第二十四話 解脱
「解脱……?」
聞いたことない言葉だ。
「異世界転生者はデメリットがつくものの、全ステータスが100になり多種多様なスキルが使えるようになるスキルを手にする。だが、異世界転生をする本当の理由はそこじゃない」
彩葉さんは刀を抜いて正眼に構える。
まさか僕のことを切るつもりじゃないだろうな。
「異世界転生が行われる本当の理由は……これだ!」
本当に彩葉さんは僕に向かって特攻する――!
丸腰の僕に防ぐ手段はない。
しかし彩葉さんの目線は僕の後ろ……?
「縷月流・十三夜」
正眼からの一太刀――
パッ、と閃光が走る。
ほとんど無音。
僕の後ろの大樹が真っ二つ、いや、2つだからじゃない。大樹が灰のように粒子となり風に乗って消えていった。
それだけじゃない。大樹の根本の地面が、底が見えないほど抉られている。
激しい衝撃音も伴わず、あたかもこれが当たり前かのように。
「一太刀で無限の斬撃を与える剣技だ。私の縷月流は、勿論研鑽あってのこの威力だが、元となるこの力は異世界転生の血縁だからこそ手にしている」
「それが……解脱」
「そう。この世界には存在しえない概念。スキルとは違う能力。異世界転生の際に発現するこの能力を、私は解脱と呼んでいる」
納刀して彩葉さんは僕を睨めつける。
「勇者。お前が解脱を身につけられたら、お前のいうことを聞くことにしよう。けど、身につけられなかったら、お前を殺してでも先に進んで魔神も殺す」
彩葉さんに嘘はない。
黒い瞳が物語っている。
「……分かりました。けど具体的にどうすればいいんですか?」
「まー、元々お前の中に既に備わっているはずだから、それを解放すればいい」
「えと……そのやり方を……」
「………………」
「あの、彩葉さん……?」
「ダーッ! うるせー! そんなん知るか! 私は気づいたらできるようになってたんだからよ」
じゃあ僕はやっぱり殺されるじゃないか――
酷過ぎる。
こんな確定的な死の未来がすぐそこにあるなんて。
でも――どのみちこの力がなければ、見えざる神話には勝てない。
どっちに転んでも死ぬ。
ここが分水嶺か。
「コツとかはないんですか?」
「自然に使ってるからコツなんてものはないけど……しいてあげるなら、普段の《勇者物語》を使用しないようにすること、かな」
まあそりゃあそうだろうな。
まったく別物のスキルを発動するわけだ。
うーん、見当もつかない。
「朝までには発動できるようにしろよ」
「そんな無茶な……」
「悠長なこと言ってられないだろ? お互いに」
朝になったら戻る、と言い残して彩葉さんはいなくなってしまった。
「ほとんど手がかりなし……か」
僕の中の閉ざされた扉の鍵を開けなくちゃいけない。どうすればいい。
転生者しか発動することができない。つまりこの世界の人にはなくて、転生者にはある要素ってことか?
思い当たるものは黒髪くらい……。いや、さすがに能力には関係がないだろう。
少しのきっかけでいいはずだ。
考えろ。
もう守れないなんてことは嫌なんだ。
頭を抱える。
どうしよう。本当に手詰まりだ。求めていた強くなる方法だったけど、こんなところで止まるなんて。
「おいおい、勇者がこんなところでなーにしてんだぁ?」
ゾロゾロと勇者狩の赤いバンダナをつけた男たちに囲まれた。
以前、大和さんにビビって逃げていった奴らだ。
「バカにされたまんま引き下がれねえから機会を窺っていたら、まさか1人になるタイミングができるなんてな」
「親分、やっちゃいましょうぜ!」
ギラリと光るナイフを取り出し始めた。
クソ……こんなことしてる場合じゃないのに。
「なんとか言ったらどうなんだ? 命乞いくらいしろよ」
親分と呼ばれていた男が近づいてくる。
もう半歩でナイフの間合いだ。
「命乞いなんてしない。僕はみんなを救うためにここにきたんだ。勿論、あなたたちも含めて」
「俺たちを救うってんなら、まずゴーズを殺せよ! できねぇだろ? だから魔神軍にやってもらうしかねぇんだ! それを邪魔する勇者は邪魔だ……」
いつの間にか、僕を取り囲む男たちも、僕を殺せるところまで近づいてきていた。
「死ねぇ!」
四方八方ナイフの嵐。
今の僕では避けられるはずもなく――
あっけなく全身を隈なく切り刻まれて、僕の生命活動は終わりを告げた。




