして塵と化した。
「ウオォォォォォォォォ!」
事前に魔力の球体を破壊されることが分かっていたのか、裏に潜んで近づいてきていた。
「やるねカオス! これなら避けられまい!」
期せずして2人の連携攻撃となる。
やれやれ、避ける必要すらないというのに……!
僕の力は文字通り世界の人々の意思力だ。
ミドルキックを繰り出すカオス。
僕の手前で蹴りは止まり、カウンターで右ストレートを決める。
スキルによる防御も回避も不可能。
僕が支配している空間だ。必ず当たって必ず致命傷となる。
「ガッ……ハッ……」
悶絶しているカオスを横目に、体当たりしてくるイッキーを前蹴りで仕留める。
「くぅ……!」
イッキーは崩れる。
これにて決着だ。
静かな風の音だけが耳に入る。
倒れた2人。
それを呆然と見るゴーズ王。
と――
カオスが砂のようにサラサラと消えかけていく。
「な……! カオス!」
僕はカオスのそばに寄る。
殺していないはずなのにどうして消えていく!?
「そりゃあ……そうだろう。お前の……この世界の意思の強さがオレの負のエネルギーを超えたんだ。オレの居場所はもうねぇんだよ」
掠れた声でカオスは呟いた。
僕は空間支配でカオスを僕の支配下に置く。
だが止まらない。
カオスの体の半分以上が砂になっていく。
「なんで!」
「頭の悪い奴だな。そもそもオレはこの世界に存在していないんだよ。ないものはない。支配するものがないんだからな」
諦めたようにカオスは話す。
「オレの負けだよ。だがな……覚えておけ。この世界が再び腐ったとき、オレは蘇る……クックックッ…………ハーッハッハッハッハッハ!!!」
最後の力を振り絞り高笑いを残したカオスは風に巻かれて消えていった。
「これが……最善……だったのか?」
これしかなかったのか。
カオスの言う通りなら、この戦い、生き残るのは僕かカオスか二者択一。ハナから選択肢なんてなかった。
「納得……できるもんか……ッ!」
それなら、もう1人は必ず救わなければ。
「うう……ぼくちんは……」
お腹をさすりながらイッキーは立ち上がる。
「イッキー、君は戦うことしか知らないって言っていたけど、これからそれ以外のことを知っていけばいい」
「でも……ぼくちんはゴーズからしか世の中のことを教えてもらってないよ……それ以外はなにも耳に入れちゃいけないって……」
「もう縛られる必要はないんだ。ゆっくりでいい。僕と一緒に世界を見て回ろう」
「勇者……」
ヨタヨタとイッキーは僕に向かって歩く。
合わせて僕もイッキーに向かっていき、抱きしめる。
「望まないことはもうしなくていいんだよ」
「う…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
完全生命体から涙が溢れた。
ダムが決壊したかのように。
完全生命体から、人間へと変わった瞬間だった。




