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第18話 ハーレークインたちの外交儀礼は我田引水

――ハーレークイン小隊を陥れた統合参謀本部の主戦派たちとの決戦が始まる。ヨハンのアルファチームは建物の屋上に落下傘降下という、無謀の一言では足りない作戦を敢行。そして別の場所ではソフィアやミリアムとシニアも各々の任務に従っていた。ただ一人、屋上への降下に失敗したヨハンは、そのまま統合参謀本部のビルに正面から戦いを挑む。ついに彼は武器を捨てざるを得ない窮地に……しかし、それは敵を欺くために彼が仕掛けた、やや気狂い沙汰の罠だった。

(いや)――絶対に嫌」

「嫌もピエロもないんだよ――命令だ。やれ」

(いーや)っ」

 ヨハンの肩の上で、ソフィアが断固として拒絶(きょぜつ)しているのは――彼が立てた作戦に反対しているためだ。

 より正確に言えばその編成(へんせい)に彼女は納得がいかないようだった。

 二人は今、ヴァージニア号の蓄電(ちくでん)と味方との再編成のために浮上(ふじょう)した潜水艦(せんすいかん)のデッキにいた。

 ヘンドリクセンとともに彼が立てた作戦は、三つに部隊を分けて遂行(すいこう)される。

 第一班、アルファはヨハンが指揮(しき)()る。

 その下にハーレークイン小隊の中で継戦能力(けいせんのうりょく)に問題ない六人の下士官(かしかん)が付き、統合参謀(さんぼう)本部に空挺(くうてい)による奇襲(きしゅう)をかける。

 第二班、ブラボーはミリアムが指揮し、シニアと小隊の残った二人の下士官をつけ首謀者(しゅぼうしゃ)身柄(みがら)を確保しに行く。

 そして第三班、デルタはヘンドリクセンと彼が(ひき)いるアルレッキーノ分遣隊(ぶんけんたい)が、陽動(ようどう)作戦を行う。

 その(さい)に、デルタは帝都の通信を掌握(しょうあく)する必要があり、ヨハンはこれをソフィアに(まか)せようとした。

 ところが妖精(ようせい)の少女はこの決定に反対だと表明――怜悧(れいり)にして合理的、辛辣(しんらつ)ながらも従順(じゅうじゅん)な彼女は理屈(りくつ)()えて、隷属(れいぞく)していると言い続けた相手の命令を拒絶した。

 つまるところ、ソフィアは駄々(だだ)をこねている。

「……上陸まであと九時間だぞ」

「なら、九時間かけて私を説得して――そうしたら(したが)う。でも、今は嫌って言う。だって嫌だから」

「うーわ、面倒くさ――まるで、その気にさせておいて、電気を消したら〝やっぱダメ〟とか言い出す()()()じゃん。()()だから処女の()()をしたくないんだ。そもそも、なにがそんな嫌なんだよ? 別に、一人ぼっちで留守番させようってわけじゃないんだぜ。それどころかお前さんのチームが一番、頭数が多いじゃねえか? それに……」

「でも、あなたがいない――少尉(しょうい)も他のみんなも」

「そういう作戦なんだから、仕方ねえだろ――お前さん以外の誰にできるんだよ? 俺たちの端末水晶(SINCGARS)の通信をチームごとに統制(とうせい)しながら中継(ちゅうけい)し、帝都の全通信網を傍受(ぼうじゅ)しつつ、暗号鍵を解読したり任意の敵に欺瞞情報(ぎまんじょうほう)意図的(いとてき)に流したりなんて、人間に絶対不可能な真似(まね)が。それに、()()()防衛(ぼうえい)すんのに、ヘンドリクセン中佐の部隊じゃなきゃ人数が足りないし」

 ヨハンはあらためて、ソフィアがなぜデルタチームに必要なのかを()いた。

 しかし、彼女は耳を引っ張って(ささや)くように言う。

()()()()()()()()()()――だから、それ以外のことを教えて」

 肩をすくめて、ヨハンは細巻きを口にした。

 それを目にしたソフィアが(ちゅう)に浮いて指先に火を(とも)した。

「……」

 二つの小さなルビーの結晶が射抜(いぬ)いてくる――その奥には、ただ一人の部下も説得できない、情けない顔をした無力な指揮官(ヨハン)がいた。

「だって俺、女の子を口説(くど)くなんて()()()()()()もん――まず店に行くじゃん? で、好みのお(じょう)を指名すんじゃん? 六〇分コースで。で、終わったら金を払って〝またよろしくね〟でバイバイだ」

「指名……?」

「ああ、そうか――お前さんは娼館(しょうかん)なんて入ったことないか。〝ウィアード〟って酒場の二階にいい店があるから、こんど()()()()に行くか?」

 ソフィアは首を振った。

(ちが)う――あなたが女の子の名前を呼んでいるところを()()()()()()()

 そう指摘(してき)されたヨハンは、口の(はし)に細巻きと軽口をはさみながら言う。

源氏名(げんじな)なんて通信の呼出符丁(コールサイン)みたいなもんだろ――本名なんて、知ってたって呼ばねえよ。それが、ああいう場所での外交儀礼(がいこうぎれい)だろ? 例えばほら、たまたま入った店に小学校の同級生が()()()してて……」

「どうして?」

「いや、だからあ、別に深い意味なんかないって」

「違う――どうして、あなたは私や少尉のことを名前で呼ばないの?」

「……それは、まあ――いろいろ俺にも思うところが、あるし?」

(こわ)いから?」

「俺が? お前さんたちを? んなわけねーだ……」

「私たちを(うしな)うのが怖いんでしょう――ノイエシュタイン城のときみたいに」

 ヨハンの軽口をソフィアの抑揚(よくよう)(とぼ)しい一言が切り()いた。

「……」

 押し黙った彼がなにかを言い返そうとしたときに、海風が細巻きを(うば)った。

 デッキに落ちた細巻きは回転しながら火の()()らした――勢いはとまったものの、そのまま転がるようにして潜水艦の(ふち)から海の中に音も立てずに落ちて(しず)む。

「あなたの神経症的(しんけいしょうてき)防衛(ぼうえい)の〝隔離(かくり)〟はとても(おさな)い――(うしな)うのが怖いから、自分から距離を置こうとしている。だから、私たちを名前で()ぼうとしない。(ちが)う?」

「やめろよ――精神鑑定(せいしんかんてい)なら受けたぞ。〝イカれてる〟か〝真面目に受けろ〟って言われちゃったけど。でも〝アパートで殺人を目撃したあなたを犯人が指さした意味は?〟なんて〝自分のいる階を(かぞ)えてる〟以外に、答えがあるか? 模範解答(もはんかいとう)は〝次はお前だ〟だっけ? 殺人の目撃者を放っておく阿呆(アホ)な殺し屋なんているもんか」

設問(せつもん)が悪い――私がもっと()()()を出す。〝あなたにとって、私はどんな存在なのか?〟これに()()()()()

 ソフィアが命令形でヨハンに物申(ものもう)したのはこれが初めてのことだ。

「んん――〝どんな〟って、そりゃ空気みたいなもんかな」

 ヨハンの回答は例によって彼らしい(つか)みどころに(とぼ)しいものだったが、妖精(ようせい)の少女は()()には反応せ確認するように()く。

「空気は軽いってこと?」

「かもなあ――だって、妖精族っつうのは、()()()が体重の単位だろ。お前さんは二とコンマ六だっけ?」

「二・五八――空気は透明(とうめい)?」

(ちが)うだろ? いや、なんとなく――季節(きせつ)によって()()()()()()()じゃん?」

 ソフィアは(むね)の前で両腕(りょううで)を組みながら、頭を左右に(かたむ)けている。

 その間にヨハンは新しい細巻きを取り出して、マッチで火をつけた。

()()()()はまだ来ねーのかよ――空挺(くうてい)できねえぞ。っていうか、なんで俺がアイツに頼らなきゃなんねえんだろうなあ……? 降下(こうか)上手(うま)いことやってのけることしか考えてなかったけど、よくよく思えば、すげーむかつく。なにが嫌って、他人の力を()()()()なんて俺らしくないもん」

 その、(ひと)(ごと)の形をした愚痴(ぐち)を聞きつけたソフィアが瞠目(どうもく)した。

 妖精族である彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()、気づくのが(おく)れたそうだ。

 ソフィアは自分の定位置と(しょう)するヨハンの肩に(もど)って、

()()()()()()()()()()()()()――でしょ」と(ささや)いた。

(ちが)う! いや、ほんとマジで違うから!」

 ソフィアはヨハンの肩を()って、宙に浮きながら彼に指を()きつけて指摘(してき)する。

「また〝隔離(かくり)〟してる――つまり私は正解。あなたにとって、私は軽くて透明で意識しづらいけど、なくなると苦しくなる存在。あと、人間は空気がないと生きていけない。よって、あなたは私がいないと……」

「うるさい! (だま)れ!」

「こんどは〝打ち消し〟てる――でも、これで私は納得した。そのおかげでデルタチームに参加できる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()から」

 そこに、

「君たちの(むつ)み合いを邪魔をするのは――とても心苦しいのだが」と(つや)やかだが(うれ)いを(ふく)んだサムエルの声がした。

 二人が振り向くと、背中から六対の(つばさ)を生やした褐色(かっしょく)(はだ)の美少年が潜望鏡(せんぼうきょう)()()立っていた。

 この日の彼はカシミールゴートを混紡(こんぼう)した灰色の上下に、黒いシャツと同色の無地(ソリッドカラー)のタイを(むす)んでいた――足元もやはり黒で引き()めていたが、スエードのチャッカブーツを()いている。

 装飾(そうしょく)のための小物はごく(ひか)えめで、シャツのカフスは真珠(しんじゅ)で、タイピンは黒く()めてヘアラインに仕上(しあ)げた、自然界では最も(かた)い金属に分類されるタングステンだった。

 ヨハンたち(ハーレークイン小隊)の身に何が起きたのかを知ったものの、()()()()()()弔慰(ちょうい)を表明できない。

 そのために、外側は灰色で(よそお)いつつ、自分の()()()()()()()()()()()(つつ)意匠(いしょう)を黒いシャツとタイにしたそうだ。

 万国共通の常識(じょうしき)()えて(やぶ)り、黒いシャツを選んだところに彼の性格がよく(あらわ)れていた。 

「約束の時間だから()りてきちゃった――先に言っておくけど、本当は断るつもりで来たんだ。だって、仮にも魔界の貴公子であるこの僕を〝まるで()()()()()()()()みたいに(あつか)う〟なんて許せないし。だけど、()()で気が変わった。なんといっても、()()を先に頂いてしまったからにはね」

「お代?」

「悪魔の好物は、人の不快感(ふかいかん)嫌悪感(けんおかん)といった苦痛なんだよ――たったいま、()()()をたっぷり頂戴(ちょうだい)しているところさ。彼から」

 ソフィアが(となり)を見て()く。

「そんなに殿下(でんか)に会うのが嫌だった?」

 ヨハンは(こし)に差した拳銃(けんじゅう)から手を(はな)しながら、

「先に戻ってろ」とだけソフィアに言った。

「ん――殿下、()()ヨハンを助けに来てくれてありがとう」

 そう言って妖精の少女は水密ハッチから下に()りていく。

「さて、せっかくの君との悪巧(わるだく)みだ――この僕になにをして欲しいのか。()()()()()を言いたまえ」

 ヨハンはこれから行う作戦の概要(がいよう)と具体的な要望を()べた。

 そして、自分が何を(ねら)っているのかを。

「なるほど――実に君らしい。無謀(むぼう)だが効果的(こうかてき)で悪くないアイデアだね。いずれ、また帝国と戦争になったら、()()()()()()()()使()()()()()()()としよう。そのためにも、まずは君たちの戦争を手伝わなきゃね。ところで、話を戻すが君は〝叡智(えいち)〟を魔界の古代語(エンシェント)でなんていうか知っているかな? 君たちの古い言葉では〝アイオーン〟だったと思うけど」

()()()()

 ヨハンは――いまだに信じがたいことだが、彼は(めずら)しく正解を答えると魔界の王太子(おうたいし)は苦笑した。

 その後ろで潜水艦のハッチから(のぞ)く、透明(とうめい)(はね)が大きく()れていた。

 それからサムエルはこの世界の秘密をひとつ彼らに教える。

 魔界の古代語で叡智(えいち)を指す言葉――()()は、かつてこの世界で(あば)れた()()()()()()を制圧するために使われた、ひとつの極大呪文(アストロミックスペル)と同じ名称(めいしょう)なのだという。

