第四十六話 バッビューン!
「リビア、どういうことだ?」
理解できない僕はリビアに尋ねる。
「簡単なことだ。カオスの力は負のエネルギー。この世界が負で満たされれば満たされるほど力を発揮する。急激に増えた原因は、ゴーズが完全生命体を動かした以外ありえない」
苦悶の表情を見せるリビア。
大胆不敵のリビアがここまで狼狽えるということが、ことの重大さを伝える。
「フシュルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
立ち込めていた白と黒の霧が1つの地点に集まっていく。
最初に頭部が形成され、胴体、四肢と続いていく。
真っ白の肉体、そこに黒い軍服のようなもので身を包む。
肌の色と頭髪が同じく純白で彩られる。
瞳は全てを見通すように澄んでいた。
名は体を表す。
正に正義と悪をその体で示していた。
「この姿になるのは久方ぶりだな」
「私も、その姿は見たくなかったよ」
いつもの悪態ではない。本心から望んでいなかったようだ。
「そして勇者諸君。わざわざオレを倒すためにここまでご苦労さん」
僕に視線を向けるカオス。
心の内を見透かされるようだ。
「残念なことに、オレが復活したということはこの世の終わりを意味する。だが安心しろ。これは救済の終わりだ」
「そんなことは……させない」
「勇者よ……認めたくない気持ちは分からなくもないが、オレが復活したということが、この世界の腐敗の証だ。このままいけば、この世界は間違った方向へと進み、更なる被害者を産むことになる。だからこそ終わらせるのだ。お前たちと同じく、オレはこの世界の安寧を第一に考えている」
認めたくない。
人間が、世界が終わっているなんて。
カオスの眼差しは一層強くなる。
翠さんでも飲まれるわけだ。
耐えきれない圧力。
カオスの言霊1つ1つが、心を貫いていく。
「オレの軍勢はもはや風前の灯だが、世界1つ壊す程度オレ1人で充分だ」
カオスは人差し指を僕たちに向ける。
濃厚な魔力が指先に集まる。
「手始めに……この塔近辺を破壊しよう。さっきと同じ威力と思うなよ……。もっとも、オレの力は物理的な力ではないがな」
溜まった魔力が弾け解放される――
「懸隔」
カオスの一言とともに、塔がガラガラと音を立てて崩れ去る。
物理的な力による破壊ではなく、あたかも壊れることが当たり前かのような――!
再び宙に投げ出されるが、今度は着地する場所すらなくなっている。
大地が丸ごと抉られている。
このままでは死ぬ――
「バッビューン!」
何者かが目の前を通り過ぎる。
確認しようとしたとき、腹部に衝撃が走る。
「ドワッ!」
蹴り――蹴りだ。
そのまま数㎞飛ばされる。
おかげで大地に着地できた。
他の人たちも同じようにされたのか、空中で急激に軌道を変えられて飛ばされている。
しかもみんなを一纏めに同じ場所に飛ばした。
「何が起きたんだ?」
頭を抑えながら大和さんは話している。
「完全……生命体だ……!」
リビアは空中を眺めながら答える。
赤い流れ星のような物体が空を飛び回っている。
物体は速度を落とさないまま、同じく空を浮かんでいたカオスに突撃する。
赤く発光し、空気が歪む。
カオスと赤い物体は同時に弾け飛んだ。
フワリと物体が僕の前に降り立つ。
「ありゃりゃりゃりゃりゃりゃ。中々中々やるねあの敵さん。ぼくちんでもちょーっと骨がバキッと折れるさぎょーだな?」
足まで伸びる真っ赤に染まった髪。
短身痩躯でまるで幼女を思わせるような顔立ち。
未発達の体を惜しげもなく露出しており、いうならばスッポンポンだ。
思考回路もどこかおかしい。
「君……は……?」
「ぼくちん? ぼくちんはイッキース。イッキーって呼んでくれい!」
赤髪の幼女は顔をほころばせながら答えた。




