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第一話 勇者誕生

「……きて」

 

 誰かに話しかけられている。


「……起きてください」


 これは、起こされている?


「起きなさい!」

「うおお!」


 耳元で怒鳴られて体をガバリと起こす。

 目の前に広がる光景は、目を覚ます前とは全く別の世界だった。

 赤色の絨毯、真紅のビロードで覆われた壁、高い吹き抜けの天井から吊るされたシャンデリア、そして目の前の数段ある階段の先には玉座と思われる仰々しい椅子に、そこに座る王冠を被った長い口髭を蓄えた男が座っていた。

 何もかもが僕の記憶にはない。

 なぜ僕はこんなところで倒れているのか。

 服装は、僕の記憶が途切れる瞬間まで着ていた、至ってノーマルな学ランだ。

 思いだそうとする。

 そうだ、僕は――


「何をボサッとしているの! シャキッとしなさいな!」

 

 隣に立つ、恐らくは王女であろう金髪の少女に起立を促される。

 一体ここはどこなんだ。


「まったく……今回はちゃんとした人なのでしょうね」


 金髪の少女は僕をジロジロ見る。


「変な黒い服に、キノコみたいな髪型ですこと」


 とっても失礼なことを言われている気がする。


「あの……すみません」

「なんですか」

「何一つとして状況が飲み込めないんですけど……この状況は一体なんですか?」


 僕は頭を掻きながら努めて笑顔で質問する。


「その質問には私が答えよう」


 そう言って、玉座から立ち上がった王様のような男。


「まずは挨拶からしよう。私はこの国、パラストブルクの国王、ゴーズ・カイザニス。そして君の隣にいるのが私の娘、クラリス・カイザニスだ。すまんな、娘は少々気が立っていてつい怒鳴ってしまった。私から非礼を詫びよう」

「お父様!」

「静かにしなさい!」

「……はい」


 異国の地で親子喧嘩を見るなんて、なんだか変な体験だ。

 怒られたクラリス姫は頬を膨らませて僕の隣でじっとしている。


「端的に言うと、君は異世界転生したのだ」

「異世界……転生」


 異世界転生。

 この漢字五文字が僕の脳内をスーパーボールの様に飛び跳ねる。

 これってもしかしてあれだ。僕は選ばれし勇者で、国のために魔王を倒すという、みんなのために活躍できる最高の舞台なのでは?

 それで僕がカッコよくこの世界の窮地を救って、このパラストブルクすべての人を救うことができるのでは?

 ライトノベルでよく見た光景だー!

 僕の瞳が輝きに満ち溢れていたのか、若干ゴーズ国王は引き気味だ。

 ゴーズ国王はコホンと咳払いをして話を続ける。


「今このパラストブルクは、復活した魔神軍に攻められていてな。500年前にも同じようなことがあり、その時にも転生を行い、そのお方に救ってもらったとの記録が残っていた。それで今回も呼び出したのだ」


 やっぱりだー!

 小躍りを踊ってしまうくらいには嬉しい。

 選ばれし僕の手で、何千人、いや、何万人もの人々を救えるんだ!


「……随分と落ち着きがない転生者だな。それに500年前の転生者とは姿が全然違うように見える。同じところは……髪が漆黒であることくらいか」

「この世界では髪の毛が黒い人はあんまりいないんですか」

「あんまりどころか1人もおらん。いや……1人、いるか」

「1人?」

「いや何でもない。それよりも、君の名前は?」

「僕は、蔵王六角(ざおうろっかく)です」

「ザオーロッカクか。うむ」

 

 感慨深いように僕の名前を聞いて頷くゴーズ国王。


「変な名前でした?」

「いや、名前に関してはクリアだな、と思ってな」


 とすると、500年前の転生者も日本人ってことか。髪の毛も黒いって言っていたし。


「その500年前の転生者ってどんな人だったんですか」

「うむ、記録によると、我が国の甲冑とは違う黒い甲冑を身に纏っており、カブトにはミカヅキなるマークがついていたと。それに片目が潰れておったとの記録もある。病気で無くしたそうだが、本人は豪快にそのエピソードを語っていたそうな。確か名前は、ダテマサムネ、という名前だった」


 待て待て待て待て待て。

 伊達政宗も異世界転生していた!?

