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第14話 野蛮を好む女騎士にドレスを着せる簡単な方法

――ヨハンたちの健闘も虚しく、またしてもテロを防ぐことは叶わなかった。大河を渡る大陸横断鉄道の橋脚が爆破されてしまったのだ。そして休む間もなく、ハーレークイン小隊は晩餐会の護衛任務に駆り出される。そのさなかに起きた騒動の成り行きによって、ヨハンは貴族の若者と真剣勝負の決闘を約束させられてしまうのだった。

「君たちは政治的に危険な立場になりそうだね」

 シャワーと着替えを済ませ、貴賓室(きひんしつ)に通されたヨハンに、サムエルは再会の挨拶(あいさつ)に代わって言った。

 表向き、二人の会合は〝警備計画(けいびけいかく)修正(しゅうせい)事項(じこう)通達(つうたつ)〟ということになっていた。

「トカゲの尻尾(しっぽ)か――今朝、ちょうど新聞の求人欄(きゅうじんらん)を見てたんだがな」

「うん?」

「新聞なんぞ、なんの役にも立たねえって思い知らされたぜ――便所紙の切れたときには重宝(ちょうほう)するが、ケツにインクが付くから()()()()()()発行してもらいたいよな」

「あはは」

 サムエルが声を立てて笑った。

 彼は調印式(ちょういんしき)の礼服から、私服のチャコールグレイの三つ(ぞろ)いに着替えていた。

「とりあえず、最大の問題点は君たちの不法越境(ふほうえっきょう)くらいだね――そのテロリストたちが、あわよくば君たちを爆破犯(ばくははん)に仕立てようと画策(かくさく)してるかもしれないけど。それにしてはお粗末(そまつ)すぎるし、状況証拠(じょうきょうしょうこ)だけでそれを鵜呑(うの)みにするほど、僕たちは浅はかではないよ。リーベルラントもそうじゃないかな」

()()()偉方(えらがた)にもそう言ってやってくれよ――そもそもなんだが」

 ヨハンはテーブルにあった灰皿を引き寄せながら言った。

()の目的かい?」

「橋を落として()をするのは誰だ」

「うん――国家レベルにおいては、当事国はいずれも得をするとは思えない。それどころか、両国の鉄道網(てつどうもう)がなくなるとなれば、物資(ぶっし)の輸送や交易(こうえき)に支障が出そうだね。特に、中間点であり鉄道の経営と運営を(にな)ってるリーベルラントは死活問題(しかつもんだい)だ」

 細巻きに火をつけたヨハンは瞬いた。

「交易――そういうことか!」

 ヨハンは端末水晶(SINCGARS)を取り出して言う。

「シックスより全隊へ――海運会社を押さえに行くぞ。連中は爆破犯に協力してい.るだけじゃない。やつらとテロリストの()はもっと深いとこで、(つな)がってるはずだ」

《どういうことですか? 大尉(たいい)

 ミリアムが()いてきた。

 ヨハンは今回の事件は海運会社がテロを(よそお)って、大河の交易(こうえき)を独占するための工作だと主張した。

「とにかく甲板(かんぱん)に集合だ――シフトはさっきまでの体制を維持(いじ)。ブレイク、セブンは俺と代わって〝レイブン(サムエル)〟に張りつけ。シックス、アウト」

 一方的に通信を閉じると、ヨハンは貴賓室(きひんしつ)(あわ)ただしく出ていった。

 自室に割り当てられた士官の一室に立ち寄って、礼服の上着を脱ぎ捨てるように放り出し、朝から着込んでいた戦闘用装具(そうぐ)をシャツの上から身につける。

 小銃の()(かわ)を肩からかけて、そのまま甲板に続く通路に出ていく。

 廊下(ろうか)で出会った他の部下たちに歩きながら、

「動けるやつは続け!」と再び命じて甲板に出る。

「待ちたまえ、スミス大尉」

 先に到着していたシニアに合流したところで彼は止められた。

 シニアと並んでいたのは、統合参謀(さんぼう)本部の次席幕僚(ばくりょう)に名を(つら)ねる、スヴェンソン准将(じゅんしょう)だった。

「我々は君たちに出撃(しゅつげき)の許可を与えた覚えはない――そもそも、民間の海運会社に強制捜査(きょうせいそうさ)()みきれるのは、警察権(けいさつけん)を有する憲兵隊(けんぺいたい)管轄(かんかつ)だ。確たる情報と証拠(しょうこ)があるのならば、君はまずそれを我々に報告すべきであろう」

 スヴェンソン准将の理路整然(りろせいぜん)とした物言(ものい)いに、ヨハンは頭にのぼった血が冷えていくのを感じた。

「ハーレークイン小隊が充分によくやってくれたのを、我々は知っている――橋梁(きょうりょう)爆破(ばくは)の件は我々に任せて、貴官(きかん)たちはサムエル殿下の身辺警護(しんぺんけいご)に専念したまえ」

「……」

「命令だ――大尉」

 ヨハンは小銃から弾倉(だんそう)をはずして槓桿(こうかん)を引き、薬室(やくしつ)の弾を抜いた。

 シニアに小銃を差し出すと、彼は無言でスヴェンソン准将に敬礼して(きびす)を返した。



 帝国と魔界の歴史的な講和条約(こうわじょうやく)締結(ていけつ)と、時を同じくして発生した横断鉄道の爆破によって、午後の鉱石(こうせき)鉱石(こうせき)ラジオのニュースは話題に事欠(ことか)かなかった。

 関係当局においても情報が錯綜(さくそう)したために、夕方の間際(まぎわ)に記者会見を開いたものの、爆破の事実とそれにともなう列車の転落と死傷者を伝えるだけにとどまった。

 さらに質疑応答(しつぎおうとう)もなく会見は(なか)強制的(きょうせいてき)に打ち切られた。

 ヨハンたちは休息をとってから、ハーキュリーズでシメオン伯爵邸(はくしゃくてい)に移動していた。

 当初は延期(えんき)または中止の懸念(けねん)がされた晩餐会(ばんさんかい)は、魔界側というよりサムエルの強い希望で予定通り行われることとなった。

 これは政治的な理由もさることながら、テロリストの攻撃に動じた様子を見せるべきではないという、軍部の見解とサムエルのそれが一致(いっち)したために実現したものだ。

 シメオン伯爵邸(はくしゃくてい)の正面にハーキュリーズは着陸した。

 貴族の私邸に飛竜が()りるのは、竜族の邸宅(ていたく)以外では極めて異例のことだった。

殿下(でんか)大尉(たいい)――こちらです」

 勝手を知ったるミリアムが先導(せんどう)した。

 シメオン伯爵家は、帝国の中でももっとも古い家柄で、数世代前の神姫(しんき)とも遠戚(えんせき)であるという(うわさ)もあった。

 元々、シメオン家は金融業(きんゆうぎょう)生業(なりわい)としていたが、現当主のシメオン伯爵の立ち上げた、企業向けの損害保険(そんがいほけん)会社の業績(ぎょうせき)が好調で、納税額(のうぜいがく)では現在そちらの方が上回っているという。