「君はそのことを()()()()聞いていたのではないかな? だから、彼女の名を軽々しく口にしなかったのだろう――意外と奥ゆかしいところがあるん……」

 そう茶化(ちゃか)したサムエルの耳元を拳銃(けんじゅう)(たま)が通過した。

 このとき、ヨハンは()(ねら)ったそうだ。



 それから、ヨハンたちは少数のグループに()かれて帝都に上陸を()たすと、(あらかじ)(さだ)めた合流地点で再編成(さいへんせい)を行った。

 三〇人近くの人間が(つど)っても目立たない敷地(しきち)と設備、飛竜の発着が可能な広大な庭があり、なおかつ秘密の担保(たんぽ)が確信できる場所として選ばれたのは――ヨハンにとっては馴染(なじ)みの()()だった。

 エフライム(てい)家人(かじん)たちをいつもの口車に乗せて、ヨハンは家主(やぬし)が不在の邸宅(ていたく)をまんまと(かく)()補給拠点(ほきゅうきょてん)として活用した。

 準備を整えた彼らは、屋敷(やしき)の正面にある噴水(ふんすい)の前に集まった。

 整列する軍人たちから少し離れた場所に、サムエルは影のように立ってその様子を見守っている。

()()()()・スミス――今回は君に(ゆず)ろう。これは元々、諸君(しょくん)らの作戦の延長戦(えんちょうせん)だ。()()()()()は明朝まで残っている」

 ヘンドリクセンにそう(うなが)され、彼は出撃前(しゅつげきまえ)訓示(くんじ)を行うために一歩前に出た。

 居並(いなら)ぶ完全武装の兵士たちを前にヨハンは声を()る。

「ほんの一年前まで俺たちは魔界と戦っていた――それがどういうわけだか、(みょう)()()きで〝軍事(ぐんじ)独裁政権(どくさいせいけん)〟なんて面白そうなもんを作ろうと画策(かくさく)してる、()()()()と戦うことになっちまった」

 失敗すれば、帝都の各駐屯基地(かくちゅうとんきち)から派遣(はけん)される正規軍に包囲殲滅(ほういせんめつ)される――つまり今生(こんじょう)の別れとなり()る言葉だというのに、ヨハンは相変(あいか)わらずだ。

 シニアは隻眼(せきがん)を細めて渋い顔をし、その(となり)のミリアムは憮然(ぶぜん)として深い溜息(ためいき)をついた。

 そしてソフィアは感情と表情を(こお)りつかせている。

 部下たちの()ややかな反応を無視して指揮官(しきかん)は言う。

「なあ、俺は戦争と人殺しが好きだ――お前さんたちもそうだろ?」

「決めつけないで」

 見かねたソフィアが割り込んだ。

「その俺たちを差し置いて、勝手に戦争を楽しもうとしてやがる奴らを(ゆる)せるか? だから奴らを残らず無力化するぞ。邪魔(じゃま)をしてくる間抜けは、皆殺しにしろ。胸に二発、頭に一発。殺意の高さは撃ち込む銃弾(じゅうだん)の数に比例する。わかるか? お(じょう)さんたち、今夜は好きなだけ()ちまくれ!」

「ハーレークインは了解いたしました!」

 シニアが声を張った――つづけて彼は他の仲間たちを振り返り、

諸君(しょくん)はどうか! 戦場を()け、逆賊(ぎゃくぞく)(ちゅう)を下すことに(のぞ)む、これに異議(いぎ)やある!」と問いただした。

「異議なし!」

 こんどはミリアムが応じた――その(となり)で、

「右に同じ」とソフィアもようやく(うなず)いた。

 小隊(しょうたい)幹部(かんぶ)たちに呼応(こおう)した他の兵たちも便乗(びんじょう)して意気(いき)にはやる。

「俺たちに命令をください!」

「一等軍曹(ぐんそう)たちの(かたき)()ちます!」

「大尉、ハーレークイン全隊はあなたのご命令を待ちかねております――どうぞ」

「私にも命令して」

 ミリアムとソフィアの求めにヨハンは(うなず)いた。

「アルファは空挺(くうてい)により拠点(きょうしゅう)強襲(きょうしゅう)――ブラボーは重要目標(HVT)の確保に向かえ。そしてデルタは陽動(ようどう)撹乱(かくらん)だ。これより〝夜間実弾演習〟にかかれ、お嬢さんたち! 解散!」

 出動を命じられた彼らは全員が予定の行動に移りだす。

 ヨハンたちのアルファチームは、庭で待機していたヴァージニア号付きの飛竜〝グレイハウンド〟のキャビンに乗り込む。

 ミリアムとシニアのブラボーチームは、マイアの厩舎(きゅうしゃ)から徴発(ちょうはつ)した馬に騎乗(きじょう)した。

 そしてデルタ――ヘンドリクセンたちのアルレッキーノ分遣隊(ぶんけんたい)は、数台の幌馬車(ほろばしゃ)分乗(ぶんじょう)していく。

「エインセル特務准尉(とくむじゅんい)――我が隊への参加に感謝と歓迎(かんげい)を。ランバート上級上等兵曹(へいそう)護衛(ごえい)補佐(ほさ)に付かせる。君には及ばないが、彼も通信が専門分野だ」

 ソフィアを(むか)えたヘンドリクセンが言って、

「よろしく、妖精(ようせい)ちゃん」とランバートが片目を閉じてみせた。

 それを受けるソフィアの態度は()ややかだった。

「別に――あなたたちのためじゃない」

 そう言って彼女は背後で離陸(りりく)した〝グレイハウンド〟を振り返った。

「ああ――私だけじゃなく()()()()そのことを知っているさ。さあ、里帰(さとがえ)りをしよう」



 十五年前。

「……(けい)はなにを(はか)っておいでか」

 朝服(ちょうふく)(まと)ったマイアの謁見(えっけん)を玉座で受けていた幼いヴィクトリアが()いた。

 十歳の童女(どうじょ)とは思えないほど(するど)い視線が、(きぬ)御簾(みす)を通してマイアを射抜(いぬ)いている。

 生まれて間もなく即位(そくい)した今上(きんじょう)の〝神姫(しんき)〟は、稀代(きだい)傑物(けつぶつ)だった。

 ()()()()()()摂政(せっしょう)として、ローゼンクランツ宮内尚書(くないしょうしょ)を置いている。

 しかし、(すで)にその政治手腕(せいじしゅわん)統治能力(とうちのうりょく)(さい)片鱗(へんりん)をみせつつあった。

 彼女の(かしこ)さに気づいていたマイアは人払(ひとばら)いを願い出た。

 そして、主君に双子の兄の存在を伝えたところ――冒頭(ぼうとう)の〝あなたは何を(たくら)んでいるのか〟という問いかけが出た。

「はて――これは()(おお)せ」

 マイアは(ひざまず)いたままはぐらかした。

「エフライム卿――いえ、マイア小母(おば)さま。あなたほどのお方が、わざわざ身寄(みよ)りのない子を引き取った事情に()()()()()()()納得しました。しかしながら、それをわたくしに伝える必要はないはずです。〝神姫(しんき)〟は帝国の臣民に代わって(エル)(つか)え、巫女(ミカ)として()()わねばなりません。社稷(しゃしょく)(まつ)五穀豊穣(ごこくほうじょう)と平和と安寧(あんねい)(いの)りによって維持(いじ)させる装置(そうち)です。()()を家に例えるならば国土は敷地(しきち)(たみ)(はしら)、そして軍は屋根であり、神姫は筋交(すじか)いと言えましょう。そのわたくしに、将来(しょうらい)外戚(がいせき)となり()る、男子の血縁者があると(おおやけ)になれば、(かなえ)軽重(けいちょう)を問われかねません。小母さまの()()()()()は、筋交(すじか)いに(くさび)穿(うが)行為(こうい)に等しくありませんか」

 御簾(みす)の中のヴィクトリアは微笑(びしょう)(くず)さずに言った。

 彼女に親しい者ならば、その丁寧(ていねい)な言葉づかいと発音の中に――水桶(みずおけ)に落とした熊胆(ゆうたん)破片(はへん)が沈むときに(つむ)ぐ、()()()()()()()()怒気(どき)(ふく)まれていると気づいただろう。

「エフライム(きょう)に、いまいちど答える機を与えます――わたくしの兄とやらを、何に利用するおつもりですか?」

 マイアは顔を上げて答える。

「……(うつわ)を整えておりまする」

「器とは?」

僭越(せんえつ)ながら陛下(へいか)奏上(そうじょう)つかまつる――東の(はて)にかつてありし大国の思想に〝ラオズィ〟なるものをご承知かと存ずる。広大な版図(はんと)(おさ)むる帝国に必要な()とは、陛下のようにただ(まばゆ)いばかりの君子だけでは()()()()()。あらゆる事象(じしょう)物質(ぶっしつ)陰陽(いんよう)表裏(ひょうり)(そな)わる(ことわり)と同じく、帝国の御柱(みはしら)には同じものが必要なのでございまする。そして、()()はただの二面性では完全とはなりえませぬ。(いん)の面には(よう)が、陽の面には陰が含まれてなくば、画竜点睛(がりょうてんせい)()く、九仞(きゅうじん)(こう)一簣(いっき)()くと申せましょう」

 ヴィクトリアは(またた)いた。

「……話を先へ」

 ヴィクトリアに(うなが)されてマイアはヨハンの話をはじめた。

 これまで屋敷(やしき)でどのように育ち、そしてつい先日のことだったが、愛犬に最期(さいご)(むか)えさせた話まで。

〝神姫〟は相槌(あいずち)もはさまずにマイアの口を通して、まだ見ぬ()がどういう人物なのかを見通そうとしているようだったという。

陛下(へいか)は陰を内包(ないほう)した陽の面として、引き続き表立って(いただ)きたく――そして、彼奴(きゃつ)には陽を内包した陰となるべく、これまで(はぐく)みもうした。彼奴が思うままに身につけた武威(ぶい)を振るうとき、かくして帝国は盤石(ばんじゃく)なものとなりましょう。(わらわ)はずっとそうして〝御子(みこ)〟たちを奉戴(ほうたい)しこの帝国とともに見守ってきたのでございまする」

 マイアは帝室に男児が生まれるたびに(ひそ)かに庇護(ひご)してきた。

 今生(こんじょう)においては、たまたま双子――それも男女のそれが誕生したため、異例の措置(そち)だったもののヨハンを(みずか)ら育てることにしたそうだ。

 その理由は、川の向こうにある国を魔界と(しょう)しその脅威(きょうい)排除(はいじょ)するために肥大化(ひだいか)をつづけた軍が、()()その大義(たいぎ)()()として政治的に利用しようとしているとの情報が入ったためだ。

 その根拠(こんきょ)はある人物の密告(みっこく)だった。

 それ以外にも、マイアには()()()()()()があった――かつての彼女の逆鱗(げきりん)()でた人間の青年にも、双子の姉か妹がいたらしい。

 彼女の名は最初に(エル)啓示(けいじ)を受けた〝神姫〟として、今も帝国では語り()がれている。

 帝国に伝わる経典(きょうてん)神代詞紀(しんだいしき)〟に(しる)された神話よりも、はるかな太古(たいこ)から生き続ける竜族の(おさ)から、()()()()()がどのように帝国を安堵(あんど)していたのかを聞かされたヴィクトリアは裁定(さいてい)(くだ)す。

「エフライム(きょう)に申し渡します――これより、わたくしが一つ年を()るごとに、その兄とやらの素行(そこう)言動(げんどう)について上奏(じょうそう)なさい。ただし、決して本人に真相を()げないことと、秘密(ひみつ)厳守(げんしゅ)(かさ)ねて厳命(げんめい)します。いずれ相応(ふさわ)しい時が(おとず)れたならば、〝神姫〟の詔勅(しょうちょく)が彼を後宮に(まね)くでしょう」

御心(みこころ)のままに」


 そして現在。

 帝都とその中心に()るべくして在る(ところ)相次(あいつ)変事(へんじ)によって――ウォッカにキナリレを足してシェイクし、オリーブではなくレモンの皮を()えたマティーニを()みすぎたようだった。

