第18話 ハーレークインたちの外交儀礼は我田引水
――ハーレークイン小隊を陥れた統合参謀本部の主戦派たちとの決戦が始まる。ヨハンのアルファチームは建物の屋上に落下傘降下という、無謀の一言では足りない作戦を敢行。そして別の場所ではソフィアやミリアムとシニアも各々の任務に従っていた。ただ一人、屋上への降下に失敗したヨハンは、そのまま統合参謀本部のビルに正面から戦いを挑む。ついに彼は武器を捨てざるを得ない窮地に……しかし、それは敵を欺くために彼が仕掛けた、やや気狂い沙汰の罠だった。
「嫌――絶対に嫌」
「嫌もピエロもないんだよ――命令だ。やれ」
「嫌っ」
ヨハンの肩の上で、ソフィアが断固として拒絶しているのは――彼が立てた作戦に反対しているためだ。
より正確に言えばその編成に彼女は納得がいかないようだった。
二人は今、ヴァージニア号の蓄電と味方との再編成のために浮上した潜水艦のデッキにいた。
ヘンドリクセンとともに彼が立てた作戦は、三つに部隊を分けて遂行される。
第一班、アルファはヨハンが指揮を執る。
その下にハーレークイン小隊の中で継戦能力に問題ない六人の下士官が付き、統合参謀本部に空挺による奇襲をかける。
第二班、ブラボーはミリアムが指揮し、シニアと小隊の残った二人の下士官をつけ首謀者の身柄を確保しに行く。
そして第三班、デルタはヘンドリクセンと彼が率いるアルレッキーノ分遣隊が、陽動作戦を行う。
その際に、デルタは帝都の通信を掌握する必要があり、ヨハンはこれをソフィアに任せようとした。
ところが妖精の少女はこの決定に反対だと表明――怜悧にして合理的、辛辣ながらも従順な彼女は理屈を超えて、隷属していると言い続けた相手の命令を拒絶した。
つまるところ、ソフィアは駄々をこねている。
「……上陸まであと九時間だぞ」
「なら、九時間かけて私を説得して――そうしたら従う。でも、今は嫌って言う。だって嫌だから」
「うーわ、面倒くさ――まるで、その気にさせておいて、電気を消したら〝やっぱダメ〟とか言い出すオボコじゃん。これだから処女の相手をしたくないんだ。そもそも、なにがそんな嫌なんだよ? 別に、一人ぼっちで留守番させようってわけじゃないんだぜ。それどころかお前さんのチームが一番、頭数が多いじゃねえか? それに……」
「でも、あなたがいない――少尉も他のみんなも」
「そういう作戦なんだから、仕方ねえだろ――お前さん以外の誰にできるんだよ? 俺たちの端末水晶の通信をチームごとに統制しながら中継し、帝都の全通信網を傍受しつつ、暗号鍵を解読したり任意の敵に欺瞞情報を意図的に流したりなんて、人間に絶対不可能な真似が。それに、あそこを防衛すんのに、ヘンドリクセン中佐の部隊じゃなきゃ人数が足りないし」
ヨハンはあらためて、ソフィアがなぜデルタチームに必要なのかを説いた。
しかし、彼女は耳を引っ張って囁くように言う。
「そんなことは知ってる――だから、それ以外のことを教えて」
肩をすくめて、ヨハンは細巻きを口にした。
それを目にしたソフィアが宙に浮いて指先に火を灯した。
「……」
二つの小さなルビーの結晶が射抜いてくる――その奥には、ただ一人の部下も説得できない、情けない顔をした無力な指揮官がいた。
「だって俺、女の子を口説くなんてしたことねえもん――まず店に行くじゃん? で、好みのお嬢を指名すんじゃん? 六〇分コースで。で、終わったら金を払って〝またよろしくね〟でバイバイだ」
「指名……?」
「ああ、そうか――お前さんは娼館なんて入ったことないか。〝ウィアード〟って酒場の二階にいい店があるから、こんど社会見学に行くか?」
ソフィアは首を振った。
「違う――あなたが女の子の名前を呼んでいるところを見たことがない」
そう指摘されたヨハンは、口の端に細巻きと軽口をはさみながら言う。
「源氏名なんて通信の呼出符丁みたいなもんだろ――本名なんて、知ってたって呼ばねえよ。それが、ああいう場所での外交儀礼だろ? 例えばほら、たまたま入った店に小学校の同級生がお勤めしてて……」
「どうして?」
「いや、だからあ、別に深い意味なんかないって」
「違う――どうして、あなたは私や少尉のことを名前で呼ばないの?」
「……それは、まあ――いろいろ俺にも思うところが、あるし?」
「怖いから?」
「俺が? お前さんたちを? んなわけねーだ……」
「私たちを失うのが怖いんでしょう――ノイエシュタイン城のときみたいに」
ヨハンの軽口をソフィアの抑揚に乏しい一言が切り裂いた。
「……」
押し黙った彼がなにかを言い返そうとしたときに、海風が細巻きを奪った。
デッキに落ちた細巻きは回転しながら火の粉を散らした――勢いはとまったものの、そのまま転がるようにして潜水艦の縁から海の中に音も立てずに落ちて沈む。
「あなたの神経症的防衛の〝隔離〟はとても幼い――失うのが怖いから、自分から距離を置こうとしている。だから、私たちを名前で呼ぼうとしない。違う?」
「やめろよ――精神鑑定なら受けたぞ。〝イカれてる〟か〝真面目に受けろ〟って言われちゃったけど。でも〝アパートで殺人を目撃したあなたを犯人が指さした意味は?〟なんて〝自分のいる階を数えてる〟以外に、答えがあるか? 模範解答は〝次はお前だ〟だっけ? 殺人の目撃者を放っておく阿呆な殺し屋なんているもんか」
「設問が悪い――私がもっといいのを出す。〝あなたにとって、私はどんな存在なのか?〟これに答えなさい」
ソフィアが命令形でヨハンに物申したのはこれが初めてのことだ。
「んん――〝どんな〟って、そりゃ空気みたいなもんかな」
ヨハンの回答は例によって彼らしい掴みどころに乏しいものだったが、妖精の少女はこれには反応せ確認するように訊く。
「空気は軽いってこと?」
「かもなあ――だって、妖精族っつうのは、オンスが体重の単位だろ。お前さんは二とコンマ六だっけ?」
「二・五八――空気は透明?」
「違うだろ? いや、なんとなく――季節によって色も違ってくるじゃん?」
ソフィアは胸の前で両腕を組みながら、頭を左右に傾けている。
その間にヨハンは新しい細巻きを取り出して、マッチで火をつけた。
「あのバカはまだ来ねーのかよ――空挺できねえぞ。っていうか、なんで俺がアイツに頼らなきゃなんねえんだろうなあ……? 降下を上手いことやってのけることしか考えてなかったけど、よくよく思えば、すげーむかつく。なにが嫌って、他人の力をあてこむなんて俺らしくないもん」
その、独り言の形をした愚痴を聞きつけたソフィアが瞠目した。
妖精族である彼女は人間とは呼吸の仕組みが異なっており、気づくのが遅れたそうだ。
ソフィアは自分の定位置と称するヨハンの肩に戻って、
「空気がなくなると苦しくなる――でしょ」と囁いた。
「違う! いや、ほんとマジで違うから!」
ソフィアはヨハンの肩を蹴って、宙に浮きながら彼に指を突きつけて指摘する。
「また〝隔離〟してる――つまり私は正解。あなたにとって、私は軽くて透明で意識しづらいけど、なくなると苦しくなる存在。あと、人間は空気がないと生きていけない。よって、あなたは私がいないと……」
「うるさい! 黙れ!」
「こんどは〝打ち消し〟てる――でも、これで私は納得した。そのおかげでデルタチームに参加できる。あなたが私をどう思っているかわかったから」
そこに、
「君たちの睦み合いを邪魔をするのは――とても心苦しいのだが」と艷やかだが憂いを含んだサムエルの声がした。
二人が振り向くと、背中から六対の翼を生やした褐色の肌の美少年が潜望鏡の上に立っていた。
この日の彼はカシミールゴートを混紡した灰色の上下に、黒いシャツと同色の無地のタイを結んでいた――足元もやはり黒で引き締めていたが、スエードのチャッカブーツを履いている。
装飾のための小物はごく控えめで、シャツのカフスは真珠で、タイピンは黒く染めてヘアラインに仕上げた、自然界では最も硬い金属に分類されるタングステンだった。
ヨハンたちの身に何が起きたのかを知ったものの、表向きの立場は弔慰を表明できない。
そのために、外側は灰色で装いつつ、自分の胸の内側により近い場所を包む意匠を黒いシャツとタイにしたそうだ。
万国共通の常識を敢えて破り、黒いシャツを選んだところに彼の性格がよく顕れていた。
「約束の時間だから降りてきちゃった――先に言っておくけど、本当は断るつもりで来たんだ。だって、仮にも魔界の貴公子であるこの僕を〝まるで都合のいい女の子みたいに扱う〟なんて許せないし。だけど、今ので気が変わった。なんといっても、お代を先に頂いてしまったからにはね」
「お代?」
「悪魔の好物は、人の不快感や嫌悪感といった苦痛なんだよ――たったいま、それらをたっぷり頂戴しているところさ。彼から」
ソフィアが隣を見て訊く。
「そんなに殿下に会うのが嫌だった?」
ヨハンは腰に差した拳銃から手を離しながら、
「先に戻ってろ」とだけソフィアに言った。
「ん――殿下、私のヨハンを助けに来てくれてありがとう」
そう言って妖精の少女は水密ハッチから下に降りていく。
「さて、せっかくの君との悪巧みだ――この僕になにをして欲しいのか。本当のことを言いたまえ」
ヨハンはこれから行う作戦の概要と具体的な要望を述べた。
そして、自分が何を狙っているのかを。
