第四十二話 六角・大和vsヴィーシュ 前編
階段を登ると、2階には黒騎士ブラゴフが待っていた。
「結界を破りここまで来ると思っていたぞ」
「ハッ! 一度負けておめおめと引き下がれねぇんだよ私は」
彩葉さんは既に攻撃体勢だ。
「彩葉さん、レイザーさん、ここは……頼みました」
祈るしかない。
彩葉さんとレイザーさんが無事に勝利して戻ってくることを――
僕たちはブラゴフの奇襲を警戒しつつ、階段へと向かった。
◇
3階。
翠さんは悠然とした態度で、僕たちを迎えた。
「やあロッカ君。無事だったんだね」
「おかげさまで……翠さんも元気そうじゃないですか」
「そうでもないよ。かつての弟子をこの手で殺さなくちゃいけないんだから」
翠さんは手のひらを僕に向ける。
「それじゃあ、健闘を祈るよ、勇者」
リビアは歩きながら手をヒラヒラと動かして去っていく。
「ぼーっとしてんな蔵王!」
去りゆくリビアを横目に見ていた僕は、翠さんの飛ばすバリアの反応に一瞬遅れる。
体勢を崩したところに次々とバリアが迫る――!
「ゴァッ!」
見事に城壁とバリアにサンドイッチされる。
《絶観忘守》で空間を断絶して難を逃れる。
「英雄神話・エクスカリバー!」
大和さんは黄金に輝く剣を高く掲げる。
これが大和さんの解脱――
振り下ろすと輝きがそのままビームへと変化して翠さんを狙う。
「守護人」
しかし攻撃はバリアによって阻まれ、放った威力以上の力で跳ね返される。
大和さんが避けると同時に、城壁は跳ね返されたビームによって大穴が空いて崩れる。
「成長してないね、ロッカ君。そんなことで君の思う全てを守る、なんてことができると思ってるのかな?」
今の攻防も予定通りといった風で、余裕綽々な翠さん。汗1つ流しちゃいない。
「できると思ってますよ。翠さんは諦めたんですか?」
「妥協だよ。大人になるとね、世界が広がって見える。生きていた私は確かに最強のスペックだったけど、それでも銃弾には倒れる。今だってそうだよ。守り切ることに限界があることを知っているから、私はこちら側にいる」
「見えざる神話のやっていることは守るなんてことじゃない! ただの破壊行為だ!」
「意味ある破壊なんだよ。ロッカ君は腐ったリンゴやみかんを、まだ食べられるからと言って残すかい? それと一緒さ。この世界の人間は腐りきっている。しかしそれでも人間を愛している。だからこそ守るために1度リセットするのさ」
――変わってしまった。
僕ほど行き過ぎていないにしても、翠さんは守ることを最優先に考えていた。
こんな――破壊の先に幸福があると考えるような人では断じてなかった。
「分かったよ、ヴィーシュ」
「何が分かったのかな?」
「本当に悪に染まりきったと判断したよ。あなたを……倒す」
「倒す、ね……殺す、じゃないのか。まだ甘いな」
「違うよ。貫き通すだけだ。自分を」
「……! フフ、その貧弱なスキルで言われてもね」
正論だ。
今の僕のスキルは、攻撃に転じれてない。
僕の認識不足によるものだ。
空間支配という大きな型枠を前にして、何ができるのか想像がついていない。
空間を支配する、ということは、その空間内ではなんでもできるわけだ。
たとえば――
「絶観忘守」
翠さんの周りを空間支配で取り囲む。
そして空間内を爆発させる――!
激しい燃焼と光を伴って翠さんの姿が見えなくなる。
だが、ノーダメージ。
まるで意に介していない。
「工夫したね。けど、私にはバリアがある。そして反射する」
爆撃が僕に向かって飛んでくる。
「俺を無視してんじゃねーぞ!」
エクスカリバーで割り込み相殺する。
強い……攻守共に隙がない。
2人がかりでギリギリ持ち堪えているが、油断すれば一気に持っていかれる。
「まじぃな、まるで攻撃が通らねぇ」
「どうしたら……」
「シンキングタイムをあげた覚えはないよ」
止まることを知らずバリアが飛んでくる。
圧倒的翠さん有利なシューティングゲームの始まりだ。
僕も大和さんも避けることに必死になる。
――まだ足りない。
僕の空間支配への認識が。
大前提のルールは、直接生物に干渉できない。それだけだ。
自由度が高過ぎて逆に苦労するなんて、嬉しい悲鳴だけど、判断の遅さが致命的な隙を晒すこの局面ではマイナスだ。
逆転の発想。
何ができる、ではなく、何がしたいか、で考えろ。
バリアだ。
僕たちの障壁となっているバリアをなくしてしまいたい。
なら――!
「絶観忘守」
広間全体を包み込むように空間支配をする。
それと同時に、翠さんが打ち込んできていたバリアが消滅する。
「……何をしたんだい?」
翠さんは目を大きく開き驚いている。
大和さんも不審な表情を見せている。
僕は笑みを浮かべて告げた。
「空間支配をして、スキルという概念がない世界を創っただけさ」




