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第二ピリオド-4 名瀬高の実力

 東明大名瀬高のスターティングメンバーは先程凪が言っていた4番若月玲奈、6番若月玲央、7番菱川嘉音、10番二年のPFと13番を着けた二年生の五人だ。


 両チーム中央のサークルで整列をする。

 お互い突出して身長の高い選手はいない。

 恐らくアウトサイドよりの戦いになるだろうと修は予想した。


 挨拶を交わしてティップオフ。

 最初のジャンプボールを制したのは名瀬高だ。


 トップの位置でPGの玲奈がボールをコントロールする……と思いきやすぐに右サイドにいた玲央にパスを出した。

 すると玲央もボールをもらった瞬間に鋭いドライブでディフェンスを抜き去る。

 そしてカバーに来たディフェンスと空中で体をぶつけ合いながらも、レイアップを放ちこれを決めた。


 審判のホイッスルが鳴り、山羽の8番のファールが宣告された。

 しかもシュートは入っているのでバスケットカウントワンスロー、つまり二点が加算された上に一本のフリースローが与えられる。


 尻餅をついていた玲央に山羽の8番が手を差し伸べるが、玲央はそれを拒否して自分で立ち上がった。

 試合開始からここまでわずか6秒。あっという間の出来事だ。


「い、いきなり(はえ)ぇ……」

「うん……すごいね……」


 試合開始直後の一本目というのはかなり重要だ。

 ゆっくり時間をかけてでも確実に一本決めたいと思うのがセオリーだが、名瀬高はその選択肢をとらなかった。


 初めからそう決めていたのか、或いは玲央が独断で隙を突いたのだろうか。

 どちらにせよ場内がざわつく程のスーパープレーだ。


 玲央はその後のフリースローも難なく決め、攻守が入れ替わる。

 いきなり三点を入れられた山羽は当然ながら対照的にゆっくりと攻めた。

 マンツーマンでつく名瀬高のディフェンスに対し、山羽はボールのない位置でスクリーンを掛け合い、ノーマークを作り出す。


 ボールが渡った5番が一対一をしかけゴールに向かってドライブ。

 ディフェンスが中央に寄って来たのを確認し、アウトサイドにいた16番にパスを出した。

 その16番が3Pを撃つが惜しくも入らず、リバウンドは名瀬高の手に渡る。


 名瀬高は再び玲央にボールを回した。

 一本目を素晴らしいプレーで決めた玲央に、勢いそのまま攻めさせるつもりなのだろう。

 玲央はジャブステップから相手を揺さぶり、またしてもドライブで一人目を抜き去る。


 しかし先程とは違い二人目のディフェンスのカバーが速かった。

 玲央は正面で止められてしまったが、ボールはドリブルで上手くキープし、ガードの玲奈に戻した。


 すると今度は玲奈をマークしている山羽の4番がタイトなディフェンスでプレッシャーをかけた。

 それに呼応するように他のメンバーもディフェンスが激しくなる。

 恐らく24秒オーバータイムを狙っているのだろう。


 オフェンス側は24秒以内にボールをリングに当てなければ、相手チームにボールの所有権が移ってしまうのだ。

 シュートクロックは既に10秒を切っている。


 しかし玲奈は冷静だった。

 ドリブルをしながら一旦後ろに二歩程下がり、その隙間を埋めようと4番が素早く体を寄せるのを見て、鋭いロールターンでかわす。


 そのまま3Pライン付近でストップし、シュートを撃つ構えを見せた。

 そこへ左サイドからカバーに来た7番が目一杯腕を伸ばしてブロックしようと跳ぶ。

 このまま撃てば完全にブロックされるタイミングだったが、玲奈はゴールから視線を外さずに左サイドへパスを出した。


 そこには7番がカバーに出たことでノーマークとなった菱川嘉音が3Pラインで待ち構えていた。

 嘉音に対して更なるカバーが飛び出して来るがもう遅い。

 素早いフォームで嘉音の両手から放たれたシュートは、少し高めの軌道を描いてゴールリングに吸い込まれていった。


「多分、今日『当たり』の日だよ」


 そのシュート見た汐莉が突然確信したように言った。


「え? うーん……。確かに良いシュートだったけど、まだ一本目だし、それはどうだろうね」


 修も現役時代たまに、撃てば入るという『当たり』の日というのはあったが、それは本人でも数本撃ってから確信に変わるものだ。

 他人の汐莉が一本見ただけで断言できるようなものではない。


 しかしこの汐莉の予想は見事的中していた。


 山羽も全国に出場するレベルなだけあって修正力はさすがの一言だ。

 玲央に対してはドライブして来たら早めの段階で徹底的に二人目のディフェンスにカバーさせて潰し、そのあとのマークのローテーション――一人がカバーに出たことによる生じるノーマークに、別のメンバーがさらなるカバーに入ることを繰り返す――を素早く行うことで、ノーマークの時間をほとんど与えない。


 隙があれば玲央に対して二人がかり(ダブルチーム)でプレッシャーをかけ、ミスを誘発したり無理な体勢でシュートを撃たせたりして、最も危険な点取り屋(スコアラー)である玲央の得点力を奪っていった。


 そこで活きたのが嘉音の3Pだった。

 名瀬高は途中から玲央での得点を控え、嘉音をフリーで撃たせるためのフォーメーションを軸に置いた。

 一対一からの揺さぶりやスクリーン等を絶妙なタイミングで行い、嘉音に余裕を持って3Pを撃たせる。


 そしてそのシュートが面白いように決まる。

 驚くことに前半だけで嘉音の3Pは6本成功。成功率は6/8の75%だった。


 もちろん嘉音の成績は凄まじい。

 しかし修はそのことよりも、汐莉が一本のシュートで嘉音の調子の良さを見抜いたということが信じられなかった。


「宮井さん、なんでわかったの? 菱川さんが『当たり』だって……」

「それは……実は私も根拠はないんだ。一本目を見たときに、本当にただなんとなく、あ、今日は調子良いんだな、って思っただけなんだ」

「なんとなく……」


 それにしてはかなり確信めいた発言だった気がする。

 現役時代3Pにかなりの自信を持っていた修でさえ、一目で他人のシュートの調子の良さを判断することはできなかった。

 もしかしたら汐莉はそういう能力に長けているのかもしれないと修は感心した。


 前半が終わってスコアは43-28で名瀬高がリードしている。

 このまま今の作戦を山羽が続けていけば、恐らく大差での敗北を喫することになる。

 後半どれだけ修正してくるかが見所だ。


 そして予想通り後半からの山羽はディフェンスを大きく変えてきた。

 嘉音に対して一人がフェイスガードでマークをする。


 フェイスガードとは得点力の高い、特にアウトサイドプレイヤーに対して、ボールを持たせないようにべったりマークすることだ。

 他のプレーのカバーに行かない代わりに、フェイスガードする相手の得点は何がなんでも抑えるという作戦である。


 これにより嘉音の3Pによる脅威は消え去った。

 しかしそれでも名瀬高の勢いは止まらなかった。

 依然として玲央に対しては執拗に潰しに行く山羽であったが、玲央が慣れてきたのか、山羽の足が止まってきたのか、玲央からの得点が徐々に増えていく。


 山羽も食らいつくように得点を重ねるが、15点離れていた点差が縮まることは一度もなかった。


 そして「撃てるのは嘉音だけではない」というように、玲奈と玲央によるダメ押しの3Pが数本決まり、終わって見れば90-71と名瀬高が大差での勝利だった。

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