「なるほど――実に君らしい。無謀だが効果的で悪くないアイデアだね。いずれ、また帝国と戦争になったら、片方はこちらでも使わせてもらうとしよう。そのためにも、まずは君たちの戦争を手伝わなきゃね。ところで、話を戻すが君は〝叡智〟を魔界の古代語でなんていうか知っているかな? 君たちの古い言葉では〝アイオーン〟だったと思うけど」
「ソフィア」
ヨハンは――いまだに信じがたいことだが、彼は珍しく正解を答えると魔界の王太子は苦笑した。
その後ろで潜水艦のハッチから覗く、透明な翅が大きく揺れていた。
それからサムエルはこの世界の秘密をひとつ彼らに教える。
魔界の古代語で叡智を指す言葉――それは、かつてこの世界で暴れた悪のドラゴンを制圧するために使われた、ひとつの極大呪文と同じ名称なのだという。
「君はそのことを本人から聞いていたのではないかな? だから、彼女の名を軽々しく口にしなかったのだろう――意外と奥ゆかしいところがあるん……」
そう茶化したサムエルの耳元を拳銃の弾が通過した。
このとき、ヨハンは舌を狙ったそうだ。
それから、ヨハンたちは少数のグループに分かれて帝都に上陸を果たすと、予め定めた合流地点で再編成を行った。
三〇人近くの人間が集っても目立たない敷地と設備、飛竜の発着が可能な広大な庭があり、なおかつ秘密の担保が確信できる場所として選ばれたのは――ヨハンにとっては馴染みの実家だった。
エフライム邸の家人たちをいつもの口車に乗せて、ヨハンは家主が不在の邸宅をまんまと隠れ家、補給拠点として活用した。
準備を整えた彼らは、屋敷の正面にある噴水の前に集まった。
整列する軍人たちから少し離れた場所に、サムエルは影のように立ってその様子を見守っている。
「ルテナン・スミス――今回は君に譲ろう。これは元々、諸君らの作戦の延長戦だ。ロスタイムは明朝まで残っている」
ヘンドリクセンにそう促され、彼は出撃前の訓示を行うために一歩前に出た。
居並ぶ完全武装の兵士たちを前にヨハンは声を張る。
「ほんの一年前まで俺たちは魔界と戦っていた――それがどういうわけだか、妙な成り行きで〝軍事独裁政権〟なんて面白そうなもんを作ろうと画策してる、アホどもと戦うことになっちまった」
失敗すれば、帝都の各駐屯基地から派遣される正規軍に包囲殲滅される――つまり今生の別れとなり得る言葉だというのに、ヨハンは相変わらずだ。
シニアは隻眼を細めて渋い顔をし、その隣のミリアムは憮然として深い溜息をついた。
そしてソフィアは感情と表情を凍りつかせている。
部下たちの冷ややかな反応を無視して指揮官は言う。
「なあ、俺は戦争と人殺しが好きだ――お前さんたちもそうだろ?」
「決めつけないで」
見かねたソフィアが割り込んだ。
「その俺たちを差し置いて、勝手に戦争を楽しもうとしてやがる奴らを許せるか? だから奴らを残らず無力化するぞ。邪魔をしてくる間抜けは、皆殺しにしろ。胸に二発、頭に一発。殺意の高さは撃ち込む銃弾の数に比例する。わかるか? お嬢さんたち、今夜は好きなだけ撃ちまくれ!」
「ハーレークインは了解いたしました!」
シニアが声を張った――つづけて彼は他の仲間たちを振り返り、
「諸君はどうか! 戦場を駆け、逆賊に誅を下すことに臨む、これに異議やある!」と問いただした。
「異議なし!」
こんどはミリアムが応じた――その隣で、
「右に同じ」とソフィアもようやく頷いた。
小隊の幹部たちに呼応した他の兵たちも便乗して意気にはやる。
「俺たちに命令をください!」
「一等軍曹たちの仇を討ちます!」
「大尉、ハーレークイン全隊はあなたのご命令を待ちかねております――どうぞ」
「私にも命令して」
ミリアムとソフィアの求めにヨハンは頷いた。
「アルファは空挺により拠点の強襲――ブラボーは重要目標の確保に向かえ。そしてデルタは陽動と撹乱だ。これより〝夜間実弾演習〟にかかれ、お嬢さんたち! 解散!」
出動を命じられた彼らは全員が予定の行動に移りだす。
ヨハンたちのアルファチームは、庭で待機していたヴァージニア号付きの飛竜〝グレイハウンド〟のキャビンに乗り込む。
ミリアムとシニアのブラボーチームは、マイアの厩舎から徴発した馬に騎乗した。
そしてデルタ――ヘンドリクセンたちのアルレッキーノ分遣隊は、数台の幌馬車に分乗していく。
「エインセル特務准尉――我が隊への参加に感謝と歓迎を。ランバート上級上等兵曹を護衛と補佐に付かせる。君には及ばないが、彼も通信が専門分野だ」
ソフィアを迎えたヘンドリクセンが言って、
「よろしく、妖精ちゃん」とランバートが片目を閉じてみせた。
それを受けるソフィアの態度は冷ややかだった。
「別に――あなたたちのためじゃない」
そう言って彼女は背後で離陸した〝グレイハウンド〟を振り返った。
「ああ――私だけじゃなくみんながそのことを知っているさ。さあ、里帰りをしよう」
十五年前。
「……卿はなにを図っておいでか」
朝服を纏ったマイアの謁見を玉座で受けていた幼いヴィクトリアが訊いた。
十歳の童女とは思えないほど鋭い視線が、絹の御簾を通してマイアを射抜いている。
生まれて間もなく即位した今上の〝神姫〟は、稀代の傑物だった。
形式の上では摂政として、ローゼンクランツ宮内尚書を置いている。
しかし、既にその政治手腕と統治能力に彩の片鱗をみせつつあった。
彼女の賢さに気づいていたマイアは人払いを願い出た。
そして、主君に双子の兄の存在を伝えたところ――冒頭の〝あなたは何を企んでいるのか〟という問いかけが出た。
「はて――これは異な仰せ」
マイアは跪いたままはぐらかした。
「エフライム卿――いえ、マイア小母さま。あなたほどのお方が、わざわざ身寄りのない子を引き取った事情にヴィクトリアは納得しました。しかしながら、それをわたくしに伝える必要はないはずです。〝神姫〟は帝国の臣民に代わって神に仕え、巫女として振る舞わねばなりません。社稷を祀り五穀豊穣と平和と安寧を祈りによって維持させる装置です。それを家に例えるならば国土は敷地、民は柱、そして軍は屋根であり、神姫は筋交いと言えましょう。そのわたくしに、将来に外戚となり得る、男子の血縁者があると公になれば、鼎の軽重を問われかねません。小母さまのなさりようは、筋交いに楔を穿つ行為に等しくありませんか」
御簾の中のヴィクトリアは微笑を崩さずに言った。
彼女に親しい者ならば、その丁寧な言葉づかいと発音の中に――水桶に落とした熊胆の破片が沈むときに紡ぐ、黒いすじのような怒気が含まれていると気づいただろう。
「エフライム卿に、いまいちど答える機を与えます――わたくしの兄とやらを、何に利用するおつもりですか?」
マイアは顔を上げて答える。
「……器を整えておりまする」
「器とは?」
「僭越ながら陛下に奏上つかまつる――東の果にかつてありし大国の思想に〝ラオズィ〟なるものをご承知かと存ずる。広大な版図を治むる帝国に必要な器とは、陛下のようにただ眩いばかりの君子だけでは足りませぬ。あらゆる事象と物質に陰陽や表裏が備わる理と同じく、帝国の御柱には同じものが必要なのでございまする。そして、それはただの二面性では完全とはなりえませぬ。陰の面には陽が、陽の面には陰が含まれてなくば、画竜点睛を欠く、九仞の功を一簣に虧くと申せましょう」
ヴィクトリアは瞬いた。
「……話を先へ」
ヴィクトリアに促されてマイアはヨハンの話をはじめた。
これまで屋敷でどのように育ち、そしてつい先日のことだったが、愛犬に最期を迎えさせた話まで。
〝神姫〟は相槌もはさまずにマイアの口を通して、まだ見ぬ兄がどういう人物なのかを見通そうとしているようだったという。
「陛下は陰を内包した陽の面として、引き続き表立って戴きたく――そして、彼奴には陽を内包した陰となるべく、これまで育みもうした。彼奴が思うままに身につけた武威を振るうとき、かくして帝国は盤石なものとなりましょう。妾はずっとそうして〝御子〟たちを奉戴しこの帝国とともに見守ってきたのでございまする」
マイアは帝室に男児が生まれるたびに密かに庇護してきた。
今生においては、たまたま双子――それも男女のそれが誕生したため、異例の措置だったもののヨハンを自ら育てることにしたそうだ。
その理由は、川の向こうにある国を魔界と称しその脅威を排除するために肥大化をつづけた軍が、彼をその大義の在り処として政治的に利用しようとしているとの情報が入ったためだ。
その根拠はある人物の密告だった。
それ以外にも、マイアには個人的な動機があった――かつての彼女の逆鱗を撫でた人間の青年にも、双子の姉か妹がいたらしい。
彼女の名は最初に神の啓示を受けた〝神姫〟として、今も帝国では語り継がれている。
帝国に伝わる経典〝神代詞紀〟に記された神話よりも、はるかな太古から生き続ける竜族の長から、最近の彼女がどのように帝国を安堵していたのかを聞かされたヴィクトリアは裁定を下す。
「エフライム卿に申し渡します――これより、わたくしが一つ年を経るごとに、その兄とやらの素行や言動について上奏なさい。ただし、決して本人に真相を告げないことと、秘密の厳守を重ねて厳命します。いずれ相応しい時が訪れたならば、〝神姫〟の詔勅が彼を後宮に招くでしょう」
「御心のままに」
そして現在。
帝都とその中心に在るべくして在る処は相次ぐ変事によって――ウォッカにキナリレを足してシェイクし、オリーブではなくレモンの皮を添えたマティーニを呑みすぎたようだった。
悪酔いのような混沌を生んだ変事の連続は、突如として現れた〝道化師たち〟と名乗る武装集団が、寺院にある通信管制塔を占拠したことから始まる。
