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秋風に誘われて  作者: タラバガニ
有秋島の日常
8/34

ある日の風呂場

挿絵(By みてみん)

「ただいまー」


俺は春樹との買い物を終えてようやく帰宅する。

結局アダルト雑誌は年齢制限に引っかかって買えなかったので漫画3冊で手を打った。


「もうこんな時間か」


現在時刻は18時15分。

ドッジボールとかしてたから思ったより帰るのが遅くなってしまった。


「おかえり」


ヒョコッと居間から空が顔を覗かす。

どうやら今日も無事に帰って来てくれたようだ。


「これから晩ご飯作るから少し遅くなるわー」

「分かった」


と、その前に。


「それまで風呂入っとく?」

「風呂?」


まるで何を言われたのか分からないような顔で聞き返される。

あれ、風呂をご存知ない?


「ほら、もう3日も同じ服着てるから汚れてるだろ」

「うーん?」


空が自分の服を隅々まで見渡す。


「別に汚れてない」

「いや、お前はそれでいいのか?」


一応女の子だよなお前。

この場合どうすればいいんだろ。


空の意思を尊重して風呂に入れないでいいのか?

でも俺だけ風呂に入るってのも心痛むよな。


なら嫌がる空を無理矢理にでも裸にして風呂に入れさせるか?

でも俺ただのロリコン犯罪者になっちゃうよな。


あー何が正解なんだよこれ。

っと考えていると空は少し興味をもったような瞳で尋ねてくる。


「風呂って何?」


ここがチャンスだ!俺はそう確信した。

どれだけ風呂が素晴らしいものかを俺が説くことによって空が自主的に風呂に入るように促してみせる。


「風呂ってのは、こう、気持ちの良いものだ」

「???」


駄目だ語彙力が足りない。

そもそも俺も風呂をそんなに素晴らしいものとは思ってないので説得力に欠ける気がする。


しかしだからと言って諦めるわけにはいかない!

今度はどれだけ風呂に入ると良い事があるか説いてみせる。


「風呂に入れば暖かいぞ!」

「寒くない」

「綺麗になれるぞ!」

「汚れてない」

「良い匂いになれるぞ!」

「求めてない」

「幸せになれるぞ!」

「不幸じゃない」


何この風呂否定派、手強いんだけど!


「結局、風呂って何?」

「・・・」


確かに、風呂って何なのだろう。


「まぁ、入れば分かるよ」

「なら入ってみる」


話はそれで解決した。


俺は台所の隣にある洗面台に入り、そこから風呂へと進む。

俺の家の風呂にはまだ技術革新が起きていないので昔ながらの蛇口からお湯を入れる仕組みになっている。


回しをひねり、蛇口からお湯が放出される。

後は蓋をして待つだけだ。


「これが風呂?」

「おう」


俺が洗面台を出ても空は動かず蛇口から放出されるお湯をじーっと眺めてた。


「楽しいか?」

「楽しくない」


だろうよ。


俺も次は晩ご飯の支度を始めなければならない。

千夏のやつに自炊しろって説教されたから今日は本格的に作るつもりだ。


「特段に美味しいハンバーグを作ってみせる」


挽肉を出して他の具材と混ぜてこねていると湯船からお湯が溢れる音が聞こえた。


俺は早歩きで風呂に入り蛇口を閉じた。


「じゃ、後は入るだけだ」

「分かった」


言うや否やそのまま空は風呂の中に進んでしまう。


「待て待て服は脱いで入れよ」

「何で?」

「何でって、服が濡れちゃうだろ」

「駄目なの?」


駄目、なのか?

確かにそれだと服も洗えて一石二鳥になるのか?

いややっぱ駄目だろ肝心の体が洗えないし。


「いや、やっぱ脱ぐべきだろ」

「・・・分かった」


渋々と言った感じで空が俺の目の前で服を脱ぎ出す。

しかしこんな事は既に想定内。

俺はイメージしていた通りの軌道を描き華麗に洗面台から出て行く。


「あまり俺を舐めてもらっては困る」


と、その時家中に妙な甲高い音が響き渡る。

誰かが家の扉をノックしているのだ。

こんな時間に誰だ?


ゆっくりと扉を開けるとそこには大きな大根をもった千夏が立っていた。


「これあげるわ」

「いや、何ですのこれ?」

「大根」


見れば分かる。


「なんか八百屋のおじさんが一本おまけしてくれたんだけど、私一人暮らしでそんなにいらないからあげるわ」

「お、おう。ありがとう」


大根を受け取ると千夏はそのまま俺の家の中に入っていく。


「大根で手が汚れたから洗面台借りるわよ」

「別に構わんが」


・・・いや、構うわ。


「待て、台所の方で洗ってくれない!?」


言った時には既に千夏は洗面台の扉を開けてしまっていた。

別に空の姿は千夏には見えない。

それはいいのだ。それはいいのだが・・・。


「何、これ?」


そこに脱ぎ捨てられてあった空が着ていたもろもろの服を掴んで千夏が振り向く。


なるほど、空がその身から離した物は他の人にも見えるようになるのか。

と現実逃避の考察をしていたら千夏がズン、と歩み寄る。

怖い。


「これ、女物の服よね?」

「ですね」

「何でこんなもんがあんたの家にあるの?」


ここで答えを誤ると俺はきっと未来永劫に変質者として語り継がれてしまうだろう。

それだけは避けねば。


「前にも言っただろ?親戚にあげる服を未雨から貰うって」

「未雨ちゃんが下着までくれたって言うの?」

「・・・・・・はは」


詰んだわこれ。

千夏が確認するように風呂の中を覗く。


「・・・誰もいないみたいね」

「いるわけねぇだろ!」


いるんだけどね。

どうにかしてここから逆転する術を探し出さなければならない。


「さっきも言ったろ、この服は未雨にもらったんだよ」

「さすがにあの子でも自分の下着をあんたにあげるようなことはしないわよ!」

「そうだな、自分の下着ならな」

「はぁ?」


すまん未雨、と心の中で先に謝っておく。


「知ってるか?あいつは裁縫が得意なんだよ」

「それは、まぁ知ってるけど」

「この下着も作ってもらったんだ」

「いやさすがに嘘でしょそれは」


すごく冷静な声でつっこまれた。


「ばっか、お前未雨の力量知らねぇからそんなこと言えんだよ」

「いやもし出来たとしても作らないでしょ」

「お前未雨のプロ根性なめんなよ!?」

「未雨ちゃん何のプロでもないし!」


未だに千夏に揺らぎが見えない。

このままでは俺が押し負かされてしまう。

いっそ全て真実を話してしまいたいが、絶対こじれる。

なのでここで無理矢理話を切ることにした。


「そんなに言うなら今度未雨に確認してみろよ!」

「・・・嘘だったら交番連れてくから!」

「上等だ!」


と、啖呵を切ったものの内心ビクビクである。

明日いち早く会いに行って口裏を合わせねば。


不承不承と言った感じで千夏は家を出て行った

なんとか危機を乗り切ったか。


直後に風呂から空が出てきた。


「終わった?」


こいつ何気に空気読むよな。

俺もすぐに洗面台を出て行く。


「どうだっだよ、風呂」

「プカプカした」

「そうか・・・」


俺は適当に母の寝間着を空に与えて晩ご飯の続きを作ることにした。

とりあえず、勝負は明日だ。


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