 悪酔(わるよ)いのような混沌(こんとん)()んだ変事(ヴェスパー)の連続は、突如(とつじょ)として現れた〝道化師たち(クラウンズ)〟と名乗る武装集団(テロリスト)が、寺院にある通信管制塔(つうしんかんせいとう)占拠(せんきょ)したことから始まる。

 彼らは(あらかじ)め主要設備の位置や施設の構造(こうぞう)熟知(じゅくち)していたのか、ごく少数の戦力でありながら帝都全域の軍事通信と放送網(ほうそうもう)を強制的に遮断(しゃだん)している。

 信じがたいことだが、妖精族(ようせいぞく)構築(こうちく)した暗号鍵の()()()()()()解読したのではないかという推測(すいそく)検討(けんとう)されている。

 しかし、高度かつ複雑な暗号化の(ほどこ)された端末水晶(SINCGARS)の暗号鍵の解読など人間には不可能だ――妖精族の協力がないかぎり。

 事態(じたい)を重く見た憲兵隊(けんぺいたい)は独自行動に出た。

 彼らは人質の安全を(かえり)みずに強硬策(きょうこうさく)にを()る――憲兵隊は精鋭(せいえい)を集めた強襲(きょうしゅう)制圧班(せいあつはん)による奇襲(きしゅう)(くわだ)てた。

 しかし、相手が悪すぎた――突入した憲兵隊の精鋭たちはものの数分で全て撃滅(げきめつ)されたそうだ。

 さらに〝道化師たち(クラウンズ)〟と呼応(こおう)するかのようにして、統合参謀(さんぼう)本部の建物が正体不明のテロリストによる攻撃を受けているとの急報(きゅうほう)が届けられた。

 それも単独犯の。

 時を同じくして、同じく近衛連隊(このえれんたい)指揮官(しきかん)侍従長(じじゅうちょう)が〝神姫(しんき)〟の居室(きょしつ)にやってきた。

 後宮(こうきゅう)の無制限通行証を提示(ていじ)した、帝国陸軍の少尉(しょうい)至急(しきゅう)謁見(えっけん)を申し入れているという。

 彼女はハーレークイン小隊(しょうたい)副官(ふくかん)だと名乗ったそうだ。

 管理番号を確認したところ、その通行証はヨハンに交付(こうふ)したものだった。

 (きわ)めて異例の事態であり、侍従長と近衛連隊の指揮官はただちにその少尉を拘束(こうそく)すべきだと諫言(かんげん)した。

「待つがよい」

 これにヴィクトリアに代わってマイアが()(とな)えた。

 それから彼女は近衛連隊の指揮官に、謁見(えっけん)を申し入れている人物の主張を(くわ)しく()べるように命じた。

 数年前の弑逆未遂(しいぎゃくみすい)事件の首謀者(しゅぼうしゃ)判明(はんめい)したという。

 また、相次ぐ変事の原因(げんいん)と今後の有効(ゆうこう)対応策(たいおうさく)も用意してあるという。 

「そのような重大な(しら)せを、陛下(へいか)のお耳に入れぬ訳にもいくまい――通すがよい」

 かくして、マイアが謁見者(えっけんしゃ)の人品の保証と一切の責任()うこと、公式の記録には残さないことでミリアムの謁見は特別に(ゆる)された。

 軍事機密(ぐんじきみつ)を理由に謁見(えっけん)()人払(ひとばら)いがなされた。

 この場には三人しかいない。

陛下(へいか)――こなたに(ひか)えまする者は帝国陸軍第九九連隊直属(れんたいちょくぞく)の第一小隊は副官、ミリアム・マグダレーナ・フォン・シメオン少尉でございまする」

 後宮に(しつら)えられた謁見の間で、朝服(ちょうふく)に着替えて(かみ)()()げたマイアが()げた。

 武装は預けているものの、装具をまとった物々(ものもの)しい姿のままミリアムは(ひざまず)いていた。

(おもて)をあげなさい――フォン・シメオン少尉とやら。どうぞお楽に」

 御簾(みす)の内側にいるヴィクトリアが声をかけて、

「そなたの上奏(じょうそう)を許そう――申すがよい」とマイアが補足(ほそく)した。

「はっ――かような夜分(やぶん)に陛下のご親近(しんきん)(さわ)がせ(たてまつ)ること、(しん)としてあるまじき行為(こうい)であるとは重々(じゅうじゅう)承知(しょうち)しております。されどかかる喫緊(きっきん)の事態とその真相を奏上(そうじょう)つかまつることは、帝国臣民また軍人としての義務であるかと愚考(ぐこう)し、陛下の御聖断(ごせいだん)(あお)ぐためにまかりこしました」

 彼女は顔を上げて口上(こうじょう)()べた。

「フォン・シメオン少尉とやら――急報なれば(すべか)らく手短(てみじか)言上(ごんじょう)せよ」

「エフライム(きょう)、しばらく――少尉、まずはそなたの上官とやらの言伝(ことづて)(うけたまわ)りましょう。彼の言葉を()()()()(もち)いなさい。()()()

「……っ」

 ミリアムは、帝国において最高の権力と最大の武力の圧力を前にして、完全に萎縮(いしゅく)していた。

 無理もないだろう――彼女たちの前で(くつろ)げる人間などこの世には一人しかいない。

 そもそも、このような形での謁見をするとは彼女は想像だにしていなかった。

 ミリアムはヨハンから預かった伝言を〝神姫〟に上奏(じょうそう)するに当たり、相応(ふさわ)しい言葉づかいに直そうとしていたのだが、機先(きせん)を制された。

「かまいません――()()()()()

〝神姫〟に二度も命じられて断る(すべ)をミリアムは知らなかった。

 おそらく彼女だけではなく、帝国の誰にもそんな恐れ多いことはできないだろう――たった一人を(のぞ)いて。

「陛下に上官よりの言伝を申し述べます――〝ガタガタ抜かさず、とっとと勅令(ちょくれい)寄越(よこ)せ。さもないと、気色悪いスクラップブックを三冊とも燃やすぞ〟との(よし)にござります……」

「……」

 御簾(みす)()かしてヴィクトリアとマイアの視線が交錯(こうさく)している。

 このとき、ミリアムは大きな音が自分に(せま)ってくるようだったという――それは彼女の鼓動(こどう)だった。

「……まずは、いま少し(くわ)しく急報(きゅうほう)を聞かせるがよい」

 マイアに命じられたミリアムは正気に戻り、首謀者(しゅぼうしゃ)とされる人物の姓名(せいめい)ハーレークイン小隊(自分たち)(わな)にかけた軍上層部との関係の概要(がいよう)言上(ごんじょう)した。

 目下のところ不明なのは、首謀者の動機であるともミリアムは所見を付け加える。

「して、坊や――(いな)指揮官(しきかん)のスミス大尉(たいい)はいかがしておる?」

 その問いにも彼女は答える――上官は(すで)独断(どくだん)で統合参謀(さんぼう)本部に攻撃をしかけていると。

 また、通信管制塔を占拠(せんきょ)している〝道化師たち(クラウンズ)〟を名乗る武装集団(テロリスト)は、実際(じっさい)には帝国海軍の陸戦教導隊(きょうどうたい)、第六連隊に所属する〝アルレッキーノ分遣隊(ぶんけんたい)〟であり、自分たちと協働(きょうどう)していると言った。

 彼らが(たが)いの義務(ぎむ)を果たしたところで、マイアが失笑を()らした。

「まったく豪放磊落(ごうほうらいらく)じゃのう――()()粗忽(そこつ)ではあるが。さて坊やは誰に似たのやら……?」

 マイアの他人事(ひとごと)のような(つぶや)きが二人の乙女たちの視線を集めた。

「あの方は――小母さまに()()()()です」

 そう言った〝神姫〟は小さく咳払(せきばら)いして仕切り直す。

「事ここに(いた)祐筆(ゆうひつ)を起こしている(いとま)はありません――エフライム(きょう)、筆をこれに」

「ただ今」

 マイアは近侍(きんじ)()ばず、自ら手を動かして羊皮紙(ようひし)とペン、青墨(せいぼく)のインク(つぼ)玉璽(ぎょくじ)といった――公文書の作成に必要なものを銀の(ぼん)に並べて玉座(ぎょくざ)に歩み寄っていく。

「……」

「……」

 しばらくして、書簡(しょかん)執筆(しっぴつ)を終えると、文書(ぶんしょ)(さず)けられたマイアは(うやうや)しく()がった。

「シメオン少尉(しょうい)――使者の役、大義でした。二人ともお()がりなさい」

(かしこ)まりました、陛下――シメオン少尉、そなたも付いて参るがよい」

 ミリアムは立ちあがってヴィクトリアに敬礼(けいれい)をしてから、軍人らしい所作(しょさ)(きびす)を返した。

 その背にヴィクトリアは言う。

「しばらく――シメオン少尉。あの人がお世話になっていることを、本人に()わって心より感謝を申し()げます。きっと、意地悪をたくさん受けていることでしょうけど、決してあなたのことを嫌っているわけではないんです。許してあげてね。()()、あの人と一緒にお庭で午後のお茶をご一緒(いっしょ)しましょう」

 ミリアムが思わず(おどろ)いて振り返った。

〝神姫〟から(じか)(さそ)われた――口述(こうじゅつ)によるそれは、ただの文書にすぎない詔勅(しょうちょく)(たまわ)るよりも、貴族にとってははるかに名誉(めいよ)なことだった。

 また、()()すらも些末(さまつ)に思わざるを()ないほど、重大な事態(じたい)にミリアムは直面していた。 

 御簾(みす)をめくって、()()羽衣(はごろも)を肩にかけたヴィクトリアが年齢相応(ねんれいそうおう)の女性らしい、(やわ)らかい苦笑(くしょう)を浮かべて(おが)むような仕草をしていた。

〝神姫〟が臣民に相対しながら素顔を(さら)す――これは()()()()()()()()()()だった。

「陛下っ! ()()()()()真似(まね)はおよしなされ――坊やの使者のお相手とはいえ、()()()()おりまするぞ」

 背を向けたままのマイアが(しか)ると、ヴィクトリアは御簾の中に(あわ)てて戻った。

 それからミリアムは書簡に封蝋(ふうろう)が施されるのを見届けて、現物を預かると後宮(こうきゅう)の外で待機(たいき)している部下たちに合流した。

 見送りに来たマイアが、

今宵(こよい)(わらわ)は陛下のお(そば)(はべ)る――()()()(そな)えは万全じゃ。そなたらは存分に各々(おのおの)の任務に(はげ)むがよい」と言った。

 それから、マイアは侍従(じじゅう)たちに言いつけて、奥の院にあるヴィクトリアの居室(きょしつ)端末水晶(SINCGARS)受信装置(レシーバー)鉱石(こうせき)ラジオを運び込ませた。

 そこに、

《……どうせなら、十時ちょうどに起こしてくれよ――今日って土曜日じゃん? 〝ご機嫌(きげん)いいとも♪〟の増刊号は聞き逃さない主義なんだ》とヨハンの声がラジオを通して聞こえてきた。

 ヴィクトリアとマイアは(そろ)って顔を見合わせた。

 軽口を(たた)いたヨハンが(なぐ)りつけられる気配がラジオを通して伝わってくる。

「お兄様っ!?」

「なにをやっておるんじゃ、坊やは……」



 一時間前。

 ヨハンたちアルファチームは飛竜〝グレイハウンド〟の(かか)える、コンテナ型のキャビンにいた。

《ハーレークイン・アルファ、ならびに〝クロウ〟に()ぐ――(われ)は間もなく指定の座標(MGRS)(たっ)する。降下(こうか)まで二分。待機(たいき)されたし》

「アルファ、装具(そうぐ)再点検(さいてんけん)

 ヨハンは部下たちに命じた。

 彼らは手際(てぎわ)よく、仲間の背負っている落下傘(らっかさん)に異常がないかを確かめていく。

 特に落下傘を開く()め具と(つな)がったロープと、キャビンの中に備え付けられた金属のレールは念入りに確認を(かさ)ねる。

「いいですよ――大尉(たいい)

