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ゆるい短編

黒の青年

作者: 閑古鳥

これは夢で見た不思議な話。

 一人の青年が静かに毛糸を撫でていた。びいどろの中に真っ黒なインクを詰めたような瞳の青年だった。

 彼はじいっと毛糸を見つめながら、ゆっくりゆっくり少しずつ、毛糸を摘んでつうと指を引く。真っ白だった毛糸が、撫でられた部分から真っ黒に染まる。するりするりと淀みなく、紡いだ毛糸に指を滑らせ、飲み込まれそうなほど暗い漆黒に染めていく。

 次々と白が黒に変わっていく中で、青年の瞳だけが黒を喪う。とろりと黒が溶けたような瞳が、その色を毛糸へ移すかのように、ゆらりと揺らめいて色を亡くしていく。それは彼の瞳の中にある黒いインクが、指から零れ落ちていくようにも見えた。色を亡くしたびいどろは、次第に背後に流れる血の色を写すだけになる。

 漆黒の毛糸溜りの中で青年はすっと一つ毛糸の端をつまんだ。そうして近くに置いていた編み棒を手に取ると、漆黒の毛糸で何かを編み始める。編まれたものが少しずつ長くなっていく代わりに、毛糸の束は長さを減らす。どうやら作っているものはマフラーのようで、一筋の長く広い帯が青年の手から生み出されていく。

 編み終えた糸をぱちりとハサミで切り、また次のものを編むために手を動かす。マフラー、セーター、靴下、帽子、手袋。全てが夜のように暗く美しい黒色で、青年の姿は夜に溺れる小さな星のようにも見えた。


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