第三話 春の大地
頬を撫でる風は、どこか春めいた雰囲気を感じさせた。
「パラストブルクにも四季があるのかな」
呟きながら森林を歩いていく。
森林といっても、次に目指す村までの道はきちんと舗装されており、歩くことはそこまで苦ではない。
時折り春一番のような突風が吹き荒れて、緑の葉が木々から離れて落ちていく。
落ちた葉を踏み締めながら歩いていくと、ようやく集落が見えてきた。
「1日歩きっぱなしはやっぱり疲れるなあ」
時間はもう夕陽が沈もうとしている頃だった。
ゴールが見えると自然と足も軽くなる。
駆け足で村へと近づく。
すると門兵が道を塞いだ。
「誰だ! 貴様は!」
槍を鼻先に突き付けられた。
まずい。
今攻撃されたら死んでしまう。
「あの、僕は……」
「あれ……その黒装束……ブラッククローズの勇者蔵王様ですか!?」
「え……ああ、そう、ですけど……」
黒装束って……そりゃあまあ黒い学ランだから違いはないけど、なんだか勇者っぽくない感じで大陸全土に広がっているみたいだ。
「すみません! 勇者様とは知らずに……」
「いや、全然大丈夫ですよ」
命拾いしたー。
魔神軍以外には無力なんだから、僕は。
「この村はカイザニス王国からそこまで距離もなく、なおかつ結界師とやらが魔神城支部を建ててから皆ピリピリしてまして……。村には戦える人がいないものですから王国から派遣で私が門兵をしておりました」
「なるほどね」
「しかし勇者様が来てくださったのであればもう安心ですね! ささっ、どうぞ村まで!」
背中を押される形で村の中へ入った。
「みんなー! 勇者様が来られたぞー!」
門兵は村の人たちに大声で伝え始める。
さすがにカイザニス城下町と比べると、その十分の一も人がいない、小さな村だ。
門兵が大声を上げるだけで、村の人たちがゾロゾロと家から出てくる。
村の広場のような場所に村の人たちは集められた。
「先程も言ったが、改めて。勇者様が異世界から転生されて、魔神を倒しに来てくれたぞ!」
門兵は皆の前に立って、高らかに言い放った。
恐らく転生の伝承は村の人たちにも伝わっているのであろう。皆一様に喜びを表現していた。
「うおー! これでこの村も安泰だー!」
「もう魔神に怯える日々は終わるんだ!」
僕はみんなの前で頬をポリポリと指で掻くことしかできない。
しかし、みんなピリピリしていたんだろう。
僕が来て一気に緊張がほぐれたようだ。
「これ! 皆の衆。勇者様が困っておろう」
そうこうしていると、集まりの中でも一番奥から、しゃがれていながらもハリのある声が聞こえた。
「すみませんな、勇者様。勇者様の登場で皆浮き足だっておってな」
姿を表したのは、ローブを見に纏った白髪の老人であった。
「この方は村長さんだ」
門兵が教えてくれたので、軽く会釈をする。
「して、勇者様。あなたは異世界から来られた……というのは本当ですかな?」
「ええ、まあ、一応……まだ昨日の今日の話なので、全然理解が追いついてませんが」
「ということはパラストブルクのことはまだあまり知らないご様子ですな」
「そうですね、地図を見させてもらって、魔神を倒すルートは教えてもらった感じです」
たしかに、僕はまだまだこの世界のことはよく知らない。いい機会だし含蓄のありそうな村長さんに聞こうか。
「この世界も僕のいた世界とあまり変わりはないんですけど、人以外の知的生命体っているんですか?」
一番気になる部分だった。
よくエルフ族や巨人族といった、色々な種族があると聞いていたが……。
「基本的にはありませんよ。あとは魔神軍たちは一応言語も発達していますが……考え方が違いすぎて全くお話になりませんがな」
ふむ、ますます異世界といっても地球と変わりはないみたいだ。スキルが発達しているせいか、建物は古いもので止まっているみたいだけど。
昨日の宿屋で食べたご飯も、異世界ならでは、というものはほとんど見かけなかった。
強いてあげるなら、オークの肉が出てきたりとかはしたが、豚や牛もいたし、野菜も地球と同様だ。
生態系に少し違いがあるくらいなんだな。
周りを見渡していると、村長さんが語りかける。
「もといたところよりも殺風景ですかな?」
「いえ! そんなことは……ただ大自然だなと思いまして」
「そこまで気を遣わなくても大丈夫ですよ。私たちの世界は500年もの間特になにか変わったということはありませんから。勇者様の世界ではだいぶ変わられたことでしょう」
「確かにその時代と比べたら何もかも変わっていますね」
逆に言えば、このパラストブルクは500年前から既に完成された大陸であるということか。通信系もスキルを使えば苦でもないだろうし、案外住みやすいかもしれない。