彼らは予め主要設備の位置や施設の構造を熟知していたのか、ごく少数の戦力でありながら帝都全域の軍事通信と放送網を強制的に遮断している。
信じがたいことだが、妖精族の構築した暗号鍵のことごとくを解読したのではないかという推測も検討されている。
しかし、高度かつ複雑な暗号化の施された端末水晶の暗号鍵の解読など人間には不可能だ――妖精族の協力がないかぎり。
事態を重く見た憲兵隊は独自行動に出た。
彼らは人質の安全を顧みずに強硬策にを採る――憲兵隊は精鋭を集めた強襲制圧班による奇襲を企てた。
しかし、相手が悪すぎた――突入した憲兵隊の精鋭たちはものの数分で全て撃滅されたそうだ。
さらに〝道化師たち〟と呼応するかのようにして、統合参謀本部の建物が正体不明のテロリストによる攻撃を受けているとの急報が届けられた。
それも単独犯の。
時を同じくして、同じく近衛連隊の指揮官と侍従長が〝神姫〟の居室にやってきた。
後宮の無制限通行証を提示した、帝国陸軍の少尉が至急の謁見を申し入れているという。
彼女はハーレークイン小隊の副官だと名乗ったそうだ。
管理番号を確認したところ、その通行証はヨハンに交付したものだった。
極めて異例の事態であり、侍従長と近衛連隊の指揮官はただちにその少尉を拘束すべきだと諫言した。
「待つがよい」
これにヴィクトリアに代わってマイアが異を唱えた。
それから彼女は近衛連隊の指揮官に、謁見を申し入れている人物の主張を詳しく述べるように命じた。
数年前の弑逆未遂事件の首謀者が判明したという。
また、相次ぐ変事の原因と今後の有効な対応策も用意してあるという。
「そのような重大な報せを、陛下のお耳に入れぬ訳にもいくまい――通すがよい」
かくして、マイアが謁見者の人品の保証と一切の責任負うこと、公式の記録には残さないことでミリアムの謁見は特別に許された。
軍事機密を理由に謁見の間は人払いがなされた。
この場には三人しかいない。
「陛下――こなたに控えまする者は帝国陸軍第九九連隊直属の第一小隊は副官、ミリアム・マグダレーナ・フォン・シメオン少尉でございまする」
後宮に設えられた謁見の間で、朝服に着替えて髪を結い上げたマイアが告げた。
武装は預けているものの、装具をまとった物々しい姿のままミリアムは跪いていた。
「面をあげなさい――フォン・シメオン少尉とやら。どうぞお楽に」
御簾の内側にいるヴィクトリアが声をかけて、
「そなたの上奏を許そう――申すがよい」とマイアが補足した。
「はっ――かような夜分に陛下のご親近を騒がせ奉ること、臣としてあるまじき行為であるとは重々に承知しております。されどかかる喫緊の事態とその真相を奏上つかまつることは、帝国臣民また軍人としての義務であるかと愚考し、陛下の御聖断を仰ぐためにまかりこしました」
彼女は顔を上げて口上を述べた。
「フォン・シメオン少尉とやら――急報なれば須らく手短に言上せよ」
「エフライム卿、しばらく――少尉、まずはそなたの上官とやらの言伝を承りましょう。彼の言葉をそのまま用いなさい。正確に」
「……っ」
ミリアムは、帝国において最高の権力と最大の武力の圧力を前にして、完全に萎縮していた。
無理もないだろう――彼女たちの前で寛げる人間などこの世には一人しかいない。
そもそも、このような形での謁見をするとは彼女は想像だにしていなかった。
ミリアムはヨハンから預かった伝言を〝神姫〟に上奏するに当たり、相応しい言葉づかいに直そうとしていたのだが、機先を制された。
「かまいません――言いなさい」
〝神姫〟に二度も命じられて断る術をミリアムは知らなかった。
おそらく彼女だけではなく、帝国の誰にもそんな恐れ多いことはできないだろう――たった一人を除いて。
「陛下に上官よりの言伝を申し述べます――〝ガタガタ抜かさず、とっとと勅令を寄越せ。さもないと、気色悪いスクラップブックを三冊とも燃やすぞ〟との由にござります……」
「……」
御簾を透かしてヴィクトリアとマイアの視線が交錯している。
このとき、ミリアムは大きな音が自分に迫ってくるようだったという――それは彼女の鼓動だった。
「……まずは、いま少し詳しく急報を聞かせるがよい」
マイアに命じられたミリアムは正気に戻り、首謀者とされる人物の姓名とハーレークイン小隊を罠にかけた軍上層部との関係の概要を言上した。
目下のところ不明なのは、首謀者の動機であるともミリアムは所見を付け加える。
「して、坊や――否、指揮官のスミス大尉はいかがしておる?」
その問いにも彼女は答える――上官は既に独断で統合参謀本部に攻撃をしかけていると。
また、通信管制塔を占拠している〝道化師たち〟を名乗る武装集団は、実際には帝国海軍の陸戦教導隊、第六連隊に所属する〝アルレッキーノ分遣隊〟であり、自分たちと協働していると言った。
彼らが互いの義務を果たしたところで、マイアが失笑を漏らした。
「まったく豪放磊落じゃのう――ちと粗忽ではあるが。さて坊やは誰に似たのやら……?」
マイアの他人事のような呟きが二人の乙女たちの視線を集めた。
「あの方は――小母さまにそっくりです」
そう言った〝神姫〟は小さく咳払いして仕切り直す。
「事ここに至り祐筆を起こしている暇はありません――エフライム卿、筆をこれに」
「ただ今」
マイアは近侍を呼ばず、自ら手を動かして羊皮紙とペン、青墨のインク壺や玉璽といった――公文書の作成に必要なものを銀の盆に並べて玉座に歩み寄っていく。
「……」
「……」
しばらくして、書簡の執筆を終えると、文書を授けられたマイアは恭しく下がった。
「シメオン少尉――使者の役、大義でした。二人ともお下がりなさい」
「畏まりました、陛下――シメオン少尉、そなたも付いて参るがよい」
ミリアムは立ちあがってヴィクトリアに敬礼をしてから、軍人らしい所作で踵を返した。
その背にヴィクトリアは言う。
「しばらく――シメオン少尉。あの人がお世話になっていることを、本人に代わって心より感謝を申し上げます。きっと、意地悪をたくさん受けていることでしょうけど、決してあなたのことを嫌っているわけではないんです。許してあげてね。次は、あの人と一緒にお庭で午後のお茶をご一緒しましょう」
ミリアムが思わず驚いて振り返った。
〝神姫〟から直に誘われた――口述によるそれは、ただの文書にすぎない詔勅を賜るよりも、貴族にとってははるかに名誉なことだった。
また、それすらも些末に思わざるを得ないほど、重大な事態にミリアムは直面していた。
御簾をめくって、天子の羽衣を肩にかけたヴィクトリアが年齢相応の女性らしい、柔らかい苦笑を浮かべて拝むような仕草をしていた。
〝神姫〟が臣民に相対しながら素顔を晒す――これはあってはならないことだった。
「陛下っ! はしたない真似はおよしなされ――坊やの使者のお相手とはいえ、たるんでおりまするぞ」
背を向けたままのマイアが叱ると、ヴィクトリアは御簾の中に慌てて戻った。
それからミリアムは書簡に封蝋が施されるのを見届けて、現物を預かると後宮の外で待機している部下たちに合流した。
見送りに来たマイアが、
「今宵の妾は陛下のお傍に侍る――よって備えは万全じゃ。そなたらは存分に各々の任務に励むがよい」と言った。
それから、マイアは侍従たちに言いつけて、奥の院にあるヴィクトリアの居室に端末水晶の受信装置と鉱石ラジオを運び込ませた。
そこに、
《……どうせなら、十時ちょうどに起こしてくれよ――今日って土曜日じゃん? 〝ご機嫌いいとも♪〟の増刊号は聞き逃さない主義なんだ》とヨハンの声がラジオを通して聞こえてきた。
ヴィクトリアとマイアは揃って顔を見合わせた。
軽口を叩いたヨハンが殴りつけられる気配がラジオを通して伝わってくる。
「お兄様っ!?」
「なにをやっておるんじゃ、坊やは……」
一時間前。
ヨハンたちアルファチームは飛竜〝グレイハウンド〟の抱える、コンテナ型のキャビンにいた。
《ハーレークイン・アルファ、ならびに〝クロウ〟に告ぐ――吾は間もなく指定の座標に達する。降下まで二分。待機されたし》
「アルファ、装具を再点検」
ヨハンは部下たちに命じた。
彼らは手際よく、仲間の背負っている落下傘に異常がないかを確かめていく。
特に落下傘を開く留め具と繋がったロープと、キャビンの中に備え付けられた金属のレールは念入りに確認を重ねる。
「いいですよ――大尉」
準備を整えたホーキンスがヨハンの肩を叩いた。
《一分前である》
「ハッチ、開きます」
別の部下が言うとヨハンはサムエルを振り返った。
獲物を睨むような鋭い視線を受ける魔界の貴公子は微笑して頷いた。
《クロウ、グリーンライト――グリーンライト》
「ではお先に」
彼はそう言うと、宝石を逆さまに散りばめた虚空に身を躍らせた――直後にその背中から六対の翼を顕現させる。
《ハーレークイン・アルファ、グリーンライト――グリーンライト》
「行くぞ〝自殺分隊〟のお嬢さんたち! これが最後のヒャッハーだ!」
ヨハンは先陣をきるように跳んだ――その背後に、六人の部下たちが続く。
今回の降下は比較的低高度より行われるため、彼らは空気ボンベや高高度用の装備は身につけていない。
その代わりに普段よりも多くの弾薬を携行していた――計算上は自動小銃の銃身が焼け付く弾数の上限である六〇〇発を、装具のポーチを増設しながら二〇本の予備弾倉を持ち込んでいる。
