第二十話 病床
終わってみれば、大した被害は出なかった。
怪我人は出たものの、死者は出ず、建築物も控室が破壊されたくらいだった。
しかし――
レイザーさんや大和さんは、外傷より心に負った傷が深いだろう。
シュラハトガーディアンの道場の中にある、医療室の椅子に僕とリビアは座っていた。
ベッドにはレイザーさんと、大和さんが眠っている。
「大和さん……」
拳を堅く握りしめる。
大和さんはなぜ特攻したんだろう。普段冷静な大和さんらしくない。
蚊帳の外に心底腹を立てていたのか。
特別――
大和さんの過去に何が合ったんだろう。そこまで自己卑下する必要なんてないのに。
人は――生まれながらにして特別だ。
「まったく、ヤマトもレイザーも無理しすぎだよ……見ただけで分かるじゃん。あんな化け物、勝てるはずがないって」
リビアは悪態をつきながらも、肩を震わせている。
視るまでもなく理解したのか。元仲間だから知っていたのか。
「魔神軍……見えざる神話って、一体なんなんだ?」
思えば、ウリィは500年前のことを知っていた。シヴァイザは10年前からここにいた。
あれ、おかしい。ウリィは復活しているから前のことを知っていて納得できるが、シヴァイザは10年前からここにいたという。つまり、500年前倒されていない。
それにシヴァイザは言っていた。発端を聞くべきだと。
ただ世界征服を企む奴ら、ではないのか。
発端――
人間離れした強さのモノが生まれた理由……か。
「ごめんね、ロッカク。あたし、なんにもできなかった」
リビアは項垂れながら僕に謝る。
違うよ、リビア。
本来なら、魔神軍を止めるのは僕なんだ。
動けなかった。
怖かったんだ。
恐怖で体が動かないなんて今まで経験したことがなかった。
余りにも力不足。
余りにも――無力。
「リビアが悪いわけじゃないよ……僕が弱いからいけなかった。ごめん、リビア」
2人で向かい合い謝罪し合う。
「ったく、傷の舐め合いしてんじゃねぇよ」
目を覚ましたのか、大和さんはゆっくり起き上がって開口一番怒られた。
「大和さん……大丈夫ですか?」
「みりゃあ分かるだろ。軽傷だ軽傷」
「なら早く起きてよね! まったく」
「うるせぇ」
額に巻かれた包帯を指差す大和さん。
流れるようにタバコを吸い出す。
とりあえずは大丈夫そうだ。
「……強かったな、あいつ」
「ええ」
「視えたか?」
「少しだけ……スキルはわかりませんでしたが、攻撃のステータスは1580とでてました」
「1580……ね。化け物じゃねぇかよ」
わざとらしくタバコをふかす大和さん。
「分かってたことだが、俺は対魔神軍では何の役にも立ちやしねえ。笑えるぜ」
「1番しょぼくれてんのはヤマトじゃん」
「大人にはそういうときもあんだよ」
「キー! また子供扱いして!」
大人と子供の頬のつねり合いがまた始まっている。
もう付き合ってしまえ。
そして淫行条例に引っかかってしまえ。
羨ましくなんかないぞ。
「ここまで規格外だとは思ってなかった。仲間を集めると共に、俺ら自身も強くならなきゃならねえ」
「でも……僕らのスキルは頭打ち……どうしようもないですよ」
「……それを考えるしかねえ……それに、可能性がないわけじゃねぇ」
「え?」
僕らのスキルの可能性……?
大和さんは何か掴んだのか。僕には見当もつかない。そんなことも言っていられないけれど。
「1週間も休めば、完全に回復する。それまでの間に考えようぜ」
「……分かりました。僕のほうでも考えてみます」
僕は席を立つ。
これ以上は怪我に触るだろう。
「リビア、行くよ」
「うん……お大事にね、ヤマト」
「リビアに心配されるなんて、明日には本当に死んじまうかもな」
「キー! バカヤマト!」
なんちゅう小競り合いだ。
僕はリビアを羽交い締めにして病室を後にした。
僕たち異世界転生者の可能性――。
探ってみなければ。
誰か500年前に詳しい人もしくは、文献があれば参考にしたい。
武に詳しいシュラハトなら、500年前伊達政宗がどうやって戦っていたのか、残っているかもしれない。
守るどころか動くことすらできないなんて、そんな悔しい思いは1度で充分だ。
必ず――強くなってみせる。
僕たちはシュラハトで500年前について調べることにした。




