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秋風に誘われて  作者: タラバガニ
有秋島の日常
5/34

服についての悩み

挿絵(By みてみん)

夕方の5時、家に帰ると空が居間でテレビを見ていた。

ちゃんと帰って来てたことに少し安堵する。


「ただいま」

「・・・」


空は俺には目もくれず黙々とテレビを視聴する。

一体何のテレビを見てるんだ?

画面の右上には『実録太平洋戦争、兵士達の真実』というテロップが表示されていた。

ずいぶんと渋いな。


まぁでも空は夢中になって見てることだし邪魔せず晩御飯の準備にとりかかるか。

冷蔵庫を開けて気づく。

あ、そういえば何も補充してなかったわ。


現在時刻は午後5時20分。

八百屋はまだギリギリ開いている時間だな。

また寒い外に出るのは嫌だが、まぁ仕方ない。


「空、俺ちょっと出かけるわ」


ちょうど見ていた番組が終わったのか空が俺の方向に振り向く。


「どこ行くの?」

「いや、食材買うの忘れててさ。買ってくる」

「コンビニ?」


こいつ、昆布のおむすび買う気だろ。

しかし確かにコンビニで弁当を買えば晩ご飯を作らなくても済むな。

だが昨日千夏にも言われたように毎日コンビニってのも不健康な気がする。


いや待てよ、そもそも何でコンビニの弁当が不健康なんだ?

