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第一ピリオド-6 級長

 そこには練習着姿に着替えた灯湖と晶の姿があった。

 てっきり学祭の準備でもっと遅れてくると思っていたので、修は凪と顔を見合せた後、自主練習をする汐莉を残して二人の元へと歩み寄った。


「あんたたち、学祭の準備はいいの?」

「あぁ。当日のシフトを多めにとることを条件に、放課後の準備は免除してもらったんだ」

「えっ、じゃあ二人とも、明日以降も普通に部活に出られるんですか?」

「そういうこと。おかげであたしら当日は遊ぶ時間なしだよ~」


 晶がわざとらしくため息を吐いて肩を落とした。


「そうなんですね……わざわざすみません」


 修が申し訳なくなって謝罪すると、晶は気にしていない様子でへらっと笑う。


「永瀬が謝ることじゃないでしょ。そりゃ、学祭は楽しみだったけど、今は部活(こっち)の方が大事だし。ね、灯湖」

「無論だ。県大会まで時間も限られているしね。できるだけ無駄にはしたくない」


 二人の言葉からウィンターカップ県予選へのやる気がひしひしと伝わってきて、修はとても嬉しくなった。

 隣の凪も満足げな笑みを浮かべている。


「少し汐莉のところへ行ってくるよ」


 バッシュの紐を結び終えた灯湖は立ち上がり、自主練習を続ける汐莉の元へと向かった。


「最近特に熱心だねぇ」


 灯湖の後ろ姿を眺めながら晶が言った。

 灯湖の汐莉への指導のことを言っているのだろう。


「ま、あれだけ才能ややる気に溢れてる後輩がいれば、そうなるのも無理はないでしょ。あの子、面白いくらいに上達が速いし、教えてる方もついうきうきしちゃうもの」


 凪が呆れたように笑って言い、修はその言葉にうんうんと頷いて同意した。


「汐莉だけじゃないよ。灯湖自身、今はかなりやる気になってる」

「確かにそうですね。交流大会以降は特に」

「うん。元々灯湖は自信家だったけど、中学のときにあんなことがあって……。それからほとんど全力でプレーしたことなんてなかったから、多分自信がなくなってたんじゃないかと思うんだ」

「そのわりには結構大口叩いてたような気がするけど」


 凪が腕を組んで首を傾げた。


「それは……なんだっけ、ええと、『きょせい』? ってやつだよ。でもこの前の試合で自分のほんとの力を思い出して、自信が戻ってきたんだと思う。自信がないと他の人に教えるのは難しいでしょ?」


 確かに、今の灯湖からはそれまで以上に自信に満ち溢れた表情をしていた。


「さすが、よく見てるわね」

「伊達に何年もつきまとってないからね」


 晶が自虐的な笑みを浮かべる。


「卑屈なこと言うんじゃないわよ。渕上が自信を持てるようになるきっかけを作ったのはあんたじゃない。猫背になってないで、しゃんとしなさい!」


 そう言って凪は晶の背中をばしっと叩いた。

 丸まっていた晶の背中がピンと伸びる。


「痛っ! もう、何すんだよ!」

「渕上だけじゃなくて、あんたももっと自信持ちなさいよ」

「って言われてもなぁ。あたしは背が高いだけで運動神経も才能もないし……」

「身長だってある種立派な才能よ。コートでは私には絶対できないことでも、あんたならできるってことはあるんだから」

「でも、自信持てる程のことはできないよ」


 晶が凪の言葉をうじうじと否定する。


「だったら自信が生まれるまで練習よ。渕上を支えるって決めたんでしょ?」


 凪は晶の鼻先にビシッと人差し指を向ける。

 その勢いに圧倒され、晶はびくっと体をのけ反らせたが、やがてふっと笑って


「相変わらず厳しいなぁ、凪は。でも、そうだね……。よしっ、気合いいれよ!」


 両手で頬を叩いて立ち上がった。

 真っ直ぐ背筋を伸ばした状態の晶は修よりも高い身長185㎝だ。

 女子でこの身長はそれだけでもおおきなアドバンテージなのに、そこに技術や経験、そして自信がプラスされれば、全国でも通用する可能性が生まれる。

 修も凪と同様、晶に対して大きな期待を抱いていた。






 灯湖と晶が来てくれたおかげでメンバーは修を除いて五人となった。

 依然として少ない人数だが、予定より多くなったことを喜ぶべきだろう。


 とりあえずアップとストレッチを終えたあと、人数に関係なくできるフットワークはいつも通り実施していた。

 総部員数がそもそも少ない栄城にとって、体力は大きな課題である。

 夏休みに引き続き、ラントレーニング系はメニューから外せない。


(そういう練習は人数が少なくてもできるのがいい点だよな)


 合宿時と同様、修も身体接触のおそれがあるメニュー以外には参加しているため、女子部員たちとともにフットワークをこなす。


 皆人数が少ないことにテンションを下げるどころか、少ない分余計に声を出しているため、雰囲気的にはいつもの練習と変わりない。


 そのことが嬉しくて笑みを抑えきれずにいると、凪から


「永瀬! にやけてないでもっと声出しなさい!」


 と怒られてしまった。


 そうこうして練習開始から30分程経った頃。


「お疲れ、様です……!」


 二年の白石涼が練習に合流した。


「お疲れ様。早かったのね」

「はい……。少し早めに、切り上げてきました……。遅れて、すみません」

「いいのよ。菜々美は?」


 凪が尋ねると涼はゆっくりと首を横に振った。


「菜々美は、級長なので……。クラスを仕切らなきゃ、いけないから……練習には、来れません……多分、明日以降もずっと」


 いつも通りのむすっとした表情で、しかし申し訳なさそうに涼が言った。


(才木先輩、級長をやってるのか……)


 面倒見がよく真面目な菜々美にはぴったりの役職だと修は思った。

 だがそのせいで部活に来れないというのは大きな痛手である。


「仕方ないわよ。あんたが来てくれただけでも良かった。さ、アップして」

「はい……」


 凪の言うとおり、これで修を除いても六人となった。

 いくら皆にやる気があっても、実戦形式のない練習メニューは退屈だろうが、これなら三対三までならできるようになった。


「さあ、気を取り直していきましょう!」


 凪の声に返事をし、練習を再開した。

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