「温室を抜けた先の廊下(ろうか)が、父の書斎(しょさい)に通じています」

 ヨハンは上着のポケットから端末水晶(SINCGARS)を取り出して言う。

「シエラチーム、屋根裏(やねうら)にあがって来賓(らいひん)監視(かんし)――名簿にないやつが現れたら報告しろ。ブレイク、全隊に告ぐ。三‐二(発砲待機)七‐三(高度警戒)維持(いじ)しろ。ブレイク、ブラボーは引き続き殿下の警護、所定の位置につけ。ブレイク、ファイブ(シニア)ナイン(ソフィア)、アルファチームは地下で休息を取れ。()め事は()けろ。シックス、アウト」

「了解」

「お先です、大尉」

 廊下に出ると、ヨハンに命じられた部下たちはそれぞれに分かれて移動をはじめた。

 突き当りまで進むと、扉の前に燕尾服(えんびふく)を身に着けた、背の高い初老の男性がいた。

 アッシュブロンドの髪を()で付け、後方で短いリボンで結んでいる。

家令(かれい)のシュワルツです」

 ミリアムが言ってサムエルの前をあけた。

「シメオン伯爵閣下(はくしゃくかっか)にご挨拶(あいさつ)をしたい――取り次ぎたまえ」

「は――(うけたまわ)ってございます」

 シュワルツは慇懃(いんぎん)に答えて書斎(しょさい)に続く(とびら)を開けた。

 そこは応接間(おうせつま)だった――どうやら、書斎はさらに奥の部屋にあるようだ。

「灰皿はないんだな」

 ヨハンは部屋を見回して言った。

 彼は貴族の出自だというのに、調度品(ちょうどひん)絵画(かいが)といったものにまったく関心がないらしい。

「そこの壁にかかってる落書きはなんだ? 三歳児がケツに(ふで)を挟んで(おど)りながら描いた自画像か?」

「大尉!」

 ミリアムが(たしな)めるように(ささや)いた。

「こちらでしばしお(くつろ)ぎを――ただいま、主人をお呼びしますれば」

 応接間に通されると、ヨハンはサムエルに(うなず)いてソファに(こし)かけるよう(うなが)した。

 彼自身は壁に背を向けて立ったままだ。

「……」

 ミリアムは上官を一瞥(いちべつ)して彼の(となり)に立って待つ。

 間もなく扉が叩かれて、フランネルのスモーキングジャケットを羽織(はお)った紳士と、古風な衣装をまとったメイドが銀盆(ぎんぼん)を両手に入室してきた。

 最後尾にいたシュワルツという家令が静かに扉を閉め、彼自身は廊下に残った。

「お待たせいたしました――いや、まさかこのような形で娘と再会を果たすとは」

「ご無沙汰(ぶさた)しております――父上」

 ミリアムはどこかよそよそしい口調で言った。

 それに気づいているのか、()えて無視しているのか、シメオン氏は笑顔を(くず)さずにヨハンに黙礼(もくれい)した。

殿下(でんか)――シメオン伯爵閣下(はくしゃくかっか)がお見えです」

 ヨハンに呼ばれて、ソファで(くつろ)いでいたサムエルが立ち上がった。

 魔界の王太子(おうたいし)が動く前にシメオン氏は大股(おおまた)で歩きだして、

「ようこそ当家(とうけ)に――サムエル王太子殿下。魔界の方、それも王太子殿下の行幸(ぎょうこう)栄誉(えいよ)()()()()ことを、心よりの感謝を申し上げさせて頂きたく存じます」と言った。

「ありがとう、伯爵――ところで、あれはゴダーニかね?」

 サムエルは晩餐会(ばんさんかい)主催者(しゅさいしゃ)(むか)えて握手(あくしゅ)()わすと訊いた。

「さすがは殿下、よくぞご存知(ぞんじ)で――左様(さよう)、あれはシャルル・ゴダーニの晩年(ばんねん)のスケッチでございます。当家の数少ない財産でして。さあ、まずはお(くつろ)ぎを」

 シメオン氏に促されてサムエルはあらためてソフアに腰かけた。

「魔界でも彼は有名でね――僕も一枚欲しいのだけど、帝国の巨匠(きょしょう)の作を城に(かざ)ろうとすると、家人(かじん)たちから()()()しかられてしまうんだ。帝国の文化が好きな僕としては慚愧(ざんき)()えない、いや遺憾(いかん)というべきかな」

「それはそれは」

 しばらく、当たり(さわ)りのない雑談(ざつだん)をサムエルとシメオン氏は()わした。

 内容は芸術や文化的なことに終始し、政治や戦争に(から)む話題は意図的(いとてき)()けているようだ。

 初めて立ち会った、外交の盤外戦術(ばんがいせんじゅつ)をミリアムは神妙(しんみょう)面持(おもも)ちで見守っていたが、(となり)の上官が欠伸(あくび)をしたことに気づいて(ひじ)小突(こづ)いた。

「……では、殿下も独身でいらっしゃると」

 サムエルは(うなず)いた。

「お父君から――それについて、なにかご助言を(たまわ)ることは?」

「ああ、あの人――陛下(へいか)はそういうことに関心(かんしん)がないんだ。今は内政(ないせい)専念(せんねん)したいと考えているはずだよ。おっと、()()()失言(しつげん)だ。内緒(ないしょ)にしてくれたまえ」

 シメオン氏はミリアムを見た。

「わたくしにも娘がおりまして」

 つられるようにして、サムエルもミリアムを振り返った。

聡明(そうめい)勇敢(ゆうかん)なお(じょう)さんだ――なにより、彼女はとても美しい。ただ、今は軍務に夢中のようだけど」

「若いうちはそれでも(よろ)しいが――いずれは娘にふさわしい相手を見つけるのが、父親としての務めでもあります。ミリアム、こちらに座りなさい」

 シメオン氏に呼ばれたミリアムはヨハンを見る。

殿下(でんか)(となり)につけ」

 上官に小声で命じられるとミリアムは父親の背後を回り込んでから、

「失礼いたします」と言ってサムエルの隣に腰かけた。

「……」

「……」

 親子の間に沈黙(ちんもく)(おとず)れているときに、ヨハンたちの端末水晶(SINCGARS)に通信が入る。

《シックスへ――こちらシエラ・ワン。名簿(リスト)にない来客がそちらに向かっています。ブレイク、人数は一、男性、武装はなし。帯剣(たいけん)した貴族っぽいヤツです》

「……」

 ヨハンは壁から離れると、(こし)拳銃(けんじゅう)に手を()えてドアの前に立った。

「ああ、わたくしの客ですよ――大尉。せっかちな若者で、予定より早く到着してしまったようですな」

「は?」

 ヨハンが振り返るのと、家令のシユワルツが扉を開けるのはほぼ同時だった。

旦那様(だんなさま)――ゼブルン様がお見えです」

「こちらにご案内を」

 シメオン伯爵がシユワルツに指示を下した直後、ヨハンたちの端末水晶に続報が入ってくる。

《シックスへ、ブラボーのメイソンです――そちらに強引に向かおうとした、派手(はで)御仁(ごじん)拘束(こうそく)しました。一応、無傷ですが地下に連れていきますか? それとも()()()()()いで放り出しますか?》

