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第一ピリオド-6 試合形式(ゲーム)

 栄城からは先程灯湖に呼ばれたメンバーが、笹西からは空、飛鳥、そして一年生の三人がセンターサークルに集まる。


 笹西の残りの二人が審判を担当してくれたので、修と汐莉がタイマーの操作や得点のカウントを行うことになった。


 ジャンプボールのジャンパーの晶と飛鳥がサークル内で向かい合い、ジャンプの体勢をとった。

 他のメンバーはサークルの外側でボール奪取の準備をする。


 審判がボールを高く上げた。試合開始(ティップ・オフ)だ。


 ジャンプボールに勝ったのは晶だった。飛鳥も長身だが5㎝以上身長差がある上に、手足も長い晶が相手では分が悪い。


 凪がボールを保持しゆっくりドリブルをつきながら相手のコートに侵入し、その間に栄城メンバーは各々のポジションにつく。


 笹西のディフェンスは一人の相手に一人ずつマークをするマンツーマンディフェンスだ。

 空は菜々美に、飛鳥は晶についている。


 するとローポストにいた晶がハイポストへ飛び出した。

 そこへすかさず凪がバウンドパスを入れる。


「晶!」


 晶がボールを持った瞬間45°のアウトサイドにいた灯湖がゴールに向かって一直線に走り出す。

 晶は灯湖に呼ばれるのがわかっていたかのように、灯湖のスピードを緩めないドンピシャの位置にボールを出した。


 マークを完全に振り切っていた灯湖はそのままのスピードでレイアップを決めた。あまりの速さにディフェンスのカバーも対応できなかったようだ。


「「ナイシュー!」」


 栄城のメンバーから称賛の声が上がる。


「あの二人、いつも連携が上手なんだよ!」汐莉が興奮気味に言う。

「ああ、大山先輩が渕上先輩の動きを最初からわかってたみたいだ」


 今のワンプレーは得意なパターンだったのかもしれない。初めて見た修がそう思える程、流れるような連携だった。


 攻守交代、次は笹西のオフェンスだ。

 栄城も笹西と同じくマンツーマンで守る。


 笹西はアウトサイドでパスを回し攻撃の機会を伺っているようだ。

 右45°の位置で空にボールが渡る。


 その瞬間右手でドリブルを突き出し、マークである菜々美の左側を鋭くドライブ(ゴールに向かってドリブルで切り込むこと)した。

 そのまま右手でレイアップに持っていく。


 カバーに入った晶が空と同時に跳び、長身を活かしてブロックをしようとした。

 完全に止められる。修はそう思った。


「おお!?」


 しかし修は思わず驚嘆の声を上げた。


 空は一度掲げたボールを胸元まで下ろし、次に目一杯体と腕を前に伸ばして晶のブロックをかわしてシュートを撃ったのだ。

 もちろんそれらすべてを空中で行っている。

 ダブルクラッチと呼ばれる高等技術だ。


 だがボールはバックボードの下に当たりエンドラインの外に出てしまった。


「あーっ! 晶デカすぎっ!」

「文句ならうちのおかーさんに言って下さ~い」


 空は悔しそうに地団駄を踏んだ。


「ね! すごいでしょ?」

「うん、シュートは雑に見えたけど、ものすごい滞空時間とバランス感覚だ」


 今度は修も少し興奮気味に同意した。

 20㎝は身長差があるであろう晶がブロックに跳んでいるのに、それをかわすなどそうそうできることではない。


 今度は栄城の攻撃。軽快にパスを回しつつ選手も動き回る。

 3Pライン付近からインサイドの晶へパスが通った。

 背中越しの飛鳥を相手に一対一を仕掛けるが、上手く守られ苦し紛れのシュートになってしまった。

 笹西がリバウンドをとる。


「ごめん!」

「ドンマイです!」


 修が見る限り晶は自分の身長や手足の長さを活かしきれていない。

 身長差があるマッチアップでもあまりアドバンテージを得られていないようだ。


 笹西がミドルシュートを決め、栄城の攻撃に。

 今度は菜々美が左サイドからドライブを仕掛ける。

 そのまま自分でシュートまで行くのかと思いきや、逆サイドにパスを出した。


 そこには3Pラインの外でフリーになっていた灯湖がいた。

 マークマンは気を抜いていたのか、慌てて距離を詰めようとするが間に合わず、灯湖はすかさずシュートを放ちこれを沈めた。


