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河原に咲く剣花

 目覚めた時、太燿は河原で仰向けになっていた。空は雲一つない晴天にも雲で覆われた曇天にも見える不思議な空。まるでこの世のものとは思えない空だ。

「どこだここ……」

 見覚えのない景色に困惑を隠せない太燿。体を起こして周囲を見回す。近くを流れている河はかなり大きく、河幅は100mは超えていて水量もあるようでごうごう、と激しい音をあげて流れている。視界に写るのは無数の石と草と、大小様々な石を積み上げて作られた塔。しかしどの塔も誰かに崩されたのか無残な形をしている。

 河岸には桟橋があった。小舟が係留されていて、そばには船頭らしき人影も見える。ふと、太燿は手に違和感を覚えた。握っていた拳を開くとそこに乗っていたのは石や草ではないまた別の6枚の固い何か。

「なんだ、コレ」

それは金属製のコインだった。

「ここは死と生を分かつ境の河。俗に言う三途の川だ」

 太燿が後ろを振り向く。さきほどまで誰もいなかったそこに焔が剣を刷いて立っていた。

「おぬしは今死の間際におる。その六文銭をあの船頭に渡せばそこの舟で対岸までおぬしを運び、はれて死者となるわけだ。」

 太燿が握りしめていたコイン。それは三途の川を渡る通行料、六文銭と呼ばれるもの。それを船頭に渡したら最後、対岸へ運ばれた者はどんな生者も死者へと変わってしまう。太燿の手は緊張で震え出した。

「もしくはこの河原で延々と親より先に死んだ事を悔いながら石を積み、それを鬼に破壊され続けて魂だけ永久に生き続けるか、だ」

 崩れた石の塔が乱立する河原。それは親より先に死んだ子の償いの残骸、賽の河原と呼ばれるもの。太燿の脚は恐怖で震え出した。

「我は死と破壊、火を司る天司てんじ。故におぬしを蘇らせることはできぬ。だが我の気まぐれにつきあえばわからぬぞ?」

「気まぐれってどういうことだよ」

「言ったろう。我は死と破壊を司ると。桟橋を見てみよ」

 促され太燿は桟橋のある正面に首を戻す。すると桟橋にいた船頭がその背の倍近くはあろうかという大鎌を抱えて近づいて来ていた。

「ほれ。いつまでも石を積まず舟にも乗らないモタモタしてるおぬしの魂を刈り取ろうと死が迫ってきておるぞ」

「お、俺、あれに何されるんだ?」

「あやつに魂を刈り取られるとな、魂が舟で向こう岸に運ばれる。そして新たな魂を生み出すための贄にされるのだ」

 輪廻転生。魂の流転を意味するその言葉が太燿の脳裏をよぎる。生きとし生けるものが絶対に避けられない森羅万象の理。それが、望んだものによって望まぬ死を与えられた太燿に突きつけられた。

「こやつらは魂一つに一人が存在しその魂を運び終えるまで付き添う。それをな、こう……」

 太燿の目前にまで迫ったいた船頭。大鎌を振りかぶり魂を刈り取ろうとした。

 焔は腰に刷いていた剣を引き抜く。

 剣花がキラリ、と咲き煌めいた。直後に太燿の頭の上を剣閃が通る。

 横一閃。目にも止まらぬ早業。その一撃は音すら置き去りにした。

 船頭の胴は大鎌の柄ごと真っ二つになる。

 上半身がドサリと音を立てて滑り落ちた。

「破壊することでおぬしから死を除こう、というわけよ」

 ついさっきまで船頭だったものから火が噴き上がり焼き尽くす。その灯りに顔を照らされながら太燿は再び焔と向き合った。

「こ、これで俺は生き返るのか?」

「いぃや、訪れるはずの死が失われただけだ。それでは叶わぬ。そもそも、我は死は司るが生はそうではない。生を司る天司もおるがそやつにこれからやるじっけ……もとい試みがバレてはちと面倒だ」

「じゃあどうやって俺を生き返らせるんだよ」

「焦るな人の子よ。それはな、こうするのだ」

 焔は太燿の手を取り抱き寄せると唇を重ねた。太燿は反射的に抵抗をするが焔はそれをものともせずに唇を重ね続ける。それは母鳥が雛にエサを与えるかのように優しく、獣が獲物を食い千切るかのごとく荒々しい。

 十数秒が経ってから焔はようやく唇を離した。太燿の胸が動悸で高鳴っている。

「いきなり、いきなり何するんだ!」

「喜べ人の子よ。我の権能の一部を授け、おぬしはそれを受け取った。これでおぬしは我の、天司の眷属、司従じじゅうとなった。我の一部となったのだ。ただの人の身では叶わぬことぞ」

 焔の顔がどんどん離れていく。それに比例して太陽の視界が徐々に視界が光に包まれていった。

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