第四十四話 意思
朱碧翠。
人類最強の守護人。
憧れた。
恋焦がれた。
いつか、肩を並べるよう。
いつか、超えられるよう。
2代目守護人を継いだ。
そんな彼女は異世界に来て、変わってしまった。
破壊でしか人を救えないという翠さん。
守ることで人を救えると信じ続けた僕。
お互いの正義と正義がぶつかり合い――
◇
視線を下に向ける。
そこには、仰向けに倒れ伏した翠さんがいた。
「翠さん……」
返事はない。
完全に気を失っている。
手を差し伸べようとしたとき、僕の意思に反してドスンと尻もちをつく。
僕も限界を迎えていたようだった。
「やったじゃねぇか蔵王。完全にお前の勝ちだ」
大和さんが隣に来て、アヴァロンで僕の体を治した。
いつの間にか空間支配は解けていたようだ。
「何度も挫けそうになりましたけど、守りたいという僕の想いが後押ししてくれました。僕1人では到底勝てなかったと思います。これまで守ってきた人たちの想いがあったから……」
「そんなところもてめぇらしいな」
僕は翠さんの頬に触れる。
数多の人を包み込めるような温かさ。翠さんもまだ温もりを忘れたわけじゃないはずだ。
「あんまり触ってくれるなロッカ君」
翠さんが目覚める。ゆっくりと手を動かして僕の手を握る。
その動きは緩慢で、ダメージは抜けていないようだ。
「強くなったね、ロッカ君。翠の……負けだ」
「……本来なら、三角絞めが決まった時点で僕の負けでした。勝負の明暗を分けたのは……」
「信念、だね。君の真っ直ぐな信念が、私の歪んで曲がった信念を打ち砕いた」
「どうして……翠さんは人を愛してやまなかったというのに、人を殺すこと……世界を壊すことが人のためになるなんて思い違いをしたんですか」
翠さんの手を握る力が強まる。悔しさが滲み出ているかのように震えている。
「翠もね、死んでここに来たときはそれはそれは盛り上がったさ。更なる力を手に入れて、今度はこの世界の人たちを守ろうと。今のロッカ君のようにね。けれど翠を呼び出した見えざる神話の考えは違っていた。勿論最初は抵抗したさ。けど、圧倒的なカオスを前に、翠は屈さざる負えなかったんだ……」
翠さんをもってして屈さざる負えない相手――混沌。
涙が頰を伝い、僕たちの手を濡らす。
「見えざる神話の言うことにも一理あった。でもそんなことは認められないじゃないか。必死に抗ったけれど、カオスの支配力が上回っていく。徐々に翠は侵されていったんだろうな。笑えない話だ。守護人が敵に負けるなど」
目尻を濡らした瞳で僕を見る翠さん。
「世界の命運は、2代目守護人に任せるしかないみたいだ。弟子は師匠を超えるというけれど、まさかこんなに早く抜かされちゃうなんてな。頼んだよ、勇者」
翠さんが花終わるや否や、城全体が大きく揺れた。
この振動……2階と4階、両方のものだ。
カオスを倒せば終わる。
彩葉さんやレイザーさんも心配だけど、4階に向かおう。
翠さんの手を置き、振り返る。
「行きましょう、大和さん」
「……おう」
階段に向い登り始めたとき――
「恥ずかしいから振り返らないで聞いてくれ、ロッカ君。告白の続きだよ。翠も……君を愛している」
心の臓からなにかが込み上げる。
思わず振り返りそうになる気持ちを抑えて、僕は答えた。
「ありがとう、翠さん」




