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第一ピリオド-8 汐莉の出番

 そのあと両チーム二回ずつ攻めたが、栄城はシュートを決めることができなかった。

 笹西には飛鳥のリング下のゴールが一本出たため、現在スコアは6-10で笹西がリードしている。


 栄城の攻撃。

 インサイドの晶にボールが入った。すかさずターンをしてシュート体勢に入ったので、飛鳥はブロックしようとジャンプした。


 しかし晶のシュートはフェイントだった。

 飛鳥がフェイントに引っ掛かったのを確認し、左でワンドリブルを入れたあと今度こそ本当にシュートのために跳び上がる。


 だが涼に付いていた笹西の一年生が反応し、手を伸ばす。

 その手が晶の腕に当たり、晶はシュートを外してしまった。

 笹西の一年生審判がホイッスルを吹く。ファウルの判定が下され、晶のフリースローだ。


 するとシューター、リバウンダーが準備をしているのを余所に、灯湖が修に近付き言った。


「永瀬君、二投目が決まったらメンバーチェンジするからブザーを鳴らしてくれ。メンバーはさっき言った通りだ」

「わかりました」


 時間はそろそろ四分経とうというところである。交代にはちょうど良いタイミングだ。


 晶がフリースローの一投目を放つがリングの奥にボールが跳ね返り外してしまう。

 二投目が決まれば交代の申請は認められるが、決まらなければゲームはそのまま続行してしまうので、予定通り行くためには晶には決めてもらいたいところだ。


 晶は二投目をゆっくり深呼吸をしてから撃った。そのシュートは何度かリング上を跳ね、一瞬こぼれるかと思われたがなんとかリングの中を通過していった。

 晶がほっとした表情を見せる。


「メンバーチェンジです!」


 修はすかさずブザーを鳴らし、高らかに宣告した。

 晶、優理、星羅がコート外に退き、代わりに汐莉、凪、菜々美が入る。


 灯湖が手早くマークマンの指示を出し、各々ディフェンスの準備をする。


 笹西のスローインでゲームが再開された。

 飛鳥には涼、空には菜々美が、そして汐莉は一年生の子をマークする。


 汐莉のマークにボールが渡った。

 汐莉は腰を低くし腕を広げてディフェンスの姿勢をとる。


 修の入部時はこの姿勢も少しおかしかったが、修が教えて修正したので、見映えは悪くないものになっていた。


 ボールを持った一年生はゴールに向かってドライブしたが、汐莉はこれに辛うじて付いていく。

 そこで一年生はドライブのスピードを緩めた。と思った瞬間一気にスピードを上げて汐莉を抜き去り、レイアップシュートを決めた。


 今のはチェンジオブペースという技だ。緩急をつけることでディフェンスのリズムを狂わせて抜く。

 汐莉は完全に虚を衝かれた形になってしまった。

 汐莉は悔しそうに「すみません!」と周りに叫ぶ。


 汐莉は攻めにしても守りにしてもプレーの選択肢が少ない。知識と経験が圧倒的に不足しているからだ。


 今のもチェンジオブペースに対する守り方を知らない、あるいはチェンジオブペースそのものを初めて見たのかもしれない。


(その辺りはこれから経験して覚えていくしかないな)


 初見の技にやられるのはしかたがない。今後の課題として改善していけばいい話だ。


 栄城の攻撃になり、汐莉がアウトサイドでボールを持つ。


(おっ)


 汐莉は上体を少しだけ前屈みにしてゴールに正対し、ボールを右腰の前にして膝を曲げたスタンスをとった。

 昨日修が教えたトリプルスレットだ。


 教えられたことを忘れずに、早速実践している。

 こういうことがきちんとできるプレイヤーは上達が速いものだ。

 修は汐莉の意識の高さに感心した。


 汐莉はそこから自分で仕掛けずに、パスを回した。

 汐莉の一対一の能力は高くない。

 それに加えて相手の一年生は、笹西の一年生の中でも上手い部類なので、汐莉と彼女の実力差ははっきりしている。


 無闇に攻めるのは得策ではない。ただ今回は練習なので、負けると分かっていて敢えて挑戦するのも悪くはないことだが。


 ボールを貰った凪が首と目を動かして周りの状況を確認する。

 凪をマークしていた一年生が、チャンスと見たのかボールを奪おうと腕を伸ばした。


 しかし凪はまったく驚いた様子もなく即座に反応し、右手でロールターンをしてそれをかわす。

 そして逆にドライブでフリースローラインまで攻めて行った。


 飛鳥が反応しカバーに出てくるが、涼がフリーになっていることを把握していた凪はバウンドパス。

 涼がボールを受け取りゴール下を決める。


 やはり凪は上手い、修はそう思った。


 ガードとして全体の動きをしっかり観察しながらも、ボールへの意識も忘れておらず、簡単に奪われ(スティールされ)ない。

 そして鋭いドライブでカバーディフェンスを引き付けつつ正確なパス。

 流れるようになめらかなプレーだ。


 その上凪はまだかなり余裕を持ってプレーをしているように見える。


(なんでこんな上手い人が栄城(うち)にいるんだろうか)


 修は凪のことを、身長はかなり低いが、総合的に見ても良いガードだと評価している。

 何か事情があるのか、あるいは修が思っている以上に高校女子バスケのレベルが高いのか。


 そんなことを思っている中でもゲームは続く。

 笹西は汐莉の穴を突いて積極的に一対一を仕掛けてきた。

 栄城はパスを回して隙を突いては涼、菜々美がシュートを決める。


 残り一分を切った頃にはスコアは15-16の栄城一点ビハインドだ。


 栄城の攻撃。

 右サイドで灯湖がボールを持つが、ディフェンスは3Pを撃たせまいと距離を詰めて守っていた。

 灯湖はピボット(片足を軸足として床に固定し、もう片足を動かすこと)を踏んでボールを守りつつ攻撃の隙を伺う。

 その時だった。


「はい!!」


 逆サイドから灯湖に向かって汐莉が飛び出してきてボールを要求した。

 それに気付いた灯湖は鋭いチェストパスを汐莉に出す。

 低い姿勢でそれを受け取った汐莉は流れるようにストライドストップし、ジャンプシュートを放った。


(よし、完璧!)


 撃った瞬間入るとわかるシュートだ。

 期待を裏切ることなく、ボールはゴールに吸い込まれていった。

 修と先程決めていたパターンのシュートだ。汐莉の得意なプレーであるが、しっかり決めるのはやはり大したものだと感心した。


 修が満足そうな顔で汐莉を見ていると、それに気付いた汐莉がニコッと笑い、お腹の前で小さくピースサインを送ってきた。

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