第五話 第1の結界師
目の前にそびえ立つ塔。
この周辺だけ雨風が吹き荒れる。
木々が雨を弾き、マシンガンのような音を出す。
「なんなのこの雨は!」
《バリア》を自分の頭上に張って悪態をつくリビア。
「まるで僕たちが来ることを拒んでいるみたいだね」
僕だけが雨に打たれ続ける。
僕にも《バリア》を張って欲しい。
「けど、門番みたいなのはいないみたいね」
「そうみたいだね。ま、正面から堂々と入るかな」
塔の入り口は1つの大きな扉以外はない。
本当は直接結界師の元に行きたかったけど、下から順々に登っていくしかないようだ。
ギィと古びた音を立てて扉が開く。
「ヒャッハー!!!」
開けた瞬間、斧が飛んでくる。
リビアを背に斧を手で払う。
「随分な挨拶だな。一応こっちは正面から来てるんだけどな……」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! あいつらこの階だけで50体はいるんだよ!」
目の前に広がる大広間にはゴブリンが50体程がゾロゾロと出迎えてくれた。
皆一様に舌なめずりをして、こちらを見ている。
なんだってそんなに余裕ぶっているのか。
圧倒的な戦力差があるのに。
「泡沫精霊」
ゴブリンたちに向けて手をかざす。
五指から無限とも言えるほどの水の塊を目にも写らないスピードで放つ。
一撃一撃が必倒レベル。
放たれる弾丸はゴブリンの頭を正確に撃ち抜いていく。
「ヒ!」
恐れ慄き左手にある階段から逃げようとするが、逃すわけがない。
あえなく撃ち抜かれて、ゴブリンたちは全滅した。
やれやれ、この分なら結界師も余裕そうだな。
「す、凄い……」
リビアは憧憬の眼差しを僕に向ける。
ツンデレが過ぎるが、素直なときのリビアは、少しだけ可愛く見える。
けどあんまり感情移入しちゃいけない。
護るべき対象にそういう思いを抱いてはいけないんだ。
皆平等に、護る。
「ほらほら、目をパチパチさせてないで行くよ」
「ハッ! こ、こんなのあたしにだってできるんだからね!」
「はいはい」
リビアを軽くあしらい、階段を登り最上階を目指した。
◇
塔は5階建てだったみたいだ。
曖昧な言い方なのは、道中の記憶があまりないからだ。
欠伸が出るほど弱かったなあ。そりゃ当然なんだけども。
「ほんとのほんとにロッカクは勇者様なんだね」
「なんで嘘つく必要があるんだよ」
「あたしに見栄張って言ってるのかと思ってたのよ」
「リビアに見栄張ってもしょうがないだろ」
「キー! ちゃんとレディ扱いしてよね!」
「はいはい」
そんな与太話をしながら、最上階に辿り着く。
どの階も内部の構造は変わらず大広間に右か左に階段があるシンプルな作りだ。最上階も御多分に洩れず、階段がないだけで同じ作りだった。
奥に1体の魔王の手下と……見覚えがある奴が倒れているな。
「よくここまで来れたな、黒装束。我が名はフリューリンクの結界師、ラーヴァ」
知的な雰囲気と声でこちらに語りかけてくる。
緑色のローブに緑色の髪、緑の縁のメガネと緑色で統一されている。
「この倒れている奴が気になるか? こいつはお前がぶっ飛ばしたカイザニス王国騎士団副隊長……もといスパイだ。引き上げてやったが既に絶命している。まったく、よくもやってくれたものだ」
なるほど。
だから副隊長は思い切りぶん殴れたのか。
「別に気にはなりませんよ。魔神軍は全部倒すんですから」
「ふん、戯言を。その快進撃も、ここで終わりだ」
へえ。
圧力は今までの相手の中では1番だ。
けど、こんなところでマゴマゴするわけにはいかない。
僕は《全透視》で相手の能力を見る。
《スキル》
《輪廻の風》
《破砕の風》
《治癒の風》
《ステータス》
《攻撃 20》
《防御 20》
《魔法攻撃 60》
《魔法防御 60》
《敏捷 30》
《特殊 15》
風系のスキルに魔法系のステータスか。
けど、大したことないな。
「リビア、僕の後ろから、一歩も動くなよ」
「だ、大丈夫? なんだか強そう……」
「大丈夫、大丈夫!」
リビアにサムズアップをして大丈夫アピールをする。
「何をペラペラと……くらえ、《破砕の風》!」
ラーヴァがその場で蹴り上げると同時に、かまいたちが発生し、僕に襲いかかる――!