野菜もあるし米もあるし肉もある。おまけに昆布もある。

俺が作るよりもしかしたら栄養面もバッチリなんじゃないだろうか。


「おう、コンビニに行ってくる」


気がついたら俺はそう言っていた。


「私も行く」


そう言うと空は俺の後ろを着いてきた。

コンビニに行くなら空の飯も買わなくちゃいけないから着いて来てくれるのはありがたい。


外に出ると朝よりも冷え込んだ冷気が襲ってくる。

呼吸をする度に口から白い吐息が漏れる。


「うぅ寒いな」

「全然」


空は昨日と同じく白いワンピース一枚で外に出る。

そういえば昨日は風呂にも入らないで寝てしまったから制服に着替えた俺とは違って空は昨日と同じ服装のままだ。


そもそも俺の家に空が着られそうな服がないよな。

空の身長は目測だが160センチくらいだろう。

俺の服を与えてもガバガバになるのは間違いない。

どうにかして空に合うサイズの服を手に入れなければ空は毎日同じ服を着なければならないことになる。


っていうか空を風呂に入れて大丈夫?何かの罪に引っかかったりしないよね。


「はぁ、前途多難だわ」

「何が?」

「いや、色々とさ」


気がついたら防波堤沿いの道まで来ていた。

あとはここをまっすぐ行けばコンビニだ。


「お前今日どこ行ってたの?」


それまで間を保たせるために話題を振る。


「海」

「ふーん」


海、か。

この島は基本的に高い防波堤に囲まれているため海に行くには島唯一の砂浜に行くか港に行くしか無い。

だが俺の家から近いと言えば砂浜の方だろう。


「どうだった?」

「ゴミがいっぱいだった」

「・・・面目ない」


別にビーチでも何でもない有秋島の砂浜には管理者がいない。

故に皆が砂浜に捨てたゴミはそのまま残り、海に捨てたゴミも流れついてくるのでかなり汚くなっている。

ビールの瓶の欠片とかも散乱しているので歩くのはかなり危ない。


「歩きにくかった」

「まぁ、そうだろうな」

「だからあまり砂浜を見て回れなかった」


そう言い、俯く空になんだか心が痛んだ。


「今度、掃除しとこうか」

「本当?」


空の声が急に明るくなる。

あぁ、適当な発言するんじゃなかった。


確かに砂浜自体はそんなに大きくないがあそこを一人で掃除ってのはさすがに気が遠くなる。

横を見ると未だ空が嬉しそうな表情で俺を見つめてくる。

これは、断れない。

週末に春樹達にも手伝わせるか・・・。


「本当さ」


そう言うと空は今まで見たことも無いくらい明るい笑顔を俺に向けた。

そんなに砂浜を歩き回りたいのだろうか。


そういえば、今朝も海について何か言われた気がする。

記憶をたどり、はっと思い出す。


風の声だ。風の声が俺に海と囁いたのだった。


またしても連動する風の声と空の行動。

一体どうなってるんだ。

未だ空については分からないことだらけだ。

このままでは駄目だと分かってはいるが、空の姿が他の人に見えない以上誰にも相談できない。


「着いた」


空が隣で呟き、我に返る。

いつの間にかコンビニに到着していた。

既に周囲は夜の闇に覆われおり、コンビニの明かりがとても眩しい。

コンビニに入るとカウンターに見知った顔があった。


「いらっしゃいませーって、冬弥か」

「そういえばここでバイトしてるんだったな」


コンビニの制服を着た千夏がそこに立っていた。

店内を見回すもどうやら客は俺一人のようだ。


「またコンビニ?」

「まぁな」


そう言うと俺はカゴを持って弁当コーナーに歩く。

後ろを空がゆっくりと着いてくる。

数ある弁当の中から俺は手頃な値段の幕の内弁当を選んだ。


「空は、」


と言いかけて止める。

危ねぇ・・・。千夏には空の姿が見えないのだ。

つまり俺と空が会話していたとしても千夏の目には俺が一人漫才をしているようにしか映らない。

今の言葉が聞こえてないか千夏の顔を伺う。


「空がどうしたのよ?」


ひえぇ。しっかり聞こえてるよ。


「いや、空は何で青いか知ってるか?」

「どうしたのよ突然」

「ちょっと気になってさ」

「私もよくは知らないけど光の波長の長さとかの関係だったわよ、確か」

「へ、へぇ。千夏は物知りさんだなぁ」

「なんかムカつくんだけど」


どうやら上手く誤魔化せたようだ。

それにしても今日だけでこんな弁明を二度もすることになるとは。

この先やっていける自身がない。


「これ」


と、空気を読んで空が欲しい弁当を持って来た。

よくあるシャケ弁当だが白米の上に昆布が乗っているのが気に入ったようだ。


っていうかこれ空が見えてないと弁当浮いてるように見えるんじゃないか!?

冷や汗をかきながら千夏の様子を再度伺う。

運良く千夏は他の作業をしており俺の方を見てなかった。

良かった・・・。

もし見られてたら今日から俺はマジシャンを名乗る羽目になっていただろう。


俺はカゴの中に2つの弁当を入れ、続いて適当な飲み物も2つ加えるとレジに向かった。


「なんか多くない?」


さすがに弁当2つは不審がられた。


「いや、明日の分も買おうかなって」

「ちょっとは自炊しなさいよね」

「分かってるよ」


千夏は次々と慣れた手つきでバーコードを読んでいく。

レジに表示された値段をぴったり出すと千夏は慣れた手つきでそれを受け取り、代わりにレシートを渡す。


「弁当温める?」

「お願いするよ」


千夏は弁当を電子レンジの中に入れてスイッチを押す。

この待ち時間の間に聞いておきたいことがあった。


「なぁ、お前160センチくらいの服持ってない?」

「は?私の服をどうしようってのよ」

「貰おうかなって」

「変態」

「いや、そうじゃなくてさ!」


うーん。どう言ったらいいのだろう。

とりあえず親戚にあげるとでも言っとくか。

最近千夏には嘘ばかり吐いてる気がするな。


「俺の遠い親戚の子が今服が足りなくて困ってるらしいからさ」

「初めて聞いたわよそんな話」


まぁ今初めて誕生したからな、俺の遠い親戚。


「でも昔の服は別の子に全部あげちゃったわ」

「別の子?」

「未雨ちゃん」

「あー」


竹原たけはら未雨みう。有秋中学校の二年生だ。


「でも未雨ちゃんなら結構服持ってるから1着くらい貰えるんじゃない?」

「今度聞いてみるよ」


と、そこでピーという甲高い音と共に弁当の温めが終わった。

弁当は袋の中に詰められ、俺に手渡される。


「じゃ、また明日」


そう言い俺はまた空気が冷え切った外に出る。

空も俺の後に続くようにコンビニを出る。


「帰るか」

「うん」


とりあえず空の服については光明が見えてきた。

今日はもう何も考えずに寝よう。



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