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第一ピリオド-11 ファミレスで

 修は汐莉、優理、星羅の三人と、学校から自転車で五分程の距離にある最寄り駅前に来ていた。

 この辺りは商店街もあり、主要駅とまでは言えないがそれなりに栄えている。


 飲食店やアパレルショップなどが建ち並ぶ商店街は、土曜日ということもあり多くの人で賑わっていた。


 とりあえずファストフード店やファミレスなど、ゆっくりできそうな所に入ろうという事で、四人固まって街を歩く。

 すると突然星羅が「あれ!?」と言って自分の身の回りをキョロキョロと確認し始めた。


「ウチ、バッシュどうしたっけ?」

「あれ、本当だ、持ってないねぇ。確か笹西を出る時には持ってたような覚えがあるけど……」

「ウチもそんな気がするっす……。てことは、自転車のカゴっすかね? ごめん皆、ちょっと見てくるんで先行ってお店探しといて欲しいっす!」


 そう言って元来た道を駆け足で戻って行った。


「あ! 待って、わたしも付いていくよぉ! しおちゃん、永瀬くん、お店で合流しよう。メッセージよろしく!」


 優理も早口で言い残すと星羅を追いかけて行った。


「じゃあ行こっか」

「う、うん」


 汐莉が歩き出したので修も後に続く。

 結果的に汐莉と二人きりになってしまった。

 こんな所を学校の人間に見られたら絶対勘違いされてしまうと思い、修はできるだけ目立たないよう体を小さくし、目をキョロキョロさせながら周りを警戒する。


「……どうしたの永瀬くん? 変だよ?」

「うぇ!? へ、変って? 何が?」


 汐莉に苦笑いの顔でつっこまれ、修は挙動不審な態度をとってしまった。

「何って、全体的に?」と汐莉が首を傾げる。


(しまった、これじゃ逆に悪目立ちしてしまう……!)