 準備を整えたホーキンスがヨハンの(かた)を叩いた。

《一分前である》

「ハッチ、開きます」

 別の部下が言うとヨハンはサムエルを振り返った。

 獲物(えもの)(にら)むような(するど)い視線を受ける魔界の貴公子は微笑(びしょう)して(うなず)いた。

《クロウ、グリーンライト――グリーンライト》

「ではお先に」

 彼はそう言うと、宝石を()()()()()()()()()虚空(こくう)に身を(おど)らせた――直後にその背中から六対の(つばさ)顕現(けんげん)させる。

《ハーレークイン・アルファ、グリーンライト――グリーンライト》

「行くぞ〝自殺分隊(スーサイドスクワッド)〟のお(じょう)さんたち! これが最後のヒャッハーだ!」

 ヨハンは先陣をきるように()んだ――その背後に、六人の部下たちが続く。

 今回の降下は()()()低高度より行われるため、彼らは空気ボンベや高高度用の装備は身につけていない。

 その()わりに普段よりも多くの弾薬(だんやく)携行(けいこう)していた――計算上は自動小銃の銃身が焼け付く弾数(だんすう)の上限である六〇〇発を、装具のポーチを増設しながら二〇本の予備弾倉(よびだんそう)を持ち込んでいる。

 ヨハンは手信号(ハンドシグナル)で部下に合図を出しながら指示を下す――目標物を見つけた彼らは落下傘(パラシュート)を開きながら()りていく。

 それに合わせて風が起きた。

「……」

 上空を見ると弓のような月の横にある影の中で、両手を組み合わせたサムエルが自分の周りに魔法陣(まほうじん)()かび()がらせている。

 予定通り彼が風を(あやつ)り、ヨハンたちアルファチームは統合参謀(さんぼう)本部のビルの屋上に音もなく降下していく。

 その一方で、ヨハンただ一人がサムエルの風の軌道(きどう)からはずれた――彼はそのまま高度を()げて、目標のビルの前にある大通りに着地した。

《ご無事ですか? 大尉(たいい)

「アルファは予定通り行動しろ――辛抱(しんぼう)しろよ?」

《了解――あとで合流しましょう》

 ヨハンは負革(おいかわ)(すべ)らせて自動小銃(アサルトライフル)を構えると、そのまま歩いて統合参謀本部のビルに近づいていく。

「っ!?」

敵襲(てきしゅう)!」

 ビルの警備兵(けいびへい)が武装した不審者(ふしんしゃ)に気づいた瞬間、ヨハンは彼らを()った。

 詰め所に白鱗(はくりん)手榴弾(しゅりゅうだん)を放り込み、正門の小屋を炎上させると建物の中にいる人物たちも異変に気づいたのか、辺りに警報(けいほう)()(ひび)く。

 それを聞きながら、

「雨かと思えば♪ 日照(ひで)り日焼け♪ 旅は(つら)くても泣いちゃだーめ♪」とヨハンは歌い出した。

 銃声でリズムをとるように、ヨハンはろくに(ねら)いも(さだ)めず引き金を(しぼ)った。

 まるで敵に向かって〝自分がここにいる〟ことを喧伝(けんでん)するかのように。

「おー、スザンナ♪ 泣かーないで♪ バンジョーを持って来たばかりでーす♪」

 敷地(しきち)を歩いているヨハンが唐突(とうとつ)に立ち止まり、左腕(ひだりうで)に素早く負革(スリング)を巻きつけながら片膝(かたひざ)をついた。

 彼は(まど)(ねら)っていた――銃口(じゅうこう)から弾丸(だんがん)とともに火が吹いて、銃身(じゅうしん)(はげ)しく()れる。

 コンマ二秒より少しだけ短い一瞬(いっしゅん)、反動の()(もど)しで銃身が元の位置に返った瞬間に、もう一度ヨハンの指が機械的な動作で引き金を(しぼ)る。

 それを()り返す()()で、正確な速射ができる――シニアから教わった通りに彼は撃った。

 窓から人が落ちていく――小銃と一緒に。

「舟に乗ったら川下り♪ いろいろとやらかしました♪ ときには死にかけたりとか♪ 息を(ひそ)めたり、立ちどまったり♪ おー、スザンナ♪ 泣かーないで♪ バンジョーを持って来たばかりでーす♪」

 歌いながら、ヨハンは(せま)いエントランスから殺到(さっとう)してくる警備兵たちが散開する前に射殺し、そのまま建物の中に入っていく。

 小銃(しょうじゅう)を構えていた彼だが、まだ弾丸の残っている弾倉(だんそう)を足元に落とし、槓桿(こうかん)を引いて薬室(やくしつ)弾丸(だんがん)も抜いた。

 そのまま彼は〝入館者は武器をこちらに!〟と書かれたカゴの中に自動小銃を放り込み、(こし)から抜いた拳銃や銃剣までそこに収める。

 (えり)を正したヨハンはその場で足踏みしながら、腰に手を当てて別の民謡(みんよう)(うた)いだす。

 そうしているうちに、警備兵の第二波の足音が(せま)ってくる。

(わら)のなかの七面鳥(しちめんちょう)♪ ()(くさ)まみれの七面鳥♪ 七転び八起きして♪ 藁の中の七面鳥♪」

「動くな!」

 統合参謀本部の上の階から殺到(さっとう)してきた重装の警備兵たちが、ヨハンを完全に包囲(ほうい)した。

 片方は重装の防弾(バリスティック)(シールド)を構え、反対側の兵たちは自動小銃を構える――殺意の高い即応態勢(そくおうたいせい)だった。

「武器を捨てろ!」

「ゴミはゴミ箱にね――わっせ、わっせ♪」

 ヨハンはそう言って、武器を(おさ)めたカゴをまるごとゴミ箱に向かって投げた――当然だが、中身は収まらずに、その場に耳障(みみざわ)りな金属音を立てて()らかった。

 自分を取り囲む警備兵たちを見回しながら、彼は言う。

()()()()()は俺じゃなくて、金髪(パツキン)でスケベな身体をした巨乳の女騎士の仕事なんだけどなあ――〝くっ殺せ!〟とか真言(マントラ)(とな)えちゃったりなんかして。ほら、投降(とうこう)してんだから早く逮捕(たいほ)しろよ、間抜けども」

 そう言って彼は両手を頭の上で組んでその場で両膝(りょうひざ)をついた。

「俺はヨハン・スミス――第九九連隊直属(れんたいちょくぞく)の第一小隊、ハーレークイン小隊の指揮官(しきかん)だ。おい、そこの伝令(でんれい)! ()に確認をとれ! 走るのが手前(てめ)ぇの仕事だろっ!?」



 深夜にも関わらず統合参謀(さんぼう)本部の一室に陸軍と海軍の将帥(しょうすい)たちが(つど)っていた。

道化師たち(クラウンズ)〟を名乗る一派(いっぱ)が寺院の通信管制塔を占拠(せんきょ)した――しかし、これは彼らの計画にはない行動で、誰がこれを主導(しゅどう)しているのかを互いに追求しているところだった。

 通信を遮断(しゃだん)されたために、帝都各地の駐屯地(ちゅうとんち)()っている同志たちとの呼応(こおう)(むずか)しくなっている。

 彼らが善後策(ぜんごさく)検討(けんとう)していると、(つくえ)(そな)え付けの赤く()られた端末水晶(SINCGARS)が呼び出し音を鳴り(ひび)かせた。

 この端末(たんまつ)(つな)がるのは緊急事態(きんきゅうじたい)()げるときだけだ。

「っ!?」

 端末水晶の受話器をとった統合参謀本部の主席委員は、

「スミス大尉(たいい)を確保したと! それは確かであるなっ!?」と声をあげながら椅子(いす)から勢いよく立った。

 より正確な報告は以下の通りだ。

銃撃(じゅうげき)をくわえながら歌い(おど)っていた気狂(きちが)いを拘束(こうそく)した――対象(たいしょう)は、帝国陸軍第九九連隊直属(れんたいちょくぞく)の第一小隊(しょうたい)指揮官(しきかん)、ヨハン・スミスを(しょう)しているとのこと〟

 このとき、彼らは自分たちが卑劣(ひれつ)(わな)にかけられていることに、まだ気づいていない。



 それより少し前から、帝都の中心に近い寺院にある通信管制塔は、ヘンドリクセンたちの(ひき)いるデルタチームによって完全に制圧(せいあつ)されていた。

 その場に居合(いあ)わせた、ソフィアの客観的(きゃっかんてき)評価(ひょうか)を後日に聞くと、その手際(てぎわ)のよさと動作の正確さ、射撃の見事さはハーレークイン小隊とは比較(ひかく)にならないそうだ。

 施設を制圧した責任者として、ヘンドリクセンはエインセル婦人を指名し、彼女に要求を伝えると()げた。

「はあい、はーい――あたくしが、エインセルですわ。要求をどうぞ、中佐(ちゅうさ)さん?」

 緊張感(きんちょうかん)(とぼ)しく片手を上げて、愛想(あいそ)よく前に進み出た妖精(ようせい)の女性が現れた。

 それを見ても、ヘンドリクセンは(まゆ)ひとつ動かさずに、

「彼女の指示に(したが)っていただく」と背後のソフィアに道を(ゆず)った。

「まあ! ソフィア、あなたはいつから、()()()()()()になってしまったのかしら? 母はとっても悲しいわ」

「悪いのはヨハン――これは彼が立てた作戦。私に一番大事な仕事を(まか)せてくれた」

 妖精の少女は悪びれもせずむしろ胸を張って、この場にいない上官に責任をなすりつけた。

 頭をわずかに(かたむ)けながら、エインセル婦人は人差し指を(あご)の横に()えて()く。

「つまり、彼――スミス大尉(たいい)のためにやっている、と言うの? あなたが? 人間の男の人のために? こんな大それたことをするなんて……!」

「ん――私は少し変になった? お母様」

「いいえ、少しなんて、()()()()()()()()が起きてましてよ――ソフィア。みなさん! これは大変なことです!」

 エインセル婦人は人質(ひとじち)として軟禁(なんきん)されている自分の同族や、この寺院に(つと)めている人間の職員や聖職者たちを振り返った。

「あたくしの愛娘(まなむすめ)が、人間に恋をしてしまいました! これは妖精族の歴史、いいえ――有史以来、二度目の朗報(ろうほう)ですわ! 明日は御厨(みくりや)にて小豆(あずき)()ぜたお米を()きましょう!」

「……ん?」

 エインセル婦人の大声に、真っ先に首を(かし)げたのはソフィアの方だった。

「お(たわむ)れはあとにして――そんなことより、私たちの要求を聞いてもらいたい。一刻(いっこく)(あらそ)う。まずはここで管理している、帝都の各駐屯軍(かくちゅうとんぐん)、軍事施設で運用されている端末水晶(SINCGARS)暗号鍵(デコーダー)権限(けんげん)を全て私に頂戴(ちょうだい)(あわ)せて鉱石(こうせき)ラジオ放送波と放射増幅器の管理権も必要」

 ソフィアの要求に母親は首を振った。

「あーら、あら――それは駄目(だめ)よ、駄目駄目。いくらあなたでも」

拒否(きょひ)すれば彼らはお母様たちを脅迫(きょうはく)対象(たいしょう)に切り()える――この場の人間族から先に殺す。一分につき一人ずつ。いいの?」

 ソフィアの脅迫(きょうはく)の言葉にエインセル婦人は小揺(こゆ)るぎも見せずに、微笑(ほほえ)みを浮かべたまま言う。

「母の話は最後までお聞きなさい――拒否するとは()()言っておりません。いくらあなたでも、そんな大仕事を一人で(かか)え込んでは大変ですもの。あたくしたちがそれを(にな)えば()むお話でしょう。脅迫するならば、()()()()()でしょう?」

「どうするの? 中佐」

 ソフィアが指揮(しき)()るヘンドリクセンを振り返った。

「フラウ・エインセル――我々は作戦上、テロリストに(ふん)した。しかし、その目的はこの帝国に(あだ)なす獅子身中(しししんちゅう)の虫を駆除(くじょ)するために行動している。そのことをご承知(しょうち)おき願いたい」

