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第二十一話 女武士

「むむむむむう」


 この5日間ほど、シュラハトの町中で聞き込みをしていた。

 町自体はさほど広くなく、戦いの歴史に詳しそうな道場を中心に回っていたが、人から得られる情報はほとんどなく、道場に置かれていた過去の武の歴史書からわずかに伊達政宗のことが書いてあるくらいだ。

 

「困ったね」

「うん、ほんとに困った」


 そんなこんなで僕とリビアは途方に暮れていた。

 

「けど変な話だね。一応この世界の救世主の話なはずなのに、ほとんど資料が残ってないなんて。なんか黒歴史にされてるのかな」

「確かに……鋭いね、リビア」

「またバカにしてる?」

「してないしてない」


 思えばそうだ。

 世界が消滅する危機を救っているのに、記録に残らないなんておかしい。

 むしろ銅像が建てられていたっておかしくないはずだ。

 何か不都合なことでもあったのか――

 けど、今は気にしてもしょうがない。大事なことは伊達政宗がどうやって魔神軍と対抗していたのか、だ。

 

「わぷっ」


 2人して考え事をしながら歩いていたからか、リビアが何者かにぶつかってしまった。


「うー、ごめんなさい」


 ちゃんと謝るリビア。外面はいいんだよな。


「………………」


 相手は、なにも話さない。

 網代笠を目深に被り、白の着物に灰色の袴、腰には刀を差していて、侍のような出立ちだった。

 この世界の文化を全て見たわけではないが、こんな昔の日本みたいな文化、あったかな。

 身長は僕より少し低い、160cmほどか。

 けど、並々ならぬ圧力を感じる。

 シュラハトの戦士の1人か。


「あの……?」


 ぶつかって何も言わずに去っていく人は大勢いるから特に気にしないが、ぶつかって何も言わず、目の前に立ちはだかる人はそう多くない。

 僕の問いかけに、相手は顎を少し上げた。

 見下されているのか。


「黒髪……か」


 一言、女性のような高い声で呟き、僕の横を通り過ぎようとした。


「ちょ、ちょっと待ってください」

 

 振り返り女性の肩を掴もうとする。

 刹那。

 抜かれていた刀。

 目の前にリビア。

 リビアの大事なステッキ。

 見事に真っ二つ。

 ポスン、とステッキの上半分が敷き詰められた紅葉の地面に突き刺さった。


「リ、リビア……?」


 今の僕では、なにが起きたか理解ができなかった。

 いきなり刀を抜かれて、それをリビアが助けてくれた……構図か?

 そんなにリビアの反射神経はよかったっけ。

 出会った頃はイノシシにすらビビっていたのに。

 女性は居合い切りを行った後の体勢から動かない。

 リビアは――


「いきなり刀を抜くなんて、とんでもない人だね」


 パタパタッとリビアの足元に、鮮血が飛び散る。

 額を拭っているところから、斬撃は額を掠めたのか。

 

「私に触れようとしたからだ」


 興味が失せたと言わんばかりに、刀を納めて後ろを向く。

 

「殺されたくなかったら、私に近づくな、勇者そして……鍵の少女」


 そう言って女性は姿を消していった。

 僕が勇者だと分かったうえで攻撃を仕掛けてきた。

 魔神軍の味方をする人間……なのか?

 それにしてはかなりの強さ。大和さん並に強いんじゃないか。

 なによりリビアを知っている素振りだ。

 ――鍵の少女。

 追いかけて話を聞きたいけど……それよりもリビアだ。


「リビア! 大丈夫か?」


 回り込んで正面からリビアを見据える。

 

「強い……けど、こんなもんじゃないだろう?」


 ペロリと口元に垂れた血を舐めとるリビア。

 人が変わったかのようだ。

 見た目はそのままだが、雰囲気や表情がいつもと違って凛々しい。


「リビア!」

「……ひゃうん! おっきな声出さないでよ、ロッカク!」

「元に戻ったか?」

「元に……? あれ、さっきの人いなくなってる!」


 記憶がない――

 前にリビアは言っていた。

 記憶が入り込んでくるようだと。

 見えざる神話(メソロジーク)の頃の記憶が徐々に戻ってきているのか。

 今は……どうすることもできない。


「あの人なら去っていったよ」

「ふぇー! なんも言わずに立ち去るなんて酷い人!」

「本当に酷い人だね」


 リビアの額の傷のこともあるし、一旦シュラハトガーディアンの道場に戻ろう。

 そして必ずあの女武士から話を聞き出さなければ。

 なにか重大なことを知っているはずだ。

 リビアの額を学ランで拭いながら、道場を目指した。

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