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秋風に誘われて  作者: タラバガニ
有秋島の日常
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ドッジボールクライシス

挿絵(By みてみん)

夕暮れ時、俺と春樹は並んで周円道を歩いていた。


「さて、何を買ってもらおうかなー!」

「安い物にしとけよ」


先日、俺は春樹に罪をなすりつけた際に「何でも買ってやる」などという考えなしの約束をしてしまったのだ。

今日はその約束を果たすために春樹と一緒に下校することになった。


「やっぱ王道にアダルト雑誌とかかな!」

「邪道も良いとこだぞ」


こいつの事だからマジで買わされそうなんだけど。

しかもそうなったらコンビニで買うことになるだろうしコンビニには千夏がいるし・・・。

この先の展開が読めたわ。


「おー!ハルハル先輩とフユチン先輩じゃないっすか!」


周円道の脇にある公園(と言っても遊具もないただの広場)から活発な女子の声が聞こえる。

俺達をそんな変なあだ名で呼ぶのはこの島に一人しかいない。

振り返ると少し日焼けした肌とポニーテールが特徴の中学一年生、林道霞奈恵りんどうかなえがこっちに手を振っていた。


「おーっす。霞奈恵ちゃん何してんの?」


春樹が同じように手を振りながら広場に入っていく。


「寒いんで兄ちゃんとドッジボールしてたっす!」

「ふん、まぁそんなところですよ」


そう言いながら黒縁メガネを右手でクイッと上げている格好つけ野郎は霞奈恵の兄貴、中学三年生の林道歩霧りんどうあゆむだ。

自称インテリジェンス系男子の歩霧はいつもこんな感じでスカしている。


「二人でドッジボールって無理あるだろ」

「そうなんスよ!しかも兄ちゃん運動神経あれなもんで全然勝負にならないっす」

「妹よ、能ある鷹は爪を隠すのさ」

「生まれて一回も見せたことない爪に意味があるのかよ!」


そんな日常的な兄妹喧嘩が展開される中、急に春樹が学ランを脱ぎ始めた。


「何してんだよ春樹?」

「いっちょ俺達も参加しようぜ」

「お!やる気ですねハルハル先輩」


春樹と霞奈恵が期待の瞳で俺を見てくる。

俺も参加する感じなの?

けどまぁ、このドッジボールに夢中になって春樹が約束を忘れるかもしれない。

別に断る理由もないし、やるか!


「チーム分けはどうするよ?高校生対中学生でやる?」

「それ、さすがに不利っすよ」

「じゃぁ混合するか。グーパーで分かれようぜ」


結果、チームは俺と歩霧、春樹と霞奈恵となった。


「よっし!歩霧が敵チームだ!これは勝っただろ」

「やりましたねハルハル先輩!」


向こうはもう勝ったも同然でいやがる。

けど俺もやるからには負けるわけにはいかない。


「歩霧、絶対勝つぞ」

「僕の爪を見せるときが来ましたね」


よし、歩霧も順調にイライラしてる。

あとは作戦だな。


「歩霧、たぶん最初にお前が狙われるだろう。キャッチしなくても良いから上に上げてくれ」


俺達のやるドッジボールには人がボールに当たってもボールが地面につくまでに他の人がキャッチすればセーフというルールがある。

つまりボールを上に飛ばしてくれさえすれば俺がフォローできる。


「あまり僕を舐めないでもらえます?」


歩霧は自信満々の顔でそう断言する。

おぉ、・・・不安でいっぱいだ。


「じゃぁ始めるぞ。どっちが先攻にする?」

「ハルハル先輩、そこはさすがに兄ちゃんがいる方が先攻じゃなきゃ不公平っすよ」

「妹よ、あまり僕を怒らせないでくれ」


歩霧の闘志がドンドン燃え上がる。

こいつ何でいちいちこんな格好良いこと言うの?笑いをこらえるのしんどいんだけど。


「いや、待て歩霧。先攻をくれるって言うんなら貰おうぜ」

「先輩がそう言うのならば仕方ないですね。相手も後で後悔することになるでしょう」


歩霧がボールを受け取りに行く。

ボールはどこにでもある典型的なバレーボールだ。

これなら当たってもあまり痛くないので歩霧もビビることなく受けることができるだろう。


「では、行きます」


歩霧がボールを、まるでボーリングを投げるように顔の前で構える。

もう色々と間違ってるが要は当てれば勝ちなのだ。

ヘロヘロな速度でも良い、とりあえず当てに行こう!