「では、大義(たいぎ)のありかは()()()()()?」

少尉(しょうい)――私の仲間が陛下(へいか)より勅命(ちょくめい)(たまわ)った」

「ならば大丈夫ですわ――さあ、みなさん! まずはお仕事にかかりましょう! ソフィア、あなたが()()()()指揮(しき)をお()りなさい」

 エインセル婦人は柏手(かしわで)をひとつ打って、同族たちや人間の同僚(どうりょう)たちに指示を(くだ)しはじめる。

 その作業にとりかかりながら、彼女は娘に耳打ちする。

「あとで、あなたの外部思考結晶への閲覧権限(えつらんけんげん)をあたくしに()()付与(ふよ)なさい――だって、あなたってば、最近は()()()()()()()の方を閉じているでしょう?」

(いや)――私の思い出は私だけが(ひと)()めする。()()()()()()()そうする」

反抗期(はんこうき)まで芽生(めば)えるなんて! こうして、あたくしの娘がどんどん大人になってしまうのっ!? きっとどこかの馬の骨の悪影響(あくえいきょう)を受けたに相違(そうい)ありませんわ!」

「否定はしない――全部ヨハンが悪い。でも、私はそれが面白い」



「ついに来たか」

 ローゼンクランツ伯爵邸(はくしゃくてい)で、主人は細君(さいくん)主寝室(しゅしんしつ)で休んでいるように頼んでから、玄関ホールの階段で()()(そな)えていた。

 相次(あいつ)変事(へんじ)(おび)える家人たちには、当直の者も(ふく)めて自室での待機(たいき)を命じ、何が起きても(あわ)てないように(かさ)ねて頼んだ。

 また、家令(かれい)にはあらかじめ用意した書簡(しょかん)――()()の真相を(しる)した直筆の遺言(ゆいごん)を通常郵便(ゆうびん)投函(とうかん)するように頼んである。

 それさえ無事に届けば自分の目的は果たされる――彼はおそらくそう思っていたのだろう。

 ローゼンクランツ宮内尚書(くないしょうしょ)はこの時点でその役を終えていた。

 そして彼の最後に(にな)うべき(つと)めは死ぬことにこそあった――()()()()()()()()、これは明言はできないものの、(なぞ)()くための欠片(かけら)を残しておく。

 当事者たちとマイアを(のぞ)き、()()()()ヨハンと今上(きんじょう)の〝神姫(しんき)〟の関係を知っている唯一人(ただひとり)の人物だということだ。

 間もなくそのときがきた。

 屋敷(やしき)玄関(げんかん)指向性爆薬(しこうせいばくやく)で吹き飛ばされた。

「ローゼンクランツ閣下(かっか)! ご無礼(ぶれい)つかまつる!」

 一瞬の間をおいて突入してきたミリアムの(りん)とした声が、ホールの中に(ひび)いた。

 シニアを中心に、左右に分かれた部下たちが手際(てぎわ)よく玄関ホールの安全と伏兵(ふくへい)有無(うむ)を確認していく。

「オールクリア!」

「どうぞ、少尉(しょうい)

 シニアに(うなが)されたミリアムが前に進み出る。

「わたし一人だ――警戒(けいかい)は必要ない」

 古典的(こてんてき)な型のスモーキングジャケットを羽織(はお)った、ローゼンクランツがホールの階段を()りてくるのを見て、

「なぜですかっ!? 閣下!」とミリアムが()いた。

 二人――というより、彼女の父親であるシメオン氏とローゼンクランツは旧知(きゅうち)の仲で、ミリアムもこの屋敷(やしき)は年始の挨拶(あいさつ)などで何度も(たず)ねたことがある。

 修道院(しゅうどういん)に入る前の年の誕生会(たんじょうかい)を、()()で祝ってもらったこともある。

 また、両家は数世代前には縁戚(えんせき)ではあるが親戚(しんせき)関係にあった。

 彼が首謀者(しゅぼうしゃ)だと明かされたときには、どうしても信じることができなかった。

 ミリアムが知る限り、ローゼンクランツは〝神姫〟に対してもっとも忠誠(ちゅうせい)(ちか)っている貴族の(かがみ)だ。

 初老の宮内尚書(くないしょうしょ)弁解(べんかい)()わりに言う。

「帝国を守るためだ――他にあるかね? フォン・シメオン少尉。私の罪状(ざいじょう)弑逆未遂(しいぎゃくみすい)内乱(ないらん)予備陰謀(よびいんぼう)というところか」

 ローゼンクランツは、ミリアムの手にある書簡(しょかん)一瞥(いちべつ)して言った――その言葉がある意味で真実だったことが彼女たちにわかるのは、これよりしばらく後のことになる。

「左様です――閣下」

「石もて追われる罪人(つみびと)敬称(けいしょう)は無用――君はただ義務(ぎむ)を果たしたまえ」

 この()に及んでも、ローゼンクランツは落ち着き(はら)っており、彼はミリアムの(こし)の剣を指でさした。

「少尉殿」

 シニアに(うなが)されたミリアムは、ヴィクトリアから(たまわ)った書簡(しょかん)を読み上げる。

「……では(つつし)んで拝聴(はいちょう)めされよ――〝フリッツ・サロモン・フォン・ローゼンクランツ(はく)(けい)宮内尚書(くないしょうしょ)の職を()く。くわえて、内乱の予備陰謀および弑逆未遂の共謀(きょうぼう)教唆(きょうさ)により、その身に(さば)きを(たまわ)らん。判決は極刑を(もっ)て相当とするが、長年の帝国ならびに二代に渡る神姫(しんき)への功労(こうろう)と帝国にその身命(しんめい)(ささ)げた御身(おんみ)献身(けんしん)(たたえ)(かんが)み、特赦(とくしゃ)として自裁(じさい)を許可す。また、今後の捜査(そうさ)によって新しい事実が判明(はんめい)しない限り、(けい)の親類縁者は罪に連座(れんざ)しないことをヴィクトリアの名の(もと)(やく)す〟以上であります」

「……閣下、どうぞ」

 シニアが(から)弾倉(だんそう)に差し替え、弾丸を一発だけ込めた自分の拳銃を差し出した。

「かたじけない」

 そう言って、ローゼンクランツが拳銃を受け取ると、ミリアムとシニアの背後に戻ってきたた部下の二人が、不測(ふそく)事態(じたい)(そな)えて彼の(のど)照準(しょうじゅん)を合わせる。

 ローゼンクランツは銃口をこめかみに押し当てて、撃鉄(げきてつ)を起こすとすぐに自分の頭を撃った。

「気をつけ!」

 シニアの号令で、ハーレークイン小隊のブラボーチームはその場で直立不動(ちょくりつふどう)姿勢(しせい)をとった。

 立礼したままミリアムが

「直れ」と部下たちに命じた。

「……」

 彼女は羽織(はお)っていた外套(がいとう)を脱いでローゼンクランツの遺体(いたい)にかけた。

 女性の悲鳴が聞こえたかと思えば、ホールの階段の上でローゼンクランツ夫人が手すりによりかかっているのが見えた。

後事(こうじ)はこちらに向かってくるであろう憲兵隊(けんぺいたい)(まか)せ、我らは大尉(たいい)に合流しよう――上級曹長(そうちょう)

「それは命令違反(めいれいいはん)ですが――少尉」

 シニアの諫言(かんげん)を受けたミリアムは、

「責任は小官(しょうかん)――()が全て引き受ける。大尉(たいい)を、あの人を絶対に死なせはしない。貴官らの協力を()いたい」と言った。



 統合参謀(さんぼう)本部の一室で、ヨハンは銃床(じゅうしょう)(なぐ)られた。

「あぁん――下手(へった)くそ。頭から先にやっちゃ拷問(ごうもん)になんねえだろ、お馬鹿ちゃん。相手が痛みと恐怖を()()()()ように、こういうときは下半身から()めてくもんなんだよ。娼館(しょうかん)のお(じょう)たちと逆にな。あれ? 逆でいいんだっけ? べー、ぺっ!」

 そう言ってヨハンはその場で血反吐(ちへど)を吐き出した。

「もう一度()く――貴官の目的はなんだ」

「そっちこそ――弑逆(しいぎゃく)(たくら)んでたんじゃねえのか? そんなに、魔界と戦争がしたかったのか。まあ、その点は俺も同感だが。ホントなら今頃は、川の向こうでドンパチ(にぎ)やかな()()()()をしてたのに、背広を着たボケナス(政治家)どもが勝手に講和(こうわ)しちまったせいで、夏の風物詩(ふうぶつし)台無(だいな)しになっちまったもんな」

「……我らの利害(りがい)は、本来ならば一致(いっち)していたはずだった――あのとき、君が陛下(へいか)を身を(てい)して守ったりなどしなければ、我々は君をこそ盟主(めいしゅ)(あお)いでいたはずだ。数奇(すうき)なめぐり合わせだが、残念だ」

 ヨハンは鼻を鳴らした。

()めたことを()()()前に自分が()いてる(くつ)を見てみろよ――前線(ぜんせん)で命をかけてきた俺たちと、司令部の椅子(いす)(しり)(みが)いてきた手前(てめ)ぇらを()()()()()()っつうの。あんたらのやり方は、まるで連れションに(さそ)いあう休み時間の女子高生みたいに()()()()ぜ? 俺が(くそ)した便所の(ふた)をわざわざ開けて〝(くさ)い!〟だって? ()()()()当ったり前だろうが」

「……」

「で、認めんだな? 弑逆(しいぎゃく)と魔界の馬鹿を暗殺しようとした、諸々(もろもろ)の悪事を――ついでに、(にせ)の任務で俺たちを殺そうとしたことも。今のをぜーんぶ、()()()()()()()()()()()ぞ?」

 ヨハンがマイアを引き合いに出した途端(とたん)――彼らの()()()()()を知っていると(おぼ)しい、貴族出身の幕僚(ばくりょう)たちの目の色が変わった。

 ヨハンの処断(しょだん)はこの()に及んでは問題ないが、彼女だけは別だ――それを見()かされたことを()じる裏返しに、

「できるものならやってみろ!」と一人が気色(けしき)ばんだ。

 また別の将官(しょうかん)便乗(びんじょう)する。

道化者(ピエロ)め!」

「貴様のような品性も気品もない(やから)が! 最も(とうと)き血統を()いでいるなど虫酸(むしず)が走る!」

(こと)()った(あかつき)には帝国の全てを我ら軍が統治(とうち)する! 血統だけを(たの)みとする惰弱(だじゃく)帝政(ていせい)立憲(りっけん)君主制(くんしゅせい)など、時代(おく)れだ。ましてや、魔界なぞに迎合(げいごう)しようとする〝神姫(しんき)〟を我々は主君とは認められん」

 何度も(なぐ)られていながら、痛みに()えているヨハンは口角(こうかく)()り上げて(わら)っている――まるで暴行を受けること自体が望みであるかのように。

 彼は痛みそのものに興奮(こうふん)を覚える性的倒錯(せいてきとうさく)嗜好者(しこうしゃ)なのだろうか。

 仮に()()でないとしたら、あたかもわざと滑稽(こっけい)な振る舞いをして人を笑わせようと(こころ)みて――そのことごとくに失敗している様子は道化師(ハーレークイン)そのものだ。

「言え!」

「何が目的だ!」

「だからあ――さっきも言ったじゃん? 〝ご機嫌(きげん)いいとも♪〟の増刊号は毎週かかさず……」

 ヨハンのこめかみにスヴェンソン准将(じゅんしょう)拳銃(けんじゅう)を突きつけた――その撃鉄(げきてつ)が起こされる。

「最後だ、スミス大尉(たいい)……」

遺言(ゆいごん)があれば聞こう」

()()()()よ――あと、ポケットに細巻きがあるから、それも」

「その手にのるか!」

 今度は腹、()()()()一撃(いちげき)を見舞われた。

「っ……!?」

 銃床(じゅうしょう)(なぐ)った警備兵(けいびへい)下士官(かしかん)(みょう)手応(てごた)えに顔をしかめた。

 ヨハンは首を(めぐ)らして彼を見ながら言う。

「……()()曹長(そうちょう)、次に腹を(なぐ)るときはそっとやれよ、そっと――爆弾で俺と一緒に死にたけりゃ、別だけど。そのときは三途(さんず)の川を()()()()泥舟(どろぶね)で渡ろうぜ」