ヨハンは手信号で部下に合図を出しながら指示を下す――目標物を見つけた彼らは落下傘を開きながら降りていく。
それに合わせて風が起きた。
「……」
上空を見ると弓のような月の横にある影の中で、両手を組み合わせたサムエルが自分の周りに魔法陣を浮かび上がらせている。
予定通り彼が風を操り、ヨハンたちアルファチームは統合参謀本部のビルの屋上に音もなく降下していく。
その一方で、ヨハンただ一人がサムエルの風の軌道からはずれた――彼はそのまま高度を下げて、目標のビルの前にある大通りに着地した。
《ご無事ですか? 大尉》
「アルファは予定通り行動しろ――辛抱しろよ?」
《了解――あとで合流しましょう》
ヨハンは負革を滑らせて自動小銃を構えると、そのまま歩いて統合参謀本部のビルに近づいていく。
「っ!?」
「敵襲!」
ビルの警備兵が武装した不審者に気づいた瞬間、ヨハンは彼らを撃った。
詰め所に白鱗手榴弾を放り込み、正門の小屋を炎上させると建物の中にいる人物たちも異変に気づいたのか、辺りに警報が鳴り響く。
それを聞きながら、
「雨かと思えば♪ 日照り日焼け♪ 旅は辛くても泣いちゃだーめ♪」とヨハンは歌い出した。
銃声でリズムをとるように、ヨハンはろくに狙いも定めず引き金を絞った。
まるで敵に向かって〝自分がここにいる〟ことを喧伝するかのように。
「おー、スザンナ♪ 泣かーないで♪ バンジョーを持って来たばかりでーす♪」
敷地を歩いているヨハンが唐突に立ち止まり、左腕に素早く負革を巻きつけながら片膝をついた。
彼は窓を狙っていた――銃口から弾丸とともに火が吹いて、銃身が激しく揺れる。
コンマ二秒より少しだけ短い一瞬、反動の揺り戻しで銃身が元の位置に返った瞬間に、もう一度ヨハンの指が機械的な動作で引き金を絞る。
それを繰り返すだけで、正確な速射ができる――シニアから教わった通りに彼は撃った。
窓から人が落ちていく――小銃と一緒に。
「舟に乗ったら川下り♪ いろいろとやらかしました♪ ときには死にかけたりとか♪ 息を潜めたり、立ちどまったり♪ おー、スザンナ♪ 泣かーないで♪ バンジョーを持って来たばかりでーす♪」
歌いながら、ヨハンは狭いエントランスから殺到してくる警備兵たちが散開する前に射殺し、そのまま建物の中に入っていく。
小銃を構えていた彼だが、まだ弾丸の残っている弾倉を足元に落とし、槓桿を引いて薬室の弾丸も抜いた。
そのまま彼は〝入館者は武器をこちらに!〟と書かれたカゴの中に自動小銃を放り込み、腰から抜いた拳銃や銃剣までそこに収める。
襟を正したヨハンはその場で足踏みしながら、腰に手を当てて別の民謡を唄いだす。
そうしているうちに、警備兵の第二波の足音が迫ってくる。
「藁のなかの七面鳥♪ 干し草まみれの七面鳥♪ 七転び八起きして♪ 藁の中の七面鳥♪」
「動くな!」
統合参謀本部の上の階から殺到してきた重装の警備兵たちが、ヨハンを完全に包囲した。
片方は重装の防弾盾を構え、反対側の兵たちは自動小銃を構える――殺意の高い即応態勢だった。
「武器を捨てろ!」
「ゴミはゴミ箱にね――わっせ、わっせ♪」
ヨハンはそう言って、武器を収めたカゴをまるごとゴミ箱に向かって投げた――当然だが、中身は収まらずに、その場に耳障りな金属音を立てて散らかった。
自分を取り囲む警備兵たちを見回しながら、彼は言う。
「こういうのは俺じゃなくて、金髪でスケベな身体をした巨乳の女騎士の仕事なんだけどなあ――〝くっ殺せ!〟とか真言を唱えちゃったりなんかして。ほら、投降してんだから早く逮捕しろよ、間抜けども」
そう言って彼は両手を頭の上で組んでその場で両膝をついた。
「俺はヨハン・スミス――第九九連隊直属の第一小隊、ハーレークイン小隊の指揮官だ。おい、そこの伝令! 上に確認をとれ! 走るのが手前ぇの仕事だろっ!?」
深夜にも関わらず統合参謀本部の一室に陸軍と海軍の将帥たちが集っていた。
〝道化師たち〟を名乗る一派が寺院の通信管制塔を占拠した――しかし、これは彼らの計画にはない行動で、誰がこれを主導しているのかを互いに追求しているところだった。
通信を遮断されたために、帝都各地の駐屯地に散っている同志たちとの呼応が難しくなっている。
彼らが善後策を検討していると、机に備え付けの赤く塗られた端末水晶が呼び出し音を鳴り響かせた。
この端末が繋がるのは緊急事態を告げるときだけだ。
「っ!?」
端末水晶の受話器をとった統合参謀本部の主席委員は、
「スミス大尉を確保したと! それは確かであるなっ!?」と声をあげながら椅子から勢いよく立った。
より正確な報告は以下の通りだ。
〝銃撃をくわえながら歌い踊っていた気狂いを拘束した――対象は、帝国陸軍第九九連隊直属の第一小隊指揮官、ヨハン・スミスを称しているとのこと〟
このとき、彼らは自分たちが卑劣な罠にかけられていることに、まだ気づいていない。
それより少し前から、帝都の中心に近い寺院にある通信管制塔は、ヘンドリクセンたちの率いるデルタチームによって完全に制圧されていた。
その場に居合わせた、ソフィアの客観的な評価を後日に聞くと、その手際のよさと動作の正確さ、射撃の見事さはハーレークイン小隊とは比較にならないそうだ。
施設を制圧した責任者として、ヘンドリクセンはエインセル婦人を指名し、彼女に要求を伝えると告げた。
「はあい、はーい――あたくしが、エインセルですわ。要求をどうぞ、中佐さん?」
緊張感に乏しく片手を上げて、愛想よく前に進み出た妖精の女性が現れた。
それを見ても、ヘンドリクセンは眉ひとつ動かさずに、
「彼女の指示に従っていただく」と背後のソフィアに道を譲った。
「まあ! ソフィア、あなたはいつから、こんな悪い子になってしまったのかしら? 母はとっても悲しいわ」
「悪いのはヨハン――これは彼が立てた作戦。私に一番大事な仕事を任せてくれた」
妖精の少女は悪びれもせずむしろ胸を張って、この場にいない上官に責任をなすりつけた。
頭をわずかに傾けながら、エインセル婦人は人差し指を顎の横に添えて訊く。
「つまり、彼――スミス大尉のためにやっている、と言うの? あなたが? 人間の男の人のために? こんな大それたことをするなんて……!」
「ん――私は少し変になった? お母様」
「いいえ、少しなんて、とんでもないことが起きてましてよ――ソフィア。みなさん! これは大変なことです!」
エインセル婦人は人質として軟禁されている自分の同族や、この寺院に勤めている人間の職員や聖職者たちを振り返った。
「あたくしの愛娘が、人間に恋をしてしまいました! これは妖精族の歴史、いいえ――有史以来、二度目の朗報ですわ! 明日は御厨にて小豆を混ぜたお米を炊きましょう!」
「……ん?」
エインセル婦人の大声に、真っ先に首を傾げたのはソフィアの方だった。
「お戯れはあとにして――そんなことより、私たちの要求を聞いてもらいたい。一刻を争う。まずはここで管理している、帝都の各駐屯軍、軍事施設で運用されている端末水晶の暗号鍵と権限を全て私に頂戴。併せて鉱石ラジオ放送波と放射増幅器の管理権も必要」
ソフィアの要求に母親は首を振った。
「あーら、あら――それは駄目よ、駄目駄目。いくらあなたでも」
「拒否すれば彼らはお母様たちを脅迫の対象に切り替える――この場の人間族から先に殺す。一分につき一人ずつ。いいの?」
ソフィアの脅迫の言葉にエインセル婦人は小揺るぎも見せずに、微笑みを浮かべたまま言う。
「母の話は最後までお聞きなさい――拒否するとはまだ言っておりません。いくらあなたでも、そんな大仕事を一人で抱え込んでは大変ですもの。あたくしたちがそれを担えば済むお話でしょう。脅迫するならば、そうすべきでしょう?」
「どうするの? 中佐」
ソフィアが指揮を執るヘンドリクセンを振り返った。
「フラウ・エインセル――我々は作戦上、テロリストに扮した。しかし、その目的はこの帝国に仇なす獅子身中の虫を駆除するために行動している。そのことをご承知おき願いたい」
「では、大義のありかはいかように?」
「少尉――私の仲間が陛下より勅命を賜った」
「ならば大丈夫ですわ――さあ、みなさん! まずはお仕事にかかりましょう! ソフィア、あなたがみんなの指揮をお執りなさい」
エインセル婦人は柏手をひとつ打って、同族たちや人間の同僚たちに指示を下しはじめる。
その作業にとりかかりながら、彼女は娘に耳打ちする。
「あとで、あなたの外部思考結晶への閲覧権限をあたくしにだけ付与なさい――だって、あなたってば、最近は共感チャンネルの方を閉じているでしょう?」
「嫌――私の思い出は私だけが独り占めする。そうしたいからそうする」
「反抗期まで芽生えるなんて! こうして、あたくしの娘がどんどん大人になってしまうのっ!? きっとどこかの馬の骨の悪影響を受けたに相違ありませんわ!」
「否定はしない――全部ヨハンが悪い。でも、私はそれが面白い」
「ついに来たか」
ローゼンクランツ伯爵邸で、主人は細君に主寝室で休んでいるように頼んでから、玄関ホールの階段で来客に備えていた。
相次ぐ変事に怯える家人たちには、当直の者も含めて自室での待機を命じ、何が起きても慌てないように重ねて頼んだ。
また、家令にはあらかじめ用意した書簡――全ての真相を記した直筆の遺言を通常郵便で投函するように頼んである。
それさえ無事に届けば自分の目的は果たされる――彼はおそらくそう思っていたのだろう。
