ハーフタイム
市ノ瀬凪の様子がおかしい。
私だけでなく、部員皆がそう感じる程に凪先輩は不調だった。
いつも出来ていることが出来ず、いつもはしないようなミスを重ねる。
最近はずっとこんな感じだけど、今日は特に酷かった。明らかに集中できていない。心ここにあらずって感じ。
そう言えば昨日の朝に下駄箱で会った時から既にぼーっとしていたな。
今日の練習開始前に、私は凪先輩に声をかけた。凪先輩は「大丈夫よ」と答えたけど、その声に力はなく目は虚ろになっているようにも見えた。
案の定事件は起こった。凪先輩は自分の不注意から怪我をしてしまった。多分左手人差し指の挫傷、いわゆる突き指だ。
見た感じそんなに酷くはなさそうだったけど、数日はボールを使った練習はできないだろう。
ただ幸いにも明日からはテスト休みだった。テスト日も含めて一週間近く部活はない。凪先輩の怪我もその間には良くなってるんじゃないかな。
「凪先輩、やっぱり様子が変ですよね……」
凪先輩が氷嚢を作りにフロアから出ていった後、私は灯湖先輩に尋ねた。
「あぁ……勉強の方に気をとられているのかもしれないな」
灯湖先輩は厳しい顔でそう言った。その表情からは、心配しているのか批難しているのか、はたまたまったく別の感情なのか、私には測り知れなかった。
永瀬くんが入部してくれて私自身のバスケ生活はかなり好転している。以前よりも一日一日のスキルアップの実感が明らかに違っていた。やっぱり上手い人から教わると、説得力もあるし何よりこっちの理解がしやすい。
でも私だけが上手くなってもダメなんだ。バスケはチームスポーツだから。勝つためにはチームで強くならなくちゃ。
凪先輩、灯湖先輩、晶先輩……。私よりも遥かに上手い上級生たち。この人たちともっと団結しなきゃ、上になんて行けない。
永瀬くんもどうにかしたいって言ってくれたし、協力して問題解決していきたいと思う。まずは凪先輩の憂鬱を晴らしてあげなきゃ!
そういえば永瀬くん、最近急に凪先輩と仲良くなってたけど、何かあったのかな……。
あれ? なんだろうこの感覚……?
いけない、今は凪先輩のことを考えなきゃ。