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第三ピリオド-4 怪しい視線

「残念だったね」


 職員室を出た二人は自分たちの荷物を取りに教室へ続く廊下を歩いていた。

 どのみち自主練習が許可されれば体育館に、されなければ帰るだけだったので、荷物を持ったまま職員室に行けば良かったと少し後悔したが、今はそれよりも隣にいる汐莉のことだ。


 目に見えて落ち込んでいる。これが漫画やアニメだったら、彼女の頭上には黒だか紫だかの波線が多数降り注いでいることだろう。


「ていうか、許可してもらえると思ってたの? 俺、ダメ元で言ってるのかと思ってた」


 言ってしまってから修はしまったと思い口をつぐんだ。

 また空気を読まずに毒を吐いてしまった。悪気はないのだが、無意識に正論を言って相手を責めるような形になってしまう、というのは修にはよくあることだった。

 改善したいとは思っているのだが、なかなか上手くいかない。


「うっ……。か、川畑先生ならきっと許可してくれるって思ってたんだよ……」


 案の定汐莉はさらに落ち込んでしまった。みるみる肩の位置が下がっていく。


「ご、ごめん! でも、こればっかりはしょうがないよ。先生の言うとおりしっかりテスト勉強して、一週間後からまたバリバリやっていけば良いさ」

「でもね! 練習は一日休むと三日分の経験値が抜け落ちちゃうって誰かが言ってた! 一週間休めば三週間分が消えてっちゃうんだよ!」

「うーん、まぁそれは極論だと思うけど、確かに一週間休むのはキツいよなぁ」


 普通の学校ならどこでもテスト期間中は同じように休みになるだろう。だが強豪校にはテスト休みがない所も多いと聞いたことがある。

 つまり、この間にも強豪校と一般校の差はどんどん広がっていってしまうということだ。


 そう考えるとやりきれない思いもなくはないが、やはりそこは先程修が自分で言ったように仕方がないことなのだ。割り切っていくしかない。


「ねぇ永瀬くん……。良かったらなんだけど、練習付き合ってくれない? あのコートで」

「えっ、今日?」

「ううん、部活再開までの間毎日!」

「ええっ、毎日!?」


 つまり今日と明日の放課後、土日、そしてテストがある日は午前中に放課となるので午後丸々ということだろうか。

 修は普段から真面目に勉強しているし、前回の中間テストも対策は前日に二時間もやれば充分だったので、別に自主練習に付き合うのは構わないと思った。


「あれ? というかそもそも、あのコートはあまり使うつもりはないんじゃなかった?」


 以前汐莉が言っていた。あのコートの持ち主は汐莉があそこを使うことを快く許可してくれているらしいが、汐莉が遠慮して滅多に使っていないと。


「実は永瀬くんが入部してから私も気合い入っちゃって……。あれからまたちょくちょく使ってるんだ。鍵も持たせてもらってるし」

「あ、そうなんだ」

「うん。……だめ、かな? やっぱりテスト勉強で忙しいよね……?」


 汐莉は顔色を窺うかのように、不安そうな上目遣いで修を見つめた。もしかしたら狙ってやっているのではないかと邪推してしまうようなあざとさ満載の仕草だ。

 元々断るつもりもなかったが、そんな風に言われると罪悪感から尚更断るのは不可能というものだ。


「わかった、付き合うよ」


 修は観念したように苦笑いをしながら答えた。


「ほんとに!? ありがとう!」

「その代わりテスト勉強もちゃんとやること。川畑先生、そういうのに厳しそうだし、成績落として部活禁止みたいなのもなくはなさそうだ」

「うん、もちろんそっちもちゃんとやるよ!」


 汐莉は朗らかな表情で嬉しそうに笑った。

 その顔を見て修も自然と笑みが溢れる。

 元々バスケ部に入ったのも汐莉をサポートするためだ。恩を返すためならとことん付き合うと決めた。


「そうと決まれば早く行こう! 永瀬くん運動着持ってないよね? 一旦帰って現地集合でいい?」

「オーケー」

「じゃあまた後で!」


 元気よく駆けていく汐莉に手を振り返し、修も自分の教室へ入ろうとした。

 その時、なんとなく嫌な視線を感じたのでそちらを見てみると、確かに遠巻きからこちらを見ている男子生徒がいたので修はギョッとした。

 その男子生徒は修に見つかった瞬間すぐに背を向けどこかへと去って行った。


 修はその男子生徒に見覚えがあった。以前平田といる時に話しかけてきた、サッカー部の同級生だ。確か名前は寺島とかいっただろうか。


(なんだ? 一瞬だけだったけど、なんか睨み付けられていたような気がする……。前も嫌な感じで見られてたよな)


 よく知りもしない男からあんな視線を何度も向けられて、正直気持ちの良いものではない。というより、修はそれなりにムカついていた。


(今度同じようなことがあったら問い詰めてやる)


 教室に入って自分の荷物を担ぎながら、修はそんなことを考えていたのだった。

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