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第二十六話 死に戻り

「――――――――――カッ!」


 呼吸が戻る。

 光が戻る。

 死から――戻る。


「ハアッ……! ハアッ……!」


 意識が途切れる直前、斬られたはずの首やお腹を触る。ぬるりと湿る感覚。全身からの流血。口元に血が垂れる。頭も斬られていたか。間違いなく一度死んでいるという現実がそこにはあった。


「な……なんだてめぇは! なんで生きてやがる!」

 

 周りを囲んでいた赤いバンダナの男たちの瞳孔が揺れていた。

 時間はまったく進んでいないのか。あそこでの時間は、現実世界の一瞬だった。


「なんとか言いやがれ!」


 ナイフが首元に迫る。

 ――遅すぎる。

 見えざる神話(メソロジーク)でもないのに、能力値が上がっている。

 腹部に掌底をして吹き飛ばす。

 

「ゴッ……パァッ……!」


 胃液を撒き散らしながらきりもみ回転をして飛んでいく。

 その様を他の男たちが眺めている。


「……どうする? まだやる?」

「クソッ! 化物が!」


 逃げる時のスピードだけは凄まじい。あっという間に消えてしまった。


「ふぅ……」


 静寂が訪れる。

 解脱。

 僕の今のステータスはどうなっているのか。確認する。


《スキル》

絶観忘守(ぜっかんぼうしゅ) 空間支配の境地》


《ステータス》

《攻撃 1200》

《防御 1400》

《魔法攻撃 1300》

《魔法防御 1450》

《敏捷 1100》

《特殊 1000》


 基礎ステータスの上昇。

 新スキル。

 そして――


「勇者としてのスキルがなくなっちゃったか」


 彩葉さんが木の影から姿を現した。


「彩葉さん……いつからそこに……」

「最初から。ちゃんと解脱を覚えられたんだな。偉い偉い」


 頭をガシガシされる。こちとら1回死んでるのに、なんというか軽すぎないか。


「いやーけど勇者じゃなくなっちゃったな」

「解脱を覚えると同時に消えるんじゃないんですか?」

「いや? アンチスキルは消えるけど、勇者としてのスキルは残るぞ。現に私はちゃんと魔法系のスキルも使える」

「…………え」

「まあまあ、どんなスキルを覚えたか知らないけど、補うほどのスキルなんじゃないの」

「そう……だといいんですけど」

「んじゃあまあ、見せてくれよ、解脱した勇者の力を」


 彩葉さんは居合の体勢をとる。


「受けられれば合格だ。お前の考えに付き合ってやるよ」

「……分かりました」


 正直勇者のスキルがなくなってかなりしょぼくれてるタイミングなんだが、まったく関係ないと言わんばかりに試験が始まる。

 新スキル。

 僕の想像通りなら、彩葉さんの言う通り勇者としてのスキルを失ってなお余りあるスキルのはず。


「行くぞ! 縷月流(ろうげつりゅう)満月(みちつき)!」


 一足で間合いを詰め、刀が鞘を走る。


絶観忘守(ぜっかんぼうしゅ)


 両手の人差し指を、指差す形で突き出し、胸の前で右手の人差し指を上に、左手の人差し指を下に向ける。

 彩葉さんと僕の間の空間が、切り取られるように断絶される。その空間はまるで見えない壁のように聳え立った。

 

「なっ!」


 激しい衝撃音と共に居合斬りは見えない空間に阻まれ、弾かれた。

 空間支配――超越した境地。

 とんでもない力だ。


「すげースキルだな! しかも伸び代しかない。人を傷つけずに済むスキル。守れるスキル。お前にピッタリかもな。もう勇者じゃないけど」


 納刀しながらニヒルな笑顔で僕を見る彩葉さん。

 確かにスキル上僕はもう勇者じゃないみたいだ。けど、心は勇者のつもりだし、全力で全てを助ける。

 翠さんに誓ったしな。


「彩葉さん……力、貸していただけますか?」

「わーってるよ、約束だしな。お前の力に乗っかったほうがいい方向に話が進みそうだ。よろしくな……っと、そういや名前聞いてなかったな」

「蔵王……六角です!」


 サムズアップで僕は答える。


「蔵王ね……くくっ! ちょっと縁を感じるじゃないか。改めてよろしくな! 蔵王!」


 僕と彩葉さんはシュラハトに戻ることにした。

 気付けば、朝日が上り始めていて、紅葉が明るく照らされていた。

 

 


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