 修は咳払いをし、できるだけ普通にしようと努めた。


「ところでさ、三人はよくこうして部活終わりにご飯行ったりしてるの?」

「え? うーん、まぁそれなりかな。毎回行ってるとお小遣いも厳しくなっちゃうし」


 かなり無理矢理な話題提供だったが、汐莉がのってくれたのでとりあえず変な空気はリセットできた。


「そうなんだ。三人共仲良いよね」

「うん。一年は三人しかいないし、二人とも優しくて良い子だからね。あ、ハンバーガー屋さんがあるよ」


 横断歩道手前で信号に捕まり立ち止まると、汐莉が前方を指差して言った。

 示す先に視線を移すと全国的にも有名なハンバーガーチェーンが見えた。


 修は店内とレジ前をさっと目で確認する。

 席は見るからに満席に近く、レジにも長蛇の列ができており、店員が(せわ)しなく動き回っている。


「あそこはダメそうだな。他を探そう」

「だね」


 信号が青になり対岸で待っていた人々が一斉に歩き出した。

 修と汐莉もそれに続く。

 横断歩道を渡りきり、違う店を探そうと更に歩いた。


「永瀬くん、優しいね」

「えっ?」


 突然汐莉から予期せぬ言葉をかけられて、修は汐莉を振り返った。

 汐莉は嬉しそうに穏やかな笑みを湛えていた。


「今、私がぶつからないように前を歩いてくれたんでしょ?」

「あっ、いや、まぁ……」


 横断歩道を渡るときに修が汐莉を庇うように前を歩いたのを汐莉は気付いたようだ。

 昔祖母の明子と横断歩道を渡った際に、明子が歩きスマホをしていた若い男に肩をぶつけられたことがあった。

 それ以来明子と横断歩道を渡る際は、自分が前に出て明子を守ると決めていたのだ。


 それが今回にも無意識的に出ていたようだ。

 そのことを汐莉に褒められて、修はなんだかとても恥ずかしくなった。


「これは癖みたいなもので……別にカッコつけたわけじゃないよ」

「わかってるよ」


 必要のない言い訳をしてそっぽを向く修に、汐莉はふふっと笑いながら言った。


「この先にファミレスがあるよ。そこに行ってみよう!」


 汐莉が軽やかな足取りで自身の指差した方へ進む。

 修は熱くなった自分の顔がなかなか元に戻らないのを歯痒く思いながら後に続いた。


 辿り着いたファミレスは混んではいたものの、四人入れるということだったので、店員に案内され席に着いた。

 汐莉が優理に電話を入れて場所を伝えたので、程なくして二人も合流する。


「やぁ~ごめんっす!」


 星羅が右手を顔の前で縦に立てて謝罪のポーズをとった。

 その手にはバッシュのケースを持っていた。どうやら見つかったようだ。


 それぞれ注文を済ませてドリンクバーで飲み物を調達し、ようやく一息つく。


 気温も高くじめじめした日本の夏において、冷房の効いた室内でキンキンに冷えた炭酸を胃に流し込むのは最高のご褒美だ。

 先程まで部活で走り回っていた三人にとっては尚更だろう。


「ぷはぁ~! 生き返るっす!」


 星羅が大袈裟なリアクションをとる。


「ほんとだね。もうへとへとだったから、疲れた体が癒されるのを感じるよ」

「とか言って、しおちゃん全然疲れてるように見えなかったけど~?」

「え~? そんなことないけど……。ほら、脚もぱんぱんだよ!」


 汐莉が優理に脚を伸ばし、膨れっ面で抗議する。

 確かに優理の言う通り、他の部員たちと比べて練習後も汐莉は元気そうだった。


「宮井さん、スタミナあるよね。中学時代は長距離の選手だったの?」


 汐莉が中学時代陸上部だったのは知っていたが、どの競技の選手なのかは聞いたことがなかった。


「ううん、大体全部やってたよ」

「大体全部!? それってすごいことじゃないの!?」


 汐莉から衝撃的な言葉が発せられ、修は驚きの声を上げた。

 陸上について修はあまり知らないが、多数の競技から何種目か選ぶものだという認識はある。


「全然すごくないよ。私が全部やりたいですって先生にわがまま言ってやらせてもらっただけだから。それに記録もほとんど残せてないしね」


 汐莉が苦笑いをしてオレンジジュースを飲む。


 しかしこれで合点がいった。

 陸上競技を大体全部やっていたということは、短・中・長距離、ハードル、高跳び、幅跳び、砲丸投げ等をやっていたということだ。

 それらの練習をすることでバランス良く鍛えられたのだろう。だから汐莉は総合的な身体能力が高いのだ。


「正直、汐莉ちゃんにはすぐ抜かれるんじゃないかって気が気じゃないっす。ウチは中学からやってるのに……ずっと補欠っすけど」

「わたしもだよぉ。今日もダメダメだったし……。しおちゃんは綺麗にミドル決めてたもんねぇ……」


 星羅は背もたれに体を反らせて、優理は頭を垂れて落ち込んだ。


「いやいや、私なんてそのシュート以外なんにもできてないよ! 特にディフェンスで足引っ張っちゃった……」


 汐莉が謙遜するが、自分のプレーを思い出したのか彼女までしゅんとしてしまう。

 3人が同時に深いため息をつき、テーブルに暗い雰囲気が流れる。


「三人ともまだ一年なんだからこれからだよ。中学伸び悩んでても高校で花開く人もいるって聞くし、落ち込むのはまだまだ早い。練習あるのみだよ」


 修はなんとかこの空気を打開しようと励ましの言葉を口にした。


「……そうっすね。永瀬くんの言う通りっす」

「練習あるのみ……そうだね!」

「目が覚めたっす! 永瀬くん、ドリンクのおかわりを持ってきてあげるっすよ! 何がいいっすか?」

「え、じゃあコーラで」

「待ってぇわたしも行く~」


 修の言葉で立ち直った二人はコップを持ってドリンクバーのサーバーへと向かって行った。

 あまりにも速い立ち直りに少しだけ疑問を持ったが、空気が戻って一安心だ。


 ふと視線を感じてそちらの方を見ると、隣に座る汐莉がまるで聖母のような柔らかな微笑みで修を見つめていた。


「ど、どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ」


 今度は嬉しそうにニコッと笑った。

 汐莉の笑みの理由がわからず、修は困惑しながら目を逸らした。

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