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第十話 第2の結界師 前編

 翌日、僕とリビア、大和さんは結界師がいる祠を目指して歩き始めた。

 幸いなことに、大和さんは食料を持ってきてくれた。「なんも準備しねぇで魔神討伐とは呆れるな」なんて悪態をつかれてしまったが。


「見えてきたぞ、あれだ」


 そう言って大和さんが指を差した先に、目当ての祠があった。

 まるでトンネルのように先が見えないが、サイズ的にこじんまりとしていて、最奥まではすぐに辿り着きそうだ。第1の結界師のときと違って、雑魚にいらぬ邪魔をされる心配はない。


「俺がここにきて数日でできていた。何のためのものか全くわからなかったが、あれが魔神城を守るための結界師がいる場所なのか」


 大和さんは肩を震わせて話す。

 怒りに満ち溢れているようでもあり、何もできずに歯痒い思いが溢れているようにも見えた。


「よーし、じゃあ結界師倒しに行こー!」

「おい、蔵王。何なんだこいつは」


 歩を進める僕たちを制す大和さん。

 ……説明に困るんだよな。


「えっと……この娘は……」

「こいつじゃないもん! あたしはリビア・シュビレーって名前があるんだから!」

「そういうことじゃねーよ。明らかに非力そうな奴連れてきてどうすんだってことだよ」

「むー! それを言うならヤマトは魔神軍相手にはあたし以上になんにもできないじゃん!」

「ぐっ……!」


 額を擦り合わせるように睨み合うリビアと大和さん。なんというか、馬が合いそうな感じだ。あえて僕が何かを言う必要はないだろう。


「ほらほら、遊んでないで行くよ」

「遊んでねぇよ!」

「遊んでなんかない!」


 2人から同時に反論された。

 やれやれ、仲良きことは美しきことかな。


 

 ◇



 祠の中は隣の人が見えないほど暗闇だった。

 リビアのスキル《ファイア》で辺りを照らす。


「ここから先は、リビアは最大限大和さんの援護にまわってくれ。不意打ちの可能性は否めないからな」

「むむ……りょーかいだよ」


 リビアは不満そうに頬を膨らませて抗議の目を向けてくるが、僕が分かりやすく顔を背けて無視したため、渋々分かったようだ。

 壁面と天井面は肌が触れたら傷つきそうなデコボコの石造りだ。

 ただ暗いだけで、道は一本道だから迷いようは無い。この分なら伏兵の心配もなさそうだ。

 数十分程歩いただろうか。

 ようやく光が漏れる広間を発見した。


「ふん、ここがゴールってわけか」

「恐らくここに結界師がいるはずです。注意して行きましょう」


 僕を先頭に、広間へと足を踏み入れる。

 広間は体育館ほどの広さで、周り一体に灯台がズラリと並べられていた。

 その奥に、腕を組んで待っている男がいた。


「クックック、よく来た黒装束(ブラッククローズ)御一行。俺の名はウリィ」


 不敵な笑みを浮かべて語りかけるウリィ。

 全身茶色のチャイナ服のようなものに身を包み、茶髪を結えたポニーテール姿は、拳法家のようだった。

 何より無視できないのは、あの蛇のように鋭い目つき。蛇に睨まれた蛙とはよく言ったものだ。もっともその100倍は状況が悪いが。

 なんたってこいつのステータス……。


《スキル》

破壊の鉄拳(デストロイパンチ)

鉄壁の構え(コンバートガード)


《ステータス》

《攻撃 95》

《防御 95》

《魔法攻撃 0》

《魔法防御 0》

《敏捷 95》

《特殊 20》


 物理特化のパワータイプ、しかも高水準。

 僕との差は5しかない。2人目の結界師でこんなに強いのか?


「なに視てるんだよ。早くファイトしよーぜぇ! こっちは待ちくたびれてるだからよ」

「な……試合かなんかと勘違いしてるのか?」

「ん? 俺は別に征服とか興味ないしな。ただ強い奴と闘いてぇ。それだけだっていうのによー、こんな結界師に任命されちゃったから、動けなくて退屈してた訳。ま、500年前からこの役割だったし、不満はないけどな」


 口角を上げて笑うウリィ。

 こんな奴も魔神軍にはいるのか。征服に興味がないって、どういうことだ。本当に上の奴らしか統率が取れていないのか。


「難しいこと考えんなよ。お前が思うように、俺クラスの奴らには対して難しい指令も、信念も伝えられてねぇ。けど、この大陸を一旦ぶっ潰さなきゃいけねぇってことは言われてるけどな」

「理由も何もないのに、お前はこの大陸を征服するのか」

「その過程で強い奴と闘えればそれでいいんだよ。ククク……思い出すぜ……500年前を……。あいつは強かったな。さあて、今回の勇者はどうなんだ?」


 急に圧力が増した――!

 広間全てがウリィの気で包まれているようだ。

 息が詰まる。上手く呼吸ができなくなる。

 対するウリィは蒸気機関車のように体から煙が出ている。

 殺気というにも生温い。

 抑えきれない戦闘衝動。

 今にも飛びかかってきそうだ。


「連れ2人を早く外に出しておいたほうがいいぜ……巻き込まれて死にたくなかったらなッ!!!」


 話終わるや否や、眼前に右ストレートが飛んでくる。

 バックステップでは避けきれない。

 左へのサイドステップで躱す――


「グァッ!」


 すぐさま左のショートフックに捕まる。

 せっかく治してもらった肋骨がいとも簡単に折れた。

 《勇者(フェイト)物語(オブレジェンド)》によって能力値全てがマックスだというのに、なんていう力。

 能力値以上の強さを感じる。


「オラオラオラァ!」


 ワンツーから左のアッパーは全弾避けることが敵わずに顔面に貰い続ける。

 鼻の骨はイッてしまった。

 僕のパンチは上体逸らしで全て避けられてしまう。

 僕の方が能力値は高いのに、この差。

 ステータスに影響のない、戦闘経験の差だ。

 相手のボクサースタイルは完成されている。打撃の攻防に全く隙が見当たらない。

 風を切り裂く程の速度と威力の拳。

 あっという間に壁面まで追い詰められた。


「んだよ、全然なっちゃいねぇじゃねーか。勇者の力もこんなもんかよ」


 両腕を広げて呆れたように呟くウリィ。

 くそ。だが、ウリィの魔法防御の低さは視ている。

 どこかでブチ込めれば、一気に形勢逆転だ。

 だが――


「底が知れたな。ならこいつで決めてやるぜ」


 途端に右拳が輝き出す。

 足元の地面に亀裂が入るほどの踏み込み。

 眩い閃光と共に撃ち込まれる右ストレート――!


「これで終わりだ! 破壊の鉄拳(デストロイパンチ)!」


 回避は不可能。

 ガードは……スキルを使う間もない。腕を折り畳んで顔面を守る。

 ゴキャ。

 と腕の骨から鈍い音がする。

 両腕の肘から先が曲がるはずのない方向へ変形する。

 言ってみればただの右ストレート。そのはず。

 しかし――。

 腕を破壊した右ストレートは頭蓋骨をも破壊し、岩で作られた壁面も破壊し尽くした。

 インパクト時の轟音と共に、一旦、僕の意識も途切れた。

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