「待て」

「爆弾となっ!?」

「貴官は正気かっ!?」

気狂(きちが)いめ!」

 奥の机で()()きを見守っていた別の高官たちの顔色が変わった。

「上着の(すそ)をめくってみろ――うわ、男に言うことじゃなかったわ。やっぱやめて! 乱暴(らんぼう)しないで!」

 ヨハンの言葉を無視したスヴェンソンが銃を構え直しつつ、護衛(ごえい)の兵に(うなず)いて見せる。

 彼が服の下に身に着けていたのは、時限装置(じげんそうち)を組み込んだ爆弾だった――電子錠(でんしじょう)つきで、正しい番号を入力して、解除(かいじょ)を行わなければすぐに爆発する仕掛けだ。

「番号は!」

「番号を言え! スミス大尉!」

「えーと、たしかマルコビッチの生年月日を――いや、(ちが)った。()()()()()(けた)にしたんだった。根気(こんき)よくやれば、太陽が爆発する五秒前に解読できるんじゃないか? ()()()一六七七七二一六通りだし。ちなみに、タイマーの残り時間は夜明けまでだ。言っておくが、解除の番号は俺も知らないから拷問(ごうもん)しても無駄(むだ)だぞ。知っているのは、通信管制塔にいる俺の仲間だけだ。知りたきゃ、俺を(たて)に連中と勝手に交渉(こうしょう)してくれ」

「……」

「……」

「いかがなさいますか? 閣下」

(つな)げ――いずれにせよ、スミス大尉に死んでもらうことにはかわりない」

 ヨハンの元に端末水晶(SINCGARS)の受話器が運ばれる。

「あえて警告(けいこく)するが――余計(よけい)なことは言うな、スミス大尉(たいい)

()()()()()()()()って――全隊に()ぐ――こちらハーレークイン・シックスだ。起爆解除(きばくかいじょ)コードを寄越(よこ)せ。もう一度告げる。起爆解除のコードを送れ。()()()()!」

 ヨハンはそう言って、自分の口元で受話器を(にぎ)っているスヴェンソン准将(じゅんしょう)の指に()み付いて()いちぎった。

「!」

 彼らのいる部屋の(かべ)爆破(ばくは)されたのはそれと同時だった――爆風(ばくふう)と壁の破片(はへん)を背後に受けながら、椅子(いす)(しば)られたヨハンは前に倒れていく。

 また、外の窓からはロープで逆さまにぶら()がった別の部下たちが発砲(はっぽう)をはじめた。

 至近距離(しきんきょり)()った小銃(しょうじゅう)の弾丸が、強化硝子(きょうかがらす)抵抗(ていこう)を受けて横向きに偏向(へんこう)しながら、幕僚(ばくりょう)の後頭部にめり込んだ。

 壁を(やぶ)って突入してきたアルファチームは、左右に分かれて標的の人間たち(エックスレイ)を銃口でなぞる。

 片目で(のぞ)照準(しょうじゅん)人影(ひとかげ)(かさ)なった瞬間、その胸を高速徹甲弾が射抜(いぬ)いていく。

 発砲(はっぽう)するたびに()き出される薬莢(やっきょう)のが壁に()ね返り、高熱を()びたそれらが彼らの服を()がした。

大尉(たいい)!」

「無事ですか!」

 統合参謀本部の屋上に降り立ったアルファチームは、ヨハンが(あらかじ)め命じていた通り、合言葉を待ってから室内を制圧した。

 ヨハンの身柄(みがら)そのものを(えさ)にして、この一室に関係者を全員集めることが、彼らの目的だった。

 アルファチームは統合参謀(さんぼう)本部に(つど)った高官たちを拘束(こうそく)していく――手のあいている別の部下が、ヨハンを助け起こした。

()()何番でしたっけ?」

「C一F八FA――絶対(ぜったい)間違(まちが)えるなよ、マジで。爆弾(ばくだん)起爆装置(きばくそうち)()()()使()()()()んだから」

「解除番号は何からとったんです?」

()()()()()♪」

「ああ――特務准尉(とくむじゅんい)下着(パンツ)の色ですね、わかります」

「ピンポーン!」

「ところで、本物を着る必要はあったんですかね……?」

 ホーキンスが正しい疑問を口にした。

「そのほうが、()()()()()って思ってくれるだろ? 実際、そう言われたし――面と向かって言われると、サファイアガラスの心にも傷ってつくんだな」

「……大尉にわざわざ〝イカれてる〟と言う必要はないかと」

「え!? なんでっ!? なんで……?」

 彼らの益体(やくたい)もないやり取りを無視して、ヨハンが決めた解除番号に注目したい。

 広告図案部(こうこくずあんぶ)から借り受けた色見本(カラーコード)を元に調べると、()()紺碧(こんぺき)彼方(かなた)に見える、(あわ)空色(スカイブルー)と同じだった――彼らにとって身近なものに例えるなら、ある妖精(ようせい)の少女の髪とよく似た色でもある。

 彼がなぜこの色に自分の命を預けたのか――答えを聞く必要があるだろうか。

 立場が入れ()わったところで、ヨハンは相変わらずの調子で言う。

「さあて、みなさん――お待ちかねの()()()()の時間だ。俺たちがなんで、通信管制塔に主力を送り込んだと思う? 悪者(わるもん)たちの自白を、みーんなに楽しんでもらうためだぜ。だって、こういうのは(ひと)()めしちゃ勿体(もったい)ないもんな」

 ヨハンは予備(よび)端末水晶(SINCGARS)拳銃(けんじゅう)と一緒に部下から受け取った。

「シックスよりナインへ」

《シックスへ――終わったの?》

 ヨハンはソフィアを呼び出すと言う。

「そっちで流してる〝お(はよ)う帝都〟をこっちにも中継(ちゅうけい)できるか? できるよな――よし、やれ」

()()()()()の調整が()る――十秒だけ待って》

 ヨハンはポケットから細巻きを取り出した――火をつけて(けむり)口内(こうない)を消毒していると、

《できた――チャンネル二に合わせて》とソフィアが報告した。

 ヨハンは端末水晶を操作した。

「俺の名はヨハン・スミスだ」

《俺の名はヨハン・スミスだ――ハン・スミスだ――だ》

 ヨハンの声が公共放送を通じ連続して反響(はんきょう)したように聞こえてきた。

《もう一度エコーの調整する――ん。シックス、どうぞ》

《「さっきの続きだ――こちらは帝国陸軍ハーレークイン小隊、ヨハン・スミス。現在、()()()隊が、統合参謀(さんぼう)本部の最上階で、(えり)階級章(かいきゅうしょう)()()()()()()()()()逆賊(ぎゃくぞく)どもを勅命(ちょくめい)()って確保している。一応、何人かは()()生きてるはずだ。とにかく、連中の悪事は()()()()()()()通りだ。詳細(しょうさい)はこの後の放送で楽しんでくれ。あとついでに言っておくが、この悪事に関わった馬鹿どもは俺たちが扉を()()()()()日を待ってろよ。待ちきれなきゃ、()()()()()()。というわけで、コマーシャルのあともチャンネルはこのままで。んじゃ、よろしく」》

 ヨハンが言葉をきると、ソフィアが通信のチャンネルに切り替えてから言う。

《シックスへ――これは公共放送だから、コマーシャルはない。それと、ニュースの読み上げの前に音楽の放送が番組表に(しる)されてる》

「なら、かけてやれよ――()()()()()()()をな」

《ん》

 ソフィアの短い返事とともに、()()()()()()陽気(ようき)管楽器(かんがっき)のイントロが未明の帝都を(さわ)がせはじめる。

 その曲に気がついたヨハンの表情が、白みはじめた空より早く明るくなった。

「おいおい――〝底抜(そこぬ)けコンビ〟の()()()()()()じゃん! ほんと、お前さんは俺の良き理解者だな」

《ん》

「……()めたんだぞ?」

《知ってる――だって、私はあなたが……》

 彼女が最後に()べた言葉は、男声(だんせい)のメロディに(かさ)なって聞こえなくなる――おそらく、当事者たちにだけ伝わったのだろう。

 世の中にはそういうことも()()()()

 それに彼女の言葉を上書きしてしまった――この流れてくる音楽に注意を向ければ(おの)ずとわかる。


 男はどんだけ幸せになんのさ? キスをしたら彼女も返してくれた♪

 アイツから聞いたとおりだった♪ 〝めっちゃドキドキもん〟だってね♪

 真っ暗にしたお部屋の中で♪ ()きしめたら彼女もそうしてくれた♪

 船乗りの言葉を借りて言うと♪ 〝ボートに(あな)をあけたみたい〟ってね♪

 ずっと頭がグルグルしてんだけど? もう眠たいのに笑いが止まんないや♪

 これがはじめの一歩だっていうなら♪ 俺の人生マジでヤバみで(あふ)れちゃう?

 太陽がこんなに(まぶ)しいのはなんで♪ アイツに聞いてたよりこれマジ(すご)い♪

 早い話、こうだよね? 愛ってのは頭をガツンとやられたみたいなもんだって♪


()かれ過ぎだろ」

《あなたほどじゃない》


 それから間もなく、統合参謀(さんぼう)本部には帝国の各駐屯(かくちゅうとん)基地(きち)から有志の部隊が()()()()集まりはじめた。

 彼らは〝逆賊(ぎゃくぞく)誅滅(ちゅうめつ)するため〟に出動したとしていたが、その真意は明白だった。

 早朝にはじまった鉱石(こうせき)ラジオの公共放送の番組〝お早う帝都〟によって陰謀(いんぼう)白日(はくじつ)のもとに(さら)された。

 ()()によって進退の(きわ)まった帝国軍の主戦派(しゅせんは)暴発(ぼうはつ)したのだ。

 おそらく、()()()()状況に()り込んで、ヨハンは鉱石ラジオの公共放送で彼らに挑発(ちょうはつ)()り返していたに(ちが)いない。

 彼のことを知れば知るほど――そうとしか考えられない。

 また、調べるほどに――やはり彼の正気を疑いたくなった。

 地階(ちかい)()りたヨハンたちアルファチームは降伏(こうふく)勧告(かんこく)してきた相手との交渉(こうしょう)()()()()()()拒絶(きょぜつ)した――そして、そのまま戦端(せんたん)が開かれた。

 立て()もったわずか七人の彼らは、殺到(さっとう)してくる帝国陸軍の正規兵で構成される先発隊を、統合参謀(さんぼう)本部のビルの中に(さそ)い込み、皆殺しにした。

 携帯迫撃砲(けいたいはくげきほう)による攻撃が始まって間もなく、その攻撃は戦闘に介入(かいにゅう)したブラボーチームの横槍(よこやり)によって効力射(こうりょくしゃ)阻止(そし)された。

 ミリアムたちの到着を確認したヨハンたちは、建物に狙撃手(そげきしゅ)を配置してから()()()()()

 合流を果たした彼らは、後続(こうぞく)の敵が再編成(さいへんせい)しようとしているところを先回りして先制(せんせい)し、指揮官(しきかん)重要目標(HVT)だけを仕留(しと)めるとすぐに撤退(てったい)――これを正午(しょうご)まで()り返した。

 しかし戦車が投入(とうにゅう)されたことで、再び彼らは統合参謀(さんぼう)本部ビルに退避(たいひ)する。

 追い込まれた彼らだったが、そこに五〇〇ポンド爆弾(マーク八二)満載(まんさい)した飛竜の近接(きんせつ)航空支援(こうくうしえん)戦隊(せんたい)――〝ホッグ〟が偶然(ぐうぜん)、上空に飛来してきた。

 ハーレークイン小隊の狙撃手(シエラ)たちの観測情報(ピクチャー)をもとに、ヨハンは爆撃を誘導(ゆうどう)した。

 小休止のときに、ミリアムは上官になぜここまで苛烈(かれつ)な対応をとる必要があったのかを()いた。

「この馬鹿どもを全員収容(しゅうよう)できる刑務所(けいむしょ)なんかないからな――だから、俺たちで裁判(さいばん)と刑の執行(しっこう)()()()()やっちまったほうが、手っ取り早いだろ? あと〝ルビャンカ(虐殺)〟を()()でやってみたかったし」

 その()()()()物言(ものい)いに、ミリアムは(あき)れかえって二の句が()げなかったと証言(しょうげん)した。

 午後をまわって、夕方が近づいた頃に再び戦闘が始まろうとした。

 ところが、彼らの間にで弾丸が飛び交う直前になって、空軍旗(くうぐんき)(かか)げた()()()()()()六頭立ての馬車が、統合参謀(さんぼう)本部ビルを横切るように止まった。