 汐莉のシュートを初めて見たときの衝撃程ではないが、灯湖の両手(ボウスハンド)シュートも綺麗なフォームだ。


「菜々美、よく見ていた」

「ナイシューです灯湖さん」


 笹西の攻撃。

 ハイポストの飛鳥にパスが入る。0°にいた一年生がエンドライン沿いに走り込み飛鳥がそこにパスを出したが、それを読んでいた涼がパスカットをした。


「涼!!」


 涼は呼ばれた方を見て即座にハーフライン付近の凪にパスを出した。

 走り出しの反応が速い。涼がボールを奪うと確信した瞬間には走り出していたのだろう。

 凪がドリブルを開始する。凪とゴールの間にはディフェンスはいない。


 凪のドリブルはかなり速い。距離がある状態なら、並の選手は走って追いかけても追い付けない程だ。


 しかしその凪を追い越し前に立ち塞がる者がいた。

 空だ。


 凪は一瞬顔をしかめ、速攻を諦めてスピードを緩めた。


「ねぇ、今のプレー、凪先輩はどうしてシュートまで行かなかったの?」


 汐莉が不思議そうな顔で修に質問をする。


「うーん、抜けないと思ったか、自分で攻めるよりメンバーを待ってしっかり攻めた方が確率が高いと判断したか……ってとこじゃないかな。速攻って決めると勢いつくけど、止められると逆に流れ持っていかれる場合もあるしな」

「なるほど……そういうのもあるんだね」

「市ノ瀬先輩、ドリブル上手いけど一対一はそうでもなさそうだしな」


 結局栄城のシュートは外れて笹西のボールとなった。


 その後も一進一退の攻防が続いたが、笹西は一年生のミスが目立ち、またオフェンスの要であろう空が要所では決めるものの、なんでもないイージーシュートを外したりして点が伸びなかった。


 栄城は堅実な攻めで得点を重ね、一本目を17-8とダブルスコアで終えた。


「「お疲れ様です!」」


 コートサイドに引き上げて来る先輩たちを汐莉ら一年生が労う。


「菜々美……大丈夫……?」

「大丈夫だよ。空さんめちゃくちゃ動き回る上に予想がつかないから、ちょっとしんどいけど」


 涼が心配そうに菜々美に声をかけ、菜々美が自分のマークマンへの嘆きで答える。


 確かに空はそのタイミングでそこに走る意味あるか?と修が何度も思った程、動きがめちゃくちゃだ。

 なんというか、初心者がやりがちな動きとも言える。


(多分、二木さんはあんまり頭良くないんだろうなぁ……)


 横目で笹西の方を見てみると、空と一年生が楽しげに話していた。

 体力的な問題はまったく感じられない。空は恐らく身体能力お化けなのだろう。

 飛鳥は傍らでやれやれといったような表情で額に手を当てていた。


「二本目はメンバー代えるぞ。凪と菜々美は一旦下がって優理と星羅入ってくれ」

「「はい!」」「わかりました」「了解よ」


 呼ばれたメンバーがそれぞれ返事をする。


「ウリちゃん、ミマちゃん、頑張ってね!」

「ありがとぉ~」「がんばるっすよ~!」


 汐莉の激励を受けながら、優理と星羅はビブスを装着した。


「四分切る頃に一年二人と晶を下げるから、凪、菜々美、それから汐莉。入ってきてくれ」

「えっ! わ、私でしゅか?」


 自分が呼ばれると思っていなかったのか、灯湖の言葉に驚いた汐莉は噛んでしまった。


「ふふっ。ああ、君でしゅよ」


 灯湖は笑って汐莉の噛み真似をしてからかう。

 灯湖は意外にこういった感じで他人をいじったりするのが好きなのだ。

 汐莉は顔を真っ赤にして小さくなってしまった。


「冗談はさておき、最近汐莉も上手くなってきたし、先週の一年生大会では大活躍だったんだろう? そろそろ良い機会だと思ってね」

「わ、わかりました!」


 ビーッとブザーが鳴る。

 二本目を始めるために出場メンバーがコートに入っていく。


「良かったな宮井さん。努力が認められてる証拠だよ」


 修は汐莉に声をかけたが、汐莉はわなわな震えていて返事を返さない。


「ど、どうしよう……」

「宮井さん?」

「どうしよう永瀬くん! 先輩たちに混じって試合なんて初めてで、どうすればいいのかわかんないよ!」

「ええ!?」


 汐莉は焦った顔で修にすがり付いてきた。

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