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第27話  打ち上げ・1

          ◆◆◆


 そして次の日の午後。


「……ウマシ」

 

 街中の居酒屋で、皿に乗った焼き鳥串を頬張りながら、イチは満足そうに吐息する。


「まぁ話はわかったけどよォ、ソイツに反省の色が全然無いのはどういうことだ?」


 お座敷形式の席(これも先輩の転生者達が広めた文化なのだろう)には、トウゴとイチの他に、クマとマツリ、そしてレビィと昨晩の大柄な男性の計6人が座っていた。


 とりあえず、あの赤い部屋と廊下の結界から脱出するためにクマとマツリを巻き込んでしまった事実を平身低頭謝罪し(主にトウゴが)、事情を説明したところ、マツリは快く許してくれたが、クマはそうはいかないようだった。


「ま、まあまあクマさん。トウゴさんも謝ってくれてますし」


「ううむ。まあマツリがそう言うなら」


 マツリのナイスフォローである。


 トウゴはあせあせとお辞儀しながら隣のイチを見ると、


「……ネギもソコソコ」


 至極マイペースに食事をしていた。


「ぬぅあーッ! やっぱコイツは許せねェ! テメエの焼き鳥も食ってやる!」


「……! ワタサヌ」


 その態度にやはり我慢ならなかったらしいクマは、イチの食事を強引に妨害し、それに怒ったイチはいちで応戦し、2人で取っ組み合いを始めてしまった。そこからダダ洩れる異様な殺気に、何事かと様子を見に来た店員もタジタジで注意ができない様子だ。


「「すみませんすみません! すぐ大人しくさせますので!」」


 トウゴとマツリはシンクロして店員に謝り、それぞれの相棒をなだめすかして何とか事を治めた。




「――んで? 結局ソイツとその男は、どういう関係なんだ?」


 数分後、ようやく落ち着いたクマがレビィと大柄な男を顎でしゃくった。


「あ、もう僕喋って良いのかい? 殺されない?」


 話題を振られてようやく、それまで柔らかい笑顔のまま固まっていた男が口を開いた。


「改めて自己紹介させてもらうと、僕はジオっていいます。26歳で、仕事はおもちゃ屋さんのレジ打ちで……あ、今はそんなことはどうでもいいか」


 何だか見た目通りの、おっとりした人だ。


「レビィちゃんのことは、僕の母からよく聞いていました。なんでも昔からの友達だったとか」


 同じくイチとクマの恐怖にフリーズしていたレビィが、こくりと頷いた。


「れびぃは、ノートルにだまされて、あの廊下と部屋に閉じ込められました」


 手法は、レビィがイチにやったのと同じなのだろう。


 確かにこの子は純粋そうだし、騙されやすそうだ。


「ノートルの『欲望』は、他人の『絶望』でした。閉じ込められたれびぃはまんまと絶望して、とある部屋で泣いていました……そしたら、たまたまテレビの向こうに……あの子がいました」


「たぶんそれが、僕の母ですね」


「あの子は、テレビを通して、れびぃをなぐさめてくれました。お菓子をくれたり、おもちゃをくれたり……そのうち、れびぃの『絶望』は消えていきました。でも……」


 その後も、レビィはたどたどしく説明を続けた。


 ノートルの『欲望』は、他人の『絶望』。


 ことさら、レビィのそれが気に入っていたらしく、執着していたのだという。


 そんな中で、せっかく絶望の淵に叩き込んだレビィが、一人の少女のせいで元気になっていることに気づき、再び行動を起こした。


「ノートルは、まずあの子の親に取り憑き、仲違いさせました」


 遠回りに、粘着質に、じわじわと嫌がらせをしていった。


「そして離婚させて、残った父親の心も乱して、部屋がどんどん荒れていって……いつしか、テレビに映るのはあの子1人だけになった」


 仲の良い子の生活がどんどん荒れていく様子を傍観することしかできないのは、さぞかし辛かっただろう。


「だからあの子を、あっちの、赤い部屋に呼んだんです……れびぃは外に出られないけど、誰かを入れることは簡単だったから……」


「なるほど。それで荒れた父親から、一時避難させたんですね」


 レビィは頷いた。


「でも、長くは続かなかった、です。それに気づいたノートルは、れびぃが目を離していた隙にあの子をさらって行って……」


「そう、ですか。それは……」


 そしてまた絶望したレビィから力を得て、あのような姿になったのだろう。


「……あれ、でもその子に息子さんが居るってことは、一体どういう……?」


 まさか?


 トウゴは一瞬、最悪の事態を想像した。


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