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第28話  打ち上げ・2

 しかし、レビィとジオの表情を見る限り、そのような心配はなさそうだった。


「僕は最後まで姿が見えなかったんですけど、そのノートルって【忌不様】は結局、母になにも危害を与えることができなかったみたいなんです」


 ジオは、少し愉快そうに言った。


「なぜなら、母は一度も『絶望』しなかったんです」


 レビィも、何だか誇らしげに微笑んでいた。


「それでノートルは躍起になって、レビィちゃんのことも忘れて母に嫌がらせすることばかり考えるようになって……それに気づいた母は、レビィちゃんにこれ以上危害が及ばないように、自らノートルを引き連れて田舎の方の、テレビも無い一軒家に引っ越したそうなんです。そのまま地元の男性と出会って、普通に結婚して、僕が産まれました」


「すごく強いお母さんなんですね」


 トウゴが言うと、ジオは少し懐かしむような顔をした。


「……まあ母は昨年、病気で亡くなってしまったんですが、最期まで幸せそうでしたよ。少なくとも、僕や父の前ではね」


 つまり最期まで、ノートルはジオの母を絶望させることができなかったらしい。


 更に話を聞く限りでは、ジオにやっていたような、手を突っ込んでの行動ジャックもその母親には通用しなかったようだ。


 ただのポジティブな人間1人に全く歯が立たないまま勝ち逃げされたノートルは、憤慨しながら、とりあえず身近に居たジオに取り憑いたのだろう。


 しかし彼もこんな感じなので、あの【忌不様】の思うように事が運んだとは考えにくい。


「でも、れびぃは知らなかったから、ずっと、外にでて、確かめたかった……でも出るには身代わりが必要で、身代わりって言っても、弱い人があそこに長居すると壊れちゃうし……強い人はそもそも強引に身代わりにはできないし……」


「それで長年困ってたとこに、このお人好しと、一応S級のコイツがあの部屋のテレビに映り込んだのか……いや待てよ、その組み合わせで言うと、もしかしてオレたちが引きずり込まれる可能性もあったのか……?」


「まあ、タイミングの問題だったかもですねぇ。アハハひぃっ?」


 トウゴの愛想笑いは、クマの怖い顔に相殺された。


「まあそれで、外に出て来たレビィちゃんをまた絶望させるために、ノートルが僕を操ってあの部屋に向かわせたけど……後は、ご存じの通りだね」


「なるほど……」


 まあ結果的に、イチを身代わりに選んだレビィの判断は良い結果を生んだ。


「で、でも、あそこから出られて良かったですよね、私たち」


「お? おお。何かいきなり、あの足枷が消えたからな。あの廊下と部屋は消えずに残っているみたいだが」


「たぶん、あの足枷はノートルの【忌不様】としての能力で、テレビ監視用の結界はまた別の【忌不様】が作ったものだと思います。だからイチさんがノートルを食べたことで、足枷だけが消えたんでしょうね」


「ほーん? てめえ一般人のクセに、やけに詳しいなぁ」


「ま、まあ何故か場数だけは経験しているので」


「そ、それでその……ごめんなさい」


 レビィは申し訳なさそうに、トウゴ達5人に頭を下げた。


「いろいろと、ゴメイワクを……」


「……フン。ま、良いんじゃねえか? 何だかオレも、似たような心当たりはあるしよォ」


「ですね! 何だかレビィさんとジオさんの関係って、私とクマさんのと似てる気がします!」


「ああ、確かに。二人とも、出会いにお母さんが関わっていますね」


「ほう、そうなんですか? マツリさん、でしたっけ? よければ詳しくお話を――」


「おいテメエ! オレのマツリに気安くアプローチかけるんじゃねえ!」


「あれ僕唐突に殺されます?」


「はわっ、クマさん今『オレのマツリ』って」


「いやその今のは」


 その後、6人は2時間以上雑談を続けた。




「マンゾク」


「やー食った食った。こりゃちょっと歩いて腹ごなししねえとな」


 居酒屋から出てすぐ、イチとクマは満足そうに、パンパンに膨れた腹をさすっていた。


「マツリさん。本当この度はウチのイチさんがすみませんっした。謝罪はまた日を改めて」


「い、いえいえ。ウチのクマさんも暴れん坊さんですし」


 トウゴとマツリは互いにペコペコ頭を下げ合う。


「それじゃあ、僕たちもこれで」


「短い間でしたが、お世話になりました」


 ジオとレビィは並んで、トウゴ達に礼を言った。


「レビィさんは、ジオさんの家に居候するんでしたっけ?」


「は、はい……」


「僕からお願いしたんですよ。父にも紹介したいですし」


 ジオは、相変わらずお人好しオーラ全開だった。


 2人がタクシーを拾って去っていくのを見届けると、トウゴ達も解散した。


「いやあ、クマさんのときもだったけど、今回もなかなか大変だったなぁ」


「ウム」


 トウゴは、イチと肩を並べて夜の都市を歩く。


「でもテレビを介して監視する空間なんて、考えてみたら凄く強い【忌不様】じゃないとできなさそうだよね」


「……」


 イチも今気づいたのか、面倒くさそうに目を細めた。


「監視する人は居なくなったとはいえ、まだあの空間は残ってるんだよなぁ」


 トウゴは、ちらちらとイチを見ながら、


「何か気持ち悪いから、テレビ、ニーナさんに返そうかな。うん。それが良いよね。イチさんもそう思ぐへっ!?」


 脇腹を、軽くパンチされた。


「……ゲーム。ヤクソク」


 いつにも増して、強烈なジト目だ。


「……テレビないと、ゲームデキヌ」


 圧が。とにかく圧が凄い。


(くっ。覚えていたかイチさん……)


 普段忘れっぽいのに、こういうことだけは異常に物覚えが良い。


 翌日トウゴは、めちゃくちゃ買い物させられた。

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