第四十五話 カオス
階段を登り4階を目指す。
振動が止まない。
上で一体何が起きているのか。
階段を登りきると、そこは――
「リビア!」
片腕が千切れたリビアを発見する。
リビアの対面にいたモノは、なんとも形容し難かった。
白と黒が入り混じったガスのように実態のない存在。リビアのように痛手を負っているかどうかすら判断できない。
これが――カオス。見えざる神話のトップか。
「大声を出すな勇者。こっちは忙しいんだぞ」
話すと同時に、腕が復活する。
「う、腕が……!」
「私は人間じゃないから、そりゃあこのくらいはできる」
復活した手には、2m程の大きな鍵が握られていた。
金色で複雑な形をしている鍵。これがリビアの武器か。
一方カオスは、どこが顔で、どこが胴体で、どこが四肢かまるで分からない。
「なんだよありゃあ。捉え所なさすぎだろ」
流石の大和さんもツッコミを入れている。
そもそも、戦いになっているのか?
「ヴィーシュが……やられたか」
脳内直接語りかけるような重く沈んだ声。
頭が痛くなる。
「霧に体を包んでないで、早く人型になったほうがいいんじゃないか? 結構体重いだろ」
カオスとの会話に慣れているのか、リビアは平然とカオスに話しかける。
どうやらリビアの攻撃はカオスに当たっているようだ。
「言うようになったなリビア。貴様もそんなことを言っていないで、早く見えざる神話に戻ったらどうだ」
「お断りだ。私はこんな破壊は趣味じゃない」
「こんな弱りきり腐りきった人間を目の当たりにしても……か」
「人間は反省して成長するものだと思っているからな」
リビアとカオスの言い合いは平行線を辿る。
無論、僕も大和さんもリビアと同意見だ。
「まあいい、そこの勇者風情諸共纏めて消し飛ぶがいい」
白と黒の入り混じる手のようなものが迫る。
一見すると霧状になっていて殺傷能力がなさそうに見えるが――
「全員後ろに飛べ!」
リビアの怒号より危機感を取り戻す。
霧状の手が迫る――!
瞬間、大爆発が起き塔の上部が完全に破壊された。
僕の体が宙に舞う。
落下寸前、リビアの手によって墜落を避けることができた。
逆の手には大和さんが捕まっていた。
「た、助かったリビア」
「ヴィーシュを倒して助太刀に来てくれたことは感謝するが、足手まといになっては元も子もないだろう」
「つーか早く降ろせ」
僕と大和さんはリビアの手から逃れる。
カオスの追撃はこない。
「あれが……カオスなのか」
「そう、混沌という概念に知性と暴力が追加された代物だな。奴の底はまだ知れない……」
リビアが話していると、塔の2階フロアの城壁も破壊される。
バラバラに砕けた城壁から顔を出したのは――
「随分上が騒がしいと思ったら、蔵王たちかよ」
彩葉さんが姿を現した。次いでレイザーさんも出てくる。
2人はヒョイッと外に飛び出して、僕たちの元に来た。
「彩葉さん、レイザーさん、無事だったんですね」
「当たり前だろう。この俺だぞ」
大柄な肉体を豪快に動かして笑うレイザーさん。
「お前はほとんど役に立ってないだろう。私の力で切り刻んだんだよ」
「え、と……」
「大丈夫だ。あいつやけに頑丈だからな。本気でやっても殺すには至ってねぇよ」
「というか、地味に俺をいじめるなよ彩葉」
ブラゴフを倒して戻ってきた彩葉さんたち。
残るはカオスだけだが……。
「あいつ、来ねぇな」
警戒は解かないまま大和さんは話す。
確かに、いつまで経ってもカオスが降りてこない。
「私の鍵が刺さっているからな。とは言っても、人型に変身していないから時間がかかっているだけだと思うが……決めるなら今だな。奴はまだ不完全のようだ」
僕たちはリビアについていき、再度塔を登り最上階に辿り着く。
気のせいか、霧が濃くなっている……?
「負のエネルギーが……倍増している……? まさかゴーズ……完全生命体を稼働させたか!?」
大人の姿になったリビアの初めての狼狽。
それが意味するものは、パラストブルクの終わりだった――