 これはビッグニュースだ。日本に帰ったら歴史の教科書を変えてもらわなくては。


「知っておるのか?」

「知っているもなにも、僕の国、というか僕の地域のスーパースターと言っても過言じゃないですよ!」

「なんと、それなら期待できそうだな。クラリス!」


 しょぼくれていたクラリス姫は呼ばれて顔を上げる。


「はい」

「ロッカクのスキルを見てみなさい」

「分かりました、お父様」


 スキルか。

 この展開は予想がついていた。

 大体こういうときに、勇者としての適正スキルを持ち合わせてチート級の力を発揮するってものだ。


「それではロッカク。人差し指を出して、空中に上から下に線を引くイメージで指を動かしなさい」


 言われるがままに指を動かす。

 心臓の鼓動が収まらない。

 指を動かすと現在のステータスが空中に表示される。

 

「こ、これは!」

「もしかして、凄いスキルを持ってましたか?」

「お父様、この方こそ間違いなく探し求めていた勇者です!」


 なぜか僕の質問は無視されてしまったが、まあよしとしよう。

 一体どんなスキルなのか。

 目の前のステータスを読む。


《スキル》

勇者(フェイト)物語(オブレジェンド) 勇者としてのスキル。全ての能力値がマックスになり、その能力値で行える基本的な戦闘スキルを全て使うことができる》


《ステータス》

《攻撃 100》

《防御 100》

《魔法攻撃 100》

《魔法防御 100》

《敏捷 100》

《特殊 100》

 

 神スキル&ステータスだ!

 これぞまさに勇者。

 

「おおっ!私が求めていた勇者様!」


 ゴーズ王もご満悦だ。


「それでは勇者様。その力、立ち合いにて見せていただきましょう」

「へ?」


 タチアイ……?

 タチアイってあの立ち合い?

 なんの戦闘技術もない僕が?

 伊達政宗のように戦場に出たことがあるわけでもないのに?


「どうかなさいましたかな」

「いえいえ、なにも。さあ! 僕を立ち会い場に連れてってください」


 後には引けない。

 やるしかないのだ。



 ◇



 立ち合い場といっても、王宮の外にある中庭のような場所であった。

 噴水をバック戦うなんて、なんだかカッコいいな。

 周りには鉄の甲冑を着込んだ兵士たちが集まっていた。

 ヘルムから覗かせる眼差しは皆一様に期待に満ち溢れているようだった。


「さて、フリスト隊長。どなたに立ち合いの相手を任せますかな」


 ゴーズ王はフリストと呼ばれる兵隊長に立ち合いの相手を選ばせていた。

 

「そうですね……副隊長に見せてもらいましょうか」


 銀髪のフリスト隊長は、その長い髪を払ってそう答えた。

 長身に加え、甲冑の上からでも分かるあの大きな乳房は、きっと男性諸君は大喜びだろう。

 フリストに呼ばれた副隊長は、僕の3m先まで出てきた。


「では勇者様。力を見せてくだされ」


 スッと周りが静かになる。

 期待。

 ここまで大きな期待をかけられたことがあっただろうか。

 眼前の相手を見る。

 副隊長と呼ばれた男は屈強な肉体をしており、身長は2mを超えているであろう巨体だ。

 副隊長は剣を上段に構えてそのまま迫り来る。


「ハイヤーー!」


 その叫び声だけで圧倒されかねない。

 しかし、思い出す。

 自分のステータスを。


《防御 100》


 そして、スキル《全透視(シースルー)》によって視える相手の能力値。

 

《攻撃 15》


 あれ?

 なんだ、この程度か。

 迫る刃。

 しかし僕は避けることも守ることもせず左肩で受け止める。

 風圧により周りの兵士たちは腕で顔を覆っている。

 そんな過剰に反応するものか?


「ヌッ!」


 副隊長は驚き声を上げる。


「どうしたんですか? 全然効かないですよ」


 僕は素直な感想を述べる。

 それを聞いて肩をワナワナと震わせる副隊長。


「舐めるなよ!」

「副隊長!」


 フリスト隊長が制止の声を上げる。

 恐らく何か大技を繰り出すのだろう。

 

大爆発(エクスプロージョン)!」


 左肩に置かれた剣が突如発火する。

 僕は平気だが、こんなところで大爆発されたら周りに被害が及ぶ。

 ()()()()()()()()()()()()

