第二十二話 伊達娘
静まりかえった道場内。
大和さんとレイザーさんは当然として、僕とリビアもここで寝泊まりさせてもらっていた。
僕はベッドから降りる。木製のベッドの架台がギシギシと音を立てる。
隣のベッドにはリビアが鼻ちょうちんを作りながら眠っていた。
こうしてみると、年端もいかないお姫様って感じなのにな。
「ごめんな、行ってくる」
そう呟いて、道場を後にした。
◇
地球でいう秋の季節だからか、夜は肌寒いうえに、風が強い。
木々が揺れて、紅葉が落ち葉となって地面に落ちていく。床一面の紅葉は、夜に作られていたのか。
踏み締めながら町の中を歩いていく。
――勘だ。
何か、僕との運命の紐を感じてならないんだ。
けどそれは、僕以外の人に教えてはならないような。
不思議な因縁。
あり得ない未練。
町の出口の門まで辿り着く。
出会えるという予想はしていた。しかし、確信にまではいたっていなかった。だから、門に体を預けていた人物を見たときは、ホッと胸を撫で下ろした。
「こんなところでなにしてるんですか」
「……勇者」
昼に出会った女武士は、あまり驚いた様子もなく、首だけ向けて話した。
「次は殺すと言ったはずだが」
「リビア抜きで話をしたいと思いまして。きっと、あなたもそのほうが都合がいいんじゃないですか?」
「都合? 意味が分からないな。私にしてみれば、お前がここから立ち去ってくれることが1番都合がいいが」
かまかけたけど、効果なし、か。
うーん、何かを知っているとは思うんだけどな。
リビアのことを鍵って言っていたし。
それに、当然だがこの場所で出会うと約束なんてしていない。
偶然なんかじゃない。
偶然じゃ済まされない。
僕はそんなものじゃ揺らがない。
これは必然のはずだ。
そんな僕と関わった女武士も、間違いなく渦中にいる人間――!
「私はどちらにも与さない」
そう言って居合の体勢を取り始めた。
「勇者でも私は容赦なく斬り飛ばす。今お前を助ける人間はいないぞ」
今はリビアも大和さんもいない。
どの程度のステータスかは分からないが、斬られれば即死だろう。
けど、立ち去るわけにはいかない。
動かぬ僕を見て、ため息をつく女武士。
「死にたがりがッ!」
女武士が一歩踏み出す。
居合斬り――
死を覚悟した瞬間、女武士の周りで爆発が起きる。
「な!」
女武士からしても想定外だったのか、居合斬りを中止して立ち止まる。
爆発の煙が消えていくと、女武士の周りに6人の白甲冑の兵士が立っていた。
白の甲冑――カイザニス王国軍だ。
この女武士を知っているのか。
「ご無事でしたか、勇者様」
「へ……ええ、大丈夫ですけど」
「それは何よりです」
僕と話していた白甲冑の兵士は、女武士を睨めつけた。
「ようやく尻尾を出したな」
「……」
「黙っていても無駄だ。お前の一族の根絶やしは我がカイザニス王国軍の最重要任務の1つだ。あろうことか勇者様に接触するとはな」
兵士たちは剣を抜き始める。
「死ね! 伊達の末裔よ!」
一斉に兵士たちが女武士に襲いかかる。
伊達の……末裔?
過去の異世界転生者の……子孫?
英雄の子孫が今殺されかかっている?
頭の中に駆け巡る思い。
遅れて兵士を制止するために動く。
「や、やめ……」
手を伸ばす。
しかし――
「縷月流・満月」
円を描くように体を回転させ、一閃を繰り出す。
刀閃の部分から、時空が裂けるような一太刀。
兵士たちは声もあげずに上半身と下半身が分裂して崩れ落ちた。
紅葉に血が染み込んでいく。
女武士は刀の血を払って納刀した。
「あ……あなたは」
「ふぅ……まったく。王国のせいで身元が明らかになってしまったか」
木枯らしが吹き荒れる。
紅葉が散っていくと同時に網代笠が何処へ飛んでいく。
フワッと髪が舞い上がる。
黒……髪……!
「私は伊達彩葉。没落した英雄の子孫だ」
女武士はあくまで無表情で、そう答えた。