「解放しろ――〝テベトニー(シメオン伯爵)〟の来客らしい」

《了解》

 しばらくして、騒がしい声とともにシュワルツが再び扉を開けた。

「シメオン伯爵殿(はくしゃくどの)――これは一体、何事(なにごと)ですかっ!? なぜ野蛮(やばん)粗野(そや)な軍人どもが、屋敷の警備をしているのです! さきほども無礼な()()()成敗(せいばい)したところですが……」

 入室してきたのは、ヨハンよりも頭一つ以上の上背(うわぜい)がある偉丈夫(いじょうふ)の若者だった。

 金の刺繍(ししゅう)(ほどこ)された上下に、革のベルトには、クレイモアのような大剣用の(さや)だけを(こし)に差した貴族と(おぼ)しい青年だった。

 剣が見当たらないのは拘束(こうそく)された際に没収(ぼっしゅう)されたのだろう。

「前をあけろ! 下郎(げろう)!」

 ヨハンはシメオン氏に釈明(しゃくめい)を求めようとしたが、その間に偉丈夫の青年は肩をぶつけながら強引に応接間に()み込んでくる。

「ルートヴィヒ君――少し(ひか)えてもらえるかね。先客がお見えでね。それから、私の娘も。君の前にいる人は我々と同じく貴族だよ。礼節(れいせつ)()いてはいけない」

「失礼をお()びします、伯爵閣下――ん、ではこの貧相(ひんそう)小兵(こひょう)が、フロイライン・シメオンの上官とやらか」

 貴族家の青年、ルートヴィヒは文字通り見(くだ)しながら言った。

「……」

 ヨハンは無言で(あご)をあげて、ルートヴィヒを見た――その利き手は相変わらず(こし)()えられている。

「大尉――ご辛抱(しんぼう)してください!」

 ミリアムが声を落として言った。

 二人の緊迫感(きんぱくかん)無頓着(むとんちゃく)なルートヴィヒは首を(かし)げる。

「ん? 貴殿(きでん)とは、どこかで会った気がするな」

 ヨハンの顔にルートヴィヒは見覚えがあるようだった。

「いいえ――初対面です。先ほどの部下のご無礼(ぶれい)を、()わって謝罪(しゃざい)します」

「よきにはからえ――有色人種の混じった雑多(ざった)な平民ごときの軍にしては、なかなか気骨(きこつ)のある者たちであったぞ。しかし我らのような選ばれし気高(けだか)さは、彼奴(きゃつ)らごときには永遠に身につかんが」

()()()()()()

 ヨハンが口の()に歯を(のぞ)かせて白々しく会釈(えしゃく)した。

 それを見ていたミリアムは、背中に氷で出来た銃剣(じゅうけん)を押し付けられたような気がした。

 おそらく、次に誰かが不用意な言葉を(はっ)した瞬間に、この場で血が流れただろう。

 大戦の最中(さなか)前線(ぜんせん)でマイアを嘲弄(ちょうろう)した、ヨハンのかつての上官(じょうかん)は今も退院できていない。

「どうやら、長居をしすぎてしまったようだね――僕たちは()がらせてもらうよ」

 サムエルがソファから立つと、それに合わせてミリアムも立ち上がる。

「シックスよりブラボーへ――〝レイブン〟は移動する」

《ブラボー、了解》

「では、伯爵(はくしゃく)――晩餐会(ばんさんかい)で」

 サムエルが礼儀正(れいぎただ)しく()べると、ヨハンが先導(せんどう)する形で応接間(おうせつま)を出ていこうとする。

 任務(にんむ)(まっと)うすること()()を、自らの存在意義(そんざいいぎ)としているような、ヨハンの()()を魔界の王太子は見抜いているかのような絶妙(ぜつみょう)()()()把握(はあく)だった。

 ところが、

「ミリアム、ちょっと待ちなさい」とシメオン氏がミリアムを呼び止めた。

 彼は(かさ)ねてヨハンにも()く。

「大尉、よろしいですかな? 娘と少し世間話(せけんばなし)などをしても」

 彼女は軍務を理由に断ろうとしたものの、ヨハンが許可を与えたために、ミリアムは応接間(おうせつま)に残された。

三‐五(自由戦闘)を許可する――(まど)を使え」

 部屋を出るときにヨハンは符丁(ふちょう)()げた。

「……了解」

 ミリアムはヨハンの意図(いと)を理解して、敬礼(けいれい)するとサムエルを案内する上官を見送った。



 しばらくして、ハーレークイン小隊の士官たちに割り当てられた客間にミリアムが入ってきた。

 (となり)は続き間で、サムエルの控室(ひかえしつ)として割り当てられている。

「で――おとっつぁんと、あの()()()()はなんだって? というか、誰だよあいつ?」

「……まさか大尉――本当にお忘れでしたか?」

 ミリアムは意外そうな顔をした。

「俺にあんな知り合いはいねえぞ」

「いいえ――そうではありません。最初の任務の(さい)緩衝地帯(BZ)で彼を救出したではありませんかっ!?」

「……あ――ああ! あいつか!」

 ヨハンはようやく思い出した。

 どうやら本当に忘れていたようだ――彼の将校(しょうこう)としての資質(ししつ)と能力に、改めて疑問を持ちたくなりそうだ。

 ハーレークイン小隊(しょうたい)発足(ほっそく)した最初の任務で、彼らは白金級(プラチナクラス)の冒険者と称賛(しょうさん)される、冒険者組合協会の()()を救出した。

「なんていうか世間って狭いな――それで、なんで今ごろになって、そいつが()()()(から)んでくるんだ?」

 事情を聞くと、さきほどのルートヴィヒという青年を、ミリアムの婚約者(こんやくしゃ)候補筆頭(こうほひっとう)としてシメオン氏に紹介されたらしい。

 また、今夜の晩餐会(ばんさんかい)では特別(サプライズ)ゲストの一人として列席する彼のパートナーを務めるように頼まれたとも。

 また、ミリアムはヨハンに話していなかったものの、上官が不当な容疑(ようぎ)憲兵本部(けんぺいほんぶ)拘束(こうそく)されたときに、彼女は貴族院議員(きぞくいんぎいん)の肩書をもつ父親に助勢(じょせい)()い願った。

 その(さい)条件(じょうけん)として出されたのが、これまでなにかと理由をつけて先延(さきの)ばしし、保留(ほりゅう)にし続けていた婚約者候補たちとの顔合わせをこなしていくことだった。

 任務とはいえ、シメオン氏は娘が屋敷に戻ってくる機会を待っていたようだ。

「あー、やっぱそういう話か――参ったなどうも」

「そうです! 父上はいつもそうやって、強引に話を進めるのです――それで、これまでは屋敷に来るのは()けていたのですが。まさか、任務中にこんな重大な話を持ってくるとは思いもしませんでした」

