第三十四話 カイザニス王国
極寒の地、ヴィンターを足早に抜けてカイザニス王国の城下町まで辿り着いた。
が、広がっていた光景は、以前転生したときに見た風景とは全く別物となっていた。
「そんな……バカな……」
居住地は破壊されており、至るところに笑顔で城下町に住んでいたであろう人たちの死体が横たわっている。
「やれやれ、魔神軍がここまで本腰入れて来るなんてな」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
リビアと彩葉さんが言い合っているが、そんなことを気にしている場合じゃない。
倒れている女性の手を取る。
硬化していて、既に人のものとは思えない。
「く……そぉ……!」
駆け出す。
制止する声が聞こえた気がするが関係ない。
城はどうなっているのか。
王様は。
姫は。
とにかく自分の目で確かめるしかない。
城のふもとまで来て足を止める。
ワーウルフたちが城を取り囲んでいる。
「どけえぇぇぇ!!!」
拳で次々と薙ぎ倒す。
城の中に入るがワラワラとオーガやらゴブリンやら、見えざる神話が跋扈している。
兵士たちはほとんどが倒れていて、動けそうもない。
王様の姿は見えない。
「縷月流・繊月」
後ろから彩葉さんがオーガとゴブリンを一直線に切り結ぶ。
「峰打ちだ。殺しちゃいねーよ。ここは私とリビアでなんとかするから、早いとこ王様を探しな!」
僕は安心して走る。
僕が転生された、謁見の間の扉を開ける。
奥にはゴーズ王、クラリス姫、2人を守るようにしている……兵隊長のエイル・フリストさん。
そして手前の追い詰めている2人の姿が目に入る。
「ほお……まだ生きている人間がいたとは」
「いや、あいつらはここの兵隊じゃないよ、ブラゴフ」
2人は振り返りこちらを見る。
ブラゴフと呼ばれた男は、漆黒の甲冑に身を包まれている。兜はつけていないため、顔は丸見えだ。短髪の青髪で精悍な顔つき。醸し出されるオーラは、参天群の1人だろうか。
だが、気になったのはもう1人……女性のほうだ。
長い黒い髪をポニーテールにしていて前髪パッツンで齧歯類を思わせる顔立ち。
白いビッグシルエットのTシャツにGパン。
こんな……これは……あり得ない。
僕は知っている。
知っているどころの話じゃない。
会っている。
好いている。
けど、どういうことだ。彼女は死んでいる。
いや、死んでいるからこそ、ここに居る……ということなのか?
「久しぶり……って言っていいのかな? ロッカ君」
「翠……さん」
僕たちの間にブラゴフが入る。
「なんだ? 知り合いかヴィーシュ」
「転生前よく一緒に遊んでいた友人だよ」
ヴィーシュ?
どういうことだ。
「心機一転、名前を変えてこの世界では活動しているんだよ。ちょうど空いていた枠だったみたいだからね。君の知る朱碧翠はもういない。今の私は、見えざる神話の参天群が1人、ヴィーシュだ」
「どうして………………」
僕の知る翠さんは、こんな惨劇を生むような人じゃない。
悪を許さない。正義の守護人だったはずじゃないか。
「どうしてもこうしてもないんだよ、ロッカ君。言ったじゃないか。ここから先なにがあっても、ロッカ君の信念を曲げちゃダメだよ……って。私とロッカ君は敵同士。戦うしかないんだよ」
「くっ……!」
洗脳されているようには見えない。
それに、僕の精神世界でのことも覚えている。
本当に翠さんで……ヴィーシュ……なんだ。
「2人で盛り上がっているところ悪いが、見えざる神話に止まっている余裕はないぞ」
「分かってるよ。勇者君を手早く片付けよう」
「こいつが……勇者……? フッフッフ、面白い冗談だな、ヴィーシュ」
「本当だよ。油断してたらブラゴフでもやられるかもしれないから気をつけて」
「ほぉ?」
大地が揺れ始める。
ブラゴフの圧倒的なパワーが王国中に充満しているようだ。
狼狽えているところに扉が蹴破られる。
「大丈夫か! 蔵王!」
「追いついたー!」
リビアと彩葉さんが駆け込んできた。
役者が、謁見の間に揃った。