 その後ろにはアルレッキーノ分遣隊(ぶんけんたい)分乗(ぶんじょう)した、数台のエフライム(てい)幌馬車(ほろばしゃ)が続いていた。

 そして先頭の馬車からマイアとソフィアが()りてきた。

《いいかげんにせよ! ()れ者どもがっ! よりにもよって、陛下(へいか)のおわすこの帝都を(さわ)がせおって! ただちにこの暴挙(ぼうきょ)()めるがいい! (しか)らざれば、(わらわ)()()()()()(つぶ)さん! 坊やも聞こえておろうっ!? この()(およ)んで例外は認めぬぞ! この場は()()()が預かる!》

 妖精(ようせい)の少女に中継(ちゅうけい)させた端末水晶(SINCGARS)を通じて、増幅されたマイアの怒号(どごう)()()()()(ひび)き渡った。



 ローゼンクランツ宮内尚書(くないしょうしょ)主導(しゅどう)した、陸軍と海軍の高官たちによる一連の(たくら)みはヨハンたちの奮闘(ふんとう)によって白日(はくじつ)のもとに(さら)された。

 この日、彼らは救国の英雄となった――表向きは。

 あの日、統合参謀(さんぼう)本部の一室で拘束(こうそく)された陸軍と海軍の高官たち、その関係者で()()()()()()()()全員が憲兵(けんぺい)本部に収監(しゅうかん)された。

 これを()て、帝国の上流階級からなる貴族院や議会の、軍人以外にもいた魔界との講和(こうわ)にいまだに反対している主戦派(しゅせんは)次第(しだい)求心力(きゅうしんりょく)(うしな)っていく。

「そりゃそうだろ――このご時世(じせい)で主戦論を声高(こわだか)(さけ)ぶってことは〝俺は逆賊(ぎゃくぞく)だ〟って言うのと変わんねえじゃん? まあ、俺は戦争したいけど。あと人も殺したい」

 ヨハンが言った。

 ある面から見れば、それは正しい認識(にんしき)かも知れない。

 特に陸軍は多くの反逆者を生み出したことと、彼らの階級が総じて高級将校(こうきゅうしょうこう)だったこともあり、大幅な人事異動(じんじいどう)組織改革(そしきかいかく)をする必要に(せま)られた。

 一連の騒動(そうどう)の責任をとる形で統帥(とうすい)本部総長(ほんぶそうちょう)、統合参謀(さんぼう)本部議長、憲兵隊(けんぺいたい)総監(そうかん)のみならず、三軍の長官に及ぶ六人の元帥(げんすい)たちが(そろ)って辞職(じしょく)を願い出たことで、帝国の中枢(ちゅうすう)と軍はさらに混乱をきたした。

 事態を重く見た帝国政府は、内務尚書(ないむしょうしょ)と外務尚書を筆頭(ひっとう)に各尚書による連名で〝神姫(しんき)〟の聖断(せいだん)(あお)動議(どうぎ)(はっ)した。

 議会と貴族院はこれを満場一致(まんじょういっち)可決(かけつ)した。

 きわめて異例のことながら、ヴィクトリアは勅命(ちょくめい)として〝神託(しんたく)〟を(さず)けた。

建前(たてまえ)だらけで()()()()()()()だよな――な?」

 ヨハンが言った――もう口を閉じてほしい。

 まず、ヴィクトリアは六人の元帥たちの辞意(じい)慰留(いりゅう)するために、特別調査委員会を設置し、彼らの身辺調査を徹底(てってい)することと、それが済むまで謹慎(きんしん)厳命(げんめい)した。

 その上で潔白(けっぱく)(みと)められれば、今回の騒動の責任は問われずに済む。

 調査委員には誰もが納得する公正にして厳格(げんかく)調停者(ちょうていしゃ)として、マイアが()いた。

 彼女が統合参謀本部の主席幕僚(ばくりょう)昇任(しょうにん)し、六元帥が一時的に不在の間は、その代理をも務める。

 その過程で、竜族の(おさ)によって能力・人品ともに非の打ち所がないと推薦(すいせん)された、各軍の高級将校が昇進(しょうしん)させられることとなった。

 その中には、ハーレークイン小隊の(ぞく)する第九九連隊(れんたい)基地の司令官(しれいかん)である、ボーマン大佐(たいさ)の名前もあった。

 彼はスヴェンソン准将(じゅんしょう)後任(こうにん)として、統合参謀本部次席幕僚(じせきばくりょう)に名を(つら)ねた。

「俺は明日から、誰の葉巻(ハバナ)を盗んだらいいんだよっ!?」

 知ったことではない。

 同様に、(すぐ)れた管理能力を発揮(はっき)する人物として、サムエル来訪の(さい)警備計画(けいびけいかく)の総責任者を(つと)めた、メイ中佐(ちゅうさ)推薦(すいせん)された。

 彼には統合参謀本部の兵站(へいたん)管理部門しゅけいぶもん(まか)される。

 現役の将校以外にも、海軍の退役少将(しょうしょう)であり、現在は民間人としてジョージック号の船長を(つと)めているヒル氏にも中将(ちゅうじょう)待遇(たいぐう)統帥(とうすい)本部の幕僚顧問(ばくりょうこもん)として声がかかった。

「おい! ()()を〝被害者(ひがいしゃ)の会の名簿(めいぼ)〟って言ったやつは誰だっ!? まあ、その通りなんだけど……」

 どうやら、ようやく彼にも自分が厄介者(やっかいもの)だという自覚が芽生(めば)えたらしい。



〝ノーマッド〟に帰ってきたヨハンたちも(いそが)しく動いていた。

 まずは、先日の作戦中に戦死したローガンやメイソンをはじめとした、十名の部下たちの後事(こうじ)(とどこお)りなく(さだ)める必要があった。

 第九九連隊(れんたい)に空軍から与力(よりき)として派遣(はけん)された――()の地で戦死を()げたハーキュリーズ輸送飛竜(ゆそうひりゅう)、バンジョウ大尉(たいい)遺体(いたい)は人の手で運搬(うんぱん)することは不可能だ。

 そのため、マイアの送った空軍の将校(しょうこう)たちが回収を代行した。

〝バンジョウは(とうと)御方(おんかた)(たて)となった――竜族とはかくあるべし〟と、その場に立ち会った空軍将校が()()()()見ながら言った。

 ノイエ・シュタイン城から()()帰還(きかん)し、戦死者の遺族(いぞく)招待(しょうたい)して基地で葬儀(そうぎ)を行った。

「戦争を起こす――ってその考え自体が、間違(まちが)いのもとなんだ。()()()()は、軍人の本分じゃねえ。人間はみんな馬鹿だから、起こそうとしなくたって結果的に戦争は起きるんだよ。(きのこ)(たけのこ)()()()()()()()()めるのですら、戦争の火種になりかねないのが人間の社会だろ? 俺たちの任務は()()()()()とき、他人(ひと)よりも戦争を楽しめるように、()()()()()精励(せいれい)することだ。だよな?」

 細巻きを吸ってから帰りたいと我儘(わがまま)を言ったヨハンが、一人墓前(ぼぜん)に残って――彼岸(ひがん)の向こうにそう言った。



「……ちっ」

 兵舎(へいしゃ)執務室(しつむしつ)でヨハンの舌打(したう)ちが聞こえた。

 ミリアムが顔を上げると、机で何者かの手紙を(なが)めていた上官が――嫌いな食べ物を前にした子供のような顔をしている。

()()()()()()ぜ――俺たちは道化師(ピエロ)格好(かっこう)をした、操り人形(パペット)だったのかよ」

 口の(はし)に細巻きをはさんでいる彼の肩に、妖精(ようせい)の少女が立った。

「誰からの手紙? ローゼンクランツ――あの事件の首謀者(しゅぼうしゃ)と同じ人?」

 ヨハンの耳に(つか)まりながら、ソフィアが背中を(かが)めて手元を見た。

「どういうことですか? 大尉(たいい)

 気になる名前を耳にして、ミリアムも椅子(いす)から立ち上がった。

「……()()()()()()、最初から()()あの(じじい)に仕組まれてたんだよ」

「私たちは彼の計画を阻止(そし)したのに?」

 ソフィアが首を(かし)げた。

(ちが)う――()()(ふく)めての茶番だったんだ、()()は」

「あの、いま少し(くわ)しくお願いできますか?」

「簡単に言うぞ――あの(じい)さまは、軍を牛耳(ぎゅうじ)って帝国を軍事政権下(ぐんじせいけんか)におこうとしてた連中を(あぶ)り出すために、今回の計画を()()()持ちかけてたんだそうだ。で、首謀者として(さば)かれてこの件を片付けるまでが〝最後のご奉公(ほうこう)〟なんだと」

 ヨハンが概要(がいよう)を語ると、ミリアムは瞠目(どうもく)した。

「では――その手紙を(おおやけ)にすれば、ローゼンクランツ氏の潔白(けっぱく)証明(しょうめい)できますね」

「ああ、()()()()()

 そう言って(うなず)いたヨハンはマッチをこすると、手紙に火をつけて灰皿の上に捨てた。

「ちょっ!? なにをなさるんですかっ!? 大尉(たいい)!」

 ミリアムが狼狽(ろうばい)して、火を消そうと近づいてくる――しかし、ヨハンが手を()き出して制止(せいし)した。

 そのやり取りを横目に、燃えていく手紙を見ているソフィアが言う。

「……この処置(しょち)遺言(ゆいごん)? 証拠(しょうこ)を消すのも」

「そういうこった――この問題は()()()()からな、(じじい)ひとりを悪者に()()()()()()()()、収まりが良い。多分、()()()もそう言うだろう。っていうかローゼンクランツを処断(しょだん)するときに、親類縁者を連座(れんざ)させないって明言(めいげん)してから、最初から知ってたんだろ? いい性格してるよな、あのブラコンの()()()()めっ!」

 名前こそ出していないものの、ヨハンが誰を嘲弄(ちょうろう)したのかは、文脈をみれば明らかだ。

 (あん)(じょう)、ミリアムが激怒(げきど)した。

「大尉! いくらなんでも、()()()は聞き捨てなりません! まったく、あなたという人は――どうやったら、その口を閉じることができるんですかっ!?」

不敬罪(ふけいざい)の現行犯――この口が悪い。この口が()()()悪い」

 ヨハンの眼前に移動したソフィアが、その(くちびる)を両手で(ふさ)ぐようにして押さえはじめる。

「もがもが……」

「いいえ! 駄目(だめ)です! ()()()()反省(はんせい)をなさらないかぎり、禁煙(きんえん)です!」

 ミリアムは手際(てぎわ)よく、上官の机の上から細巻きを()()()(うば)い、マッチと灰皿まで運んでしまう。

「もがー!」

「駄目!」

「駄目です!」

 彼が例によって腹心の乙女たちから小言(こごと)を言われ始めたところに、(とびら)を叩いてシニアが入室してくる。

「失礼――()()()()()()申し訳ありませんが、間もなく新しい司令殿(しれいどの)がお着きです。お出迎(でむか)えのご用意を」

 シニアに(うなが)されて、ヨハンたちは(そろ)って時計を見た。

 彼らが基地の正門に、部下たちを(ともな)って整列していると、騎乗(きじょう)したヘンドリクセン()()が現れた。

「待たせたな――諸君(しょくん)

 その背後に続いている乗合馬車から彼の部下――アルレッキーノ分遣隊(ぶんけんたい)、帝国軍の最精鋭(さいせいえい)たちが、ランバート上級上等兵曹(へいそう)(ひき)いられて()り立った。

 マイアの(きも)いりで、新生した統合参謀(さんぼう)本部の幕僚(ばくりょう)たちは、今回の事件で秘密裏(ひみつり)協働(きょうどう)した二つの部隊をまとめた。

 ()()により、陸海空とあらゆる事態(じたい)と状況に即応(そくおう)して対処(たいしょ)する――帝国の軍で初めての、特殊任務(とくしゅにんむ)専門部隊(せんもんぶたい)誕生(たんじょう)した。

 その指揮官(しきかん)に最も相応(ふさわ)しい人物は誰か――長年に渡って海軍陸戦隊の教導隊(きょうどうたい)、第六連隊(れんたい)(ひき)いたヘンドリクセン中佐が()くことに、異論のある人はいなかった。