ローゼンクランツ宮内尚書はこの時点でその役を終えていた。
そして彼の最後に担うべき務めは死ぬことにこそあった――なぜそうなるのか、これは明言はできないものの、謎を解くための欠片を残しておく。
当事者たちとマイアを除き、彼だけがヨハンと今上の〝神姫〟の関係を知っている唯一人の人物だということだ。
間もなくそのときがきた。
屋敷の玄関が指向性爆薬で吹き飛ばされた。
「ローゼンクランツ閣下! ご無礼つかまつる!」
一瞬の間をおいて突入してきたミリアムの凛とした声が、ホールの中に響いた。
シニアを中心に、左右に分かれた部下たちが手際よく玄関ホールの安全と伏兵の有無を確認していく。
「オールクリア!」
「どうぞ、少尉」
シニアに促されたミリアムが前に進み出る。
「わたし一人だ――警戒は必要ない」
古典的な型のスモーキングジャケットを羽織った、ローゼンクランツがホールの階段を降りてくるのを見て、
「なぜですかっ!? 閣下!」とミリアムが訊いた。
二人――というより、彼女の父親であるシメオン氏とローゼンクランツは旧知の仲で、ミリアムもこの屋敷は年始の挨拶などで何度も訪ねたことがある。
修道院に入る前の年の誕生会を、ここで祝ってもらったこともある。
また、両家は数世代前には縁戚ではあるが親戚関係にあった。
彼が首謀者だと明かされたときには、どうしても信じることができなかった。
ミリアムが知る限り、ローゼンクランツは〝神姫〟に対してもっとも忠誠を誓っている貴族の鑑だ。
初老の宮内尚書は弁解の代わりに言う。
「帝国を守るためだ――他にあるかね? フォン・シメオン少尉。私の罪状は弑逆未遂と内乱の予備陰謀というところか」
ローゼンクランツは、ミリアムの手にある書簡を一瞥して言った――その言葉がある意味で真実だったことが彼女たちにわかるのは、これよりしばらく後のことになる。
「左様です――閣下」
「石もて追われる罪人に敬称は無用――君はただ義務を果たしたまえ」
この期に及んでも、ローゼンクランツは落ち着き払っており、彼はミリアムの腰の剣を指でさした。
「少尉殿」
シニアに促されたミリアムは、ヴィクトリアから賜った書簡を読み上げる。
「……では謹んで拝聴めされよ――〝フリッツ・サロモン・フォン・ローゼンクランツ伯。卿の宮内尚書の職を解く。くわえて、内乱の予備陰謀および弑逆未遂の共謀と教唆により、その身に裁きを賜らん。判決は極刑を以て相当とするが、長年の帝国ならびに二代に渡る神姫への功労と帝国にその身命を捧げた御身の献身を讃え鑑み、特赦として自裁を許可す。また、今後の捜査によって新しい事実が判明しない限り、卿の親類縁者は罪に連座しないことをヴィクトリアの名の下に約す〟以上であります」
「……閣下、どうぞ」
シニアが空の弾倉に差し替え、弾丸を一発だけ込めた自分の拳銃を差し出した。
「かたじけない」
そう言って、ローゼンクランツが拳銃を受け取ると、ミリアムとシニアの背後に戻ってきたた部下の二人が、不測の事態に備えて彼の喉に照準を合わせる。
ローゼンクランツは銃口をこめかみに押し当てて、撃鉄を起こすとすぐに自分の頭を撃った。
「気をつけ!」
シニアの号令で、ハーレークイン小隊のブラボーチームはその場で直立不動の姿勢をとった。
立礼したままミリアムが
「直れ」と部下たちに命じた。
「……」
彼女は羽織っていた外套を脱いでローゼンクランツの遺体にかけた。
女性の悲鳴が聞こえたかと思えば、ホールの階段の上でローゼンクランツ夫人が手すりによりかかっているのが見えた。
「後事はこちらに向かってくるであろう憲兵隊に任せ、我らは大尉に合流しよう――上級曹長」
「それは命令違反ですが――少尉」
シニアの諫言を受けたミリアムは、
「責任は小官――私が全て引き受ける。大尉を、あの人を絶対に死なせはしない。貴官らの協力を請いたい」と言った。
統合参謀本部の一室で、ヨハンは銃床で殴られた。
「あぁん――下手くそ。頭から先にやっちゃ拷問になんねえだろ、お馬鹿ちゃん。相手が痛みと恐怖を味わえるように、こういうときは下半身から攻めてくもんなんだよ。娼館のお嬢たちと逆にな。あれ? 逆でいいんだっけ? べー、ぺっ!」
そう言ってヨハンはその場で血反吐を吐き出した。
「もう一度訊く――貴官の目的はなんだ」
「そっちこそ――弑逆を企んでたんじゃねえのか? そんなに、魔界と戦争がしたかったのか。まあ、その点は俺も同感だが。ホントなら今頃は、川の向こうでドンパチ賑やかな花火大会をしてたのに、背広を着たボケナスどもが勝手に講和しちまったせいで、夏の風物詩が台無しになっちまったもんな」
「……我らの利害は、本来ならば一致していたはずだった――あのとき、君が陛下を身を挺して守ったりなどしなければ、我々は君をこそ盟主に仰いでいたはずだ。数奇なめぐり合わせだが、残念だ」
ヨハンは鼻を鳴らした。
「舐めたことをほざく前に自分が履いてる靴を見てみろよ――前線で命をかけてきた俺たちと、司令部の椅子を尻で磨いてきた手前ぇらを一緒にすんなっつうの。あんたらのやり方は、まるで連れションに誘いあう休み時間の女子高生みたいに女々しいぜ? 俺が糞した便所の蓋をわざわざ開けて〝臭い!〟だって? そんなの当ったり前だろうが」
「……」
「で、認めんだな? 弑逆と魔界の馬鹿を暗殺しようとした、諸々の悪事を――ついでに、偽の任務で俺たちを殺そうとしたことも。今のをぜーんぶ、ババアに言いつけちゃうぞ?」
ヨハンがマイアを引き合いに出した途端――彼らの本当の関係を知っていると思しい、貴族出身の幕僚たちの目の色が変わった。
ヨハンの処断はこの期に及んでは問題ないが、彼女だけは別だ――それを見透かされたことを恥じる裏返しに、
「できるものならやってみろ!」と一人が気色ばんだ。
また別の将官が便乗する。
「道化者め!」
「貴様のような品性も気品もない輩が! 最も尊き血統を継いでいるなど虫酸が走る!」
「事が成った暁には帝国の全てを我ら軍が統治する! 血統だけを頼みとする惰弱な帝政と立憲君主制など、時代遅れだ。ましてや、魔界なぞに迎合しようとする〝神姫〟を我々は主君とは認められん」
何度も殴られていながら、痛みに耐えているヨハンは口角を吊り上げて嗤っている――まるで暴行を受けること自体が望みであるかのように。
彼は痛みそのものに興奮を覚える性的倒錯の嗜好者なのだろうか。
仮にそうでないとしたら、あたかもわざと滑稽な振る舞いをして人を笑わせようと試みて――そのことごとくに失敗している様子は道化師そのものだ。
「言え!」
「何が目的だ!」
「だからあ――さっきも言ったじゃん? 〝ご機嫌いいとも♪〟の増刊号は毎週かかさず……」
ヨハンのこめかみにスヴェンソン准将が拳銃を突きつけた――その撃鉄が起こされる。
「最後だ、スミス大尉……」
「遺言があれば聞こう」
「火をくれよ――あと、ポケットに細巻きがあるから、それも」
「その手にのるか!」
今度は腹、みぞおちへ一撃を見舞われた。
「っ……!?」
銃床で殴った警備兵の下士官は妙な手応えに顔をしかめた。
ヨハンは首を巡らして彼を見ながら言う。
「……下級曹長、次に腹を殴るときはそっとやれよ、そっと――爆弾で俺と一緒に死にたけりゃ、別だけど。そのときは三途の川をみんなで泥舟で渡ろうぜ」
「待て」
「爆弾となっ!?」
「貴官は正気かっ!?」
「気狂いめ!」
奥の机で成り行きを見守っていた別の高官たちの顔色が変わった。
「上着の裾をめくってみろ――うわ、男に言うことじゃなかったわ。やっぱやめて! 乱暴しないで!」
ヨハンの言葉を無視したスヴェンソンが銃を構え直しつつ、護衛の兵に頷いて見せる。
彼が服の下に身に着けていたのは、時限装置を組み込んだ爆弾だった――電子錠つきで、正しい番号を入力して、解除を行わなければすぐに爆発する仕掛けだ。
「番号は!」
「番号を言え! スミス大尉!」
「えーと、たしかマルコビッチの生年月日を――いや、違った。十六進数で六桁にしたんだった。根気よくやれば、太陽が爆発する五秒前に解読できるんじゃないか? ほんの一六七七七二一六通りだし。ちなみに、タイマーの残り時間は夜明けまでだ。言っておくが、解除の番号は俺も知らないから拷問しても無駄だぞ。知っているのは、通信管制塔にいる俺の仲間だけだ。知りたきゃ、俺を盾に連中と勝手に交渉してくれ」
「……」
「……」
「いかがなさいますか? 閣下」
「繋げ――いずれにせよ、スミス大尉に死んでもらうことにはかわりない」
ヨハンの元に端末水晶の受話器が運ばれる。
「あえて警告するが――余計なことは言うな、スミス大尉」
「そんなことしないって――全隊に告ぐ――こちらハーレークイン・シックスだ。起爆解除コードを寄越せ。もう一度告げる。起爆解除のコードを送れ。帝国万歳!」
ヨハンはそう言って、自分の口元で受話器を握っているスヴェンソン准将の指に噛み付いて喰いちぎった。
「!」
彼らのいる部屋の壁が爆破されたのはそれと同時だった――爆風と壁の破片を背後に受けながら、椅子に縛られたヨハンは前に倒れていく。
また、外の窓からはロープで逆さまにぶら下がった別の部下たちが発砲をはじめた。
至近距離で撃った小銃の弾丸が、強化硝子の抵抗を受けて横向きに偏向しながら、幕僚の後頭部にめり込んだ。
壁を破って突入してきたアルファチームは、左右に分かれて標的の人間たちを銃口でなぞる。