「はぁ!!」


そう叫びながら放たれたボールは予想以上の速度で空を切る。

すごい!この速度なら簡単に捕ることは難しいぞ!


まぁ、コントロールができていればなんだけどね。


「ぐふっ」


ボールは真一直線で後ろにいた俺の鳩尾を一突きした。


「テメェ歩霧・・・」

「すみません。こんな初球で凡ミスとは」


これが凡ミスとか今までどんなミスを犯して来たんだよ。

・・・とりあえず気を取り直して今度は俺が投げよう。


「おい冬弥、ボールに当たったんだから外野に出ろよな」

「はぁ!?味方の球だろうが!」

「味方でも敵でも球は球っすよ」

「そうだぜ!これが実戦だったらお前、死んでたぜ?」


実戦って何だ!

くそ!こいつ達・・・そこまでして勝ちたいのか。


「先輩、ここは大人しく外野に出てください」

「何で原因のお前がそんなに偉そうなの!?」


上等だぜ。出てやんよ外野によぉ!

俺は走って外野に出る。


「歩霧、パスくれ」


早く誰かに当てて内野に復活しよう。


「任せて下さい」


再び歩霧の手から放たれたボールは、今度は上空へと飛び立った。

どうやったらそんな方向に飛んでいくんだよ。

ボールの落下地点は、寸分の差で春樹達の内野だ。


「へっ!もらい!」

「ハルハル先輩気をつけてください!」


ゆっくり落下してきたボールを春樹が触ったその瞬間。


「うおぉお!?」


春樹の手がボールから弾き飛ばされる。

地面に着弾したボールはえげつない程イレギュラーバウンドして外野の俺の元にやってくる。


「兄ちゃんのボールにはいつも気持ち悪い回転がかかってるんすよ」

「早く言えよ!」


春樹が納得いかないと言った表情で外野に出る。

これで残るは林道兄妹のみ。

しかしボールは俺の手の中だ。


「これで、終わりだぁ!!」


大きく振りかぶって投げたボールは真っ直ぐに霞奈恵の膝に向かう。

よし、我ながら上出来!


「えいほっ」


しかしそんな軽いかけ声と共に霞奈恵はボールを空中に蹴り上げ、悠々と両手でキャッチする。


「まだまだ甘いねフユチン先輩」

「運動神経の化け物め」


まずいな。霞奈恵の球を歩霧が避けられる、またはキャッチできるイメージが沸かない。

しかし先程見せてくれた歩霧の超速回転ボールのように、まだ見ぬ歩霧の可能性に賭けるしかない。


「いくよ兄ちゃん!」


そう言い、霞奈恵は右手でボールを振りかぶる。


「来い、妹よ」


そう言い、歩霧はレシーブの構えを見せる。

バレーで言うところのアンダーハンドレシーブだ。


「歩霧!?それは間違ってるよ!」

「上げてみせますよ」


だから上げてどうすんのさ!

まさか、こいつ俺が最初に言った作戦を実行しようとしてんのか?

俺内野に居ないのに?馬鹿なの!?


「おりゃぁ!」


霞奈恵の右手から放たれたボールは、少しの狂いもなく歩霧の顔面に向かって行く。

容赦ねぇな。


「ふん!!」


しかして歩霧は構えをオーバーハンドレシーブに変えてボールを捕らえる。


「先輩!」


上空に弾かれたボールはとても美しい軌道を描いて俺の元にやってくる。

なんだよ歩霧、お前まったく運動音痴じゃないじゃん!


「任せろ」


果たしてこれを捕ってルール上歩霧は生き残れるのか?

本当に外野が捕ってもアリなのか?

そんな細かいルールは俺が外野に追放された時点でどうでも良くなった。

今はただ、歩霧が繋いでくれたこのボールを捕らなければ。


「うぉぉお!」


ボールは俺の手に触れた瞬間にあらぬ方向へ飛んでいく。

え、えげつねぇ回転だわ。

落としボールがコロコロと霞奈恵の元に転がっていく。


「私達の勝ちっすね」


いえーい!と反対側の外野で春樹が歓声をあげる。


「先輩、せっかく能ある鷹が爪を見せたんですからきちんと捕ってくださいよ」

「お前の爪気持ち悪いんだよ」


どうやったらあんな回転をオーバーハンドでかけられるんだ。


辺りもそろそろ暗くなってきた。

もうお開きにして帰ることにしよう。


「じゃぁ帰るか」

「その前に何を買ってもらおうかな」


忘れてなかったか。


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