 海軍の将校(しょうこう)が陸軍の連隊基地の司令に()くのは、もちろん異例中の異例だったものの――今の帝国軍は混沌(こんとん)としている。

 また、この人事を決定した人物は帝国軍で最も辣腕(らつわん)発揮(はっき)する人だったため、多少の強引さは黙認(もくにん)された。

 端的(たんてき)にいえば、マイアに(さか)らえる人間などいなかったのだろう。


 それからしばらく()った頃。

練度(れんど)が低すぎる〟と新司令官に評価(ひょうか)(くだ)された、再編成(さいへんせい)を終えたばかりのハーレークイン小隊の全員が猛訓練(もうくんれん)をこなしていた。

「さて、ルテナン・スミス――楽しい任務を与えよう」

 基地司令室に呼び出されたヨハンに、相変(あいか)わらず海軍式の階級をつけてヘンドリクセン大佐は言った。

「はあ」

「魔界に飛べ――川の向こうの大使館からもたらされた新しい情報だ。〝勇者〟の()()()()の国の危機(きき)だそうだ。というわけで、至急(ASAP)、小隊を編成し魔界の連邦政府に(おん)()()()()をしてこい」

「……はっ!?」

 どうやら、ヨハンの厄介事(やっかいごと)はまだつづきそうだ。

























せっかく書き込み用の欄があるのでこの機にいくつか述べておきたいことを残しておきます

まず句読点の打ち方もよくわかっていない、不慣れな初心者の拙い小説をここまで読んでいただいたことに感謝を申し上げます

以下の駄文は常識と良識とやさしい心を持たない人向けのものですので、そうでない真っ当な人はすぐにブラウザの戻るボタンを押すかメモリの節約のためにタブを閉じてくださいchrome重すぎ

でも私の小説を最後まで読んだ人は、きっと心が邪悪な人だと思うのであんまり心配していませんし、そうでなければ序章の最初の言葉を見て、続きを読もうとはなさらないに決まっています

よって、あなたは邪悪な人間なのでご安心して続きをお読みください

閑話休題ですが、そもそもこれを書いている馬鹿が縦書き専門の旧世代無能人間なので、横書き表記だと漢数字で読みにくいことこの上ないのはごぬんなさいです

おわびにミリアムのおっぱいで窒息する権利をあげますから、ここはひとつ穏便に何も言わずにそのままのあなたでいてください

もしくはコメントで褒めちぎりながらポイント100兆億万くらいスパチャしてくれると、地球温暖化を解決します

両方やってくれないと地球は温暖化であと数万年後に人類は滅びます

みんなアル・ゴアに騙されていますが、私は真実を述べることを空飛ぶスパゲティモンスターのザルとあらゆるドグマにおいてここに誓いのぴーを勃てます

いちおうPDF化で縦書きでも表示できますが、こちらも便意のプリズンブレイクをきたしている下痢便仕様なので、無責任に勧められないという……国内最大手の小説投稿サイトのくせに、なんで禁則処理すら対応できないんですかね馬鹿なんですか

禁則処理と1話ごとのPDF化ができたら原稿チェックでずいぶん楽ができる人間もここに1人だけいますけど、どうやら知ったこっちゃありませんよね

あと執筆欄……なんで日本語の小説を横書きで書かなきゃいけないんですか? これありえねー仕様です 

運営さんはたぶんそもそも小説を1冊も自発的に読んだことがないんでしょうし、すくなくとも自分で小説を書こうと人生の無駄な試みに挑戦したことのない、戦隊ヒーローか仮面ライダーのブリーフしか履いたことのない健全な人に決まっています

少なくとも先達の作家さんたちのことを考えれば↑の程度のことは対応しなきゃだめですのに、やる気ないんでしょうね

こちらも投稿規定なんて一切読んでいないのである意味相思相愛ですが

余談ですけど、私は月曜日に生まれた人間なのでカレンダーは月曜始まりでないとアレルギーと髄膜炎と骨肉腫を発症します

よって、私は大日本帝国憲法よりも私の規範がなによりだいじですし、80年代生まれは全員そういうものです

特に川崎市という共産主義国で育ち横浜市という北朝鮮に匹敵するこの世の楽園を凝縮した社会主義国に移住するとこうなります

折よく締め切りに間に合ったこともあり、無事に完結を迎えたこの機に乗じて「ESN大賞2」をタグだかキーワードに追加しようと思います

もっとも、きっと見向きもされないでしょうがこれも記念と自己満足の手続き上やむを得ない措置です

国家や宗教人種や老若男女を問わずどんな人でもそうだと思いますが、排便は気持ちよく行いたいと思いますので

それにしても、ここまで書くのにもとても時間がかかりましたね……なにしろこの18話など初稿の日付はコロナとマスクの抱き合わせ販売を成功させた習近平を国賓として迎えようとしていた頃だというのに「なんとなく気に入らない」という雑な理由で、4回もまるごと書き直したりしています

書き直してあの出来ですが、これでもだいぶマシになったんですよ、ほんとうです

最初に書いたバージョンではマイアが最後に変身してビルを踏み潰すという「死霊の盆踊り」か「ムカデ人間」やカート・ラッセルが出てこないセガール映画の次に面白い終わり方だったのですから

それよりマシとはいえ現状がベストだという自信はとうに失われています……私はもう諦めました

そしてこの完結までに活用できなかった、数々の小ネタやら没ネタの塵芥とゴミ箱に積み上げたティッシュの山より利用価値のないピラミッドの廃棄物をどうしたらよいものか

「ポセイドン・アドベンチャー」の原作の原作みたいに、何千年後の人類に聖典として親しまれスンニ派とシーア派のようなほどよい緊張感を与えるくらいが私のささやかな望みですけど、かないますかね

そもそもすべてヨハンが悪いのです――ええまったく私はわるくありませんです

当初の予定では少し素行不良で皮肉屋だけど射撃が上手い、カッコイイ青年将校が主人公だったのに……なんなんでしょう、あれ?

それはそうとあまりにもあの野郎に腹立ったので、顔立ちが美形だという描写を削ってやりましたよざまみろ

まあヴィクトリアの双子ですから容姿端麗なのは描写なくてもバレそうなものですけどね

でもライアン・レイノルズが調子のいいことを言うのとマスクを洗濯中のデッドプールが喋るのとでは印象がだいぶ変わってきちゃいますよね、そういうことです

ささやかな抵抗としてサバを読んでたころのトム・クルーズ並みの低身長にしてやりましたがこれは結局自分のコンプレックスを再確認するきっかけにしかなりませんでした5フィート7.87インチの小男より

黙ってればカッコイイというタイプでもなく、黙ってあの行動をとってたらただの殺人鬼かFPSゲームで常にパシリをさせられるついでに遠距離でも弾道の落下しない魔法の鉄砲で無双しながら致命傷を負っても10秒隠れてたら完全回復し無限スタミナでどこまででも走れて別に必要もないのに世界を救える、ある意味で今をときめくなろう小説の主人公たちよりも奇形児ですし

一応、あとがきなので秘密の設定を披露しますがヨハンという人間は個人でありながらその意識がひとつの国家をなしています

「朕は国家なり」とはもちろん別のもっと悪い意味です、念の為の不必要な自己弁護を兼ねて補足します

だから何万人も殺してもいっさい罪悪感を感じませんし、民間人の犠牲が出ようが一顧だにしません

まるで天安門に戦車で乗り付けてスピード違反するようなやつです

サイコパスではありませんし、キチガイとも違います彼らはあくまで個人として国家の枠をはみ出したものですから

国家そのものとは極論をいえば、なにをしても自分を完全に正当化できる意識の持ち主ということです――物質の世界に生きる限り人間の社会において戦争に勝つとそうなっちゃうのです、毛沢東とかスターリンとか

なにをしてもいい、ただし戦争に負けることだけはやってはいけない、という――そして晩年は誰も信じられなくなり、魂が枯れ果てるのです

まるで火薬と羅針盤と活版印刷を発明した国でお馴染みの思想みたいですが、これは残念なことに消極的な理由で正しいことになっています

彼にはいくつかの例外は存在するものの、隣で部下や知り合いの誰が死んてもヨハンはあのままです――いっぽうで例外の存在を認めようとしないのは彼の未熟さであり、数少ない弱さであり唯一の悪の部分です

こまったことに作者は彼の悪の部分のせいで憎みきれないところがあります

ドメスティック・バイオレンスの共依存のようなものかと思いますが、原稿のときは心をこめてくたばれと思いながら書いています

せっかくなのでもうひとつ秘密を明かしましょう

ヨハンよりヴィクトリアの方が精神的にはもっとヤバい存在です

その証拠に25歳にもなって彼女に子供がいないことと皇族が極端に少ないことの意味をちょっと考えてみてください

このままいくと国家の象徴がかつてのエチオピアやどこかの二つの島国みたいな使用済みの避妊具によく似た形のあれなことになりますが帝国はそれでいいのでしょうかね……?

最初にヨハンと出会った名もなき記者の青年が困惑していますが、私も彼らに対してまったく同じ気持ちです

とくにあの野郎が喋りだした瞬間に当初の構想がほぼ吹き飛ばされてしまいました

くたばれ

あまりにもあれだったので何度か本気で殺そうとしたのですが、この程度では全然駄目だとわかったのでチーズ牛丼を食べながらなにかいい方法を考えようとしましたが、マグロを食べてる方のゴジラ並みに役立たずでした

しかし読み返してみるとヒロインたち――ソフィア、ミリアム、マイア、ヴィクトリア、シニア、サムエルのヨハンへの好感度が気味悪いくらいに振り切っていますね……これだけでも、ヨハンは万死に値する

くたばれ

でもヨハン以外はぜったい幸せになってほしいです

とはいえヒロインたちの全員があの野郎に命を、あるいはそれ以上のものを救われたことがあると考えればまあやむを得ないですか

やっぱくたばれ

全然駄目といえば、私は軍隊のことやそれ以外のほとんどをよく知らないまま原稿を書いていることをここに告白したいです

よくよく読めば――読むというのは文字を目でなぞるだけでは駄目ですよ、ちゃんと読むことさえできたらば2009年の衆院選で歴史的な勝利で政権を奪取し消費税の増税を議論すらしないと公言した民主党のマニフェストと同じくらい、私の原稿が雑だとおかわりになるかと思います

あのときに民主主義という政治制度の数少ない最大にしてわりと致命的な弱点に多くの人が気づいたようですね――つまり投票率が上がるとバカも選挙に行くのでろくなことにならないという

私の描写が雑だというのは謙遜ではなくこれは事実で、面倒だからという理由で省いた部分がいっぱいあります

一応は書く前に調べるのですが、見たい資料にかぎって「映像の世紀」で見た昭和20年の小学校の教科書みたいに黒塗りの箇所があったり、そもそも文書ファイルを読むにも英語の成績がオンリーワンだったので……中学校や高校の先生が出欠簿の記録を偽造してくれなければ私は間違いなく落第していたでしょう

こんないいかげんな人間が書いていることからわかる通り、作中の軍事用語等はかなり雑な使い方をされていますので、なにかの参考にはしないでください

また、こんな雑な小説に書かれていることを転載してもあなたが恥をかくだけでなにもメリットはありませんから、早く食べ物を排泄物に還元するお仕事に戻りましょうね

同様に貴族や皇族といった、やんとごない人たちの言葉づかいも、ぜんぶデタラメを並べていますからルビのふいんきをお楽しみいただければまあいいか、と

バーモントカレーの甘口か半分に砕いたバファリンのような感じで見守ってほしいです

あまりこうしたことを長々と書くのもアレですが、この次のことはあまりまったく考えていません

この続きがあるとしたら、おそらく魔界で「ヒャッハー」詐欺すると思うのですが

魔界ってどんな国なんでしょう?

混沌としてて連邦制でおそらく多民族で広大な国土と豊かな自然と資源と強大な軍事力、世界で二番目に強い空軍力を運用している海軍を有している国……なんだかどこかに似たような臼Aを秘めた国がありそうです

読者の方で魔界出身の巨乳で銀髪で切れ長の目をした美人で、妖艶でエキゾチックな褐色肌をしててお尻の大きな100歳以上10000歳未満の人がいたらぜひ教えて下さい

帝国や中洲のこともきちんと決めずに見切り発車で書いちゃったので、同じ轍を踏みそうですがそんな感じです

ではまた遠くないけど忘れ去られたころにお会いしましょう

愛を込めて


W10-4

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