片目で覗く照準と人影が重なった瞬間、その胸を高速徹甲弾が射抜いていく。
発砲するたびに吐き出される薬莢のが壁に跳ね返り、高熱を帯びたそれらが彼らの服を焦がした。
「大尉!」
「無事ですか!」
統合参謀本部の屋上に降り立ったアルファチームは、ヨハンが予め命じていた通り、合言葉を待ってから室内を制圧した。
ヨハンの身柄そのものを餌にして、この一室に関係者を全員集めることが、彼らの目的だった。
アルファチームは統合参謀本部に集った高官たちを拘束していく――手のあいている別の部下が、ヨハンを助け起こした。
「これ何番でしたっけ?」
「C一F八FA――絶対に間違えるなよ、マジで。爆弾も起爆装置も本物を使ってるんだから」
「解除番号は何からとったんです?」
「乙女の秘密♪」
「ああ――特務准尉の下着の色ですね、わかります」
「ピンポーン!」
「ところで、本物を着る必要はあったんですかね……?」
ホーキンスが正しい疑問を口にした。
「そのほうが、イカれてるって思ってくれるだろ? 実際、そう言われたし――面と向かって言われると、サファイアガラスの心にも傷ってつくんだな」
「……大尉にわざわざ〝イカれてる〟と言う必要はないかと」
「え!? なんでっ!? なんで……?」
彼らの益体もないやり取りを無視して、ヨハンが決めた解除番号に注目したい。
広告図案部から借り受けた色見本を元に調べると、それは紺碧の彼方に見える、淡い空色と同じだった――彼らにとって身近なものに例えるなら、ある妖精の少女の髪とよく似た色でもある。
彼がなぜこの色に自分の命を預けたのか――答えを聞く必要があるだろうか。
立場が入れ替わったところで、ヨハンは相変わらずの調子で言う。
「さあて、みなさん――お待ちかねのネタバレの時間だ。俺たちがなんで、通信管制塔に主力を送り込んだと思う? 悪者たちの自白を、みーんなに楽しんでもらうためだぜ。だって、こういうのは独り占めしちゃ勿体ないもんな」
ヨハンは予備の端末水晶を拳銃と一緒に部下から受け取った。
「シックスよりナインへ」
《シックスへ――終わったの?》
ヨハンはソフィアを呼び出すと言う。
「そっちで流してる〝お早う帝都〟をこっちにも中継できるか? できるよな――よし、やれ」
《ハウリングの調整が要る――十秒だけ待って》
ヨハンはポケットから細巻きを取り出した――火をつけて煙で口内を消毒していると、
《できた――チャンネル二に合わせて》とソフィアが報告した。
ヨハンは端末水晶を操作した。
「俺の名はヨハン・スミスだ」
《俺の名はヨハン・スミスだ――ハン・スミスだ――だ》
ヨハンの声が公共放送を通じ連続して反響したように聞こえてきた。
《もう一度エコーの調整する――ん。シックス、どうぞ》
《「さっきの続きだ――こちらは帝国陸軍ハーレークイン小隊、ヨハン・スミス。現在、うちの隊が、統合参謀本部の最上階で、襟の階級章に星をいっぱいつけた逆賊どもを勅命に拠って確保している。一応、何人かはまだ生きてるはずだ。とにかく、連中の悪事はさっき聞いてた通りだ。詳細はこの後の放送で楽しんでくれ。あとついでに言っておくが、この悪事に関わった馬鹿どもは俺たちが扉を優しく叩く日を待ってろよ。待ちきれなきゃ、かかってこい。というわけで、コマーシャルのあともチャンネルはこのままで。んじゃ、よろしく」》
ヨハンが言葉をきると、ソフィアが通信のチャンネルに切り替えてから言う。
《シックスへ――これは公共放送だから、コマーシャルはない。それと、ニュースの読み上げの前に音楽の放送が番組表に記されてる》
「なら、かけてやれよ――景気のいいヤツをな」
《ん》
ソフィアの短い返事とともに、けたたましい陽気な管楽器のイントロが未明の帝都を騒がせはじめる。
その曲に気がついたヨハンの表情が、白みはじめた空より早く明るくなった。
「おいおい――〝底抜けコンビ〟のツッコミの方じゃん! ほんと、お前さんは俺の良き理解者だな」
《ん》
「……褒めたんだぞ?」
《知ってる――だって、私はあなたが……》
彼女が最後に述べた言葉は、男声のメロディに重なって聞こえなくなる――おそらく、当事者たちにだけ伝わったのだろう。
世の中にはそういうこともままある。
それに彼女の言葉を上書きしてしまった――この流れてくる音楽に注意を向ければ自ずとわかる。
男はどんだけ幸せになんのさ? キスをしたら彼女も返してくれた♪
アイツから聞いたとおりだった♪ 〝めっちゃドキドキもん〟だってね♪
真っ暗にしたお部屋の中で♪ 抱きしめたら彼女もそうしてくれた♪
船乗りの言葉を借りて言うと♪ 〝ボートに孔をあけたみたい〟ってね♪
ずっと頭がグルグルしてんだけど? もう眠たいのに笑いが止まんないや♪
これがはじめの一歩だっていうなら♪ 俺の人生マジでヤバみで溢れちゃう?
太陽がこんなに眩しいのはなんで♪ アイツに聞いてたよりこれマジ凄い♪
早い話、こうだよね? 愛ってのは頭をガツンとやられたみたいなもんだって♪
「浮かれ過ぎだろ」
《あなたほどじゃない》
それから間もなく、統合参謀本部には帝国の各駐屯基地から有志の部隊が自発的に集まりはじめた。
彼らは〝逆賊を誅滅するため〟に出動したとしていたが、その真意は明白だった。
早朝にはじまった鉱石ラジオの公共放送の番組〝お早う帝都〟によって陰謀が白日のもとに晒された。
これによって進退の極まった帝国軍の主戦派が暴発したのだ。
おそらく、ここまで状況に織り込んで、ヨハンは鉱石ラジオの公共放送で彼らに挑発を繰り返していたに違いない。
彼のことを知れば知るほど――そうとしか考えられない。
また、調べるほどに――やはり彼の正気を疑いたくなった。
地階に降りたヨハンたちアルファチームは降伏を勧告してきた相手との交渉を銃弾で応えて拒絶した――そして、そのまま戦端が開かれた。
立て籠もったわずか七人の彼らは、殺到してくる帝国陸軍の正規兵で構成される先発隊を、統合参謀本部のビルの中に誘い込み、皆殺しにした。
携帯迫撃砲による攻撃が始まって間もなく、その攻撃は戦闘に介入したブラボーチームの横槍によって効力射を阻止された。
ミリアムたちの到着を確認したヨハンたちは、建物に狙撃手を配置してから打って出た。
合流を果たした彼らは、後続の敵が再編成しようとしているところを先回りして先制し、指揮官や重要目標だけを仕留めるとすぐに撤退――これを正午まで繰り返した。
しかし戦車が投入されたことで、再び彼らは統合参謀本部ビルに退避する。
追い込まれた彼らだったが、そこに五〇〇ポンド爆弾を満載した飛竜の近接航空支援戦隊――〝ホッグ〟が偶然、上空に飛来してきた。
ハーレークイン小隊の狙撃手たちの観測情報をもとに、ヨハンは爆撃を誘導した。
小休止のときに、ミリアムは上官になぜここまで苛烈な対応をとる必要があったのかを訊いた。
「この馬鹿どもを全員収容できる刑務所なんかないからな――だから、俺たちで裁判と刑の執行をこの場でやっちまったほうが、手っ取り早いだろ? あと〝ルビャンカ〟をここでやってみたかったし」
そのあまりな物言いに、ミリアムは呆れかえって二の句が継げなかったと証言した。
午後をまわって、夕方が近づいた頃に再び戦闘が始まろうとした。
ところが、彼らの間にで弾丸が飛び交う直前になって、空軍旗を掲げた見覚えのある六頭立ての馬車が、統合参謀本部ビルを横切るように止まった。
その後ろにはアルレッキーノ分遣隊が分乗した、数台のエフライム邸の幌馬車が続いていた。
そして先頭の馬車からマイアとソフィアが降りてきた。
《いいかげんにせよ! 痴れ者どもがっ! よりにもよって、陛下のおわすこの帝都を騒がせおって! ただちにこの暴挙を止めるがいい! 然らざれば、妾がまとめて踏み潰さん! 坊やも聞こえておろうっ!? この期に及んで例外は認めぬぞ! この場はおばばが預かる!》
妖精の少女に中継させた端末水晶を通じて、増幅されたマイアの怒号が帝国中に響き渡った。
ローゼンクランツ宮内尚書が主導した、陸軍と海軍の高官たちによる一連の企みはヨハンたちの奮闘によって白日のもとに晒された。
この日、彼らは救国の英雄となった――表向きは。
あの日、統合参謀本部の一室で拘束された陸軍と海軍の高官たち、その関係者で運良く生き残った全員が憲兵本部に収監された。
これを経て、帝国の上流階級からなる貴族院や議会の、軍人以外にもいた魔界との講和にいまだに反対している主戦派は次第に求心力を失っていく。
「そりゃそうだろ――このご時世で主戦論を声高に叫ぶってことは〝俺は逆賊だ〟って言うのと変わんねえじゃん? まあ、俺は戦争したいけど。あと人も殺したい」
ヨハンが言った。
ある面から見れば、それは正しい認識かも知れない。
特に陸軍は多くの反逆者を生み出したことと、彼らの階級が総じて高級将校だったこともあり、大幅な人事異動と組織改革をする必要に迫られた。
一連の騒動の責任をとる形で統帥本部総長、統合参謀本部議長、憲兵隊総監のみならず、三軍の長官に及ぶ六人の元帥たちが揃って辞職を願い出たことで、帝国の中枢と軍はさらに混乱をきたした。
事態を重く見た帝国政府は、内務尚書と外務尚書を筆頭に各尚書による連名で〝神姫〟の聖断を仰ぐ動議を発した。
議会と貴族院はこれを満場一致で可決した。
きわめて異例のことながら、ヴィクトリアは勅命として〝神託〟を授けた。
「建前だらけでめんどくせえ国だよな――な?」