「えい!」
素手で《破砕の風》を止めて払いのける。
「な、なに!」
魔法防御100なんだから、こんなもの効くわけがない。
足に力を込めて、急接近の構えをとる。
「この、破砕の……」
「遅いって」
コンクリートを打ち抜く勢いで駆け出して、ラーヴァの懐まで入る。
ラーヴァは目線だけこちらに向けているが、全く体の反応が追いついていない。
「死死炸裂」
拳を堅く握り、ラーヴァの鳩尾に右ストレートを叩き込む。
スキルだけどただのパンチだ。
「ガハッ!」
壁にめり込むほどの衝撃。
塔全体が揺れ動いた。
大勢は決した。
「さあ、お前を倒せば結界が消えるのかな? なら、トドメを……」
僕はラーヴァに近づこうと歩を進める。
「クッ……クックックッ……確かに、強い。我が見えざる神話の中でも上位に入る強さだ」
見えざる神話?
魔神軍の名称か。
初めて聞いたな。
「だがっ!」
僕が考え込んだ隙にラーヴァがリビアに向かって走り出す――!
「自ら弱点を連れてくるとはな!」
「へ!? へ!?」
リビアが驚きの声を上げる。
「喰らえ! 《輪廻の風》」
無数の旋風を体に纏いリビアへと突撃していく。
「なっ……テメェ!!!」
リビアではあの技は防げない。
喰らえば傷を負う。
僕の前で、誰かが、傷つく。
アタマノネジガハズレタキガシタ。
僕は、誰かの助けになれればそれでいいのに。
その力も得たのに。
結局、そんな小さなこともできないのか。
ポロポロトネジガハズレタキガシタ。
「…………!!!」
リビアを庇うように背でラーヴァの一撃を受ける。
間一髪だ。
「嘘だろ……不意をついても間に合うのか……」
モウオマエハシャベルナ。
「ロッカク……?」
リビアの声を他所に、ラーヴァに振り向く。
「ヒ……ヒャァァァァァァ!!!」
ボクノカオヲミテドウシテニゲル?
「い、今のは、今のは、そう! 勇者様の力を試したのです! 我が見えざる神話にピッタリ……」
「爆裂拳舞」
神速の拳で撃ち抜く。
肉という肉を。
骨という骨を。
細胞という細胞を。
その全てを拳の乱打で破壊の限りを尽くす。
ラーヴァは声を上げる間もない。
僅か1秒にも満たない時間で、ラーヴァは無になった。
「ロ……ロッカク」
リビアから声をかけられる。
そうだ、リビアを守れたんだ。
「よかった、リビアが無事で」
「あたしは平気だけど……ロッカク、大丈夫? なんだか、人が変わったようだったよ」
む、そんな風に見えたのか。
リビアを救うために必死だったからいまいち覚えていない。
「不安にさせちゃってごめんな」
「ふ、ふん! あたしは大丈夫なんだから! けど勇者がケガしちゃったら問題じゃない! だから一応心配しただけ! もう知らないんだから」
そう言ってリビアは階段を下っていった。
よかったよかった。
元気なリビアのままで。
僕はラーヴァの血がついた拳を払って、リビアに着いて行った。
道化王NOZAだぁ。
早いもので5話目を迎えることができました。
ファンタジーの難しさと、伝えることの難しさを日々感じながら執筆しております。
次回からは毎日更新していきます!
できる限りがんばりますので、応援よろしくお願いします!
※今後の後書きは何かあったときに書くようにいたします。