 彼女は話していくうちに上気した顔の温度を下げるために、ヨハンの前にあったコップを取り上げて、レモネードを一気に飲んだ。

「あの、それ俺が口つけた――まあいいや」

 興奮(こうふん)した女騎士はさらに言葉を続ける。

「それにドレスの用意など、今からではとても間に合いません――古いものならありますが、仕立直(したてなお)しも難しいでしょう」

「それもそうだが――うん、見せちまったほうが早いや……」

 ヨハンは椅子(いす)から立って、灰皿に細巻きを捨てるとベッドの上に置いてある革のトランクに近づいた。

 その背中に向かってミリアムはきわめい珍しいが、さらに愚痴(ぐち)をこぼす。

「そもそも、わたくしはまだ一七歳です――百年前ならばいざしらず、今の時代にこの(とし)で結婚など、早すぎると思いませんかっ? それに帝国陸軍は既婚女性(きこんじょせい)在籍(ざいせき)を許していませんから、退役(たいえき)余儀(よぎ)なくされてしまいます。それでは、わたくしは今まで何のために苦労と努力を(かさ)ねてきたか……大尉、聞いておいでですかっ!?」

 ヨハンが革のトランクを開け背中を向けたまま立っていることに、ようやくミリアムが気づいた。

「いや実はドレスが――()()()()んだよな、ここに」

「はい?」

 ヨハンが振り返りながら、緑のベロアと黒のサテンで()られたイブニングドレスを広げてみせる。

 革のスーツケースには丈の長い厚手の手袋(てぶくろ)扇子(せんす)宝飾品(ほうしょくひん)をはじめとして、コルセットまで用意してある。

 そこには晩餐会(ばんさんかい)(おもむ)深窓(しんそう)令嬢(れいじょう)に必要なものが一式(そろ)っていた。

「一体どういうことですかっ!?」

 ミリアムは()()りながら上官を詰問(きつもん)した。

 晩餐会でのサムエルのパートナーをどうするか、この点でハーレークイン小隊の幹部たちは頭を(なや)ませていた。

 帝国の他家の貴族の令嬢または婦人を代役に立てるのは、議論の余地(よち)もなく立候補者(りっこうほしゃ)が現れないとわかっていたので、最初から提案(ていあん)もされなかった。

 次の(オプション)は女優を(やと)うことだったが、これも保安上(ほあんじょう)の理由で棄却(ききゃく)せざるを()なかった。

 その(さい)に、ヨハンは冗談めかしてミリアムに頼んだが()()()()()断られていたのだった。

 サムエルのパートナー役を継続(けいぞく)して探しつつ、どうしても候補者が決まらない場合はマイアに頼むと言ってその日の軍議(ぐんぎ)は終わったはずだった。

「エフライム中将はどうされたのですか!? 小官はてっきり、あのお方にお願いするものと思っていましたが」

「いやそれが、ババアのやつ――急に後宮にあがる用ができたとか()()()()、今日は欠席になっちまったんだ」

「……」

 ミリアムが(くちびる)(とが)らせると、ヨハンは本気で困ってるような顔をした。

 彼は弁解(べんかい)をはじめる。

()()()()()になるとは思ってなかったんだよ――まったく、これじゃ俺も()()おとっつぁんと一緒じゃねえか。お前さんが女だってことを、利用しようとしてるんだもんな」

 (たくら)みが露呈(ろてい)したときにヨハンは自分の意図(いと)をあっさりと白状(はくじょう)する。

 相手を選んで行っているあたり、これが彼一流の親しい人への()()()なのだろう。

 よほど()()()()()()育ったに(ちが)いない。

 この辺りも彼が貴族らしからぬところだった。

 無理矢理にでも話題を変えるためか彼は言う。

「あ、そうだ――これ見てくれよ、これ」

 衣装(いしょう)の収めてある革のスーツケースから、紫色のビロード生地で包まれた小箱を取り出した。

「あのダイヤで作ってみたんだ――お前さんに使ってもらおうと。けっこうな()()()()()だぜ」

 箱をあけると、ヨハンが自分の机でペーパーウェイト代わりに使っている、拳大のダイヤモンドを中心に()えたネックレスが入っていた。

 (くさり)装飾(そうしょく)はプラチナで造られている――過度な彫金(ちょうきん)は予算と時間の都合で(はぶ)かれているものの、それがかえってダイヤモンドの存在感を引き立てていた。

「あの()()()()じゃないですか!? こんな大きさの金剛石(こんごうせき)結晶(けっしょう)なんて、手に入るわけないでしょう。偽物(にせもの)だと、ひと目で気づかれます!」

「大丈夫だって――あのババアが爪で引っ()いても、傷つかなかったんだから、本物だろこれ」

「え?」

 竜族の(つめ)(うろこ)は、モース硬度にして九と十の間に分類される――その硬さはダイヤモンドには及ばないものの、ルビーやサファイヤを凌駕(りょうが)する。

 もしもこの結晶が硝子(がらす)模造品(もぞうひん)なら、竜族の爪を立てれば傷がついたはずだ。

「まあ仮に偽物(にせもん)だとしても――こいつは()()王太子殿下(おうたいしでんか)からの(もら)い物だ。身につけていけば喜ばれるはずだ、多分、きっと」

「……」

 予想外の(おく)り物に、ミリアムは(おどろ)かされたものの、もしもこれを受け取るならばサムエルのパートナーとして晩餐会(ばんさんかい)にドレスを(まと)って出席しなければならない。

 しかし、それを断ればルートヴィヒのパートーナーになるか、それを上手く回避(かいひ)したとしても、晩餐会の会場でルートヴィヒを婚約者の候補だと発表されるのは目に見えている。

()()()()()()()るみたいだな」

 ヨハンは彼女の逡巡(しゅんじゅん)見透(みす)かしたように言った。

 彼は立ち上がり、ミリアムに歩み寄って耳元に口を近づけて小声で言う。

 副官の乙女(おとめ)は父親や家令以外に、()()()()()して耳に息がかかることを許したことはなかった。

「ドレスを着てくれたら――お前さんの縁談(えんだん)をぶち(こわ)してやるよ」

「……」

 この()に及んで、ミリアムは〝どうやって〟とは()かなかった。

 しばらくして彼女は別の質問をした。

「……大尉はご(らん)になりたいですか? 小官(しょうかん)がサムエル殿下のパートナーを(つと)めるところを」

()()()のことなんか、どうでもいい――俺が見たいのはお前さんの晴れ姿だ。私服はいつだか保養地で(おが)ませてもらったけど、()()()()派手(はで)格好(かっこう)をしてもきっと似合うだろうし」