 僕は右手で剣を掴み爆発を手の中で消失させる。


「おお?」


 副隊長は僕の顔と剣を交互に首を動かしながら見ている。

 次はこっちの番だ。


「とりゃ!」


 ただ目の前に拳を突き出す。

 パンチの打ち方を知っているわけではないが、体が自然に動く。

 瞬間――

 轟音と共に目の前の副隊長は城を貫き、そのまま明後日の方向へと飛んでいってしまった。

 雲が割れていく様を皆で見届けた後、歓声が湧き上がる。


「500年前の勇者様の再来だー!」

「これで魔神軍も怖くないぞー!」


 兵士たちは口々に僕を褒める。

 あんなに簡単に人が吹っ飛ぶんだ。魔神も楽勝だな。


「さすがは勇者様。これで我が国も安泰です」


 ゴーズ王からもお褒めの言葉を預かる。

 僕が本物の勇者と決まれば、後はもう魔神城に乗り込むだけだ。


「王様! 魔神はどこにいるのですか?」

「む、そうだった。どうやって魔神を倒していただくか、ご説明がまだでしたな」


 そう言ってゴーズ王は兵士から巻かれた地図を開く。


「このパラストブルクは正方形の大陸でしてな。正方形の中心から見て下にあるのがカイザニス王国になります。そして正方形の中心にそびえ立つものが魔神城になるのですが……」

「どうしました?」

「強固な結界が張られており、勇者様といえども、侵入できないのです。そして結界は、四隅にある結界師を倒さねばなりません」

「なるほど……」


 僕は地図を受け取り、畳んでポケットの中に入れた。


「王国から見て左方面にある第一の結界師が近いのでそこからいくと良いでしょう」

 

 行くべき道は決まった。

 なぜこんなところに飛ばされたのか。

 どうしてこんなことになっているのか。

 謎はたくさんあるけれど、人助けができるなら文句ない。


「よし、それじゃあ行って参ります! ゴーズ様!」


 こうして僕は、カイザニス城を後にした。



 ◇



「こっちの世界も、夜は明るいんだなあ」


 窓の外を覗きながら1人呟く。

 城下町に一晩宿をとって休んでいた。

 木造で作られた宿で、ベッドに机、トイレとシャワーという簡素ながらもありがたい。

 さらには勇者という触れ込みがパラストブルク全土に広がっているらしく、無料で利用できた。

 外は浮遊しているガラスの球が至るところにあり、そのガラス玉の中で火が燃えていてそれが灯りとなっていた。

 この世界では、カイザニス王国に設置しているオートマティックスキルマシンによって、水や火を扱っているらしい。

 本当に全く別の世界に来たんだなあ。

 物思いに(ふけ)っていると、ガラス越しにおばあさんが自分の体よりも大きい荷物を今にも倒れそうな棒切れのように運んでいるのが見えた。


「おばあさん!」


 そんなおばあさんを見過ごせる僕ではない。

 窓を開け放ち、2階からジャンピング!

 カッコよく着地を決めるはずだったが、急に力が入らずに着地に失敗し盛大に転げ回る。

 おかしい。

 僕はジャンプが不得手なんだろうか。

 そんな僕をおばあさんは心配そうな眼差しで見る。

 僕はお尻の土を手で払い、サムズアップで答える。


「そんな重そうなもの1人で運んでちゃダメですよ。手伝いましょう」

「あらあら、勇者様、よろしいのですか? そんじゃ、この大通りの突き当たりまでお願いしようかしらねえ」


 おばあさんはしゃがれた声で荷物を僕の前に荷物を置いた。

 

「よっしゃー!」


 持ち上げる。

 持ち上げる。

 持ち上げる。


 はて、ピクリとも動かない。

 なんだか腰が痛くなってきた。

 ってこれじゃあ僕が老人じゃないか!


「勇者様?」

「はは、ここからが本番です」


 あたかも余裕があるかのように振る舞う。

 いやいや、本来なら余裕で持てるはずなんだ。あんな巨体を軽く吹き飛ばす力があって、こんな荷物1つや2つ持てないはずがない。


「フンガー!!!」


 マックスの力を込めて持ち上げようとする。しかし荷物は地面の上で鎮座したままだった。

 馬鹿な。

 慌ててスキル《全透視(シースルー)》を使用して重量を視ようとする……が。

 これも使えない。

 なんでだ!

 指を空中で動かしステータス画面を見る。

 ここで、僕は初めて気付いた。気付いてしまった。

 打倒魔神への道のりは、長く険しいということを。


《スキル》

慧可断臂(サイドロック) 魔神討伐のために必要ない事柄の場合、能力値が全て1になる》

 

「なんじゃあこりゃーーーー!」


 僕は雄叫びを上げて膝から崩れ落ちた。

道化王NOZAだぁ。

腰痛に耐えながら最新作を書きはじめました。

初めての異世界転生、僕なりの異世界転生です。

不慣れな点が多々あるかと思いますが、生暖かい目で見ていただければ幸いです。

まだまだ心身共に不調ですが、頑張っていきます!

よろしくお願いします。

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