第三十一話 特別
俺はいたって普通の両親のもと生まれた。
別に裕福だった訳ではないが、だからといって食うものに困るほど貧困でもなかった。
父は建築の施工管理の仕事で、母は専業主婦。父の帰りは遅かったから、あまり会話をすることはなかったが、それでもたまの休みには遊びに連れて行ってくれた。
――普通。
幼稚園、小学校、中学校、高校と、特に悪さをすることもなく、勉強もテストでは平均点で目立つこともなく、友達がいない訳でもなく、ただ漫然と時が過ぎていた。
――普通。
親から離れて自立したかったから、高校卒業後はすぐに就職した。いつか父のもとで働けるかも知れない、そう思って足場屋に就職した。
――普通。
憧れていた。
昔読んだ漫画の主人公に。
みんなに期待されているヒーローだった。
俺も特別で誰かに期待されたい。
――普通。普通。普通普通。普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通普通。
異世界に来て特別になれたと思ったら、望まれない能力で王国から放り出された。
そして今俺は、シヴァイザに必要とされている。
「さて、どうかな? 君なら特別待遇だよ」
シヴァイザに決断を迫られる。
俺は――――――
クソッ、こんなときになんで……あのお人好しが頭によぎりやがる。
あいつは……言ってたっけか。俺の力が必要だと。俺のスキルを知ったうえで旅をしようと。
笑っちまう。
俺はシヴァイザを睨みつける。
「俺はてめぇらの仲間にはならねぇ。失せろ」
「……正気かい? 脅すつもりはないけど、今の君は絶対僕に勝てないんだよ?」
「絶対勝てない……ね。それでも勇者は立ち向かうんだろうよ」
「君、そろそろ分を弁えようよ。君の特別はそっちにはないんだよ」
「バカが。てめぇごときが俺の運命を決めんじゃねぇよ。俺は既に……誰かの特別たりうる人間だったみてぇだからよ」
話し終える前に、シヴァイザは既に飛んでいる。
「愚か者だね……君は」
三又の槍を手に体ごと空中から突っ込んでくる。
何もしない俺ならこの一撃で当たり前のように死んでいくだろう。
だが――
「英雄神話」
今の俺は特別なんだよ。
右手に握るはアーサー王物語の伝説の剣。一度振るえば、勝利が確定する黄金の剣。
その名は――
「エクスカリバー!!!」
三又の槍とエクスカリバーがぶつかり合う。
激しい光を伴って鍔迫り合うが、やがてエクスカリバーの光の衝撃波が三又の槍を打ち砕き、シヴァイザの体を引き裂く。
「グッ!」
体を真っ二つにされる前に、シヴァイザは体を回転させて回避する。
光の衝撃波は止まること知らず、神殿の天井部に風穴を開けて消えていった。
「なるほど……英雄神話……ね。かつての勇者より強いね」
額から股関節まで一直線に切られたシヴァイザは、線をなぞるように出血する。
「悪かったな強くて。てめぇがあのときご丁寧に俺を殺してくれたおかげで手に入れた力だ。因果応報だぜ」
解脱・英雄神話。
神話や英雄譚における武具の全てを、逸話の通りに使用可能となる。
無論、誰が相手でも。
シヴァイザは額の血を指でとりペロリと舐める。
「君なら僕たちのことを理解してくれるかと思ったんだけどな」
「理解だと?」
「人間の負の感情から生まれし僕らのことを、君なら分かるんじゃないか、と言ったんだよ」
「テメェらの成り立ちは既に聞いている。けど関係ねぇよ。俺は勇者の言う通り、全てのものが幸せになるように、争いのない世界を作るんだ。だからてめぇらもこんなくだらねぇことは……」
「人間がいる時点で、醜悪な存在がいる時点で、そんなことは不可能なんだよ?」
シヴァイザの切られた額から新たな目が開眼し始める。
「残念だよ。負のエネルギーが満ち溢れていると分かっていながら、僕たちに対抗するなんて。君のような妬み嫉みを行う人間ならば分かるかと思ったんだけど……もういいや。殺そう」
シヴァイザの額に、もう一つの目が開眼した。
「第3の目」
光線でも出るのか……!
身構えていたが、特に変化が見られない。
「ああ、ごめんごめん。攻撃されると思った? この目はそんな脆弱なものじゃないよ」
ツカツカと無防備に歩を進めるシヴァイザ。
「この目は……もっと高尚なものさ。君らが及びもしないほどのね」
俺との距離を1mまで詰める。
ならば精神に作用するものか?
先手を取るのみ!
「エクス……」
振り下ろす前……いや、構える前にエクスカリバーを叩き落とされた。
「ビックリした? けど別に、君が遅いわけじゃない。僕には全てが見えているだけだ」
そう言ってシヴァイザは跳躍して距離をとった。
「招かれざる客が来るね」
招かれざる客が客……?
考えている内に、破壊音が聞こえ始める。
徐々にその音は近づいてきて――
広間の壁をブチ破ってきた。
「まったく……俺の行った方が行き止まりだったからどうしようかと思ったが……追いつくにはこれがベストだったようだな!」
レイザーはガハハと歯を見せながら笑う。
超がつくほど馬鹿だ。
「んで……なんでお前がいる? シヴァイザ」
「君は呼んでないんだけどね……」
レイザーはみるみる顔を紅潮させる。
怒り心頭といったところか。
「レイザー、見ての通りやべぇ状況だ。力を合わせてこいつをぶっ飛ばすぞ」
「当たり前だろうが……!」
斧と石剣を構え臨戦体勢をとるレイザー。
「荒事は好きじゃないんだけどな……まあいいや。来なよ。楽に殺してあげるからさ」
話すと同時にシヴァイザは突進してきた――