ヨハンが言った――もう口を閉じてほしい。
まず、ヴィクトリアは六人の元帥たちの辞意を慰留するために、特別調査委員会を設置し、彼らの身辺調査を徹底することと、それが済むまで謹慎を厳命した。
その上で潔白が認められれば、今回の騒動の責任は問われずに済む。
調査委員には誰もが納得する公正にして厳格な調停者として、マイアが就いた。
彼女が統合参謀本部の主席幕僚に昇任し、六元帥が一時的に不在の間は、その代理をも務める。
その過程で、竜族の長によって能力・人品ともに非の打ち所がないと推薦された、各軍の高級将校が昇進させられることとなった。
その中には、ハーレークイン小隊の属する第九九連隊基地の司令官である、ボーマン大佐の名前もあった。
彼はスヴェンソン准将の後任として、統合参謀本部次席幕僚に名を連ねた。
「俺は明日から、誰の葉巻を盗んだらいいんだよっ!?」
知ったことではない。
同様に、優れた管理能力を発揮する人物として、サムエル来訪の際に警備計画の総責任者を務めた、メイ中佐が推薦された。
彼には統合参謀本部の兵站管理部門が任される。
現役の将校以外にも、海軍の退役少将であり、現在は民間人としてジョージック号の船長を勤めているヒル氏にも中将の待遇で統帥本部の幕僚顧問として声がかかった。
「おい! 今のを〝被害者の会の名簿〟って言ったやつは誰だっ!? まあ、その通りなんだけど……」
どうやら、ようやく彼にも自分が厄介者だという自覚が芽生えたらしい。
〝ノーマッド〟に帰ってきたヨハンたちも忙しく動いていた。
まずは、先日の作戦中に戦死したローガンやメイソンをはじめとした、十名の部下たちの後事を滞りなく定める必要があった。
第九九連隊に空軍から与力として派遣された――彼の地で戦死を遂げたハーキュリーズ輸送飛竜、バンジョウ大尉の遺体は人の手で運搬することは不可能だ。
そのため、マイアの送った空軍の将校たちが回収を代行した。
〝バンジョウは尊き御方の盾となった――竜族とはかくあるべし〟と、その場に立ち会った空軍将校がヨハンを見ながら言った。
ノイエ・シュタイン城から全員が帰還し、戦死者の遺族を招待して基地で葬儀を行った。
「戦争を起こす――ってその考え自体が、間違いのもとなんだ。そんなのは、軍人の本分じゃねえ。人間はみんな馬鹿だから、起こそうとしなくたって結果的に戦争は起きるんだよ。茸と筍のどっちが好きかで揉めるのですら、戦争の火種になりかねないのが人間の社会だろ? 俺たちの任務はそうなったとき、他人よりも戦争を楽しめるように、自分いじめに精励することだ。だよな?」
細巻きを吸ってから帰りたいと我儘を言ったヨハンが、一人墓前に残って――彼岸の向こうにそう言った。
「……ちっ」
兵舎の執務室でヨハンの舌打ちが聞こえた。
ミリアムが顔を上げると、机で何者かの手紙を眺めていた上官が――嫌いな食べ物を前にした子供のような顔をしている。
「してやられたぜ――俺たちは道化師の格好をした、操り人形だったのかよ」
口の端に細巻きをはさんでいる彼の肩に、妖精の少女が立った。
「誰からの手紙? ローゼンクランツ――あの事件の首謀者と同じ人?」
ヨハンの耳に掴まりながら、ソフィアが背中を屈めて手元を見た。
「どういうことですか? 大尉」
気になる名前を耳にして、ミリアムも椅子から立ち上がった。
「……どうもこうも、最初から全部あの爺に仕組まれてたんだよ」
「私たちは彼の計画を阻止したのに?」
ソフィアが首を傾げた。
「違う――そこも含めての茶番だったんだ、あれは」
「あの、いま少し詳しくお願いできますか?」
「簡単に言うぞ――あの爺さまは、軍を牛耳って帝国を軍事政権下におこうとしてた連中を炙り出すために、今回の計画をわざと持ちかけてたんだそうだ。で、首謀者として裁かれてこの件を片付けるまでが〝最後のご奉公〟なんだと」
ヨハンが概要を語ると、ミリアムは瞠目した。
「では――その手紙を公にすれば、ローゼンクランツ氏の潔白を証明できますね」
「ああ、そうなるな」
そう言って頷いたヨハンはマッチをこすると、手紙に火をつけて灰皿の上に捨てた。
「ちょっ!? なにをなさるんですかっ!? 大尉!」
ミリアムが狼狽して、火を消そうと近づいてくる――しかし、ヨハンが手を突き出して制止した。
そのやり取りを横目に、燃えていく手紙を見ているソフィアが言う。
「……この処置も遺言? 証拠を消すのも」
「そういうこった――この問題は根が深いからな、爺ひとりを悪者にしちまったほうが、収まりが良い。多分、あいつもそう言うだろう。っていうかローゼンクランツを処断するときに、親類縁者を連座させないって明言してから、最初から知ってたんだろ? いい性格してるよな、あのブラコンのサイコ女めっ!」
名前こそ出していないものの、ヨハンが誰を嘲弄したのかは、文脈をみれば明らかだ。
案の定、ミリアムが激怒した。
「大尉! いくらなんでも、いまのは聞き捨てなりません! まったく、あなたという人は――どうやったら、その口を閉じることができるんですかっ!?」
「不敬罪の現行犯――この口が悪い。この口がいつも悪い」
ヨハンの眼前に移動したソフィアが、その唇を両手で塞ぐようにして押さえはじめる。
「もがもが……」
「いいえ! 駄目です! きちんと反省をなさらないかぎり、禁煙です!」
ミリアムは手際よく、上官の机の上から細巻きを箱ごと奪い、マッチと灰皿まで運んでしまう。
「もがー!」
「駄目!」
「駄目です!」
彼が例によって腹心の乙女たちから小言を言われ始めたところに、扉を叩いてシニアが入室してくる。
「失礼――お邪魔をして申し訳ありませんが、間もなく新しい司令殿がお着きです。お出迎えのご用意を」
シニアに促されて、ヨハンたちは揃って時計を見た。
彼らが基地の正門に、部下たちを伴って整列していると、騎乗したヘンドリクセン大佐が現れた。
「待たせたな――諸君」
その背後に続いている乗合馬車から彼の部下――アルレッキーノ分遣隊、帝国軍の最精鋭たちが、ランバート上級上等兵曹に率いられて降り立った。
マイアの肝いりで、新生した統合参謀本部の幕僚たちは、今回の事件で秘密裏に協働した二つの部隊をまとめた。
これにより、陸海空とあらゆる事態と状況に即応して対処する――帝国の軍で初めての、特殊任務専門部隊が誕生した。
その指揮官に最も相応しい人物は誰か――長年に渡って海軍陸戦隊の教導隊、第六連隊を率いたヘンドリクセン中佐が就くことに、異論のある人はいなかった。
海軍の将校が陸軍の連隊基地の司令に就くのは、もちろん異例中の異例だったものの――今の帝国軍は混沌としている。
また、この人事を決定した人物は帝国軍で最も辣腕を発揮する人だったため、多少の強引さは黙認された。
端的にいえば、マイアに逆らえる人間などいなかったのだろう。
それからしばらく経った頃。
〝練度が低すぎる〟と新司令官に評価を下された、再編成を終えたばかりのハーレークイン小隊の全員が猛訓練をこなしていた。
「さて、ルテナン・スミス――楽しい任務を与えよう」
基地司令室に呼び出されたヨハンに、相変わらず海軍式の階級をつけてヘンドリクセン大佐は言った。
「はあ」
「魔界に飛べ――川の向こうの大使館からもたらされた新しい情報だ。〝勇者〟のせいで彼の国の危機だそうだ。というわけで、至急、小隊を編成し魔界の連邦政府に恩の押し売りをしてこい」
「……はっ!?」
どうやら、ヨハンの厄介事はまだつづきそうだ。
せっかく書き込み用の欄があるのでこの機にいくつか述べておきたいことを残しておきます
まず句読点の打ち方もよくわかっていない、不慣れな初心者の拙い小説をここまで読んでいただいたことに感謝を申し上げます
以下の駄文は常識と良識とやさしい心を持たない人向けのものですので、そうでない真っ当な人はすぐにブラウザの戻るボタンを押すかメモリの節約のためにタブを閉じてくださいchrome重すぎ
でも私の小説を最後まで読んだ人は、きっと心が邪悪な人だと思うのであんまり心配していませんし、そうでなければ序章の最初の言葉を見て、続きを読もうとはなさらないに決まっています
よって、あなたは邪悪な人間なのでご安心して続きをお読みください
閑話休題ですが、そもそもこれを書いている馬鹿が縦書き専門の旧世代無能人間なので、横書き表記だと漢数字で読みにくいことこの上ないのはごぬんなさいです
おわびにミリアムのおっぱいで窒息する権利をあげますから、ここはひとつ穏便に何も言わずにそのままのあなたでいてください
もしくはコメントで褒めちぎりながらポイント100兆億万くらいスパチャしてくれると、地球温暖化を解決します
両方やってくれないと地球は温暖化であと数万年後に人類は滅びます
みんなアル・ゴアに騙されていますが、私は真実を述べることを空飛ぶスパゲティモンスターのザルとあらゆるドグマにおいてここに誓いのぴーを勃てます
いちおうPDF化で縦書きでも表示できますが、こちらも便意のプリズンブレイクをきたしている下痢便仕様なので、無責任に勧められないという……国内最大手の小説投稿サイトのくせに、なんで禁則処理すら対応できないんですかね馬鹿なんですか
禁則処理と1話ごとのPDF化ができたら原稿チェックでずいぶん楽ができる人間もここに1人だけいますけど、どうやら知ったこっちゃありませんよね