「……そういう(おっしゃ)(よう)は、少し卑怯(ひきょう)ですからね――大尉。そもそも()()()()上官らしく、命令を下せばいいじゃないですか」

「だってさあ……」

 ヨハンは肩をすくめた。

 ミリアムは一度だけため息をついてから言う。

隣室(りんしつ)でサムエル殿下(でんか)とお待ち下さい」

「いや、俺は着替(きが)えの手伝いをだな――背中のファスナーを上げてやるって。本当は()()()()()()得意(とくい)だけど」

「いいから、待っててください」

 ミリアムはそう言ってヨハンの背中を押しながら、上官を追い出す。

 扉が閉まると、ノブから錠前(じょうまえ)の下りる音までした。

「おいっ!? どんだけ信用ないんだ!」

「ご自分の(むね)に手を当てて、ふだんの不埒(ふらち)な言動の数々を思い出しなさいませ!」

「ふざけんな! ()()()()スケベな身体をした女騎士がいるのに、なにが悲しくて自分の胸を(さわ)らなきゃ、ならねえんだっ!?」

「だからこそです!」

「いや実に君たちは仲睦(なかむつ)まじいね――()()()()()()は僕も大好物だ」

 隣室(りんしつ)でラズベリーのジャムを大量に()かした紅茶を、行儀(ぎょうぎ)よく飲んで(くつろ)いでいたサムエルが言った。

「こんど差出口(さしでぐち)(たた)いたら――その口に塩を詰めて()い合わせるぞ」

()()()儀式(ぎしき)は魔族に()かないからね――魔族の最大の弱点は、純粋(じゅんすい)無垢(むく)な心で(いの)ることだよ。愛を込めてね」

()()()()()できる人間がいるわけねーだろ――昔も今もこれからも」

 ヨハンが細巻きを取り出すと、サムエルが指を鳴らしてその先端(せんたん)に火を(とも)した。

 彼は(けむり)を味わいながら声を落として続ける。

「人の恋路(こいじ)邪魔(じゃま)する野暮(やぼ)趣味(しゅみ)じゃねえが――最高に有能(ゆうのう)で最強にスケベな身体をした部下の()()()を、あんなバカボンに取られるのは(しゃく)だ。そのためなら、()()()()()()()()()(かま)わないぜ」

 ヨハンの不穏(ふおん)物言(ものい)いにサムエルは目を(かがや)かせた。

「では悪巧(わるだく)みをしよう」

 魔界の王太子は喜々(きき)として客間の椅子(いす)から立ちあがった。

「あの野郎が(から)んできたときのために()()を仕込むぞ――手伝え。こうなったのはお前ら魔界が俺らとの戦争を()めちまったせいなんだから」

「戦争がなくなったことに()()()()()()()のは初めてだけど――他ならぬ君のため、(よろこ)んで手を()そう。対価(たいか)はそうだね、僕の目の前であの若者を殺してくれたまえ。彼のような尊大(そんだい)(おのれ)の心に(かがみ)を持たない若者の(たましい)は、魔界では()()()()()()()んだ」

「乗った」

 ヨハンはそれから地下で休憩(きゅうけい)をとっていたソフィアを呼び出した。

 シメオン伯爵邸(はくしゃくてい)()われている猫たちとの饗宴(きょうえん)邪魔(じゃま)された妖精(ようせい)の少女は不機嫌(ふきげん)だった。

 ヨハンは事情を話して協力を頼んだ。

 軍務はもとよりサムエルの警護(けいご)――任務に()()はまったく関係ないことだが、ミリアムが結婚して小隊から抜けることには彼女も反対だったようだ。

「……で、(きり)を出してだな」

「うん――ああ、対象者(たいしょうしゃ)がその場にいるなら、そのまま投影(とうえい)できるよ。あとは音声が端末水晶(SINCGARS)に残されているかどうかだね。あとで暗号鍵(デコーダー)複製(ふくせい)権限(けんげん)を、僕にも付与(ふよ)してくれたまえ」

「……技術的には可能――でも、本当にいいの? こんなことをして」

 ヨハンとサムエルの(たくら)みを聞かされたソフィアが()いた。

「いいか悪いかで言ったら、そりゃ悪いことだが――俺がそんなことを気にすると思うか?」

「思わない」

 ソフィアは即答(そくとう)した。

「ならやれ」

「ん――わかった」

晩餐会(ばんさんかい)がこんなに楽しみなのは――(どく)()ろうとしてきた(めい)に気付かれないように、グラスを交換(こうかん)したとき以来だよ」



 シメオン伯爵邸(はくしゃくてい)での晩餐会(ばんさんかい)警備上(けいびじょう)の理由で、当初の予定を変更してマスコミは()め出されて始まった。

 屋敷(やしき)の周辺は重武装(じゅうぶそう)に身を固めた陸軍兵士が要所(ようしょ)鎮護(ちんご)している。

 また、出席者たちは知らないが屋敷の周囲には狙撃兵(そげきへい)が配置され、出席者の顔と名簿を一人ずつ確認して、予定外の者がいないかを調べていた。

 さらにこれは主催者(しゅさいしゃ)であるシメオン氏ですら知らないが、大広間の天窓(てんまど)には屋根に(ひそ)んだ兵士たちがおり、不測(ふそく)事態(じたい)にはいつでも降下(こうか)できるようにも(そな)えていた。

 大広間(おおひろま)の出入り口になっている、大きな両開きの(とびら)の横にヨハンは陣取(じんど)った。

 肩の上には例によってソフィアが立ち、部隊間で()わされる通信の内容を口頭で耳打(みみう)ちしている。

 妖精(ようせい)の少女を()れた帝国陸軍の礼服をまとった青年将校(せいねんしょうこう)は、悪い意味で目立っていたものの、彼らはそんなことを全く気にしていない。

 扉が開かれて、

「サムエル王太子殿下(おうたいしでんか)、並びにシメオン伯爵令嬢(はくしゃくれいじょう)、ミリアム様の御入来(ごにゅうらい)です」と家令(かれい)のシュワルツが()げた。

「……っ」

 ヨハンは思わず息を()んでいた。

 彼だけではなく、他の出席者たちが一斉(いっせい)に最後のゲストの到着と、その容姿(ようし)に見とれ、直前まで()わしていた(たが)いの会話の内容を忘却(ぼうきゃく)してしまうほどだった。

綺麗(きれい)

 相変(あいか)わらずその声には抑揚(よくよう)(とぼ)しいものの、ソフィアも感嘆(かんたん)しているようだ。

「なんだ、(うらや)ましいのか? お前さんも()()()()女の子なんだな」

「今のハラスメントの代償(だいしょう)はこんどの休暇(きゅうか)(はら)ってもらう――絶対に」

 二人が話している横を、サムエルの腕に掴まるミリアムが通り過ぎた。

 その見た目は普段(ふだん)と打って変わっていた。

 前髪(まえがみ)から耳の周りにかけては巻毛(まきげ)を多く作り、豪奢(ごうしゃ)なプラチナブロンドの髪の毛を持ち上げて、()()みを()にするようにまとめていた。

 その頭頂部には今年から若い女性の間で流行しているアクセサリーとして、小さなハット型の帽子(ぼうし)(なな)めにピンで留めている。

 帽子はドレスと同じ緑のベロアと黒のサテンで仕立(した)てられており、ドレスの方は(たけ)から各部の寸法まで完璧(かんぺき)に合っていた。

 もちろん、これらを仕立てるときにミリアムは採寸(さいすん)()()()()()()()()()()()

