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憧憬

作者: 瀬川なつこ
掲載日:2020/12/13

懐かしい町の、幻想。

貴方の隣に、黒い影。それは想い出の亡霊。

懐かしさは、郷愁だ…

明後日の方角から、ボールが転がってきた。

誰が転がしたんだろう。

もしかして…死んだ人?

道路に落ちた麦わら帽子や片方だけの靴は、物言わず亡くなった人を思い出させる。

ふ…と影が、街角の隅のほうで動いた気がして、

みんみんと蝉の音が降ってきて、耳鳴り――———夕立。

さっきのはなんだったんだろう。

西瓜を食べながら、僕は卒塔婆の前に立った。

先ほどまでの僕とは違う。僕は、もう以前には戻れない

さあ行こう、影の世に…。



夏の路地。水撒きをする人。

通りかかる自転車。

かき氷屋さんの暖簾。

おや、あなたは、いつぞやかの…。

知らない人が、まるで自分と同じ顔をしているドッペルゲンガーとの再会。

帰れなくなるよ。

宿場町の闇。

その、人さ差し指の赤い糸は何?

通りゃんせ通りゃんせ、秘密の呪文を唱えながら。


夢のなかみたいだ。

桜の木の下で、妖女が舞っている。

彼女は、夢の住人。

かそけき足音。

子供たちが、風車を持って走ってくる。

宿場町幻想。

川では鯉たちが、涼を取っている、

夢のまにまに。


懐かしい宿場町。

夏の足音、トンカラリン。

風車が廻って、想い出の小径を歩きます。

知っているかい、鬼やらいの運命を。

悲しい、鬼のみなしご。

小鬼が桜の木を持ってよちよち歩いてきます。

夏の通り道。


ブリキのおもちゃ。

懐かしい記憶。

宿題は置いてきたまま。

片足だけのけんけんぱ。

緩やかな坂道を駆けあがる。

上った先の立ち昇る入道雲。

いらかの群れ。

紙飛行機の舞う宿場町。

やらなければいけないことを置き忘れたまま、私は宿場町の住人になりました。

風の風紋。射干玉の夕月。



思い出しても、思い出しても、片方なくした靴が、みつかりません。

そのころその靴は、宿場町の片隅で、やせ衰えた犬が咥えている。

不思議は、ちょっとしたところに隠れている。

夢の後先。

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