あと執筆欄……なんで日本語の小説を横書きで書かなきゃいけないんですか? これありえねー仕様です
運営さんはたぶんそもそも小説を1冊も自発的に読んだことがないんでしょうし、すくなくとも自分で小説を書こうと人生の無駄な試みに挑戦したことのない、戦隊ヒーローか仮面ライダーのブリーフしか履いたことのない健全な人に決まっています
少なくとも先達の作家さんたちのことを考えれば↑の程度のことは対応しなきゃだめですのに、やる気ないんでしょうね
こちらも投稿規定なんて一切読んでいないのである意味相思相愛ですが
余談ですけど、私は月曜日に生まれた人間なのでカレンダーは月曜始まりでないとアレルギーと髄膜炎と骨肉腫を発症します
よって、私は大日本帝国憲法よりも私の規範がなによりだいじですし、80年代生まれは全員そういうものです
特に川崎市という共産主義国で育ち横浜市という北朝鮮に匹敵するこの世の楽園を凝縮した社会主義国に移住するとこうなります
折よく締め切りに間に合ったこともあり、無事に完結を迎えたこの機に乗じて「ESN大賞2」をタグだかキーワードに追加しようと思います
もっとも、きっと見向きもされないでしょうがこれも記念と自己満足の手続き上やむを得ない措置です
国家や宗教人種や老若男女を問わずどんな人でもそうだと思いますが、排便は気持ちよく行いたいと思いますので
それにしても、ここまで書くのにもとても時間がかかりましたね……なにしろこの18話など初稿の日付はコロナとマスクの抱き合わせ販売を成功させた習近平を国賓として迎えようとしていた頃だというのに「なんとなく気に入らない」という雑な理由で、4回もまるごと書き直したりしています
書き直してあの出来ですが、これでもだいぶマシになったんですよ、ほんとうです
最初に書いたバージョンではマイアが最後に変身してビルを踏み潰すという「死霊の盆踊り」か「ムカデ人間」やカート・ラッセルが出てこないセガール映画の次に面白い終わり方だったのですから
それよりマシとはいえ現状がベストだという自信はとうに失われています……私はもう諦めました
そしてこの完結までに活用できなかった、数々の小ネタやら没ネタの塵芥とゴミ箱に積み上げたティッシュの山より利用価値のないピラミッドの廃棄物をどうしたらよいものか
「ポセイドン・アドベンチャー」の原作の原作みたいに、何千年後の人類に聖典として親しまれスンニ派とシーア派のようなほどよい緊張感を与えるくらいが私のささやかな望みですけど、かないますかね
そもそもすべてヨハンが悪いのです――ええまったく私はわるくありませんです
当初の予定では少し素行不良で皮肉屋だけど射撃が上手い、カッコイイ青年将校が主人公だったのに……なんなんでしょう、あれ?
それはそうとあまりにもあの野郎に腹立ったので、顔立ちが美形だという描写を削ってやりましたよざまみろ
まあヴィクトリアの双子ですから容姿端麗なのは描写なくてもバレそうなものですけどね
でもライアン・レイノルズが調子のいいことを言うのとマスクを洗濯中のデッドプールが喋るのとでは印象がだいぶ変わってきちゃいますよね、そういうことです
ささやかな抵抗としてサバを読んでたころのトム・クルーズ並みの低身長にしてやりましたがこれは結局自分のコンプレックスを再確認するきっかけにしかなりませんでした5フィート7.87インチの小男より
黙ってればカッコイイというタイプでもなく、黙ってあの行動をとってたらただの殺人鬼かFPSゲームで常にパシリをさせられるついでに遠距離でも弾道の落下しない魔法の鉄砲で無双しながら致命傷を負っても10秒隠れてたら完全回復し無限スタミナでどこまででも走れて別に必要もないのに世界を救える、ある意味で今をときめくなろう小説の主人公たちよりも奇形児ですし
一応、あとがきなので秘密の設定を披露しますがヨハンという人間は個人でありながらその意識がひとつの国家をなしています
「朕は国家なり」とはもちろん別のもっと悪い意味です、念の為の不必要な自己弁護を兼ねて補足します
だから何万人も殺してもいっさい罪悪感を感じませんし、民間人の犠牲が出ようが一顧だにしません
まるで天安門に戦車で乗り付けてスピード違反するようなやつです
サイコパスではありませんし、キチガイとも違います彼らはあくまで個人として国家の枠をはみ出したものですから
国家そのものとは極論をいえば、なにをしても自分を完全に正当化できる意識の持ち主ということです――物質の世界に生きる限り人間の社会において戦争に勝つとそうなっちゃうのです、毛沢東とかスターリンとか
なにをしてもいい、ただし戦争に負けることだけはやってはいけない、という――そして晩年は誰も信じられなくなり、魂が枯れ果てるのです
まるで火薬と羅針盤と活版印刷を発明した国でお馴染みの思想みたいですが、これは残念なことに消極的な理由で正しいことになっています
彼にはいくつかの例外は存在するものの、隣で部下や知り合いの誰が死んてもヨハンはあのままです――いっぽうで例外の存在を認めようとしないのは彼の未熟さであり、数少ない弱さであり唯一の悪の部分です
こまったことに作者は彼の悪の部分のせいで憎みきれないところがあります
ドメスティック・バイオレンスの共依存のようなものかと思いますが、原稿のときは心をこめてくたばれと思いながら書いています
せっかくなのでもうひとつ秘密を明かしましょう
ヨハンよりヴィクトリアの方が精神的にはもっとヤバい存在です
その証拠に25歳にもなって彼女に子供がいないことと皇族が極端に少ないことの意味をちょっと考えてみてください
このままいくと国家の象徴がかつてのエチオピアやどこかの二つの島国みたいな使用済みの避妊具によく似た形のあれなことになりますが帝国はそれでいいのでしょうかね……?
最初にヨハンと出会った名もなき記者の青年が困惑していますが、私も彼らに対してまったく同じ気持ちです
とくにあの野郎が喋りだした瞬間に当初の構想がほぼ吹き飛ばされてしまいました
くたばれ
あまりにもあれだったので何度か本気で殺そうとしたのですが、この程度では全然駄目だとわかったのでチーズ牛丼を食べながらなにかいい方法を考えようとしましたが、マグロを食べてる方のゴジラ並みに役立たずでした
しかし読み返してみるとヒロインたち――ソフィア、ミリアム、マイア、ヴィクトリア、シニア、サムエルのヨハンへの好感度が気味悪いくらいに振り切っていますね……これだけでも、ヨハンは万死に値する
くたばれ
でもヨハン以外はぜったい幸せになってほしいです
とはいえヒロインたちの全員があの野郎に命を、あるいはそれ以上のものを救われたことがあると考えればまあやむを得ないですか
やっぱくたばれ
全然駄目といえば、私は軍隊のことやそれ以外のほとんどをよく知らないまま原稿を書いていることをここに告白したいです
よくよく読めば――読むというのは文字を目でなぞるだけでは駄目ですよ、ちゃんと読むことさえできたらば2009年の衆院選で歴史的な勝利で政権を奪取し消費税の増税を議論すらしないと公言した民主党のマニフェストと同じくらい、私の原稿が雑だとおかわりになるかと思います
あのときに民主主義という政治制度の数少ない最大にしてわりと致命的な弱点に多くの人が気づいたようですね――つまり投票率が上がるとバカも選挙に行くのでろくなことにならないという
私の描写が雑だというのは謙遜ではなくこれは事実で、面倒だからという理由で省いた部分がいっぱいあります
一応は書く前に調べるのですが、見たい資料にかぎって「映像の世紀」で見た昭和20年の小学校の教科書みたいに黒塗りの箇所があったり、そもそも文書ファイルを読むにも英語の成績がオンリーワンだったので……中学校や高校の先生が出欠簿の記録を偽造してくれなければ私は間違いなく落第していたでしょう
こんないいかげんな人間が書いていることからわかる通り、作中の軍事用語等はかなり雑な使い方をされていますので、なにかの参考にはしないでください
また、こんな雑な小説に書かれていることを転載してもあなたが恥をかくだけでなにもメリットはありませんから、早く食べ物を排泄物に還元するお仕事に戻りましょうね
同様に貴族や皇族といった、やんとごない人たちの言葉づかいも、ぜんぶデタラメを並べていますからルビのふいんきをお楽しみいただければまあいいか、と
バーモントカレーの甘口か半分に砕いたバファリンのような感じで見守ってほしいです
あまりこうしたことを長々と書くのもアレですが、この次のことはあまりまったく考えていません
この続きがあるとしたら、おそらく魔界で「ヒャッハー」詐欺すると思うのですが
魔界ってどんな国なんでしょう?
混沌としてて連邦制でおそらく多民族で広大な国土と豊かな自然と資源と強大な軍事力、世界で二番目に強い空軍力を運用している海軍を有している国……なんだかどこかに似たような臼Aを秘めた国がありそうです
読者の方で魔界出身の巨乳で銀髪で切れ長の目をした美人で、妖艶でエキゾチックな褐色肌をしててお尻の大きな100歳以上10000歳未満の人がいたらぜひ教えて下さい
帝国や中洲のこともきちんと決めずに見切り発車で書いちゃったので、同じ轍を踏みそうですがそんな感じです
ではまた遠くないけど忘れ去られたころにお会いしましょう
愛を込めて
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