 ()()に関してヨハンはもう一度ミリアムから詰問(きつもん)されることになるが、この場では互いにそれどころではなかった。

 そして衆目(しゅうもく)の視線は、老若男女(ろうにゃくなんにょ)ともに彼女の胸元(むなもと)(かざ)る巨大なダイヤモンドとその()()に集まっていく。

 ミリアムの盛装(せいそう)に比べると、サムエルの(よそお)いは比較的(ひかくてき)()()だ。

 昼間の調印式(ちょういんしき)では白の伝統衣装(でんとういしょう)にターバンという()()ちで、足元はサンダルだったが、今宵(こよい)は古風なフロックコートの三つ(ぞろ)いにストレートチップを()いている。

 シャツは白のウイングカラーで、(ちょう)タイをきちんと結んでいた。

 煌々(こうこう)とした大広間に出ると、その上下の布が()()()()()()()()()()()生地で仕立てられていることに、目の()えた淑女(しゅくじょ)ならびに紳士たちは気づいただろう。

 羊毛(ようもう)とカシミールゴートの混紡(こんぼう)を魔界でしか精製(せいせい)できない染料(せんりょう)で染めてから()られるものだった。

 王太子ほどの人物が身につけるからには、単に珍しい生地の服を着ているわけではない。

 声高(こわだか)には主張しないものの〝自分の出自を(かく)すつもりはない〟という本人の意思を服装だけで代弁(だいべん)しているのだ。

 また、その()()()()()(よそお)いは、舞踏会(ぶとうかい)の場でどのようなドレスで着飾(きかざ)った婦人と(おど)っても、相手の(はな)やかさを(そこ)なうことがない。

 それをまた裏返せば〝申し込まれれば誰とでも()(へだ)てなく(おど)るつもりだ〟という()()()()無言のうちに伝えているのだ。

 そのサムエルがヨハンたちの前を通るときに一瞥(いちべつ)して微笑(びしょう)し、

「彼は僕の見込み通りだ」と言った。

大尉(たいい)がでございますか?」

「そのダイヤの結晶――彼には好きに使ってもらいたくて渡したけど、これ以上ないタイミングで有効活用(ゆうこうかつよう)してくれたようだね。君の美しさを引き立てるためには、並みの宝飾品(ほうしょくひん)では()り合わないと、彼は思ったのさ」

「そんなまさか――殿下(でんか)、お(たわむ)れはほどほどになさってくださいまし」

 ミリアムは()()()()()()()扇子(せんす)を使って口元から(ほお)にかけて、顔の半分を(かく)した。

 サムエルの世辞(せじ)への失笑を隠そうとしたのか、あるいは自分に見とれているヨハンの視線に気づいて、紅潮した(ほお)誤魔化(ごまか)すためか。

 真相は本人に()かなければわからない。

 しかし、訊く必要がはたしてあるのだろうか。

 間もなく、ショールカラーの上着に花を()した、ホストを務めるシメオン氏が歩み寄ってきて、型通りの社交辞令(しゃこうじれい)をサムエルに()べて席に案内する。

 大広間では伝統的(でんとうてき)に中央がダンス用の空間として利用される。

 そこではパートナー同士、あるいは相手を入れ替えての舞踏(ぶとう)を楽しむ人が音楽に合わせて(おど)っている。

 早速、サムエルにダンスの相手を申し込む女声が現れた。

 ソフィアが耳打ちしてくる。

「ドレイク男爵(だんしゃく)夫人――招待客(しょうたいきゃく)、問題ない」

野郎(やろう)仕掛(しか)けてくるなら、このタイミングだろうな」

 ヨハンが(うなず)くと、それを確認したミリアムはドレイク夫人に会釈(えしゃく)してさがった。

「あまり()()()を見ないでくださいね――大尉」

 ミリアムはホールの中央からはずれると、さり気なくヨハンに近づいて言った。

「Gにサイズアップしたな――豊胸(ほうきょう)コルセットを選んだ甲斐(かい)があったってもんだ。でも上を二八まで()め上げるのは、()()()()だぜ。お前さんは広背筋(こうはいきん)(すご)いんだから」

露骨(ろこつ)なセクハラはマナー違反(いはん)

「なら()()なにを楽しめばいいんだよ? そこで(みの)ってる()以外に」

「だから見ないでくださいと頼んでるんです!」

 ミリアムは扇子(せんす)で口元を(おお)いながら(ささや)くように言った。

「失礼――フロイライン・シメオン。一曲お相手を願おう」

 燕尾服(えんびふく)を身に着けたルートヴィヒが現れて言った。

「ほーら釣れたぞ」

 ヨハンが小声でつぶやくとソフィアに耳を引っ張られた。

「ヘル・ゼブルン――小官(しょうかん)は現在、殿下(でんか)警護計画(けいごけいかく)善後策(ぜんごさく)に関して大尉とお話しを……」

 彼女は任務を()()()ルートヴィヒから距離(きょり)をとろうとした。

「そんなことならば、兵どもに(まか)せておけばよろしい――そうだな! 大尉!」

「はあ、まあ――どうぞどうぞ」

「……え?」

 上官は意外にも大人しく引き下がった。

 ルートヴィヒは(なか)ば強引にミリアムの手を取って、広間の中央にいざなっていく。

 それを見守りながら、

「準備は?」とヨハンは()いた。

「できてる――警備上(けいびじょう)の報告、ブラボーからは異常なし。シエラチームからもピクチャー(観測情報)に異常なしの報告が入った。アルファも待機(たいき)継続中(けいぞくちゅう)

 妖精(ようせい)の少女は(うなず)いた。

 予定にはないことだったが、急に大広間の照明が暗くなりはじめた。

()()()()()

「わかってる」

 すると、晩餐会(ばんさんかい)主催(ホスト)をしていたシメオン氏が、小匙(こさじ)でワイングラスを()らして招待客(しょうたいきゃく)の注意を()いた。

「みなさん、ご注目(ちゅうもく)を願います」

 弦楽器(げんがっき)協奏曲(コンツェルト)(ゆる)やかに止まるとともに、シメオン氏は口上(こうじょう)()べる。

「お集まりの皆様に、当家より喜ばしいお知らせがございます――このたび我が娘のミリアムとこちらのヘル・ゼブルン氏の婚約を発表させていただきたく……」

 シメオン氏の口上はだんだんとに(しり)すぼみになっていった。

 その理由は突如(とつじょ)として大広間に立ち込めてきた、煙のような白い(もや)のせいだ。

 サムエルが空気中の水分を集めて凝結(ぎょうけつ)させて作った、即席の(きり)銀幕(ぎんまく)だった。

 招待客たちが呆気(あっけ)にとられている間に、その()()は開始のブザーを鳴らすことなくすぐに始まった。

 光の反射を投影(とうえい)すると、銀幕(スクリーン)には立体的な姿で白金のフルプレートメイルを身に着けて〝守護者〟と呼ばれる異形(いぎょう)自律人形(じりつにんぎょう)と戦いを()り広げるルートヴィッヒの姿が再現された。

