死体と死骸
都会の外れ
とある大学の木の根元にその死体は転がっていた
仰向けに転がるそれは道行く人に嫌悪の目を向けられていた
相も変わらず鳴き続ける仲間たちに気づかれることもない
この蝉はなんのために生き、死んだのだろうか
このまま誰にも弔われることなく土に還るのだろうか
きっとそれは私も同じだろう
道を行く他人の群れは私が死んでも
その流れを止めることはないだろうし
社会の歯車は何事もなかったかのように回り続けるだろう
私の死は誰にも影響を与えることはなく
そしてそれはおそらく生においても同じだ
流れる人の川の傍らで私は独り
一匹の蝉の死体を眺めていた
私の死体を眺めていた
不意に、右手に違和感のようなものを覚えた
視線をそこに向けたのと反射でそれを叩いたのはほぼ同時だった
右手首に止まっていた蚊は潰れ、左手のひらに少しの血がついた
潰れた塊からはヒトスジシマカ特有の白と黒の縞々模様見える
私はデコピンをするようにそれを弾き飛ばした
「うわぁ最悪......」
日は暮れ始め、キャンパスから少しずつ人が出てきていた
ポリポリと手首を掻きながら私は駅へと歩き出した
頭の中は蚊への苛立ちでいっぱいになっていた