陽の日常
日野太燿はG県の公立高校に通う高校二年生だ。髪を染めているでもピアスを開けているでもない。学校の授業はそこそこ真面目に、放課後には友達と一緒に他愛のない話をしながら下校するいたって普通などこにでもいるような高校生。強いて言うなら彼は人より少し非日常に強く憧れていた。
だから太燿はよく面倒事や厄介事に首を突っ込む。ケンカが起これば仲裁に入り、誰もやりたがらないような事があれば自ら引き受ける。全ては日常にはない非日常を求めて。
その日も太燿は学校の廊下でいつものように余計な首を突っ込んでいた。
「本郷君たち、そのトイレットペーパーは学校の備品です。私物のように使ってふざけるの
は止めてください」
水元流。文武両道、容姿端麗で長くて綺麗な髪が特徴の女子生徒である。その生真面目な性格から生徒会に所属していた。そんな彼女は男子生徒を注意していた。というのも学校のトイレからトイレットペーパーを持ち出し、複数人で体に巻き付けて遊んでいたからだ。その中心となっていたのが本郷という生徒。
「トイレの紙くらいでいちいち鬱陶しいな!そんなにトイレットペーパーが大事なのか、よっ!」
本郷は注意もどこ吹く風。それどころか余っていたペーパーの1ロールを投げつけた。きゃっ、と流が怯む。長い髪がふわり、と舞い上がった。そこに太燿は飛んできたペーパーを横からパシッと両手で受け止めた。
「どうよ!ナイスキャッチだろ?」
「日野、てめぇどういうつもりだ!」
「どういうつもりって、そりゃあ尻から汚い物を出したいのに紙が無いもんだから探してたんだよ」
「……チッ。クソが」
「トイレットペーパーだけに?」
「うるせぇ!」
本郷たちは興が冷めて巻き付けていたペーパーを引きちぎるとそれをゴミ箱に叩き込みに行った。流はハァ、と一呼吸。
「ありがとう日野君。まさか投げてくるとは思わなかったわ」」
「別にいいさ。それに紙を探してたのは本当だし」
じゃあ、と言うと太燿はトイレットペーパーを片手に教室を出ようとして――予鈴が鳴った。彼がトイレに行けなかったのは言うまでもない。
「クソが」
太燿の呟きは鐘の音に掻き消された。