「やれ」

「ん――音声をアップリンク」

 ソフィアが端末水晶(SINCGARS)を介して、サムエルに音声記録を暗号化して送信すると、彼はそれを復調(ふくちょう)して、空気の振動を(あやつ)って臨場感(りんじょうかん)のある音響(おんきょう)を再現してみせた。

《つまり、これが白金級(プラチナクラス)冒険者の正体、ということですな》

 この場にいないシニアの声が再現されて大広間に(ひび)いた。

 銀幕(ぎんまく)の中のルートヴィヒは〝守護者〟を相手に一歩も引かない戦いをしているようだったが、よく見ると攻撃は()()()()()命中していない。

 大ぶりの一撃を見舞(みま)空振(からぶ)りをするたびに、

《エターナル・バトルアックス!》と(さけ)ぶ姿を何度も()り返されることで、よけいに滑稽(こっけい)に見えた。

 そこにミリアムの声が重なる。

《ゼブルン侯爵家(こうしゃくけ)門閥貴族(もんばつきぞく)重鎮(じゅうちん)です。何代にも渡って、傑出(けっしゅつ)した軍人や官僚(かんりょう)輩出(はいしゅつ)してきた名門でもあります》

 ところが勇敢(ゆうかん)に戦っていたルートヴィヒは、空振(からぶ)りの(すき)を突かれて〝守護者〟に倒されてしまう。

 これでは、ミリアムの声で紹介されているルートヴィヒは()()()虚仮(こけ)にされているようではないか。

 そしてヨハンの声に続く。

《助けて、息子が死んじゃうの。なんでもするから息子を助けて》

 (きり)銀幕(ぎんまく)唐突(とうとつ)に死体の山を映し出した。

 手足を切断されたもの、腹部の裂傷(れっしょう)から(はらわた)とその()()を地面にぶちまけているもの、そして事切れる瞬間まで、苦痛に(もだ)えつづけたとしか思えない、必死の形相(ぎょうそう)投影(とうえい)されていく。

 大広間の(はし)では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()婦人(ふじん)が、短い悲鳴を上げて卒倒(そっとう)する気配がした。

《彼らは冒険者組合教会が、ゼブルン氏の護衛(ごえい)のために(やと)った傭兵団(ようへいだん)。資金の流れを追ったところ、実質的には彼の私兵みたいなもの》

 銀幕の場面は転換(てんかん)し、ルートヴィヒは担架(たんか)()られながら、()()()()()()下着姿で(わめ)き立てている。

《なんだ貴様らっ!? 無礼者!》

 そこに逆光になりながら人影が現れた。

 その人物になにかの注射(ちゅうしゃ)を打たれたルートヴィヒは、意識を(うしな)って――というより眠りについたように大いびきをかきはじめた。

《誰か()れタオル作ってくれ――この野郎の息の根を止めてやる》

 そこでサムエルが指を鳴らすと、一瞬で(きり)の銀幕が晴れた。

「……」

『……」

 静まり返った大広間で、

「ちょっと()()恣意的(しいてき)すぎたかね?」とサムエルが言った。

「この()(もの)め! よくも(はじ)を!」

 ルートヴィヒがサムエルに(つか)みかかろうとした。

 彼はフロックコートの(すそ)(ひるがえ)しながら身軽にそれを(かわ)し、飛び出してきたヨハンとすれ違った。

()()(まか)せるよ――うまく()りたまえ」

 ミリアムもドレスの(すそ)(つか)んでその(あし)大胆(だいたん)(さら)しながら、ヨハンの(となり)に並んでルートヴィヒの前に立ちふさがった。

「ヘル・ゼブルン――わたくしは、あなたとの婚約を認めておりません。父上が何を(おっしゃ)ったか存じませんが、わたくしは帝国と軍に忠誠(ちゅうせい)()くす軍人です。そして今の任務は大尉(たいい)とともにサムエル王太子殿下の御身(おんみ)の安全を守ることだとご理解ください」

 ミリアムは凛然(りんぜん)とした声を張った。

 そこに拳銃を手にしたヨハンが便乗(びんじょう)してくる。

「そういうこった――お馬鹿じゃなけりゃ、(はじ)上塗(うわぬ)りをしないうちに、()()()しといた方が無難(ぶなん)だぜ。()()()()()坊や」

 彼なりの()()()()()はまったく逆効果(ぎゃくこうか)だった。

 かえって激高(げっこう)したルートヴィヒは(なぐ)りかかって来る。

「ばーか」

 ヨハンは大ぶりの鉤突(かぎづ)きを(かわ)して(ふところ)に飛び込むと、銃口でルートヴィヒの胸を二度突いてから、(あご)の下に銃口を突きつけた。

「バンバン、バン――ほら()()だぞ。投了(とうりょう)しとけって」

 息を()むルートヴィヒ。

「っ……!?」

 力を入れずに小突いた程度だったが、ルートヴィヒは(おどろ)いているようだった。

 彼の頭に血がめぐる前に、ヨハンは何が起きたのかを解説する。

「まだ、わかんねえのか――お前さんは()()()()()()()()んだぞ? 税金を()()()()使って訓練してる兵隊に、素人(しろうと)(かな)うわけねえだろうが」

 そう言いながら、彼は拳銃を(にぎ)ったまま体重をかけた(ひじ)をルートヴィヒに()ち込んで、足をかけてその場に(ころ)ばせた。

 転んだ相手を後ろ手に()()せながら、身動きが出来ないように容赦(ようしゃ)なく(ひざ)を背中に落とす。

「ぐっ!」

 うめき声を()らしたルートヴィヒの後頭部に口を寄せてヨハンは言う。

「それともう一つ重要なことがある――俺はルートビアがカフェモカの次に嫌いだ。たったいま、嫌いになった。わかったか?」

 ヨハンはそう言って、ルートヴィヒを解放するとサムエルを守るミリアムに合流しようとした。

大尉(たいい)!」

 ミリアムの警告を受けて、ヨハンは咄嗟(とっさ)に振り向きざまに拳銃を構えた。

 上着の胸ポケットに差していた手袋を、ルートヴィヒが投げつけてきたのが見えた。

 銃声がして弾丸が手袋を射抜(いぬ)き、その場に撃ち落とした。

決闘(けっとう)だ! このように公然と下級士官()()()侮辱(ぶじょく)されて、黙っているわけにはいかん! 正々堂々、剣によって勝負を(いど)んでくるがいい」

「いやいやいや――()()()()手袋を投げといて〝挑んでくるがいい〟って……? どういうこった? 足りないのは頭か語彙(ごい)か? それとも酒か? 寝言が言いたいなら客間のベッドを借りてこいよ」