怪物に襲われなければ、だが。
「本当に住みやすい土地なんですね」
「まあここは穏やかな土地ではありますよ。ただ他の地域はとんでもなく暑かったり、逆にとんでもなく寒かったりと住みにくいところも半分くらいありますよ」
「え、そうなんですか?」
「今いる私たちの地域が、フリューリンク。ここから北上したところがゾンマー。その隣がヘルブスト。そしてその下がヴィンターになります。フリューリンクとヘルブストは過ごしやすいですが、ゾンマーは暑く、ヴィンターはとても寒いんですよ」
どうやらこの世界は四季はないが、それぞれの地域で春夏秋冬が分かれているらしい。
「それなら永住するならフリューリンクがいいですね」
僕は笑顔で答えたが、村長さんの顔は渋い顔だった。
「そうか勇者様はもう……」
そうだ、僕はもうここで暮らしていくしかない。
地球での僕の人生は終わりを告げたんだ。
けど、悲しむことはない。
僕の行うことの場所が変わっただけなんだから。
「そんな悲しい顔しないでくださいよ! 悪くないですよこの大陸も! 昨日初めてオークの肉食べましたけど、中々美味しかったですよ〜。豚とも牛とも違う、形容し難い味でした!」
村の人たち全員で大笑いする。
やっぱり笑顔が1番だ。
そんな笑顔を守るためにも、次に目指すべき場所を確認する。
「あそこにそびえ立つのが、結界師のいる塔……ですよね」
僕は村からそう離れていない位置にある塔を指差す。
その辺りだけが比喩でもなんでもなく暗雲が立ち込めている。
「そうです。最近攻撃が活発化していて、この村にも何度も――」
村長が話し終わるか否か、
「よおパラストブルクに蔓延るクソ共」
異形の者たちが姿を表した。
「ひいっ! 魔神軍!」
村の人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
魔神軍。
人語が話せる相手は初めてだ。
といっても、人型ではあるが、頭部が狼になっている、ワーウルフといった感じだ。
大きな青龍刀のようなものを構えて、10体がゾロゾロと村に侵入してくる。
「村長さん」
「な、なんですか」
村長さんの声が震えている。
「大丈夫ですよ。こいつらすぐ倒して、結界師も軽ーく倒してきますから」
僕は村長さんにサムズアップをして、ワーウルフたちに相対する。
「そういう訳だ。村の人たちを守るために、お前たちには倒れてもらう」
「んだ? てめぇは」
ワーウルフは僕を視界に収めて、ジロジロと体をみる。
「てめぇまさか、黒装束か!?」
「げ、魔神軍にもそう伝わってるのかよ」
そんなに学ランがこの世界ではおかしいか。
「なら尚更生かしちゃおけねえ……野郎共! 行くぞ!」
ワーウルフたちは俊敏な動きと連携で僕に襲いかかる。
「確かに速くていい連携だ。とても捉えられそうにない」
前後ろのみならず、空中からの攻めもあり、一見すると逃げられそうにない。
僕以外ならな。
「ほい! ほい! ほい!」
前から迫るワーウルフを拳で1体ずつ殴り飛ばす。
頭蓋骨が割れる音と共に森の中まで一直線に飛んでいく。
「なっ! ……ガッ!?」
後ろから来るワーウルフも驚いている隙にハイキックで纏めて首を叩き折る。
残りは空中から仕掛けている4匹のみ。
「なんだ、弱っちいな」
こんな雑魚敵に手間取ってる暇はない。
ささっと片付けよう。
「まだ終わってねぇぞ!」
ワーウルフたちは空中から僕の脳天に青龍刀を振り下ろす。
終わってない?
何をバカなことを。
もう準備は済んでいたんだよ。
「風」
僕が一声発するだけで、《二重螺旋》が発動するように。
地面から僕の周りを囲むように、小型の台風が2つ生成される。
触れれば即切断される嵐。
ワーウルフたちに向かって飛んでいく。
「ちょ! まっ……あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
足の先から頭頂部まで隅から隅まで切断されていく。
1000枚におろされたワーウルフたちは、その風の勢いのまま亡骸をどこかに飛ばされてしまった。
汚いからまあいいだろう。
「よっし、それじゃあ村長さん! 結界師ぶっ飛ばしてきますね!」
「お……おお、頼みました」
村長さんは目をパチクリとさせて停止していた。
余程驚きだったんだろう。
こんなことがもう起きないよう、早く倒さなくては。
まずは、第1の結界師だ!
僕は結界師のいる不気味な塔に向かっていった。
道化王NOZAだぁ。
色々と模索しながら書いた第三話、いかがだったでしょうか?
もっと面白くなるよう精進していきますので、今後も生暖かい目でご覧ください。
ブクマとか評価とかされると泣いて喜びます。
よろしくお願いします!




