第五十話 善なる善と善なる悪
繰り出した右ストレート。
高速――?
音速――?
いや、光速をも超える拳。
カオスの反応も追いつかずに顔面を直撃する。
「グァッ!」
たまらず吹き飛ばされるカオス。
後ろに気配を感じる。
イッキーの延髄蹴りが迫る。
体を屈めて躱しつつ、蹴り上げる。
イッキーの類稀なる膂力によって芯を外されたが、肩口にヒットし空中へ飛ばす。
「わーお! 急につよくなったね! ぼくちんの理解が追いつかないよ!」
自在に空中を飛べるイッキーにとって空中の不利はない。
「懸隔」
体勢を立て直したカオスのスキルが発動する。
だが、僕には効かない。
迫り来る魔力は僕の手前で雲散する。
「なるほど、お前のスキルは想像を現実とする能力か。だけど、今の僕にはどんな攻撃も無意味だ」
「なに?」
「僕の空間支配の力を最大限凝縮して、僕の身の回りだけに留めた。結果、僕から半径1mは完全に僕の世界だ」
瞬間移動でカオスの眼前に迫る。
「つまりこんな風に瞬間移動も可能ってわけさ。擬似的だけどね」
「ッ!」
真っ白な肌が赤みを帯びてきている。
それほどまでに驚きを隠せないということか。
まあ、僕の瞬間移動は、半径1mを光速で移動し続けているという、タネも仕掛けもない、しょうもない技術だ。
本物の瞬間移動にはやや劣るだろうが……。
「ぼくちんを無視するなー!」
飛ぶように近づいてくるイッキー。
だが、その勢いも僕の目の前で静止する。
「ぐぎぎぎぎぎぎぎ! なーんで動けないんだー!」
「僕の周りは全て完全に僕の支配下だからだよ。イッキー風に言うなら、なーんにもできないってことだ」
「くっそー!」
イッキーはジタバタともがいているが、僕がよしとしない限り、1m圏内に入ることはできない。
「お前たちが悪いんだぞ……。僕の仲間を、世界を傷つけて壊していくお前たちが……!」
カオスの首を掴む。
動こうとする意思を感じるが、現実になることはない。
絶対は僕なのだから。
「どうして争う! どうして戦う! みんなが手を取り合って、人間のため、世界のために生きていけば、誰も傷つかない世界になるのに……!」
「……人間が人間である限り、そんな世界は訪れない。今ここでオレが死んだとしても、負のエネルギーが集まれば、幾度となく復活する」
「いつか必ず、そんな世界を作る。そしてその世界にはカオス、お前も必要だ。僕は誰も排除しない。みんなが明るく笑えれば、僕の役目は終わるから」
守護人としての役目。
翠さんが心に秘めていた目標。
守護人は、その名が消えて初めて役目を終える。
「ぼくちんは戦うことしか教えられてない。ぼくちんは……ぼくちんは……戦うことしか知らないんだー!」
完全生命体とは名ばかりの、なんてことはないただの人工生命体。
彼女もまた、救うべき対象なんだ。
「勇者よ。お前がやろうとしていることはな、お前が理想としている人間以外全てを殺すことに他ならない。お前はただ現実が見えていない、そこのガキと同じだ」
分かっている。
世迷言だと。
夢物語だと。
それでも。
それでも。
それでも――!
「僕の信じた信念はは間違ってなどいないのだから!」
カオスを放り投げてイッキーに当てる。
2人揃って倒れ込む。
「ク……ククク……! なら、力で示してみろ……! オレたちにはもはやそれしかないだろう!」
カオスのオーラが増大していく。
それに呼応するように、イッキーの圧も増していく。
「ぼくちんは……ぼくちんはぁぁぁぁぁぁぁ!」
僕は気を尖らせる。
みんなの意思を集約して手に入れた力。
その全てをぶつけて、終わらせる。
「最後だ……次で決める……!」