 ヨハンの困惑(こんわく)をよそに、ルートヴィヒは一方的に決闘の条件を押し付けてくる。

貴官(きかん)がもしも勝利すれば、この場は(おさ)めてやってもいい――しかし、我が身が勝利した場合はこたびの騒乱(そうらん)狼藉(ろうぜき)の原因を作った責任を取って、軍籍(ぐんせき)返上(へんじょう)せよ。また、フロイライン・シメオン嬢には、自分の本当の力を証明し、正々堂々と婚約を正式に認めていただくものとする」

「それ――受けるメリット俺にないじゃん!」

 ヨハンは(あき)れていた。

 ルートヴィヒは絵に描いたような門閥貴族(もんばつきぞく)の子息だった――自分以外の人間は彼に有益(ゆうえき)な存在できなければ、我慢(がまん)できないらしい。

 さきほど、銃口で小突(こづ)いたときに彼が困惑(こんわく)したのは、その攻撃に威力(いりょく)がないことに対してだとヨハンは思っていた。

 しかし、実際には反撃を受けたこと()()()()に対して、彼は困惑していたのだとわかった。

 聞き流していたが、この間にルートヴィヒはいつの間に調べていたのか、ヨハンの出自(しゅつじ)(あや)しいこと、そもそもスミス子爵家(ししゃくけ)嫡子(ちゃくし)ではなく養子であり、(まが)い物の貴族だと招待客(しょうたいきゃく)たちに向かって暴露(ばくろ)していた。

 ()()()の貴族であるヨハンによって、由緒(ゆいしょ)正しい自分のような()()()貴族の名誉(めいよ)が傷つけられることを許容(きょよう)すれば、(すべか)らく帝国が守る秩序(ちつじょ)(うしな)われてしまうという趣旨(しゅし)雄弁(ゆうべん)を彼は熱い口調で振るっていた。

 そこに、帝国では〝神姫(しんき)〟に()権威(けんい)(ほしいまま)にしている大貴族の声が割り込んでくる。

円舞(ワルツ)なぞより、よほど興味深(きょうみぶか)趣向(しゅこう)()り上がっておるのう――ところで夕餉(ゆうげ)はまだかえ?」

 彼女のせいで事態(じたい)はさらに()()()()()ことになっていく――不意に大広間に現れたのはマイアだ。

 彼女は招待(しょうたい)を受けていたものの〝所用がある〟と(しょう)して出席を断ったという話だったのだが。

 硝子(がらす)(くつ)に白いドレスを身に着けてマイアは現れた。

「フォン・エフライム閣下(かっか)――いかにあなたさまが擁護(ようご)しようとも、彼奴(きゃつ)(にせ)貴族である事実は()るぎますまい」

 ルートヴィヒは竜族の(おさ)であるマイアに対しても物怖(ものお)じせずに言った。

 マイアの方は扇子(せんす)で微笑を隠しながら、

「よいよい――そなたの弁舌(べんぜつ)、いちいち(もっとも)もじゃ」と頷いた。

「法的手続きに(のっと)って、あなたはスミス子爵家(ししゃくけ)家督(かとく)()いでいる――本物と()()()()の?」

 ()()きを見守っていたソフィアが小声でヨハンに()いた。

「さあ――さっぱりわからん」

 ヨハンも首を(かし)げていた。

 二人の疑問をよそに、マイアはこの件を()()()()()()()()()()()()で落着させようとする。

「……よかろう――()()()()この決闘は(わらわ)が取り仕切ってしんぜよう。準備もあろうから、日取りは一週間後の正午(しょうご)とす。ちょうど秋分(しゅうぶん)じゃな。その刻限(こくげん)(たが)いに東西に立ち位置をとれば、公平な条件で戦えよう。決闘場には、ちと(せま)いが我が屋敷(やしき)の庭を提供(ていきょう)してつかわそう」

「おいババア! いきなり()()()()()()、勝手に決めんな!」

 ヨハンが抗議(こうぎ)の声をあげたが、マイアは素早く扇子(せんす)を閉じながら、彼の鼻先にそれを突きつけた。

(わらわ)が取り仕切るからには、真剣勝負じゃ――貴族の(はし)くれたるもの、よもや怖気(おじけ)づきはすまいな? スミス大尉(たいい)よ」

「……」

 ヨハンは(またた)いた――たったいま、マイアは真剣勝負を提案(ていあん)してきた。

 これは決闘における決着の(さい)に、どちらかが相手を死に(いた)らしめても(つみ)に問われないということだ。

「互いの力量を勘案(かんあん)して銃器の使用は可――ただし! これに関しては、立会人や観客の安全も考慮(こうりょ)して一定の制限を(もう)ける。防具に関してはこれに自由裁量(さいりょう)を認める。よろしいか」

 マイアの(さだ)めた規定は、明らかにルートヴィヒに有利だった。

 彼は特注(とくちゅう)の白金仕様のフルプレートメイルを用意することができるのだ。

 現代の技術で(つく)られる要人用(ようじんよう)甲冑(かっちゅう)ならば、よほどの大口径(だいこうけい)(じゅう)特殊(とくしゅ)な弾丸を(もち)いなければ貫通(かんつう)できない。

 ルートヴィヒの方もそのことを知っているのか、すでに自分の勝利を確信して疑わない様子だ。

「異議なし! さすがはエフライム閣下――たとえかつてご御身(おんみ)後見(こうけん)を務められた者でも、貴族の(ほこ)りに傷をつければ、お(さば)きに容赦(ようしゃ)はないということですな! 不肖(ふしょう)の身なれど、まことに感服(かんぷく)(いた)りでございます」

「うむ――そなたは()いのう。まさしく、気高き一族の(はん)であるな。なれば(きた)る秋分には口舌(こうぜつ)(やいば)(まさ)るとも(おと)らぬ()えを、(わらわ)披露(ひろう)してたもれ。して、スミス大尉。そなたの返答やいかに?」

 ヨハンは露骨(ろこつ)に大きく嘆息(たんそく)して、

「わかった――決闘を受けよう。真剣勝負だな」と答えてから、ルートヴィヒの投げた手袋を(ひろ)った。

こうして、なぜかヨハンとルートヴィヒは衆人環視(しゅうじんかんし)のもとで決闘の約束を交わしてしまったのだ。

しかし、マイアの提示(ていじ)した真剣勝負――これによって何が起きるのかを理解していた人は、この場には片手(かたて)(かぞ)えられるほどしかいないようだった。


 その夜、ヨハンはマイアに出席を一度は断っておきながら、なぜ遅参(ちさん)したのかを()いた。

「わからぬか――まったく精進(しょうじん)が足りんのう。ほれ見るがよい」

 竜族の(おさ)は他の招待客たちとともにサロンで歓談(かんだん)している、サムエルとミリアムを開いたままの扇子(せんす)()した。

わらわとて、シメオンのお嬢ちゃんが晴れ着を(まと)うのを見とうてな――そなたらのおかげで、よい座興(ざきょう)に立ち会えたのも、なかなかに(たの)しかったぞよ」

()()だもんなあ――ババアの退屈(たいくつ)しのぎで命をかける、こっちの身にもなれってんだ」

 ヨハンは細巻きの(けむり)を天井に向かって吹いた。

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